ザ・パーティ御一行
今私たちは宿を出て通りやすい大きい道を歩いていて、私は歩きながら王家をどうするか決めたことを伝える。
「なら王家を排除するってことでいいんだな?」
「排除っていうか追いやるね」
「どっちにしろ同じじゃね?それ」
サードの言葉を言い替えたけど、アレンが軽く突っ込んできた。
そう、私は決めた。
王家は追いやる。
最初は両親たちを救い出したらそれでいいかなって思ったのよね。
でもまたあの王家たちが考えなしの行動を取って戦争が起きることもあるかもしれない。そう考えたら両親たちだけ無事に救い出せればいいってのもどうかしらと思えてきたから。
あとそうやって両親たちを無事に救い出せたとしたら、そのあと私はどうするか?
この考えも私は決めた。でもすごく悩んだ。
両親と昔みたいに暮らせたら?
そう思って昔の幸せだった毎日の記憶を思い出しながら、助け出した皆とテーブルを囲んで食事している風景を思い浮かべた。
考えただけで幸せで、やっぱり両親たちと一緒に居たいと思った。
でもすぐにフッと浮かんでくるのは、サード、アレン、ガウリスとテーブルを囲んでいないっていう寂しさ。
家族と一緒なのは嬉しい、幸せ。でもそんな幸せの中でも私は冒険の日々を思い出して、皆は今どうしているのかしらと昔を懐かしんで寂しさにかられている。
想像の中の私は、幸せの中でもどことなく沈みこんで見える…。
それに私も成人したんだから、貴族として結婚するんだと思う。
だけど私が誰かのお嫁さんという立場に収まって母親となる姿が想像つかない。
私が結婚したとしたらその生活ってどんなものかしらとあれこれ考えたけど、
「へー、こんな怒りっぽい女をもらう奇特な奴がいたのか」
「結婚おめでとー!エリー!」
「家族共に神から祝福を頂けるよう、祈りますね」
とサード、アレン、ガウリスに言われているのがパッと浮かんで、そう言われてるのを想像したら三人の中に私はもう居ないんだわという悲しさがせりあがってきて…。
まあ、全部ただの想像だけど。
それでも皆と別れたとしたら私は家族と一緒で毎日平和で幸せでも、冒険生活に未練たらたらで沈んだ気持ちで毎日を過ごすことになりそう、って思えた。
「だから両親たちを救い出したあとも旅を続けることにしたわ」
皆に宣言すると、アレンは少し微妙な顔で私の顔を見る。
「それは今決めなくていいんじゃね?」
アレンの言葉にムッとして睨み返した。
「何?私が一緒に旅を続けるってなれば迷惑だとでもいいたいの?」
「そんなことない!もちろん嬉しいよ、けど…」
アレンが首を横に大きく振ってから少し間をおいて気遣うかのように、
「…今は冒険中だから冒険を続けたいって思うかもしんないけど、家族の顔見たら考えが変わるかもしんないぜ?もしそういう考えにエリーがなったとしても、エリーの性格だと先に俺らと冒険するって約束したからって泣く泣く家族と離れちゃいそうだし…」
「…」
そう言われると、決めたと宣言した気持ちがまた揺れる。
無言でいるとアレンは慌てて、
「や、とりあえずエリーが決めて気が変わらねぇってなら別にいいんだよ。俺だってエリーと離れるの寂しいし旅を続けられるってならそっちの方が嬉しいしさ」
と、私の頭をポンポン撫でる。
「エリーの髪の毛触んなゴルァア!」
サードが即座に怒鳴った。
すると少し離れた所から、ウヒャッ、という驚いた声が聞こえて、サードは口をつぐんで瞬間的に表向きの顔になって後ろを振り向く。
すると森の方からガサガサと人が歩いてこっちの大きい道に歩いてくる。
一人は先頭を歩いている体格のいい中年男性、人の目を引く美貌の背の高い若い女の子がその後ろに、その子よりもっと後ろを必死に進む少し年上の女の人と、気弱そうなひょろひょろとした男性が続いている…。
中年男性は道を見つけて喜びながら指さして、
「ほらな!ここをショートカットすれば近道だったろ!これが元冒険者の勘だ!」
と後ろにいる皆を振り向いて、後ろの若い女の子は、
「マジすげえ、天才っしょ」
と褒めている。その少し年上の女の人は遠くから、
「でもこんな道もうやめてくださいよ!…ヒィッ虫!」
と服を手で払っていて、
「それより今の怒鳴り声…喧嘩?嫌ですよ僕、そんなのに巻き込まれたくないですよ」
と情けなく言いながら進むのを渋っている。
道に出てこようとしている中年男性は私たちに目を向けると、目を大きく見開いて茂みを突き破ってダッシュすると、目の前で立ち止まった。
「まさか!勇者御一行様方では!?」
「はい、世間的にはそう呼ばれております」
その言葉に後ろの若い女の子も目を見開いた。
「えー!マジ!?マジで勇者御一行!?」
そう言いながら若い女の子が茂みを軽々と飛び越えてダッシュで駆けよってきて、その女の子を見たアレンが、
「えっ!?」
と驚いた声を上げる。
アレンの声と顔からは親しみの色が見えるから、もしかして知り合い?と思っていると、
「もしかして君、ザ・パーティの読者モデルのミレル・ファーレーナ!?」
と若い女の子に聞いている。
ザ・パーティって、アレンが定期購読している冒険者向けの雑誌…。え?この女の子がアレンが好きな読者モデル?
「うんそう。つーか勇者御一行に顔覚えてもらってるなんてマジ嬉しいんですけど」
「うわああ!俺ファンなんだよー!握手して握手!」
「マジで?勇者御一行が?ありえねー。つかマジ感謝だし!」
それまでおすまし顔の人形みたいな顔だったミレルはとても笑顔になって、アレンと握手してワーキャー騒ぎながらジャンプを繰り返している。
すました顔の時には少し近寄りがたい美貌だったのに、笑顔になると一気に親しみがでてきて、この笑顔を見た全員がこの子を好きになってしまうんじゃないのってくらい、場の雰囲気がスパァンッと明るくなってしまった。
これが…読者モデルのオーラ…!
高い身長とスラッと長い手足、ミルクティーみたいなウェーブした長い髪、胸の谷間に腕や足、お腹などの露出は多めだけど、服装は冒険者の女剣士みたいだわ。腰にも細身の剣がぶら下がっているし…。
でもモデルって立場の人が傷を受けやすい接近戦の剣士なんて本当にやっているのかしら。冒険者向けの雑誌だからこういう服を着ているだけなのかも?
そうしているうちに後ろから年上の女の人とひょろひょろの男の人はヒィヒィ言いながら茂みに阻まれつつ道に出てきて、よろよろと近づいて合流した。
「あ、ちなみに私こういうものです」
日に焼けた肌に黒いワカメを乗せたような髪型の中年の男性がガッチリした手に持っているザ・パーティを広げて、最後のページをめくる。
皆でそのページに頭を寄せて、私は呟いた。
「編集長、マロイド・ベータ…」
最後のページには中年男性の似顔絵が書かれていて、横に名前が書かれてあった。へえ、この人ザ・パーティの編集長だったの。
マロイドは後ろにいる人たちを指さして、
「後ろにいる女性はミレルのマネージャー、ハロッソ・ナイズ。そっちのヒョロい男は絵描きのマディソン・カーター。ミレルは知ってるみたいだから言わない」
「ひでえ」
おすまし顔に戻ったミレルが一言いうけど、マロイドはミレルの言葉を無視してサードに声をかけた。
「あなたが勇者のサードさん…いやぁ、噂には聞いてますがこんなに若々しく品のある優雅な男前だとは思いませんでしたなぁ」
「ご冗談を」
サードは表向きの顔でそつなく返事をする。するとマロイドはいやいや!と頭を横に振った。
「これぞ勇者!これぞ皆が尊敬してやまない勇者!ああ、そんな皆さんにこんな所で会えるなんて!」
と言いながらマロイドはサードから私たちと次々と握手をしていく。
「あなたがエリー・マイさん!こんなに美しい方だとは思わなかった!うちの専属のモデルにしたいくらいですよ!どうですか、女剣士ミレルと女魔導士エリーの組み合わせ、絶対いけますよ!」
「…」
私は首を横に振る。
モデルの職業に興味はないし、ミレルぐらい露出の高い服を着ないといけないならなおさらお断りだわ。
でもマロイドはすぐさまアレンと握手をして、
「あなたがアレン・ダーツという武道家!まさか賢者と名高いあなたがうちのミレルファンだなんて思いもしませんでした!ありがとうございます!これからもうちのザ・パーティをご贔屓に!」
「うん!もちろん!」
アレンは勢いよく頷いて握手する。
「あなたがサンシラ国出身で新たに勇者御一行に加わったというガウリス・ロウデイアヌスという方ですね!噂には聞いておりましたがこんなに強そうな方だったなんて!」
「…!?」
ガウリスは自分の情報が広まっていることに驚いているのか、目を見開いて驚きの表情をしている。
そうなのよ、勇者御一行の噂って知らないうちに随分と広範囲に広まりやすいのよ。
「で、御一行はこれからどこに行く予定なのですか?依頼でもしに行くところですか?」
マロイドの言葉に一瞬、皆が無言になる。
これから私の出身地エルボ国にいって、王家の人たちを今の地位から追いやるところ、だなんてとてもじゃないけど言えないもの。
「そう、依頼の途中です」
微笑むサードが簡単に答えると、マロイドは身を乗り出して興奮気味に口を開いた。
「どんな依頼ですか」
マロイドがさらに聞きにかかってきて、何でどこまでもで聞くのよ、と少し嫌な気分になる。
「すみません、依頼者に内密にと言われておりますのでそこは詳しく言えないのです」
サードの言葉にマロイドは一瞬残念そうな顔になったけど、すぐに表情をパッと元に戻して、
「私たちは勇者御一行特集を組みたいと常々思ってるんです。勇者御一行あてにザ・パーティの表紙モデルをと依頼しているのはご存知ですよね?
ここでこうやって会えたのも何かの縁ですし、勇者御一行は中々つかまりませんし、先にこちらの依頼を優先していただくというわけには…」
「申し訳ありません、今受けている依頼の方が緊急性が高いのです」
「…内密で緊急性が高い…。まさかそれは国関係の仕事では?」
声を潜めてマロイドが伺いを立てるように、それも探るように聞いてくる。
わずかに私もアレンもギクッと固まったけど、サードはハハハ、と笑い飛ばした。
「私たちが一度でも国の仕事を請け負ったことがあるとでも?」
「ですよねぇ~」
マロイドもハハハ、と笑っている。顔を見る限り冗談だったみたいだけど、マロイドは妙に勘が鋭いわ。注意しておかないと少し危険かも…。
「ちなみにあなた方は雑誌のお仕事ですか?」
サードが話題を変えて聞き返すとマロイドも、ええ!と頷く。
「今回は次の次の特集に向けて動いてましてね。まあ内容はネタバレになってしまうので言えないんですが、可愛いミレルがたくさん可愛いことしてますので、ぜひ!購読お願いいたします!」
「買うー」
アレンは嬉しそうな顔で拳をブンブン振っている。そんなアレンがおかしくて少し顔を背けて笑っていると、視線を感じて目を上げると、ミレルが私ジッと見ていた。
大きいバチッとした目と私の目が合って思わず驚く。
「えー、てか、エリーさん?マジ可愛い。あり得なくね?」
ミレルはそう言いながら私に近づいてきてジロジロと顔を覗き込まれる。
「化粧品何使ってる?」
「別に、何も…」
髪の毛の保湿ならサードが色々やってるけど、化粧品類は特に何もしていない。特にいらないし。
「え、マジで?」
ミレルは私の頬を両手で包み込んで、ムニムニともむように触っている。
「うっわ!本当だ!すっぴんだ!え、じゃあなに?日焼け止め程度しか塗ってなくてこれ?」
「日焼け止めも塗ってない…」
「うえええ!?うっそ、それで外歩き回ってんのにこんなに肌白いの!?うっそマジで!?そばかすもなんもねえのに何もやってないの!?じゃあ化粧水は?乳液は!?」
どんどんと顔が近づいてきて、このまま唇が触れあいそう…っていうかもう鼻の先がお互いくっついている。
「あの…」
これ以上は、と顔を背けて肩を押し返すと、ミレルはふっと我に返ったのか少し離れる。
「何今の反応、ムラッとするんですけど」
「こらミレル!」
後ろの女の人…ミレルのマネージャーハロッソがミレルを掴んでエリーから力任せに引き離すと申し訳なさそうな顔で、
「ごめんなさいね、この子ちょっと馴れ馴れしくて…」
と、へこへこと謝った。
むかぁーし、ある目的である場所に行ったら、遠い所から来たのが目を引いたのか記者に数分ばかしインタビューされたことがあります。
人生初の記者の印象は、聞きたい話が終わるまでとことん聞くという圧が強い。
ネットニュースにそれが載ってました。そして当時の私の職場でパートに与えられていたお固いネーミングのせいでパートなのに正社員と勘違いされたらしく、私の肩書が正社員にランクアップしてました。笑いました。
家に帰りそのことをいうと、母に言われました。
「仕事してて良かったね、そこで名前の後ろが(無職)にならなくて」




