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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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透明人間

エルボ国で力になってくれそうな人、ということで二人の元に訪れたわけだけど…結局断られてしまったわ。

サードも勇者という立場上、嫌がる人に無理強いできないって顔をしているもの。


するとサードは身を乗り出す。


「それなら答えられる範囲でお答え願いたいのですが。戦争後の隣国の状態はどうですか?ブロウ国も荒れていると聞いていますが、ラリア王国などは?あなたのチームの方々もラリア王国に行ったというのなら、ラリア王国はここより暮らしやすいのですか?」


突然の質問に二人は少し意表を突かれたような顔をしたけど、セリフィンさんは頷く。


「そりゃあ過ごしやすいだろうよ。なんせ四年前の戦争の時には中立って立場で一切戦いには参加してねえから、住むところも食うものもある」


「じゃあなんで皆ラリア王国に行かねえの?」


「国民が流出するのは国としても止めたいのでは?」


アレンの質問にガウリスが簡単に答えると、セリフィンさんはそうそう、と首を縦に動かした。


「戦争で通行手形が無くなった奴らはこの国からは出られねえ。公安局で新しく発行してもらおうにも審査が厳しくなってて通行手形がおりないって話だぜ。これも国民の流出を阻む目的だろうよ。

…だがまあ、前々から王家の奴らに愛想尽かして他の国に出ていく奴は多かったから、審査が厳しいのは今に始まったことじゃねえけどな」


そうなの、とアレンが聞くとセリフィンさんは続ける。


「戦争が起きる前からこの国に見切りつけて去ってく奴は多かったんだぜ?残るのはそれでもここで暮らしたいって奴らと、ここで生まれたから、自分の土地を持ってるから、って奴らだけだよ。俺だってスロヴァンたちと会ってなかったらとっくの昔に国外に抜けてる。

…だからエリーのことを調べたいと他の国の大学に言われた時、王家の奴らは慌てたと思うぜ?いいや、王家じゃなくて周りの大臣がだろうな。

あそこで貴族階級のディーナ家が別の国に行っちまったら一般国民どころか城に仕えているはずの貴族たちも別の国に流出しちまうってな」


頷くサードは、


「…仮にディーナ家の方々を救い出せたとしたら、ラリア王国に行かせた方がよろしそうですね…」


「…ちなみにどんなことをして王家を追いやって、スロヴァンたちを逃がすつもりだ?」


セリフィンさんはやっぱり気になるのかサードの考えを聞きたそうにしているけど、センプさんが肘で小突くから渋々と口を閉じた。


「あと聞きたいのはこの国の王家のことです、全員で何名ですか?親戚に関することまで教えていただけるとありがたいのですが」


サードがそう言うと、セリフィンさんは立ち上がってどこからかグシャグシャになった紙を持ってくると、テーブルの上にのしながら広げた。


「王家は自分が大好きだから各家庭に一枚こんなの配ってんだ。捨ててえけど捨てたら罰則があるから捨てられねえ」


見ると、今現在の王家の顔のついた絵姿入りの家系図。

でも中心の王家以外は名前だけで絵姿は描かれていない。


「なんですか?この顔の王家の絵姿の下の数字は?」


ガウリスが質問すると、呆れた顔のセリフィンさんがハッとため息をついて肩をすくめた。


「誕生日だ。プレゼントか自分を称える合唱でも期待してんじゃねえの。実際その日になると大いに城下町でも盛り上がるように国から指令が飛んでくる」


「…」

ガウリスは何とも言えない顔をして微笑みながら口を閉じた。


「王家の中心はこの絵姿の描かれた四名ですね。国王ファディアント、王妃マーリン、王子ディアンに王女のサブリナ。その親戚となると…?」


名前だけしか書かれていない、いとこや親戚を指差しながらサードが聞くと、セリフィンさんが説明する。


「こっちの奴らは四年前の戦争で大体戦死した。こっちの奴らは魔力使い過ぎて今じゃ生きてるのがやっとってところだ。

他も似たり寄ったりで各家庭の中はボロボロみてえだぜ?無傷なのは王家の四人しかいねえよ」


驚いた顔でガウリスが顔を上げた。


「まさか国王も王子も戦争に出ていないのですか、他の親類らは戦ったというのに?」


「何より自分が可愛い奴らだからな」


信じられない、とでも言いたげな顔でガウリスは黙り込んだ。


「我が国では戦争があれば真っ先に国王と王子らが戦士を鼓舞するため鎧冑を身につけ中心にいるものなのに…」


そりゃあガウリスからしてみたら信じられないでしょうね、サンシラ国の男の人は何かあれば全員が戦えるような人たちなんだもの。


サードは家系図をしげしけと見て、納得の顔で背を正す。


「確かに、今現在では第一王子のディアン以外に王位を継承できそうな者は他にいませんね」


「女の人が上に立つってことはねえの?親戚の奥さんとか娘さんたちは無事なんだろ?」


ないない、とセリフィンさんは手を横に振った。


「この国ができてから女王が出たことは無い。言ったろ、この国の王家は何より自分が可愛いんだ。可愛い自分には立派な肩書を与えてやらねえと満足しねえような奴らなんだぜ?特に現国王のファディアントは自分さえ居れば皆が満足して暮らせるって本気で思ってるみてえだしな」


ああダメ、聞けば聞くほど王家のことが嫌いになる…。


段々と嫌な気分になってきてソファーにもたれかかった。


本当にこの国って何なのかしら。政治は穴の開いた壁をとりあえず泥でふさいでおくようなもので、もうその壁だって崩れ落ちそうになっているじゃない。

それも泥で必死にふさぐのは大臣で、王家たちは崩れそうになってる壁にすら気づいてないんじゃないの?


今まで色んな国を旅してきてその中を見てきたけれど…エルボ国は確実に酷い国のトップクラス入りだわ。


「…」

サードがあれこれと考えている表情をしていると、セリフィンさんが声をかけた。


「もし本当にスロヴァンたちを救い出すってなら、いいもんがあるんだ。使わねえか?」


「おや、力は貸さないのでは?」


「本当は俺がそれを使って城に行こうと思ってたんだが…センプは嫌みてえだからな。だがあれを使わせるぐれえはいいだろ」


セリフィンさんの言葉にセンプさんはこっくり頷く。


「あなたから借りたって誰にも言わないのなら」


サードが頷くと、セリフィンさんがゴチャゴチャと物がいっぱい置いてある場所から使い古されたよれよれのノートを取ってきてテーブルの上に置いた。


「俺らはスロヴァン達が王家に捕えられたってのを聞いた時から助ける方法を探してた。とにかく城から連れ出して、他の国に逃げさせようってよ。そこで思いついたのがこれだ」


セリフィンさんはノートを広げるから見てみるけど…よく分からない文字に記号がびっしり書かれている。多分昔使われていた文字でしょうけど、さっぱり読めない。


「これは俺が学生時代に趣味で調べた古代魔法だ。その中のこれを使おうとしたんだ、肉体を一時的に空気、風と同化できる詠唱魔法を。

そんな魔法だから自身の姿が見えなくなって誰からも触られない。同じように自分も周りの物や人に触れることもできねえが、わずかな隙間があれば建物の中にも入れるし風のように速く移動もできる、主に諜報活動に使用されてたもんだ」


「じゃあこれ唱えたら姿が見えなくなんの!?すげー楽しそうじゃん!」


興味を持ったアレンの言葉にセリフィンさんは呆れた顔つきになる。


「言っとくがなあ、古代魔法ってのは現代魔法に比べてかなり危険なんだぜ?人の命だの肉体だの持ってかれようが結果が出るならオーケーってもんもかなりあるからな」


「えっ」


「この魔法も一歩間違えるとそのまま空気と同化して死ぬまでそのままだ。自分は他の奴らが見えて意識もあるのに、他の奴らからは自分が見えず無視される毎日…地獄だろなぁ?」


セリフィンさんの大げさに脅すような言葉に、アレンはゾゾーっと顔を引きつらせて身を引く。セリフィンさんはそんなアレンを見て楽しそうに笑った。


「で、俺はこれを安全に作動できるようにと研究を重ねてつい最近、ほぼ完成に至った」


ポケットから白いハンカチを取り出したセリフィンさんは広げて見せてくる。そのハンカチの中心には変色したような赤い色で魔法陣が描かれている。


「詠唱魔法じゃなくて魔法陣なの?」


聞くとセリフィンさんは頷いて、


「古代の詠唱魔法は危険だから魔法陣に置き換えて描き直したんだ。魔法陣ってのは詠唱魔法より安全だからな。そうしてこれを…」


と言いながらハンカチの一辺を口にくわえた瞬間、セリフィンさんの姿がソファーの上から消えてしまった。


思わず私たちからも驚きの声が上がったけど、サードはふと目をソファーの上に動かして、


「その魔法は見えも触れもしないとのことでしたが、あなたは今物に触れている状態ではないですか?ソファーがそのままへこんでいますが」


サードの言葉にセリフィンさんが座っている場所を見てみる…本当だわ、セリフィンさんが座っている形でソファーがへこんでいる。


「そのとおーり」


モゴモゴとしたセリフィンさんの声が聞こえてスッとセリフィンさんの姿が現れた。どうやら口から魔法陣の描かれたハンカチを取ると姿が見える仕掛けなのね。


セリフィンさんは魔法陣を私たちに向けてくる。


「安全になった分、元の効果はかなり薄れた。これは姿が見えなくなっただけで周りからは触れられるし風の様にも動けねえ。それに口にこれをくわえているから喋れもしないし、ハンカチが口から少しでも外れたら姿が見える」


「えーすっげー!もっかいやって!もっかい!」


興奮気味のアレンにそう言われるとセリフィンさんもどこか自尊心がくすぐられるのか、ハンカチをくわえて見えなくなる。アレンは立ち上がってサササッと手を動かしながら、パントマイムみたいに空中をペタペタと触った。


「あ、本当だ。ここ肩だ。わーすげー、握手してみよ、握手」


アレンが空中で一人で握手しているように手を動かしていると、アレンと握手したままのセリフィンさんが姿を現した。


「とまあ、こんな感じだ。仮に透明化とでも名付けておくか。俺も何度かこれをくわえて大学内を練り歩いてみたが、急に物音を出したり、クシャミをしたり、口から取り外したり、誰かにぶつかったりしねえ限り誰にも気づかれることは無かった」


「俺もやりたい!やってみたい!貸ーしーて!」


目を輝かせているアレンがセリフィンさんに向かって手を伸ばすけど、セリフィンは苦笑する。


「悪いがこれは俺専用だ。この魔法陣は俺の血で描いたものだから」


血と聞いてアレンはザッと引く。


セリフィンさんはそんなアレンを見てまたニヤニヤ笑う。


「自身の肉体を消すんだからそれなりの代償は必要なんだ。このハンカチに収まる程度の血なら安いもんだろ」


「口にくわえるのは意味があるのですか?」


ガウリスの質問に、いい所に気づいた!とセリフィンさんはガウリスに指をビシッと向ける。


「本来は空気と同化し、風のように動ける魔法。だが空気中に保有される水分量と人間の保有する水分量は違う。だから空気中を動くとなると体の水分がどんどん空気中に持っていかれる。体を消す代償だな。

この魔法陣はただ手に持ってるだけじゃ消えねえ、じゃあどうすればと色々試行錯誤してみたが、体液…まあ手っ取り早く唾の出る舌に付着させたら安定して魔法が発動しやすくなるのに俺は気づいた。水分持ってかれて口の中乾きやすくなるけどな」


「よくそこに気づきましたね」


ガウリスは、さすが学者すごい、とばかりの顔でセリフィンさんを見ると、


「まあな。見た目で汗をかいてなくとも人はわずかに汗はかいてる。だから最初は皮膚にくっつけてみたんだが、それでもわずかすぎるせいか手に持つだけと同じで効果が出なくてな。今は夏だからいけるって思ったんだが…」


そしてセリフィンさんはデヘヘ、と笑う。


「そんでセンプの生着替えをどうしても見たくて、汗が駄目なら唾でいいってくわえてみたら完全に体が消えたんだ」


「…」


ガウリスはなんとも言えない顔で黙り込む。


センプさんは表情は変わらないけど冷ややかに横目でセリフィンさんを見ている。


「あなたの奥様なのですからそのようにコソコソしなくてもよろしいのでは?」


「それが最近肌もろくに見せてくれねえんだ。これって深刻な問題だと思うんだが、どう思うよ勇者様」


サードの言葉にセリフィンさんが相談とばかりに身を乗り出すと、セリフィンさんのほっぺをセンプさんが無言でギリギリとつねる。


「いででで、痛い痛いセンプ痛い」


「とにかくその魔法陣を使えば城の中には侵入できるってことなのね?」


これ以上黙っていたら話が変な方向に進みそうだから口を挟むと、セリフィンさんはつねられた頬を押さえながら、


「そうだ。これは役に立つと思うぜ、どうだ使うか?」


確かにこの姿を消す魔法陣があれば楽にお城の中に侵入できるし、お父様たちを先に探して脱出させられるかもしれない。


でも、これには唯一問題があるのよね。魔法陣はほんの少しでも魔力があれば使える。でも…。


「サードは魔力が無いから魔法陣でも無理よね、どうする?」


「えっ、勇者様魔法使えねえの!?」


サードにどうすると聞いたのに、先にセリフィンが驚いた声を出した。

サードも隠すことなく頷く。


「ええ、魔力は一切ないのです」


「…へええ…魔力が無くても勇者やっていけるんだ…。歴代の勇者だの英雄だのは身体能力向上魔法は基本的に使ってるから勇者様も使えるもんだと…」


そう言われてみればサードが持っている聖剣の元の持ち主の勇者も魔法は使えたものね。そうなるとサードは歴代の勇者や英雄の中で初めて魔力を持たない人なのかも。

…そうなると魔法使わないで勇者やってるって、結構すごいんじゃ…。


「そっちの二人は?魔法は使えるか?」


セリフィンさんがアレンとガウリスに確認すると、


「俺は少し魔力あるらしいよ」


とアレンは他人事みたいに言って、ガウリスは、


「私はありません」


と続ける。


「ガウリスは魔力あるんじゃない?」


神様に近い存在になってるらしいし、それなのに魔法が使えないとかちょっと信じられないのよね。それでもガウリスは曖昧(あいまい)な表情で首をかしげている。


「一応作ってもらいましょう。そうすれば魔力があるかどうかが分かるでしょうし」


「そう…ですね」


無いと思うんですけど…と言いたげな表情のままガウリスは答えて、セリフィンさんは膝を一度叩いてから立ち上がった。


「っしゃ、じゃあやるか!まずは採血だ、注射器一本程度の血で済むから安心して腕を出せ」


「…ええっ!?」


アレンが嫌そうな顔で逃げ出したけど、セリフィンさんがガッとアレンの服をつかむ。


「おいおい勇者御一行の男だろ、ちょっと血を取るくらいなんだよ」


「い、いやだぁああ!エリー!俺痛いのいやだぁあああ!」


アレンがセリフィンさんの手を振り払って私にしがみついてくるけど、センプさんが着々と注射器とか色々準備し始めてる…。あれ、センプさんって魔法学とかじゃなくてそういう医療できる人だっけ…?

思えばセリフィンさんは自分のやってることは自慢気に色々教えてくれてたけど、センプさんってあんまり自分のこと話さないものね。


「センプさんって医療系の学者なの?」

「ええ、魔法学の回復魔法専門で、医療にも携わってるわ」


「魔導士の医者…?普通の医者とは何か違うのですか?」


サードの質問にセンプさんは、


「魔法を使うか使わないかの違いだけよ。私たちみたいな魔導士の回復魔法があると助かる命も多いし、魔術関連からの体の不調も早めに発見しやすい、それだけ」


軽く答えながら空の注射器を魔法で光る指先でスー、となでて、私たちに目を向けた。


「さあ、消毒は済んだわ。誰から?」


* * *


アレンはビクビクと顔を背けて強く目をつぶっている。


「あなたいい血管だわ」

「ヒィ」


褒められているけどアレンは脅えている。


先に私もガウリスも採血は終わらせて、最後はアレンの番。それでもアレンは健康なのに注射されたくないって散々ごねて何度か逃げ出そうとしていたけど、サードとセリフィンさんに捕まってセンプさんの前に無理やり座らせられた。


「注射針が刺さるくらいなんだよ、大体の場合、血で魔法陣描く時にゃナイフで太い血管をザクッと…」


セリフィンさんが呆れながらそんなことを言うとアレンはギョッと目を見開いて、


「やだぁー!」


と立ち上がりかけたけど、


「動かないで、針が折れる」

「ヒィ」


アレンの動きが止まって、ゆるゆると椅子に座り直した。


「…はい終わり、五分くらい押さえてて」


アレンは悲しげな顔で立ち上がって腕に張られている絆創膏を指で押さえている。


「魔法陣描くのは俺がやっとくぜ。描き間違えたら血がもったいねえからな」


「…」


アレンは悲しげな顔のままこっくりと力なく頷いているけど…そこまで悲しい顔しなくてもいいじゃないの。

アレンには悪いけど笑ってしまいそう。もうニヤニヤしちゃってるけど。


セリフィンさんは真っ白いハンカチを三枚用意するとブツブツと呪文を唱える。

すると指先が光りだして、指先を血の入っているオモチャみたいな試験管にかざすと血がスルスルと光に吸い取られて、ハンカチの上をなぞるとそのまま赤い色が染み込んでいく。


あっという間にセリフィンさんは三人分の魔法陣を描きあげて、


「これがエリー、これがアレンにこれがガウリス…」


と渡してくれた。


こんなに早くできるなんて、流石よね。それでこれをくわえたら、姿が見えなくなる…。


布をそっと口にくわえてみる。

それでも特に変わった感じはしない。消えたって感覚もないし…。


そう思いながら自分の体を見渡そうと視線を落としたけど、自分の体が見当たらない。


「えっ」


驚いたら口からハンカチが離れて、私の体がパッと浮かび上がる。


顔を上げてセリフィンさんを見ると、ニヤニヤしながら、


「自分からも自分の体は見えねえんだ」


と言葉が返ってきた。


なるほど、と思いながら目を動かすと、アレンとガウリスの姿も消えている。ガウリスの姿も消えた、それならやっぱりガウリスにも魔力があったんじゃない。絶対にガウリスには魔力があると思ってた。


「二人ともそこにいるのよね?」

「ふふふふふ…」


アレンから楽しそうな含み笑いが聞こえてくる。血を抜かれたショックからはもう立ち直ったみたい。


アレンの含み笑いが聞こえた辺りにサササと手を伸ばしてみるけど、スカスカと空を切る。


「あら?」


ササササと手を動かしながらもう少し進んでみるけど動アレンの体が無い。


「え?アレン?」


あちこちに手を動かしてアレンを探してみても、体に全然手が触れない。


まさか色々な作用が働いてなんかこう…そんな色々な何かが起きて、アレンは空気と同化したとかないわよね…!?全然細かいこと分からないけど…!


「アレン!?ちょっとアレン!?」


ワサワサと周りに手を動かすと何かに手が触れた。アレンかと思ってベタベタと触るけど、この服の感触の下にある体格の良さは…。


「これはガウリスね!?」


「そうれふ」


モゴモゴ話しながらガウリスは口からハンカチを取って、頭をキョロキョロと動かす。


「…アレンさんは?隣にいたはずですが」


「それが居なくなってるの。もしかして空気と同化したんじゃ…」


セリフィンさんに助けを求めて振り向くと、サードが指をスッと私に向ける。


「アレンならエリーの後ろにいますよ」


えっ、後ろ?


振り向いてもアレンの姿は見えないし、手を伸ばしてみてもスカスカと空を切るだけ。


「居ないけど」


サードに顔を戻すと、サードは指をスーと動かしている。


「エリーの声の反響が他に比べそこから早く戻ってきます、空気の流れもそこから起きています。そうなるとアレンはそこを移動中です」


スタスタと歩いてサードは空中をガッと掴みあげた。


「ふぇー」


アレンがサードに捕まれた状態で空中から現れる。


「なんで俺の場所分かったの?足音立ててなかったのにぃ…」


「音と空気の動きとで分かるでしょう?」


分かんないわよ。分かるわけないでしょ。


「…さすが勇者、魔法使えなくても色々すげえわ」


セリフィンさんも驚いたように口を開いていた。

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