エルボ国の国王と王妃
細身のメイドとサブリナは部屋に入って行った。チラと見えたサブリナの部屋もこれまた豪華で、どれくらい豪華なのかというのを言うだけで時間がかかりそう。
王女の部屋でこれくらいなのだから、ここの最高権力者の国王の部屋はどれくらい豪華なのか…。
とりあえずサブリナたちの後ろをついてきて、王家たちが普段生活している場所は大体把握できた。…はず、アレンが。
でももしかしたらお父様たちが軟禁されている部屋も発見できるかもって思ってあちこちをキョロキョロしながらここまで来たけれど…。やっぱり廊下を歩いてきた程度じゃよくわからないわ。
サードはお父様たちの軟禁されている場所については、
「肉体的に苦痛もなく軟禁されているんだとしたら、牢屋じゃなくて王家たちが見張れるところにある部屋か、別宅みてえな場所に入れられてるかもしれねえな」
と予想していた。だからってここまでにある部屋全て開けていくのも結構大変よね…。とりあえず今はお城の中を探りにきたんだからお父様たちを探しに行きたいって私のわがままを通すのもちょっとどうかと思うし…。
「大体王家が過ごしてる場所は分かったから、エリーの家族探そうぜ」
ふがふがとアレンの声がして、私はパッとアレンを見た。
「いいの?」
「それも兼ねての偵察ですよ」
もそもそと言うと、ガウリスがもごもごと返してくれる。
「…!ありがとう、二人とも…」
ジーンとした気持ちでお礼を言うと、ガウリスが歩き出したから私も歩いていく。とりあえずこの王家が過ごしている場所を中心に探すことにしたみたいで、あちこちの部屋をチラと開けては違うと閉めていく。
ものすごく豪華な部屋をチラ見していくけど、お父様たちは中々発見できない。
そうしているうちに王家たちの居住地じゃなさそうな場所にも移動して部屋の中を開けているうちに、段々と日が傾いてきた。
丁度西日が目に入る高さで、眩しい太陽を見て思わず目をしかめると、急激にアレンの姿が現れ光が遮られる。
驚いてアレンを見ると、
「もう口ん中乾いてだめだ、水分取らせて」
と服の裏側に入れていた水筒を取り出してごくごくと水を飲んで、透明化の魔法陣の書かれたハンカチを口でくわえて透明になる。
するとガウリスも姿を現して、
「結構…口の中の水分が持って行かれますね、先ほどから喉がイガイガして…」
と軽く咳き込みながら水筒の水を全部飲み干して、透明になる。
辺りをキョロキョロとみても私たち以外に誰もいない。なら私も、と口からハンカチを取り外してローブの後ろに入れていた水筒を取り出して喉の奥に水を流し込んだ。
「…ああ!美味しい!」
「お酒飲んでるみたいじゃん」
アレンから笑いのにじんだ声が飛んでくる。
「しょうがないじゃない、喉が渇くんだものこれ」
私は文句を言いながら透明化できるハンカチを口にくわえて透明になった。
セリフィンさんはこれをくわえると口の中の水分が持っていかれてパサパサになるって言ってた。でもこれはパサパサになるどころじゃないくらい水分が持っていかれる。
最初はハンカチにどんどんと唾が染み込んでハンカチから垂れていくんじゃないかしらと嫌な気持ちだった。
でも実際はハンカチに染み込むどころか口の中の唾が全てハンカチに吸収されていくのよね。それも唾はもう出ないってくらい口の中が乾燥してしまっているのに、容赦なく喉の奥の水分までもが持っていかれて。
そのせいで少し前から私たちは「うんっ」「んんっ」「うんっうんっ」と延々と咳払いしていて、しかも一度咳き込んだら喉が乾燥しているせいで咳が止まらなくて、咳き込む勢いで口からハンカチが離れて姿が見えて大変だった。
丁度人が居なかったから助かったけど、ここまでの酷い乾燥は初めてだわ。
しかも体の全体がかゆい。
もしかしてこれ、喉の水分だけじゃなくて体の水分もハンカチに持って行かれて肌が乾燥しているんじゃないの?思えば目だってシパシパするし…。これ絶対に目も乾燥してるわ。
「それにしてもこれだけ城の中歩いても見つからねえならエリーの家族は城の中にいねえのかな」
ふがふがとアレンが呟く。
「かもしれません。これほど城の中を巡ってみても見つからないのなら、庭園のどこかにいるのかも…。しかし日も暮れかけています。今日はここまでにして、庭園を探すのは明日にしませんか」
ガウリスの言葉にアレンと私は「そうしよう」「そうしましょう」と言葉を重ねる。
「…しかし入口はどちらでしたか…」
ずっとお城の中をぐるぐる回っていたせいか、さすがのガウリスも通路を覚えきれないみたいで困惑している。でも私だってそうよ、何となくこっちかしらって思うけど…。
「大丈夫、俺分かる。入口はこっちだよ」
…。私、逆方向だと思ってた。さすがアレンだわ。心強い。
帰りはアレンが先頭になって進んでいくと、少し離れた所から立派な服を着た男の人二人が何か話し合いながら向こうから歩いてくる。
アレンはぶつからないように脇にスッと避けて、私とガウリスもそれに続いて脇に避ける。
「国王の望む地区の復興作業は順調に進んでおります」
国王?
聞こえてきた言葉に私たち全員が同じタイミングで立ち止まる。
あの最低な王子がそのままもっと大人になったような見た目だわ。口ひげを蓄えて淡い金髪を後ろに流して、きらびやかな赤いマントを風になびかせ難しい顔つきをしている…。
その姿だけは威厳のある有能な王様みたいだけど…これが無能な国王、ファディアント…。
ファディアントの後ろでかしこまったかのように控えているのはファディアントよりもっと年上に見える茶髪の中肉中背で鼻の下に豊かな口ひげを蓄えた男の人。
「ですから次は城下町の復興作業に取り掛かりましょう。細かい所は我々大臣が指揮をとります。今だ町は瓦礫にあふれ住む家が無く食料も買えず寒空の下で暮らす者も多くございますからして国王…」
後ろにいる男の人は大臣なの。…国王ってだけの無能な男にへこへこ頭を下げてかしこまらないといけないなんて…可哀想…。
同情しながら目の前を通り過ぎていく二人を見ていると、ファディアントは難しそうな顔を崩して鼻でせせら笑う。
「何が寒空の下だ。夏の盛りは過ぎたがまだ暑いではないか。いいなぁ、夏の暑いときに外で寝られるなど涼しくていいものだろう。国王となると庭で寝るなんて下品なこともできないからな、いいなぁ庶民は下品なことも自由にできて」
はっはっはっはっとファディアントは笑っている。
何を言ってるのこいつ。
カッと怒りが頂点まで達して、私はファディアントに向けて杖を振り回す。するとガウリスかアレンの体に当たったような衝撃が手に響いた。そこで私が魔法を使おうとしてるのに気づいたらしい二人のうちのどちらかが私の杖をガッと掴んで上に引きあげる。
無言の攻防戦を繰り広げている中でもファディアントと大臣の会話は続いている。
大臣は喉の奥で聞こえるか聞こえないかくらいの唸り声を静かに立ててから、ゆっくりと説き伏せるように話し始める。
「夏が過ぎれば秋が、秋が過ぎれば冬がきます。このままでは国民のまた多くが寒さで亡くなります、そうなればなぜ助けれくれないと国民が嘆き、あなたから心が離れてしまいます。そうなれば税を納める国民がいなくなるのですよ」
必死に説得する大臣の声はファディアントには届いていなさそう。ファディアントは少し立ち止まって日暮れの太陽を眩しそうに見て、
「それでも私の誕生日の日には国民総出で祝っているはないか。この前の誕生日の時だって城下町の方から賑やかな音楽も流れてきていたではないか。あれくらい賑やかなら国民も多少の不便はあっても憂いなく過ごしていることだろうよ」
と言って歩き出した。
何言ってるのこの男!
きっとそうしないとあんたの機嫌が悪くなるからって周りの大臣たちがやらせで盛り上げてただけでしょ!?ふざけないでよ、ここでエルボ国民全員の代弁者としてあんたを魔法で殺…ぶっ飛ばしてやる!
ふわ、と風が起きかけたけど、私の両方側からガッと強く肩だの腕だの頭を掴まれて、
「ムー、ムームームー!」
と必死に止めるような声が小さく聞こえる。
多分両側からアレンとガウリスが必死に私を止めにかかってきている。あ、イッタ。
誰?今私の目に指突っこんできたの、見えないからってイッタァ…。
目に指が入った痛さで私が魔法で起こした風は心地いいそよ風になってその場を駆け抜けて、アレンとガウリスのムームー言っている声に大臣は「ん?」と振り向いたけどファディアントはちっとも気づいていない。
「ぶっ飛ばさせて!」
目を抑えてジタバタ暴れながら小声で二人に訴えかけると、
「いけません、この国の民として正直な行動だと思いますが今は得策ではありません、落ち着いて…」
もごもごとガウリスに言い含められていると、タッタッタッと走る音が聞こえてきて、私たちはピタリと動きを止める。
足音は後ろから聞こえてくるから、後ろを向く…。
ウッ。
怒りが飛んで思わず顔をしかめてしまった。
後ろからはファディアントと同じくらいの年齢の女の人が大きい胸をゆっさゆっさと揺らしながらテンポよくヒールを鳴らして駆けてくる。
でも胸よりその装飾品…!
巻かれた髪の毛。その巻いてある髪の毛にはキラキラ輝く髪飾り…宝石の粒がドチャッとついている。大きく上下に揺れる胸の上には二重三重に重ねてある宝石のネックレスがこれでもかとボンボン跳ねていて、指が隠れるぐらい宝石がちりばめられた指輪をつけている。
それよりそんなに指に指輪をつけてて、指が曲がるの?
「あなたぁー」
胸をゆっさゆっさ揺らす女性…多分王妃マーリンは走る勢いのままファディアントにぶつかり、「イヤン」としがみつきながら止まった。
「おお、マーリン。どうだ?その髪飾りは?」
ファディアントは締まりない顔になってマーリンを迎え入れる。マーリンはプクー、とほっぺを膨らませて、ファディアントを指先でツンツンつついた。
「悪くないんだけどぉ、ガーネットの髪飾りが良いって最初に言ったんだけどなぁー、聞き間違えちゃったのかなぁ?」
甘えるようなマーリンの言動にファディアントはデレデレとした顔で、
「んん?聞き間違えてしまったかなぁ?すまない、次はちゃんとガーネットの髪飾りを買ってやる…。…ところでガーネットってどんなのだ?」
と猫なで声でマーリンの腰に手を回している。
「んもう、ガーネットって黄色い色の宝石よぉ」
…嘘よ、ガーネットって赤いわよ。あの王妃、宝石をあんなに身につけているくせに宝石に詳しくないわけ?
ファディアントとマーリンの二人はダンスを踊るかのように手を取ると、お互い見つめあってゆっくりと回りながら会話をする。
「ならば今度行商人を呼んでガーネットを買ってやろう」
「ああん、あなた好きぃ」
そんなファディアントとマーリンを背にして、大臣が自分の首を絞めるつもり?というくらい手をブルブルと震わせて自分の服をつかみあげて歯ぎしりしている。
こいつら殺してやろうかとでも言いたげな顔…。やっぱり腹に据えかねているんだわ。けどよくこんなのに我慢して従っているものよね。立場的にしょうがないと思ってるのかもしれないけど…。
「…行きますか」
ガウリスがもごもごと言うから、ファディアントとマーリン、大臣を背にして私たちは歩いて行く。
エルボ国王家は思っていたとおり…ううん、それ以上に無能なことが分かった。すごくガッカリした。
城下町では通り過ぎる人にお金を求める人が多いのにファディアントは城下町には無関心でマーリンに宝石を買おうとしているし、マーリンなんて宝石のディスプレイなの?ってくらい宝石を身につけているのにまだ宝石を求めている。
ディアンは妹やメイドに暴力を振るっただけでしつけてやったって満足気な顔で、その妹のサブリナは…暴力を振るわれて可哀想とは思えるけど、あの感じじゃあ政治の表舞台に立てそうにない。
この国の王家たちは国の頂点に立つ資格なんてない。やっぱりこの国の王座から追い出さないと。
ガーネットは黄色かったはず、でも心配とネット検索してみたら赤かったです。
マーリンと私の宝石に対する知識はどっこいどっこい。
マーリン
「ねーえー、作者~。宝石もっと欲しい~」
作者
「おう、後書きに王妃が…じゃあ作者権限で宝石をたくさんあげる」(ドチャラァ)
マーリン
「神様…!?」
作者
「この行為を素直に神と見るなんてすげえな、悪魔だと疑いもしねえ」




