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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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▼勇者 は 混乱 している !

結局ザ・パーティの人たちとは進む方向も宿泊予定の町も同じだったみたいで、


「それなら町まで一緒に行きましょう!」


とマロイドが息巻いて、断わっても進む道が同じだから一緒に行くことになった。


「それでも我々は依頼者の意向により秘密裏に動いている前提でありますので、どうか我々がここを歩いていたということも内密でお願いいたしますね」


サードの言葉にマロイドは、酷く「ええ…」と納得いかない顔になって、


「せめて編集後記に勇者御一行と会ったってぐらいはいいじゃないですか、このことが載るのだって半年も先のですよ?」


と私たちと会ったくらいは書きたいと訴えてくる。


「依頼者からの我々への信頼を失わせるおつもりですか?」


そう言われてはマロイドも何も言えないのか非常につまらなそうな顔つきになって口をつぐむ。

サードはからかう口調で返していたけれど、きっと心の中ではイライラしていると思う。


それでもマロイドは諦めきれない顔で身を乗り出した。


「ある町で勇者御一行を見かけたからマディソンにあなた方の絵姿を描かせた、この程度の内容ならどうでしょう?そうなれば御一行のお顔も今より世間に広まりますし…」


サードは困ったように微笑んで、


「別にそこまでして有名になりたいわけではありませんので…」


「いやいや!御一行のお顔が知れ渡ればきっと今より旅がしやすくなりますよ!顔が知られていれば宿でもアイテムを買う時でも何かおまけしてもらえるかも!」


サードはマロイドのその言葉を聞くと、悲しげな顔になってふっと目を逸らした。


「私は…そのようなおまけ欲しさで勇者となっているのではありません…」


その言葉にマロイドどころか、ハロッソとマディソンもハッと顔を強ばらる。

サードは下を向いて軽く首を横に振り、心底悲しいという声を出す。


「そうですか…私たちはそのようなおまけ欲しさで勇者をやっていると世間からは思われているのですね…。勇者という肩書に恥じぬよう努めてまいりましたが…世の中そう良いように取られていないようで…」


サードは片手を顔に当て、ウッと声を詰まらせ皆から顔をそむけた。


本当に傷ついて泣いているように見えるけど、もちろん演技だわ。本格的にマロイドの話が鬱陶しくなってきたからさっさと話を終わらせたいのよ。


「ああああ!違う!違う!言葉のあやといいますか!勇者御一行だったらそんな感じでおまけとかしてもらえるんだろうなー羨ましいなーって思っただけで…!

俗物です!私は俗物の塊です!今の言葉は高潔な勇者様の心意気には到底追いつかない俗物でゲスな考えの一個人が勝手に頭の中で作り上げた妄想です!」


マロイドが大慌てで手を動かし、早口でべらべらとまくしたてている。


「いいんです、素直な皆さんの声が聞こえてきた、それだけのこと…」


サードはサードで皆から顔を背けてまだ悲しむふりをしているし…。本当に泣いてないくせによくそんな涙声が出るものよね、本当に役者になれるわ、この男。


「マロマロが勇者様泣かせたー。勇者様かわいそー」


ミレルがそう言いながらサードの隣に寄っていくと、サードの首に腕を回してギュッっと抱き寄せて頭をポンポン叩く。


あ、ああああああ!


ちょっと、サードはハグが苦手なのよ、それにあなたの胸にサードの顔が埋もれてるのよ、今は表向きの顔だけどサードは女好きなのよ、やめて、やめてえええ!そんなことするとあなたの身が危ないわよーーー!


頭の中がパニック状態で、でもどう言ってサードを引き離せばいいのか分からなくて二人の傍で手を妙に動かしながら固まってしまう。


「サード羨ましいなあ!おい!俺も泣けばいい!?泣いたらそうやってギュッとしてもらえんの!?俺も、俺もやってほしい!」


アレン、本音がダダ漏れ。


するとサードがミレルの腕を取って、ゆっくりと顔を上げる。


「慰めてくださってありがとうございます、私は大丈夫ですよ」


あの状況で表の顔を保っていられるのかと思ってサードを見たけど、サードの微笑みはいつも以上に優雅さを増していて、まるでガウリスが宗教の話をするときのような神々しい表情…。


…サードは今、至福の中なのかもしれない。


「つーかサード羨ましいなあ!」


アレンうっさい。


「ちょ…ごめんなさい、この子誰に対しても馴れ馴れしくて…」


ハロッソがミレルを引っ張ってへこへこと頭を下げながら引き離していく。


「いいえ大丈夫ですよ」


サードは表向きの顔で微笑んだまま、なんてことないとばかりに首を軽く横に振った。


「人の心配のできる心優しいお子さんじゃないですか」

「お子さんじゃねえし」


ミレルが突っ込んだ。


…混乱してる?もしかしてサード混乱してる?そうよね、サード相手にここまでグイグイくる女の子なんてそうそう居ないものね。

サードは表向きの時にはどこの貴族?って言われるくらい優雅な微笑みを浮かべているから、ミーハーな女の子たちもどこか貴族を相手にするように接しているもの。


するといそいそとマロイドが私たちの視界に入ってきて深々と頭を下げる。


「軽い言動で皆さんを不快な気持ちにさせてしまい、本当に申し訳ありません…!ついこの機会を逃がしたら二度と会えないと思って…」


「もう気にしていませんよ、それよりこの時間ですから少しペースを上げましょう。目的の町までまだ遠いので日が暮れてしまいます」


サードはそう言いながら歩き出す。


その足取りがいつもより軽いわ、やっぱり喜んでいるのかも。

…でも私が子供のころハグしたらすごく拒否して、ハグも苦手だって言ってるのに、ミレルからのあんなハグはいいんだぁ。ふーん、へー、ほー。


私は斜め前を歩いているミレルの後ろ姿を見る。


やっぱり男の人ってこういう女の子がいいのかしら。

顔が良くて背がスラッと高くて胸も大きくて露出の多い服を着ていてモデルもやってて性格もとっつきやすい感じの子が。


ジッと見ていると視線を感じたのかミレルが振り向いてきて、私の歩調に合わせるように後ろに下がってきた。


「ねえエリリン」

「エリリ…!?」


ミレルは、ん?という顔をしながら、


「エリーだからエリリン。可愛いっしょ。エリリン今何歳?」


そう言えばさっき、マロイドのことはマロマロって呼んでいたわね、いきなりでびっくりした…。


「私は十八歳よ」

「うっそ、タメじゃん。私も十八」


同い年だったのねとミレルを見ていると、ミレルは私の手をとって軽くブンブンと揺らす。


「もうこれダチってことでよくね?」

「…ええと…」


別にそれはいいんだけど…いきなりあだ名をつけたり急に友達と言っていたりと色々といきなりね、この子…。


「絵になるなぁ…いいなあ、本当にうちのモデルに来てほしいなぁエリリンに…」


あなたまでエリリン言わないでよ、マロイド。


「女剣士ミレルと女魔導士エリリンのコンビで売り出したら部数も絶対増えるなぁ…。あーあ、うちの専属モデルになってくれないかなぁー」


チラッとマロイドが見てくるけど、私はスッと視線を逸らした。


「エリーの引き抜きはよしてください、うちの攻撃頭なんですよ」


サードが軽く言いながら歩き続ける。するとミレルがパッと私の顔を見た。


「そういえばエリリンの魔法マジすごいって聞いてるんだけど!見たい、見せて!」


「でも戦いでもないのに魔法を使うのはちょっと…」


制御魔法が使えるようになってはいるけど、私の魔法の攻撃力はあまりに強すぎるもの。

フェニー教会孤児院でも魔法を見せてと子供たちに散々ねだられたけど、もし怪我をさせたら大変だわと思って、


「戦闘の時以外では魔法は使わないことにしているの」


とやんわりと断り続けた。


中には、


「本当は弱いから見せないんだろ」


ってドヤ顔で論破したような顔をする子供もいて、思わずムカッとして雷を一撃中庭の木に落としてやろうかしらと思ったけど、それでも耐えて魔法は一切披露しなかった。私は私を褒めてあげたい。


「いいじゃん、ねえ見たい~」


フェニー教会孤児院の子供たちみたいにミレルは私の肩を掴んで揺らしてくる。


「モンスターが現れたらね」


言い逃れ的にそう言って断ると、ミレルはやる気のあるキリッとした顔になって、道を逸れてガサガサと茂みに入って行く。


「ミレルどこいくの!」


ハロッソが慌ててミレルの肩を掴んで止めた。


「エリリンの魔法見たいからモンスター連れてくる。スライムくらいだったらその辺にいるっしょ」


「やめて!わざわざモンスター引き連れて来なくていいから道に戻って!」


「えーやだー」


ミレルはイヤイヤ、と頭を振っている。


「…ミレルって結構…」

「いやぁ…天然というかおバカなんですよ」


アレンの呟きにマロイドがアハハ…と笑いながら頬をかいている。


「ミレルさん、先ほどサードさんも言っておられましたが、そのように寄り道をしていたら町にたどり着くのが遅くなりますよ。行きましょう」


ガウリスが声をかけて先を促すと、ミレルはプゥ、と頬を膨らます。


「ガウチョ真面目すぎてつまんない」

「ガウチョ…!?」

「ガウリスだからガウチョ。激カワっしょ」


とミレルはガウリスを指さして答える。


「じゃあ俺は?俺は?」


アレンがワクワクとした顔で聞いている。


「アレンはアレンで良くね?」


アレンはションボリしてしまったわ。


「じゃあ勇者様のサードさんのあだ名は?」


マロイドが聞くと、


「勇者様も勇者様で良くね?」


それ名前じゃないけどね、肩書だけどね。


サードは軽く鼻で笑っているけど、私もおかしくて少しふふっと笑ってしまう。


誰とでも馴染める子よね、何だかんだで皆との距離はもうほとんどないもの。


すると向こうからヒィヒィ言いながら大きいバックを背負った行商人のような恰好の人たちが何人か、緩やかな斜面をこちらに向かって駆け上がってくる。


先頭の人は道を歩いている私たちをチラと見て通り過ぎて、次の人も次の人も通り過ぎていく。でも何人目かの人が通り過ぎようとするとき、一人が急に立ち止まって引き戻ってきて、私たちの前に回り込んできた。


「あ!勇者御一行ですか!?」


サードが返事をする前にその行商人らしき男はゼエゼエ言いながらその場に膝をつくと、


「あっちに邪悪なモンスターがいるんです!退治してください!」


と言いながらサードの足にすがりついた。

「あーあ、うちの専属モデルになってくれないかなぁー」(チラッ)の元ネタ↓


朝ドラ「とと姉ちゃん」に出てきた、とと姉ちゃんのいとこの清さん。


「あーあ、困ったなぁ」という言葉で人を引き留め、「こんなふうに期待されちゃってさぁ、困っちゃうよなぁ」(チラッ)と人を見ては「す、すごいですね~…」と褒めることをそこはかとなく強要してくるウゼエwとなる人。


それを応用し、

「あーあ、困ったなぁ~。誰かあれ取ってきてくれないかなぁ~チラッ」

「あーあ、今風呂に入るとちょうどいいんだけどなぁ~チラッ」

などと家の中でよく使ってる。やられるとウゼエwとなるようだ。

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