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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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サードによる侵入

そんなに自分はポワッとした子だったかしらと過去の自分を振り返っていると、下の階からガタガタと音が聞こえて全員が思わず黙り込んで耳を傾ける。


「王女様、さあ、戻りましょう」


と声が聞こえてきた。この声高の高圧的な声はサブリナ様を引っぱたいたあのふくよかなメイドじゃないの?

ドタドタともみ合うような音が聞こえてきた。


「王女様、いつもはすぐにお戻りになるではありませんか、ほら」


オロオロとなだめるような声が聞こえてくる。この声はサブリナ様をかばっていた細いメイドかしら。


「いーやー!」

「ほら、もう夕暮れです、お帰りになりましょう?ね?」


サブリナ様の声と細いメイドの声が聞こえる。それでもドタドタと逃げ回っている音が聞こえて、ついには二階にかけ上がってきて、ノックもしないで部屋に飛び込んできた。


「どうしましょう、時間になったらあなたを連れて出ようと思っていたのですが二人が予想以上に早く来てしまいました。あなたをどこから逃がせばいいのか…」


と小声で焦ったように言うけど、私は首を横に振ってサブリナ様を見返した。


「私なら大丈夫」


窓から逃げればいいわと思って簡単に答えると、サブリナ様は何か言おうと口を開きかける。でもすぐに納得した顔になって、


「…そうですね、ディーナ家は魔法の力が強いのでしたね」


そのまま早口でサブリナ様は私に続ける。


「どのように忍び込んだのか分かりませんが、明日もここに来れますか?」


焦るサブリナ様に私も焦ってしまって、質問に食い込む形で、


「はい」


と返した。


この城なんて毎日楽に侵入できるのよ、と馬鹿にしているみたいとすぐ気づいたけど、サブリナ様は特に何も言わず、


「それならまた明日、今日あなたと私が会ったあの辺りに、可能なら十二時半ごろ」


すると階段をドシドシと重い足音が登ってくる。もしかしてふくよかなメイドの足音?

サブリナ様はパッとマリヴァンが居るのを見て、この部屋にメイドを近づけてはならないと思ったのか、すぐさま部屋を飛び出して階段の近くに走り出る。


「ふざけんじゃないわよこの馬鹿王女!さっさと降りて来な!」

「ダメ!階段で足を引っ張っては…!」


ふくよかなメイドは怒った口調で怒鳴って、細いメイドが必死に止める声が聞こえる。

お父様はサッと立ち上がると階段へと駆け寄った。


「何をしているのです」


するとふくよかなメイドは少し口ごもって、とりなしたようにオホホ、と笑う。


「あ、あらすいません、そこにいらしたのですか…」


「そりゃあ私たちはここに軟禁されている身なのだからここに居るのが当たり前なんだよ。それにしてもメイドという立場なのに随分と王女に対して横柄なんだねえ、君は。王家の一員にでもなったつもりかい?」


「…」


かすかにまずい所を見られた、聞かれた、みたいな雰囲気のだんまりが続くけど、ふくよかなメイドはボソッと小さく、


「純金の髪がなけりゃただのごく潰しのくせに…」


と悪態をつく。


何あのメイド!


カッと怒りが湧いて立ち上がるとお母様もカッとなったのか私と同じように立ち上がる。


「おや、ごく潰しと思われているなら私たちはもうここに不要ということかな?だったら今すぐこの建物を破壊して逃げてしまおうか?代々王家に魔族と疑われる家系の私が本気を出したら君もろともどうなるか分からないけどね」


はっはっはっと冗談を言ったかのような軽快な笑い声と共にヒュウ…と階段の方から風が起きる音がする。ふくよかなメイドはギョッとした声で、


「う、ううう嘘でございますよ。さあサブリナ王女、お戻りになりましょうねぇ」


と猫なで声の早口で言うと、そそくさ立ち去っていく。お父様は、やれやれ、と渋い顔で戻ってきた。


「この王家はメイドの教育もろくにできていない。サブリナ様がこれ以上痛い目に遭わないか心配だよ、ここの外に居たら守れないからね…」


…そうよ。この国だけじゃない。サブリナ様を王家やふくよかなメイドから守るためにも早く動かないと。


メイドの怒声に脅えて固まっているマリヴァンをお母様に渡して皆に目を向ける。


「また機会があったらここに来るわ。仲間が外にいるから私もそろそろ行くわね」


さあ窓から脱出しようと思って部屋の窓を開けようとするけど、開かない。むしろここの窓もはめごろしの窓だわ。


「この建物の窓は全部開かないよ」


お父様に言われて、えっ、と慌てた。じゃあ入口の扉にかんぬきをかけられたら外に出られなくなるじゃない!


私は慌てて透明化のハンカチを取り出してくわえて透明になると、お父様たちから、おおっ、という驚きの声が漏れた。


「それじゃあ」


外に出て行こうとするサブリナ様とメイド二人の後ろを慌てて追いかけて階段を駆け下りて、今まさに閉められようとしているドアにタックルすようにして外に出る。


「キャッ」


扉を後ろ手で閉めようとしていた細いメイドを弾き飛ばしながら私は外に飛び出した。


あああ、ごめんなさい、ごめんなさい…あなたは良いメイドなのに弾き飛ばして転ばせてしまってごめんなさい…!


見えていないのは分かるけれど、それでも私は細いメイドに向かってものすごく謝った。


「何やってんのグズ!ノロマ、ブス!」


お父様に脅されたのか腹が立つのかふくよかなメイドは今まで見てきた中で一番イライラしている。

でもそうなった原因ってあなた自身のせいじゃないの。さっきのお父様への悪態とサブリナ様への暴力と人のいい細いメイドへの当たり散らす姿を見ると本当にムカつく。


「っあー面白くない、面白くない、クソムカつく!あんな所で日がな一日のんびり過ごしてるだけの奴が、何を偉そうに私に説教してんだか…!」


ドスドスと足音を鳴り響かせながらふくよかなメイドはサブリナ様をキッと睨む。


「あんたがあんな所に行くから面白くない思いするはめになんでしょ!この馬鹿王女が!」


ふくよかなメイドは手を振り上げてサブリナ様を叩く。


「お、おいおい!いくら何でも王女への暴力は駄目だろ…!」


扉の前を見張っていた兵士の一人がふくよかなメイドに近づくけど、ふくよかなメイドは片手で兵士を張り倒した。


「うるっさい!ただ一日ここで突っ立ってるだけの暇な奴が偉そうに言うな!」


ふー、ふー、とふくよかなメイドは鼻息も荒く目を見開いていたけど、ふっと表情が緩む。


「そうね、私はあんたらと違って暇じゃないんだから、王女を部屋に閉じ込めて外から鍵をかけてしまえばいちいちここまで来る必要もなくなるんだわ」


兵士たちに細いメイドは「え」とふくよかなメイドを見る。ふくよかなメイドはコロッと機嫌を直ったようで転がるような声色になると、


「そうね、そうしましょ。そうなりゃ王妃様に相談してこなきゃ」


「それは…まずいだろ」


兵士は頭おかしいのかと言いたげな声でいうけど、ふくよかなメイドはルンルンとした声で、


「何言ってるの、そうすればあんたたちもこんな端から私たちに王女が来たって報告しに来なくてもいいのよ」


「だからって…」


兵士は止めようとする素振りを見せるけど、ふくよかなメイドはさっさとサブリナ様の腕を引っ張ってルンルンと去っていく。

細いメイドはオロオロしながらふくよかなメイドに、


「そんな酷いこと、王女様にやってはいけないわ」


と必死に説得するけど、


「いいのよ、何をやったってこの王女は何されてんだか分からないんだから」


って聞く耳を持たない。


…あのメイドは知らないんだわ、王女は自分の身を守るために何もかも分からないふりをしてるだけで、本当は皆が話していることを全部理解していること…。


サブリナ様がずっと正気だったことをあのメイドが知ったらどうなるのかしら…怖…。


* * *


「それじゃあ、あの王女様は熱にも何にもやられてなくて普通に会話もできるのか?」


アレンが驚いたように言うから、そうなの、と頷いた。


「それどころか王妃よりも国王よりも聡明な方だと思うわ。戦争が起きた後に色々と国王や王妃に色々と言い過ぎたせいで死なない程度の毒を盛られて、それから目をつけられないよう、身を守るためにああいう風にしているらしいのよ。それが熱でやられた…ってことになっているみたい」


「なんという…」


それを聞いたガウリスは哀し気な顔になる。


お父様たちが軟禁されていた建物から外に出て何とかガウリスとアレンと合流して、私たちはお城の外に出た。


ちなみに私がお父様たちと話し合っている間にガウリスとアレンは例の鍵のついた建物の中を梯子を使って覗いてみたらしいけど、暗がりの中には宝石が大量に置いてあったって。


どうやら王妃の宝石コレクション置き場だったみたい。


武器庫の見張りの兵士はやる気がなくて、お父様たちが軟禁されてる建物を見張る兵士はお父様たちに同情したうえである程度真面目に職務を全うしていて、王妃の宝石コレクション置き場に配備されている兵士が一番厳重に見張っているなんて…と呆れてしまった。


そして今は宿屋に戻って今日あったことをサードに報告しているところ。

私は今日考えたことをサードに伝える。


「サブリナ様は人としても王家の人としても立派な方よ。今の国王たちだけを追いやって、サブリナ様を王位に据えたいわ。どうかしら」


サードは私の考えを聞いて無表情で一瞬黙ったけど、


「その王女と話がしたい。明日、十二時半だったな?明日は俺とエリーで行く。お前ら二人は留守番だ」


その言葉に皆で「えっ」と驚いてサードを見た。


「だってサード、透明化の魔法陣で透明になれないじゃない」


そう言うとアレンとガウリスもうんうん、と頷いている。サードは呆れた目で私たちを見る。


「アホか、忍び込むんだよ」


「って言っても城だぜ?ラニアの家みたいにすぐ隣じゃないし、ラニアの家より人も多いし、忍び込むっていっても昼間だからあの紺色の服だと目立つぜ?」


サードは更に馬鹿にする目でアレンを見る。


「普通に忍び込むわけねえだろ。侵入ってのはな、時と状況を見極めてやるもんだ」


「どうやってですか?」


ガウリスがそう聞くと、サードは口を開く。


「そりゃあ…」


* * *


次の日。


城門の前で兵士がビシッと足を揃えて槍を脇に構えた。


「城下見回りからただいま戻りました!」


城門の見張りの兵士は頷いて門を開けるように指図すると、お城の門は開けられて兵士はキビキビとした足取りで城の中へと入って行く。

その兵士の腕に透明化した私は腕を絡めながら一緒にお城の中へと入っていく。


「な、普通に入れただろ」


私が腕を絡めている兵士がチョイと(かぶと)を上にあげて、横目で私を見た。


その鎧の中身は例の茶色のボサボサしたカツラをかぶっているサード。


サードは私たちがお城の中の探索をしていた二日の間に城下町をあちこちを歩き回っていて、決まった時間帯に兵士が城下町を見回りしているのに気づいたみたい。


そこでサードは城下町を見回りをしている兵士の一人に近寄り話しかけた。


「あのすみません、少々道をお聞きしたいのですが…」

「はい」


立ち止まって返事をした兵士の(けい)動脈にサードはグリ、と親指と人差し指を押しつけ気絶させ、


「はあ、あちらの方ですか…」


と演技をしながら兵士を抱えつつ路地裏に連れ込むと、鎧をはぎ取って装備して兵士になりすました。


お城に入る時はこの透明化の魔法陣をくわえて侵入するしかないと思っていたのに、サードは周りから見える状態でもごく普通に侵入してしまった。

この手際の良さ。本当に勇者より泥棒の方が合っているわよね。


そして昨日サブリナ様と出会った待ち合わせ場所の辺りでサブリナ様を待つ…けど、十二時を告げる鐘が鳴って、十二時十五分を告げる鐘が鳴って、十二時半を告げる鐘が鳴ってもサブリナ様は現れない。


「…もしかして」


私はサードに話しかけた。


「昨日、王女付きのメイドが部屋に閉じ込めて外から鍵でもかけてしまえばいいって言っていたの。もしかして本当に閉じ込められているんじゃあ…」


サードは少し眉間にしわを寄せて、


「そんな話はもっと早くに言え」


と言いながら私に背を向ける。


「行くぞ」


とっとと歩き出すから、私は慌ててサードの隣に並んで腕に手を回す。


ガウリスの着ていた服はヒラヒラしたマントがあったから掴みやすかったけど、鎧だとマントがないからはぐれないためには腕に手を回すしかない。


「場所は分かる?」

「頭に入ってる」


モソモソと話しかけるとサードはあっさり返してくる。


余計な心配だったわねと鎧で硬い腕を掴みながら歩いて行くと、ふいに、


「おい貴様!」


と怒号が飛んできた。驚いて振り向くと…怒りに満ちた形相の兵士が、私たちに向かって突き進んできていた…。

Q,十二時の鐘が鳴って、十二時十五分の鐘が鳴って、十二時半を告げる鐘が鳴る?十五分単位なんだね?


A,中世ヨーロッパの時計は十五分単位で鳴ってたようです。シンデレラの十二時の鐘が鳴るって描写も十二時の十五分前に一回鳴って、そろそろ十二時だと気づいて慌てて逃げてたみたいです。十五分でお城から逃走して十二時ピッタリで魔法が解けました。


それと関係なく十二時少し前に十二回鐘が鳴って時間を知らせる設定だとしたら、三秒間に一回鳴る計算だとしても三十六秒で大広間から階段駆け下りて城の外に出ないといけないので、それをなしえるシンデレラはパルクールできる。

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