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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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相談しましょ、そうしましょ

まるで何かのお祭りかと思うほどの賑やかな音色に歌声に踊り。


それを見ていると小人…もしかしたら妖精か精霊なのかもしれないけど、とにかく小人たちの歌声と踊りに合わせるように上空にカラフルな魔法陣が浮かび上がる。そのまま魔法陣が完成すると、そのまま上に向かってポーンッと勢いよく飛んでいった。


見ている限りその魔法陣はいくつもいくつも上に飛んで行っては空中にスウッと消えていく。


もしかしてこれがさっきの皆が幻覚をみた原因かしら。それも魔法陣ということは、やっぱり魔法だったんだわ。

そう思っているうちに混乱の中にいたザ・パーティの四人とアレンは次第に我に返ってきたようで、辺りをキョロキョロと見渡してている。


ガウリスはもう大丈夫そうと思ったのか皆を地面におろした。


「え、バジリスクは?」

「ここどこ?」

「お化け消えた…」


皆まだ混乱しているみたいだけど、それでも少しずつ落ち着いていく。


「…もしかしてガウリス皆抱えて走ってた?」


アレン尊敬の目でガウリスを見ている。


「誰もおいて行けませんから」

「なにそれカッコ良すぎだろ、好き」


アレンはガウリスの体をバシバシ叩いていている。


しかも六人も抱えて走っていたのよ、普通できないわよ。ガウリスの力が強いからなのか、火事場の馬鹿力だったのか分からないけど…単純な力だけでもガウリスは強いわよね…。


すると小人たちの踊りの音が聞こえたのか、マロイドが茂みの奥を見て声をひそめながら目を見開かせる。


「お、おお!これは…!」


興奮気味のマロイドの声にハロッソとミレルもそっちを見て目を輝かせた。


「うわー、ちっちゃい、小人?小人なの?」

「やだ可愛いー」


「あまり大きい声を出さないように」


はしゃぐ二人にサードが注意して、視線を小人へと向ける。


「先ほどあの者たちの魔法により恐ろしい目に遭ったことをお忘れなく」


その一言で二人はさっきまで見ていたものを思い出したのか、素直に口を引き結んで黙った。

けどマディソンは無言で画用紙を開いて鉛筆でガシガシと小人たちの踊って魔法陣を空に飛ばしている様子を絵に描いている。

やっぱりプロなんだわ、ずっと動いているのをこんなに素早く描けるなんて。しかも上手。すごい…。


簡単な線だけで次々と出来上がっていくマディソンの絵を思わず見ていると、サードが私を軽く小突く。

サードに視線を移すとサードは私とガウリスに指を向けて、そのまま踊っている小人たちの方に動かした。


「エリー、ガウリス。あなた方は操られもしませんし魔法の耐性もあります。少々声をかけてきてもらえますか?そして敵意はないことを伝え何故あのようなことをしたのか聞けるようなら聞いてきてください」


するとマロイドが慌てたようにサードに声をかける。


「待ってください、もしあれが妖精だとしたら危ないですよ、妖精のダンスに混じると死ぬまで踊らされるって話もありますよ」


え、そうなの?


ギョッとしてマロイドに視線を動かすけど、サードはさっさと話を続ける。


「大丈夫です。この二人は先ほどの魔法にもかからず操られもしませんでしたので、あの者たちのいいようにはならないでしょう」


…いやだって言いにくくなっちゃったじゃないの。


そのままサードにさっさと行けって視線で促されて、私とガウリスはお互いに視線を合わせてからそろそろと小人たちに歩み寄っていく。


ガサガサと茂みをかきわける音を聞きつけた一人の小人が、私たちを見て叫んだ。


急に現れた私たちに気づいた小人たちは次々に叫び声をあげて草むらの向こうへと隠れていく。

どうやら死ぬまで踊らされることは無さそうだけど、全員に逃げられても困る…!


「待って!」


と思わず声をかけた。

すると一人の小人…背中に淡い色の羽を生やせている女の子が歩みを止めて振り返った。それでも幅の広い草の陰に隠れてオドオドと私たちの様子を窺うように覗いてくる。


葉っぱの影からそっと様子を見ているその姿が可愛くて、思わずキュンとなる。


女の子はしげしげと私とガウリスを見て、少し草の陰から出てきた。


「あなたたち、人間じゃ、ないのね…?」


「えっと…とりあえず、敵意はないから安心して」


マロイドたちとはかなり離れていて私たちの会話は聞こえていないかもしれないけど、人間じゃないって話に簡単に頷けないわ。


すると色々な草の陰や木の陰、木の葉の陰などから小人たちが顔を出しておずおずと出てくる。

…ちっちゃい小人がたくさん…。可愛い…。


よく見てみると色んな姿の小人がいるわ。

背中にトンボや蝶々みたいな羽の生えた子、生えていない子。淡く光っている子、光っていない子。人が小さくなっただけという見た目の子もいれば、肌の色が青、緑、ピンク、紫の子もいるし、ぱっと見ただけだと苔や雑草、小さい木にしか見えない見た目の子もいる。


何となく私たちに敵意は無いって分かってくれたみたいだけど、それでも何でここに、っていう妙な顔だわ。


ガウリスはできる限り威圧しないようにと思ってか、その場にしゃがんで話しかけ始めた。


「私たちは向こうの道を歩いてきた者です。あなた方は小人ですか?それとも妖精?精霊でしょうか?」


小人たちは顔を見合わせて、私には分からない言葉で口々に話し合っているみたい。首を横に振ったり手を動かしたり激しく言い合っているのをみる限り何か揉めているみたいだけど…。


しばらく小人たちの揉めている様子をみていると話がついたのか、薄いピンクの羽のついた女の子がピュン、と前に出てきて私の顔の前で止まった。


「どうやらあんたたちは完全に人間じゃないみたいだから教えてあげる。私たちはこの山に住んでいる妖精と精霊よ。私は花の妖精、ヤーセよ。ヤーセって知ってるでしょ、私はあのヤーセの花の妖精なの」


腕を組んでどこか偉そうで自慢げにヤーセという妖精が自己紹介してくる。

…でもごめんなさい。私、花にはそこまで詳しくないからヤーセの花がどんなものなのか分からないわ…。


「私はエリー・マイよ」

「私はガウリス・ロウデイアヌスです」


ともかく私たちも自己紹介するとヤーセも気を許したのか、偉そうな態度が一気に和らいでニコニコと笑う。


「二人もあの幻惑の術を抜け出してここまで来たんなら、私たちと近い存在なのよね?」


なるほど、さっきのは幻惑の術って名前なのね。それでも離れた所にマロイドたちがいる手前、妖精と精霊に近い存在だって頷けないから曖昧(あいまい)に微笑む。


するとヤーセは機嫌も良さそうに私とガウリスの服をクイクイと引っ張ってきた。


「それなら二人とも私たちと一緒に人間を追いやりましょうよ。二人とも私たちと同じかそれくらいの力は持ってるわけでしょ?」


「追いやる?どうしてです?」


ガウリスが聞くとヤーセは一気に機嫌が悪くなって急に怒り出した。


「私たちはね、人間に対して怒ってるの!」

「怒ってる…?何で?」


聞くとヤーセは怒ったままキッと私を睨んだ。


「エリーとガウリスたちたちが通ってきた、あの道のことでよ!」


すると後ろにいた妖精と精霊たちも私たちに分かる言葉で怒りながらワッと喋り出した。


「前はあっちの道を人が通っていたからこっちは自分たちの住む場所だったんだ!」


「なのに人間がすぐそこに新しく道を作ったから住み処が分断された!」


「人も通るし、人が通るとモンスターもどんどんとこっちにやってくる!」


「もう少し先の野原で満月の晩には皆で一晩中踊っていたのに道が作られたせいで人が通って落ち着いて踊れもしない!」


「迷惑だ!」


口々にあがる声は収まらなくて、ガウリスは少し声を大きくして聞いた。


「だからあのように幻惑の術とやらをかけていたと?」


すると妖精と精霊たちはコロッと機嫌がよくなって、口々にそうだそうだと自慢げに声をあげていく。でもガウリスは少し難しい表情をして口を開いた。


「しかしあのようなことを続けても人はあの道を通ることをやめないでしょう。どうやら旧街道よりこちらの街道の方が交通の便が良いようですので。それよりこのままですとあなた方を退治しようとする人間が現れます。このようなことは今すぐやめるべきです」


実際に私たちは行商人に退治を依頼されているものね。…まあこんな小さくて可愛い妖精と精霊を退治する気持ちなんてさらさらないけど、これから先はどんな人がやってくるか分からないもの。


でもガウリスの説得に妖精と精霊たちは一気に不機嫌そうな顔になった。


「先に自分たちがここにいたのに!」

「人間が勝手に道を作ったんじゃないか!」

「自業自得だ!」


そうだそうだと妖精と精霊たちから団結した声があがる。


「でもね、こんなこと続けていたら冒険者に退治されるかもしれないのよ」


私も説得しようとすると、ヤーセはムゥッと頬を膨らませて怒り出す。


「じゃあ何!?棲み処を潰されて、踊りを踊るところも道で分断されたのに、私たちは黙って泣き寝入りでもしてればいいの!?」


ヤーセの小さい指を鼻に突き付けられながらそう言われると…言葉が次げなくなってしまう。

もしこれが反対の立場で、私が住んでいた家の真ん中を勝手に壊されて道ができて毎日人が行きかい始めたら何よこれ!って同じように絶対怒るもの…。


ガウリスは少し考え込むように黙り込んでいたが、顔を少し上げてその女の子を見る。


「実は私たちは冒険者です」


その言葉に騒いでいた皆が少し静かになってガウリスを見る。


「行きずりの行商人の方々があの道であなた方の幻惑の術にかかり、私たちにその術で見たモンスターを倒すよう依頼してきました。しかし行商人の方たちの見たモンスターは幻でしたので、倒すのは…」


ガウリスの言葉の途中で妖精と精霊たちがザワッとどよめいて、逃げる者もいれば魔法を使おうとしてくる者たちもいる。ガウリスは慌てて続けた。


「お待ちください、私たちはあなたたちを倒すつもりはありませんし、戦いたくもありません!お願いです、話し合いましょう!」


それでもヤーセは完全に頭に血が昇ったのか攻撃的な顔になると、聞き取れない言葉を叫んで手を動かす。と、目の前に人の頭ほどの炎の玉が出来上がってこちらにボンッと飛ばしてきた。


私は自然の無効化の魔法を発動すると、目の前で炎はフッとかき消える。


それを見た妖精と精霊たちはざわめいて、それぞれが聞き取れない言葉で呪文を唱え始めた…!


「待って、敵対したいわけじゃないの!話を聞いて!」


でも次々と呪文は唱え終わってしまって、周りの低木や木、草花がズズズ…と動き出してしなるように動くと私たちを捕まえようと向かってくる。


「ぎゃああ!」


サード達の方から叫び声が聞こえて振り向くと、マディソンが木に足を掴まれて振り回されている。


「人間!?」

「あんな所に人間が!」

「この冒険者たちが連れてきたんだ!」

「殺してしまえ!」


後ろで様子を見ていた妖精と精霊たちも一斉に動き出してグチャグチャと呪文が唱えられる。

あちこちから炎が飛び交って、氷が飛んできて体をかすめていって、強風で服と髪の毛が煽られ、木はズズズと根っこごと動き出して枝は鞭みたいにしなって攻撃してきて、草花も根っこごと動いて体のあちこちに絡みついて動きを止めてくる…!


「やめて!」


あまりにしっちゃかめっちゃかな状況に私は杖を地面につけて、自然を操る魔法と自然の無効化を一気に発動した。


自然を操る魔法でズンッと周りの木々や草花は一気に地面にめり込んで、元々そこに生えていましたとばかりに元に戻った。マディソンは急に動かなくなった木から振り落とされて、マロイドとアレンが慌ててキャッチしている。

それに自然の無効化の魔法で飛び交っていた炎だの氷だの風のの魔法はフッとその場でかき消える。


「嘘!魔法が消された!」

「そんな、こんな広範囲に魔法を…!?」

「魔法が発動しない!」

「木も動かない!」


妖精と精霊たちは魔法を発動しようと呪文を唱えて腕を動かしているけど魔法が使えないみたいで、聞き取れる言語と聞き取れない言語でわちゃわちゃと混乱したように話している。


…もしかして、自然を操る魔法と自然の無効化を同時に使うと、炎とか氷とか風とかの自然の物は魔法が発動されなくなるのかしら。偶然だけど、良いことを知ったわ。


「エリリンすげえ…」


ミレルがそう後ろで呟いているのが耳に入る。まあ、偶然できたんだけどね、これ。


さっきまで怒っていた妖精と精霊たちは恐怖の表情で私たちを見ている。幻惑の術も効かないし、自分たちの魔法が封じられたのだからもう敵わないと思っているんだわ。


私はなるべく怖がらせないように、諭すように声をかける。


「私たちは確かにモンスターを倒すように依頼されたけど、あなたたちはそのモンスターじゃないもの。ガウリスもそう言いたかったのよ、攻撃する気もないんだから話し合いましょう?ね?」


「ウソ…!ウソよ、ウソだわ!人間と冒険する奴の言葉なんて信じられない!殺す気よ、殺す気なんだわ!」


ヤーセは恐怖に顔を引きつらせてオイオイと泣き始めてしまった…。それにつられて他の妖精と精霊たちもここで自分たちは終わりとばかりにメソメソシクシク泣き始めている…。

これじゃあ話し合いなんてできない。


どうしよう、とサードに向かって振り向こうとすると、ガサガサと横の方から音が聞こえてきたからサードじゃなくてそっちに目を向ける。


「え」


私は驚いて目を見開いた。

そこにいたのはさっき食べ物を分け与えた謎の老人、ランディキング…。

Q,ヤーセってどんな花?綺麗なの?


A,直系二ミリ程度の薄ピンクの小花をつける雑草種の多年草。広い地域に分布しているがほとんどの人は足元にあっても気づかない。ただ花弁が綺麗なので植物マニアや箱庭を作る趣味の人からは人気。

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