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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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勇者による鮮やかな犯行

ずんずん近づいてくる兵士に、バレたと思って私は挙動不審になったけど、それでも私は見えていないんだから、近づいてくる兵士は向かって言っているんだわ。視線もサードにしか向いてないし…。


もしかして、この国の兵士じゃないって一目でバレちゃったの…?


心臓はバックンバックンと高鳴って、思わずギュッと強くサードの腕を掴んでしまう。

サードは一瞬私の方をチラと見たけれど、いつも通りの裏の表情で、


「自分でしょうか」


と聞き返した。


「そうだ貴様だ」


声をかけて来た兵士はムスッとした顔でサードの目の前で立ち止まった。


逃げた方がいいわとサードの腕を軽くクイクイと引っ張るけれど、サードは動く素振りがない。

兵士は眉間に深いしわを刻んでジロジロとサードの顔を見下ろしている。


「見ない顔だな」


「つい最近入隊いたしました。ドレシズ・モールと申します」


サードは脇に槍を立て、顔を上げ背筋をまっすぐに伸ばして堂々と嘘を言ってのける。


それを聞いた兵士は、ふん、と軽く頷き、


「誰からも聞いとらんのか、ここから先は我らほどの騎士階級の近衛が見回る王家の居住地だ。貴様のような城下の見回り程度の兵士は入れんぞ」


え、そんな兵士の仕分けなんてあったの!?


目の前の兵士の鎧は確かにピカピカに磨かれた薄い青の質の良さそうな鎧で、格が高そうに見える。サードが今着ている鎧なんてあちこち傷だらけで表面の塗装が剥げて錆も浮いているもの。

…思えばやる気の無さそうな目をした兵士たちって今サードが着ている鎧をつけていたわね…。つまりこの鎧を着ている兵士は下っ端ってことかしら。


するとサードは初めて聞いたとばかりに、


「ああそうだったのですか。誰も説明してくれなかったので全体的に見回りをすればいいものだと思っていました。知らなかったとはいえ申し訳ありません」


裏の顔と声色でどこぞの王子のような丁寧な口調という、私から見るとかなりチグハグな言動でサードは答える。

近衛だという兵士はその低い物腰で素直に謝ったから怒りが和らいだのか、


「まあしょうがあるまい。いいか、次にお前らが見回りに行くのは午後の三時…」


サードは私の手を払いのけると、槍をギュンと動かして槍の柄尻で兵士の喉元をドッと突いた。


「ゴハッ」


兵士はグラッと揺れて、サードはそれを抱える。


「大丈夫ですか、具合でも悪いのですか」


サードはまるで介抱しているような動きで茂みの奥へに近衛の兵士を引きずりこみ、わずかな時間のあと、近衛の兵士の鎧に身を包んで茂みから出てきた。


何て鮮やかな犯行なの。


軽蔑と呆れがとても湧き上がってくるけれど、それでも今は…まあ、別に…何も言わない…。


質のいい鎧に身を包んだサードの腕を掴みながら進んでいくと、数日前にサブリナ様を始めて見かけたあの庭園までたどり着く。


「おい貴様」


また声をかけられたサードは立ち止まって声のした方に体を向けて相手を確認すると、まるで本物の兵士かのように膝を折り曲げてしゃがみ、


「はっ」


と頭を垂れた。


サードがいきなりしゃがんだから腕を掴んでいる私も引っ張られてしゃがんで、声をかけてきた相手の顔を見上げる。


するとそこにはこの国の王子…ディアン王子が腕を組んで立っていた。


王子は淡い金髪をさらさらと風に揺らしながら、


「暇だ、話し相手になれ」


とサードの本来の性格に似たような傲慢な態度で命令してくる。


うわ、最悪。と私は視線を下に背けた。


「しかし今現在、私は見回りの任を遂行中でございます。申し訳なく存じますが今はご勘弁のほどを」


本当に近衛じゃないかと思えるような口調のサードを見て、ディアンはゲラゲラと声を上げて大笑いする。


「貴様どこの堅物だ?そんな堅い口調の兵士がこの城の中にいたとは思えないが」


その言葉を聞いて、私ははふっと顔を上げる。


この人、そんな風に言うのなら近衛の兵士のことはある程度よく見ているってことよね?だからこんな堅い口調を聞いて笑っている。


…もしかしてこのディアンって王子、サブリナ様と同じように実は聡明なんだけど、両親の目を(あざむ)くためにわざとこの前見たような最低ともいえる言動をしていたとか、あり得るんじゃない?

それもサブリナ様と口裏を合わせていたとしたら…?


サードも私と同じことを考えたのか、少し顔を上げた。


「…ではお言葉に甘えまして。どのようなお話をいたしましょうか」


サードがそう言うとディアンは気取った様子で立てとあごで命令するから、サードは立ち上がる。


「そうだな…ここ最近、貴様は城下に赴いたことはあるか?」

「ええ、たまに」


サードは話を合わせてている。


「ヘロック地区の復興状況はどうだ?」


ヘロック地区…確か城の北側にある地区だったはず。私の住んでいたスイン地区とは正反対の場所で、その地区には全然行ったことはない。


でもこうやって国の復興状況を気にしているんだもの、やっぱりサブリナ様と同じく聡明で国のことを心配しているんだわ。

でもサブリナ様が毒を盛られたのを見て、そのことを表に出すと自分も毒を盛られかねないって思って馬鹿王子のふりをしている…きっとそうなのよ。


「ヘロック地区ですか。あそこは中々復興が早いですよ」


サードはそう返す。調べたのかそれとも適当に言っているのか分からないけれど、よく淀みもなくサッと言えるわよね。


ディアンはそれを聞くと満足気に口端をニンマリと上げた。


「そうかそうか。父にあの地区の復興を早めにと言った甲斐があったというものだ」


え、と私はディアンを見る。


サブリナ様は国のことを色々と言っていたら毒を盛られた。なのにディアンは国王に復興を頼んだら、国王はそれを受け入れてヘロック地区の復興を早めの?


「随分と嬉しそうで、何よりです」


サードも当たり障りのない返事をすると、ディアンはもちろんだとも、とニンマリと笑う。


「あの地区の高級娼館の女たちはたまらなくいい。父によく連れて行ってもらうが一度知ると病みつきになるぞ。

一年前にも行ったのだがまだまだ荒れていてどうにかして欲しいと泣きつかれてなぁ。次に行く時は大体復興が終わったらと思っていたのだ、やはり我々のような王族がいくには外観が整っていなくては」


…撤回。この王子はただの馬鹿。


夢見心地の顔で髪をかきあげるディアンを私は軽蔑の目で見据える。本当にこんな男の嫁にならなくて良かった。


「何なら私の警備と称して今夜お前を供として連れて行ってやろうか。どうだ行くか?」


ああ、こんな言葉聞いたらサードはすぐさま頷いちゃうじゃない…。


ガックリとうなだれると、サードは手の平を王子に向けた。


「いいえ、私は結構でございます」


え!?


驚いてサードの顔を見る。


ええ!?


驚いてサードの横顔を凝視する。


えええ!?


驚いてサードの横顔に顔をもっと近づけて凝視する。


サードの手の平が私に伸びてきて、顔をグイと押しのけてきた。透明化してそんなに動いてもいないのに私の顔がどこにあるのか把握しているみたい…。

って、それどころじゃないわ。女に汚いこのサードが、女の人に声をかけられたら長々と話すこのサードが、少しでもタイプとみれば口説きにかかるこのサードが、そんな所に誘われても断るだなんて!?


信じられない、まさかこんなことってある?


断られた王子は、なんだつまらんというばかりの顔つきになった。


「貴様本当に堅物のようだな。だが女はいいぞ、ある程度女には慣れていた方がいいぞ」


まるでサードが言うかのようなセリフがディアンから出てくるけど、この男は十二分以上に女の人に慣れてるから余計なこと言わないで。


「そういえば四年前、フロウディアという娘があなたの嫁に来る手はずになっていたはずですね」


サードが話題をそんなのに変えるとディアンは「ああ」と言いながら腰に手を当てる。


「髪が純金になるというあの娘か。いや私はプロの女しか相手にしたことがないから顔のいい生娘を相手に色々できると楽しみにっ…」


手甲で覆われているサードの拳がディアンのお腹を貫通するぐらいねじ込まれて、ディアンはゴボッと胃液を吐いてその場に顔から倒れ込んだ。


サードは一度ディアンの背中を蹴とばすとその場を後にする。


「…最低」


変な体勢で倒れているディアンを後目に、イライラした気持ちを抱えながら呟く。

少しでもサブリナ様と同じ聡明な人だって勘違いしたのがものすごく腹立だしい。


「な?四年前に俺らの仲間になってこの国を離れて正解だったろ」


サードがそう言いながら歩いて行く。


何?男ってそんなことしか考えてないわけ?

ゼルスだってそんな目的で私をさらったし、シュッツランド国ではまだ子供ともいえる年齢の男の集団に襲われそうになって、そしてこの王子。


サードには「男性恐怖症になってませんか?」って前に冗談紛れに言われたけれど、どちらかというと男って何なのって呆れと、嫌悪の方が強まってる気がする。


あれ、でもそういえば女に汚いサードだけど私のことはそんな好色の目で見たことは一度もないわね。

…まあ、散々口答えし続けて、サードもよく私にイライラしているから口説く女の人の範囲に入っていないんでしょうけど。


そんなことを考えているうちにサブリナ様の部屋の前までたどり着いた。


部屋の取っ手には立派な錠鍵がかけられていて、中から開けられないようになっている。本当にサブリナ様は部屋に閉じ込められていた。


サードは重そうな鉛色の錠鍵を手で持って、軽く舌打ちする。


「こんなことならピッキング用のもん持ってくるんだったな…」


と言いながらサードが私に目を向け、頭をガッと掴んでくる。


「ちょっ、何!?」


「確かここに髪留めのピンつけたんだ、一つよこせ」


そう言いながらサードは私の髪の毛からピンを一つ取り外すと、透明だったピンはスーッと空中で目視できるようになる。サードはかがむとピンを鍵穴に差し入れた。


「エリーは誰か来ねえか見張ってろ」


慌てて周りを見渡して誰もいないか確認して、


「誰もいないわ」


とモソモソ言うと、ピィンッと音がする。顔を向けると、サードはもう錠鍵を取り外して扉を開けている。


「…」

本当にこいつ、勇者よりなにより泥棒が似合ってるわ…。

「ドレシズ・モール」という名前に覚えはあるでしょうか?

サードが適当にひっ掴まえて脅したカドイア国の兵士の名前です。(第58部分戦争を起こさないための知恵)

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