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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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学者夫婦

「…ひどい…」


エルボ国で戦争が起きてから四年。和平条約が結ばれてから半年。

それくらい時間が経ってるっていうのに、国の中はすごく荒れている。


黒く焦げて破壊された多くの建物、倒壊してほとんど瓦礫の山になっている家、比較的家らしい家があると思うと反対側に大きい穴が開いていて、石畳もほとんど吹き飛んで無くなっていて地面がむき出しのまま。


悲痛な顔でエルボ国の城下町を見渡す。

前はあんなに整った街並みが広がっていたというのに、今じゃほとんどが黒焦げの瓦礫まみれ。

それも家を建て直しているのだってほんのわずかで、それも敷地の広さからみてお金持ちといえる人たちなんだと思う。


じゃあお金を持ってない人は家をどうすればいいの?今どこでどう暮らしているの?


それも周りを見ていれば答えが分かるわ。着の身着のままのボロボロの服を着た人々があちこちに多くいて、道の端に座ったまま目の前を通り過ぎる私たちにお金をください、お金をくださいって手を伸ばしてきている…。


皆が痩せていて、それも寄り添いあって小さい手を受け皿みたいに差し出してくる子たちもいれば、赤ん坊を抱えて力なく片手を差し出してくる女の人もいる。


「私は先の戦争でブロウ国相手に立派に戦い、そして手足をなくしました!」


って演説みたいに言う男の人もいれば、もう声も出ないのか横たわって動かない老人もいる…。


心が痛んでありったけのお金を渡したくなるけど、アレンに止められた。


「こっから先にも多分こういう人たちたくさんいるぜ、一人にあげたら全員にあげないといけなくなる」


「でも…!」


ガウリス、と顔を向けるとガウリスもすごく心を痛めている顔で…でも軽く首を横に振った。


「今ここでお金を渡せば一時的には助かります、しかし一時的のこと、これから先の人生も助けたいのならば、いち早くこの国の現状を変えることです、行きましょう」


それでもガウリスは手を差し伸べる人たちを無視していくのに心が痛むのか、唇から血が出るんじゃないのってくらい口を噛みしめながら私の背中を押していく。


城下町に入る前は私たちにも笑う余裕があったけど…激しい戦いが繰り広げられた城下町に入るとあまりの現状に笑うこともできなくなってしまった。


「周りを見て傷つくより、案内をお願いします」


サードが表向きの声色で促してきたから私は目を上げる。そしてサードの姿を見て、誰?と思いながらも、ああ、変装してるんだっけと思い直した。


そう、私たちは今変装している。


エルボ国に入って城下町にさしかかるころ、遠くから見ても荒れているのが分かる城下町を見たサードが、


「念のため変装するか。勇者一行だとバレて変に助けを求められると面倒くせえ」


と言うから、私は髪の毛を隠すためにアレンからオレンジ色のパンダナを借りて頭に巻いて、後ろの髪の毛はローブの中に全部入れてフードも目深に被った。


サードはシュッツランドでかぶっていた茶色いボサボサのカツラをかぶって目の色を青い色に変えた。

目立つ頭のアレンはサードに借りた金髪のカツラをかぶって、ずれないようにガウリスから(かぶと)を借りて頭に装備。ついでに度の入っていない黒縁の眼鏡もかけている。

…けどアレンに眼鏡って見慣れないから違和感だわ。


あとガウリスは頭に黒い帽子、黒いサングラスをかけて、サンシラ国の人がよく着る白い服の上に長く真っ黒いマント羽織っている。


そんなガウリスの変装にアレンは、


「どこの悪人だよ!」


と笑っていて、いつも世の中に何も楽しみがないとつまらなそうな顔をしているあのサードも、


「だーっはっはっはっはっ!悪人だ、これはすげえ悪人だ!勝てねえ!」


って、普段からは想像できないほどガウリスを指さして大爆笑していたっけ。


その時までだったわ、皆が声を立てて笑っていたのは…。

でもガウリスの言う通りよ、早くこの国の現状を変えて、あのお金を求めている人たちを救えるようにしなくちゃ…!


私は記憶を頼りに歩いていく。でも歩いていても不安な気持ちがどんどん湧き上がっている。

だって歩いていく所のほとんどの建物に家が壊れている状態なんだもの。もしかしたら戦争に巻き込まれて、そのまま…。


ううん、あの学者夫婦は魔法の知識に長けた人たちだったのよ。そうそう簡単に死ぬような人たちじゃないわ。きっと大丈夫、ガウリスだって言っていたじゃない、私が一番に信じないでどうするの?大丈夫、大丈夫…!


…でも段々とそんな自分を元気づけることも段々とできなくなってきて、絶望の色が濃くなっていく。進むたびに立ち並んでいる家々の壊れ方が酷くなっていて、ほとんどが瓦礫の集まりみたいな景色が増えていく。


破壊の跡が激しい表通りを曲がる。


こっちは住宅地が広がっていたんだけど…元の面影が全くないわ。でもこの道幅に沿って行けば薬屋があるはず…無い。

あ、でもあのテントの入口にいつもみていた薬屋と同じ看板があるわ。同じ場所にテントを立てて営業しているのね。


それならこの薬屋のテントのある斜め向かいが学者夫妻の住んでいた家…。


目を向けたけど、無い。

そこには半分以上破壊されている家があるだけ。


「…」


優しかった学者夫妻のことを思ってその場に呆然と立ち尽くす。やっぱり、戦争に巻き込まれて…?


するとサードは私に顔を向ける。


「これはきっと生きていますね」

「…どうして?どうして言い切れるの?」


ブワッと涙があふれて、サードに掴みかかって揺らす。


「そんな適当なこと言って慰めようとしないでよ!何よいつも人を絶望の淵に叩き落とすくせに…!」


サードはイラッとした表情をして私を突き離すと、指を学者夫妻の住んでいた敷地に向ける。


「瓦礫は敷地内から撤去され、庭の雑草や木々は他の敷地に比べ手入れされています。ということは、夫婦は度々ここに訪れて手入れをしているのでは?」


「…」

そう言われてみれば、隣の敷地に比べて庭は綺麗で雑草もろくに生えていないわ。

…もしかしてあの薬屋さんなら何か知ってるんじゃ!?


私は足早に薬屋のテントの中に入った。


「はいいらっしゃい」


中に入ると薬屋の前をよくほうきで掃除していたおばさんと、店の奥に座っていたおじさん二人が出迎える。


「あの、ここから斜め向かいに住んでいた学者の夫婦のことなんだけど…」


「ああ」


おばさんはお客さんじゃないと踏んだのか身を乗り出して立ち上がると、テントの外に出た。


「あそこの学者夫婦なら今は大学で寝泊まりしてるみたいだよ。たまにここにきて庭の手入れもしてるね」


「…」

あの二人が大学講師なのは知っていたけど、その大学ってどこだったかしら…。


「見たところ、あの二人の教え子かなにか?」

「ええと…まあ」


曖昧(あいまい)に頷くとサードが口を挟む。


「そのお二人が寝泊まりしている大学は無事なのですか?」


「あの大学はここらで一番歴史が古くて色々と貴重な物がいっぱいあるから、防御魔法でどうにか食い止めたみたいだよ。他の大学は所々壊されたみたいだけどね。

…けどそれなら大学だけじゃなくて国丸ごと防御すればいいのにって思わないかい?うちの店だって金がなくて全然直す目処(めど)もつかない。

直す手が入るのは金持ちの屋敷と国王たちが良く通る道に気に入った場所。全くふざけてるよ、馬鹿にしてるってもんだ」


おばさんは腰に手を当てて怒りのこもった愚痴をこぼす。


どうやら王家は相変わらず無能みたいね…。


「では夫妻が勤めていらっしゃる大学への道筋も大幅に変わっているでしょうか。だとしたら少々迷うかもしれませんね」


サードがそういうと、おばさんは手を横に振った。


「いやいや、この城下町で無事なのは王家の住む城とその大学の二つだけだったからね。城じゃない方の穴の開いてない綺麗な大きい建物があればそれが大学だよ。あっちの方向に行きゃすぐ見つかるさ」


おばさんはそう言いながら大学がある方向を指さしている。


何気ない会話でサードは大学の場所を聞き出したわ、流石…。


私たちは薬屋さんのおばさんにお礼を言ってその場を後にすると、大学の方向へ歩いていく。

すると朽ち果てた街並みの向こうに敷地の広い、穴も開いていない綺麗な建物が見えてきた。


そのもっと奥の小高い所にはエルボ国王家が住んでいる城が見える。


あの城のどこかに両親と使用人が軟禁されている。そう考えるだけで自然と杖を握りしめる手が強くなって、つい城を睨みつけてしまう。


お父様、お母様、使用人。もう少しそこで待っていてね、必ず助けに行くから。


そう思いながら大学の敷地内に入ろうとする。


「ちょっと」


大学の門の脇にある小さい建物からおじさんが出てきて、行く手を阻まれて止められた。


「学生証を呈示(ていじ)してください」

「…え?」


見ると兵士みたいな身なりのおじさん。さあ見せて、と私に向かって手を向けている。


「がくせい、しょー?」


何それとばかりに呟くとおじさんは腕を組んで、んん?と見下ろしてくる。


「学生じゃないの?」

「学生では…ないけど…」


「関係者?」

「じゃ、ないけど…」


うそ、大学って誰でも自由に入れるんじゃないの!?

お父様だって今日は大学に遊びに行ってきたよってよく言ってたじゃない…。あ、そうか、お父様は大学講師の二人と一緒だったから…。


最初からつまずいてしまってその場でおろおろしていると、サードが私の肩に手を置く。


「この者は元々ここに在籍していた学生なのですが、今は卒業して冒険者の魔導士として旅をしています。

ここで戦争が起こり、半年前に和平条約が結ばれたと聞いたので遠くからはるばる恩師の安否確認に立ち寄ったのです。全く、いくら恩師が心配だからって順序があるでしょう」


「…そ、そうね、ごめんなさい…」


とりあえずサードの言葉に乗っておくと、兵士のおじさんも納得したみたいで私に聞いてきた。


「その先生の名前は?」


「セリフィン・アーヴェルとセンプ・アーヴェル」


兵士のおじさんはブツブツと何かを唱えると四角い光が目の前に現れる。


「おお、魔導士なんだ、あれ前に船の上で見たな」


アレンが四角い光を指差しながら言うと隣のガウリスが、


「通信魔法でしたか?さすが魔導士が多い国ですね」


と言っている。


その間にも兵士のおじさんは光の中に映る人と会話を続けて、その四角い光をクルリと私に向けた。


「この人たちが面会したいとおっしゃっていますが。お通ししても?」


『あー?』


光の中の人は顔を寄せてジロジロと見てくる。

赤い瞳がどアップで映っていて全体像は全く見えないけれど、この少し充血した赤い瞳はよく覚えているわ。


「セリフィンさん!私よ」


少しフードを上げて顔を見せると、その赤い瞳孔が少しキュッと大きくなり、


『お、おおおお!?』


とガタガタと動いて、


『生きてたのか!お前生きてたのか!無事だったのか!?おい、そいつは俺の知り合いだ通せ…いや待て!俺が迎えに行く!』


とそこで四角い光がフッと消えた。


それからしばらく待っていると、大学校舎の方から白衣を着た大柄な人が雄たけびを上げつつ猛突進してくる。


「セリフィンさん!」


手を広げているとそのままタックルする勢いでセリフィンさん私はに抱きついて、二人してその勢いで地面に倒れこみそうになる。

でもジャジャジャッと砂利を踏みしめながらセリフィンさんは態勢を立て直すと、そのまま軽々と私を持ち上げてグルグルと回転する。


「うおおおおおお!お前、無事だ!無事だぁあああ!」


降ろされたかと思ったら今度はほっぺに熱烈なキスを何度もお見舞いされ、そのままきつく抱きしめられる。


「セリフィンさん、落ち着いて…」

「これが落ち着いてられっか!」


セリフィンは興奮が冷めない顔で軽く私から離れて、大きい手でほっぺを軽くペチペチ叩く。


「あんなに子供だったのにこんなに大きくなりやがってよ、あいつにも見せてやりてぇ…」


今度は泣きそうな顔になって私をまたキュッと抱きしめた。


するとカッカッとヒールの音が響いてくる。


セリフィンさんから視線を奥に向けると、白衣を着た女性…セリフィンさんの奥さんであるセンプさんが真っすぐ歩いてくる。

セリフィンさんの影から顔を覗かせる私を見たセンプさんは目を見開くと、足早になって駆けよってきた。


センプさんは何も言わない。でも震える手をそっと差し出して、潤んでいる目を拭いながらセリフィンさんごと私を横から抱きしめた。


「センプさん…」


無事な二人の姿を見て心からホッとした。

それに二人の嬉しそうな様子、抱きしめられる行動…私を喜んで迎え入れてくれる人はエルボ国にちゃんといるじゃない、そんな気持ちも込み上げて余計に胸がジーンとする。


「いいから入れ入れ!」


セリフィンさんが私の肩に手を回して大学内に入れようとするけど、三人が門の外に置き去りになってしまっているわ。

私は待って、とセリフィンさんを一旦止めて三人に顔を向ける。


「あの三人は仲間なの。皆も大学に入って大丈夫よね?」


その言葉にセリフィンさんは初めてそこにサード、アレン、ガウリスが居るのに気づいたのか振り向いた。すると途端に胡散(うさん)臭そうなものを見る目つきで腰に手を当てる。


「んだぁ?随分と胡散臭そうな連中じゃねえの」


ジロジロと一人ずつ顔を睨みつけるように視線を動かして、


「てめえら、俺んところの可愛子ちゃんの何だ?脅して無理やり連れ歩いてんじゃねえのか?ああ?」


と腕を組んで喧嘩腰の口調でガンをつけている…。


慌ててセリフィンさんの白衣を掴んで首を横にブンブンと大きく振る。確かに変装した後の皆はすごく胡散臭いけど…。


「本当に仲間なの。この四年間ずっと仲間になって旅をしてきた仲間よ」


「騙されてんじゃねえの?」


セリフィンさんはなおも信用できない目つきで私を後ろに隠しながらサードたちを睨みつけている。

するとセンプさんが表情を変えないで、セリフィンさんの白衣を引っ張る。


「あなた。失礼よ」


そう言われるとセリフィンは口をつぐむと、サードたちを見た。


「本当に仲間だって。ちゃんと冒険者の仲間申請もして今までずっと旅してきたんだって」


アレンの言葉にセリフィンさんはまだ疑いの目つきでしげしげと見ている。

そんな様子を見てサードはふふふ、と笑いだした。笑うサードにセリフィンさんが視線を向ける。


「何がおかしいってんだ」


「いいえ、この子から話を聞いている限り、この子の父親は人があまりにも良さそうで…」


…兵士のおじさんがいる手前、フロウディアともエリーとも呼べないから「この子」呼びにしているのね。


サードはおかしそうにセリフィンさんを見上げる。


「そんな人のいい方と仲の良いあなたもよほどの人がいいのだろうと思っていたのです、しかしただのお人よしではなく疑り深い人物のようで安心しました」


眉をピクッと動かしながらセリフィンさんは目つきを鋭くしてサードを見下ろす。


「喧嘩売ってんのかい?坊主」


「いいえ、疑り深いのは慎重ということです。同情の心だけのただのお人よしではなくて良かったと思っただけで。この子とこの子の家族の今後について話し合いたいのですが、お時間を割いていただいてよろしいですか?」


セリフィンさんは私と私の家族の今後、と言われると少し目つきを緩めて、


「…ついてこい」


と皆を中に招き入れた。

激しく抱きしめるわエリーのほっぺにチューするわのセリフィン


大学の門の警備兵のおじさん

「(ええ…!?ちょ、元教え子に何してんのこの人…。あああ、奥さん来た、奥さん来た……あれ、案外と受け入れ態勢?何?どんな関係…!?まさか生徒と誤魔化してるけど二人の隠し子とか…)」(ソワソワ)

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