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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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やりたきゃやればいい

「あと三週間くらいでエルボ国にたどり着きそうだよ」


歩きながらアレンがそう告げるから、何となく体が強ばる。妙な緊張感で杖をモジモジともてあそびながら地面に視線を落とす。


「念願の故郷に帰れんのにあんまり嬉しそうじゃねえな」


サードの言葉に私は首をゆっくり横に動かした。


「嬉しくないとかそんなんじゃなくて…」


何というか、色んな気持ちがグチャグチャと入り混じっていてその説明が上手くできないのよね。


サードの言う通り、故郷に戻りたいって念願がかなうんだからすごく嬉しい。でもそれ以上にお父様にお母様、使用人は大丈夫かしらとすごく心配で心が落ち着かない。けどここまで戻って来れたとホッとしていて、ホッとしながらも今より早くエルボ国に行きたいと焦っている。


だけどこれ以上エルボ国に近づきたくない気持ちがそんな全ての感情の一番下に根付いている。


だって、私は家族と使用人を助け出したあと、どうするの?


十四歳まで私は何の不足もなく下級貴族として両親と共に暮らしていた。それから色んなことが重なって半ば強制的に冒険者としてサードたちと旅をしてきたけど、自分で旅に出ると決めたわけじゃない。


サードは元々別の世界の人で、今の勇者としての生活に満足している。

アレンも旅をするのが性に合っていいて、実家に帰っても旅に戻ると普通に言い張っていた。

ガウリスは神殿から除名処分にされたというのもあるけれど、それでも国に残ることより旅に出ることを選んだ。


だったら国の事情で強制的に冒険者になった私は、家族たち助け出したところでサード、アレン、ガウリスたちとお別れ…。


そうを考えるとこれ以上進みたくない、もっと皆と一緒に旅がしたい、別れたくないって寂しくなって素直に喜べない。

じゃあ両親たちを置いて三人で旅を、と思うと、今度は両親たちと一緒にいたいって考えでいっぱいになる。


最近はこんな悩みのスパイラルにグルグルとはまってしまって、うつむいて地面を見たままため息をついた。


「…お前の国のことだけどよ」


サードが急に口を開くからすぐに顔を上げる。


「どうしたい?」


いきなりそう言われて頭には「?」が浮かび上がる。


「どうしたいって…なにが?」


サードは少し歩くスピードを緩めると、振り返って私の顔を真っすぐに見てくる。


「お前の国の王家の奴らはクソだ。だろ?」


それは否定しない。大きく頷く。


「しかもお前の爺さんの代からクソだ」


そう、戦争で活躍したお爺様も国から追い出されそうになったと、また大きく頷く。


「潰すか?」

「…は?」


「王の座についてる奴らを引きずり下ろすか?それとも国もろとも潰すか?やるってなら俺は全力で力を貸すぜ」


ニヤニヤと笑っているならまだ半分冗談で言っていると呆れて言い返せる。でも今のサードの顔は真面目そのもの。

この顔は本気だわ、私の返答によってはこの男、本気で国一つを潰すつもりだわ。


思わず言い返せなくて少し変な間が空いたけど、私は言い返す。


「あなたって…ガウリスの国では戦争が起きようが関係ないって言ってたし、アレンの国でも戦争が引き起こされても関係ないって言ってたし、ついには私の国を潰すってハッキリ言ったわね?どれだけ国を潰したがってるのよ」


嫌味を込めて言うとサードは少し真顔になって、


「俺、国嫌い」


とそっぽ向いた。


「…」

何、その野菜嫌いの子供みたいな言動。ダメ、ダメよ、キュンとしちゃだめなんだからサード相手に…!


…クッ、抑えたいのに胸キュンポイントにはまってしまったわ…!悔しい…!こんな国一つを潰す発言した男相手に胸キュンしてしまうだなんて…!


「じゃあお前はそのクソが国を治め続けてもいいってのか?どこかで悪い流れぶった切っとかねえとそのままてめえの生まれ故郷の国はずっとクソのままだぞ」


「だからって…」


口淀んでまた地面に視線を落として、しばらくしてから顔を上げた。


「そりゃあ、正直に言えばエルボ国王家は嫌いよ。お爺様が先の戦争で活躍しても追い出そうとしたし、それまで無視してたのに私の髪の毛のことが分かったら急激に手に入れようとしてきた。

それもまるでこっちがそれに従うのが普通みたいなやり方は今でも腹が立つし、両親や使用人を軟禁してることについても許せない、痛めつけて後悔させてやりたい」


でも…、と続ける。


「王家は嫌いだけど、国自体はとても平和で過ごしやすかったわ。国を潰すってそんな皆も犠牲になるかもしれないんでしょう?皆のんびりしていて朗らかでいい人たちだったのよ」


「近所の奴らに髪の毛狙われて寄ってたかって引き抜かれていたのに?」


サードの言葉にそれまで優しくしていた近所の人たちが怖い顔で追ってきて、私の髪をグイグイと力任せに引っ張ってきた時の記憶がバッと出てきた。

ゾッと鳥肌がたったけど、その記憶は無理やり頭の隅に押し込んで続ける。


「それまでは皆優しくしてくれてたし、お菓子も作ってくれてたし…」


「現実を見ろ。それまで優しくされようが、目の前に金塊があると分かったら目の色変える奴らだったんだろ。結局は王家と同じクソじゃねえか」


その言葉に心をえぐられた。


そりゃあ私だって思っていたわよ、でも、でも…エルボ国で過ごしたあの十四年間、戦争が起きる前の記憶だけは平和で綺麗な記憶のままでとっておきたかったのよ。いつ戻れるか分からないし二度と戻れないかもしれないんだから、エルボ国で過ごした日々は綺麗な記憶のままで、金ごときで皆の対応が変わっただなんて、思いたくもなかった…。


思わず涙があふれてきた。


「おいサード…」


アレンが強めに言葉でたしなめているけど、サードは私を泣かせたことに何の罪悪感もない顔つきで指先で目を拭う私を見た。


「俺の生まれた国も金に対しては目の色を変えるクソだったんだぜ。サドは金山が見つかる前は罪を犯した罪人が流される寒い島だった。それが金が出るとなりゃあ国の連中は目の色変えて自分の物にしやがったぜ。それで国の宝とか言うんだからとんだお笑い草だよな。

その宝のために何人の人間が鉱山で亡くなったんだか。それで働き手が居ねえとなりゃあ本土で厄介者扱いされてる人間が送られてきて、十年もたたねえうちに死んでいく。…国ってのは何考えてんだかなぁ。宝のためなら人間が何人死ぬはめになろうが関係ねえとくらあ」


人に語りかけているような、独り言のような口調でサードは言い、


「それでもお前は国を滅ぼしたくねえのか?」


と確認みたいに聞いてくる。


私は唇を引き結び、涙がこぼれ落ちないよう目に力を入れて顔を上げる。


「当たり前じゃない。私が嫌いなのはあくまでも王家で、国自体じゃない。人の生まれ故郷をそうやって簡単に潰すって言わないで。エルボ国は私の国なのよ」


生まれ故郷がもう無いも同然のあなたには分からないでしょうけど、という言葉も口から出かかって、でもこれは言ってはいけないと思って口をつぐんで、ただサードを真っすぐ見る。


サードはしばらく私を見返していたけど、ふん、と言って口を開いた。


「それなら王家の座についてる奴らを引きずりおろすのは?賛成か?」


「…どうやって引きずりおろすの」


聞き返すとサードは私の質問には答えないで改めて聞いてくる。


「聞き返すってことは、お前は王家をその地位から引きずりおろす事に反対じゃねえんだな?」


エルボ国王家は嫌い。


でもいざその地位から追いやるって話を…しかも実際にやりかねない男を目の前にすると口が開かなくなる。

もしあの考えなしの王家を今の地位から追いやったらどうなるの?その後は誰が就くの?王家の周りの大臣?そうなったら今とは違ういい政治がとれるの…?


「…まだ時間はあります、ここで無理に結論を出させることもないと思います」


今まで静かに黙っていたガウリスがそっとサードに提案すると、サードは少し面倒そうに目を細めた。


「二週間以内で決めろ。俺は国の関係者を引きずりおろす方向で情報集めるからな」


* * *


サードに色々と言われてから鬱鬱とする。

ただでさえエルボ国で両親たちを助け出した後どうするかで悩み続けているのに…。そもそも助け出せるかも分からないけど…。


「二人が私の立場だったら、どうしたい?」


アレンとガウリスと聞いてみた。


アレンは、


「俺は家族も巻き込んで戦争起こす程度の王家だったら別にどうなろうが気にならないからサードの考えに乗ると思う」


とあっさり言ったけど、


「でも俺は平民だし、国に巻き込まれるなんてことはまずないから貴族のエリーとは考えが違うと思うよ。国なんて遠い存在だしそんな遠い上層部がどうなろうが関係ないやって感じだし」


と付け足した。


ガウリスは、


「私はご両親らが無事に助け出せたのなら、それ以上危害は与える必要はないと思います。しかしそうですね…悪政を働く者が残るのならまたエリーさんのような被害者が現れるかもしれないのですね…」


と少し悩んで、


「可能であればやはりサードさんの言うように今の王家を追いやり、有能な者を上に据えるのが一番だと思いますが…これは理想論で実際には難しいでしょうね」


ガウリスはそう言うと私を真っすぐに見て言った。


「それでも私たちの言葉はアドバイス程度に留めてエリーさんがこうした方がいいと思う方法を選ぶのが一番ですよ。実際に戦争に巻き込まれ、惨状を見て体験したエリーさんが考え抜いてやると決めたことなら、私たちはとことん手を貸しましょう」


ガウリスのその言葉は心強くて、でもそれから数日悩んでもまだ結論は出ない。


今のところ選択肢は、王家はそのままでとにかく両親たちだけを救いだして他国に逃げるのと、王家を追いやるの二通り。


前の考えが一番平和的だと思う。でもそれだとあの考えなしの王家たちがずっとエルボ国を支配して、ガウリスの言う通り私みたいな被害者がまた出るかもしれない。

だからって王家を追いやったら?あんな王家を追いやってもその後にいい人が収まるかも分からない。もっと酷くなったりすることもあるかも…。


それと同時に両親たちを救い出した後は勇者御一行をやめて両親たちと暮らすのか、それとも旅を続けるのかの二通りでも私は悩み続けている。


その四つの選択肢がグルグルとまとまりなくずっと頭の中を駆け巡っていてここ最近ずっと気分が沈んでいる。

夜もろくに眠れず延々と考え込んでいるせいで最近寝不足気味。


「お前…なんでこんなに髪の毛の質が悪くなってんだ…夜中寝てんのかよ」


そして私の髪の毛の管理をしているサードは髪の毛をとかすために触れた瞬間から私の体調の悪さを察している。


「だって…色々と考えてたら眠れなくて」


ホテルの鏡でまじまじと自分の顔を見てみるけど、明らかに目の下にクマができていて酷い顔になっているわ。


「何をそんなに悩む必要があるんだ?俺だったらそんな頭悪い王家を追いやるかって言われたら二つ返事でおう、って答えるぜ」


「それだけじゃなくて…」


両親を助け出したあと私はどうするか…。その考えは言いづらくて、考えたくないから口をつぐむ。


「親たちを助け出した後のお前の身の振り方のことででも悩んでんのか?」


「…」

嫌な奴。頭が回りすぎてこっちの考えを先回りして読むんだから。


それでもいずれは話し合わないといけないことだもの、と私はポツポツと続けた。


「お父様にお母様、使用人を助け出せたら前と同じように暮らしたい。…でもサードたちと旅ができなくなるのも嫌なの…」


「ふーん」


…それだけ?私、かなり勇気を出して自分の胸の内を言ったんだけど?


ムッとしていると、サードはとんでもないことを言ってきた。


「俺は少なからずお前はいずれ冒険者はやめるだろうって思ってた」


「…は?」


体をねじって少し苦しい姿勢で振り向きながらサードの顔を見上げる。


「お前がアレンが好きで告白するって報告しにきた時から思ってた。アレンはクソ鈍いが、きっとエリーといい仲になったら実家に帰るか、いい場所でも見つけて二人で暮らすだろうと思ってた。そん時がエリーとアレンと別れの時だろうって思った」


そんなこと考えてたの…。


少し驚いたけど、ほんの少し悲しさを感じる。


「…私たちと一緒に旅をしていたのに、離れる時のことを考えてたの?」


サードは私の顔を見下ろす。


「お前は結婚を見据えたうえで男が好きになるタイプだろ?身持ち固えし、火遊びもしねえし、結婚した後も冒険したがるような性格でもなさそうだし。

だったらお前にいい相手ができたらその場でお別れだと思うじゃねえか。ま、俺の想像とは違ってアレンとはそんな仲にならなかったがな」


サードは私の肩を掴んで正面を向かせると、髪の毛の保湿を続ける。


「アレンは…お兄さんみたいに思えてきて…」


「弟の間違いじゃねえの?最近のお前ら見てるとしっかり者の姉とどっか抜けてる弟に見えてくるぜ」


笑いを含んだ言い方に鏡越しにサードを見ると、楽しそうに笑っている。その顔を見ているとまた心がまた沈む。


「…サードも最近になってようやくそうやって笑ってくれるようになったんだもの。離れるのが寂しいじゃない」


「…」


サードから返事がなく、手の動きも止まった。鏡越しにサードの顔を見ようとすると、頭を押さえつけられてそのまま下にグイグイと押しつけられる。


「ちょ、なに!」


「毛先に保湿液つけづらいからそのままでいろ」


「嘘!いままでこんな事したことないじゃない!」


「いいから黙ってろ!こんなことされたくねえんだったら夜に考えごとしてねえで寝ろ!」


そこまで私の髪の毛の状態は悪いの…?そりゃあ確かに毛先がいつもより跳ねてるとは思っていたけど…。


とりあえず下を向いたままジッとしていると、後ろからサードのため息が長々と聞こえる。


「…サードは、皆と別れるのが寂しくないの?」


「人間いつ離れ離れになるかも分かんねえんだ。ずっと一緒で変わらないなんてもんはねえ。生きてりゃ嫌でも死に別れる時はくるだろ。それなら死別でも喧嘩別れでもなく円満に別れられるってんならそれでいいじゃねえか」


「…」

それは…そうかもしれない。頭ではサードの言っていることは理解できるけど、私はサードみたいに簡単に割り切ることなんてできない。


黙り込んでいるとそんな私の考えを察したのか、


「じゃあお前は『行かないでくれ、一緒にいてくれ』って俺らが引き止めたら両親どもを振り切ってまで旅を続ける気はあんのか?」


からかう調子でサードが後ろから声をかけてきて、ため息をつく。


「そうやって人をまた悩ませようとする…」


「人生一度きりなんだぜ」


ぼやいているとサードの言葉がスッと耳の中と心の内によく入ってきて、口をつぐんだ。


「フロウディアって人生は一度きりだ。それなら自分の思った通りに生きればいい。簡単なことだろ」


フロウディア?誰?……あ、私の本当の名前じゃない。


自分の本当の名前を忘れかけていたのに気づいて、思わず笑ってしまう。


「なに笑ってんだよ」


サードの言葉に私はまだ笑いをにじませながら、


「ううん、自分の本当の名前…フロウディアよりエリーのほうがしっくりするんだわって思って。一瞬フロウディアって誰?って思っちゃった」


おかしかったのか後ろからもサードの笑う声が聞こえた。


「名前ってのはな、(のろ)いだ」


笑いが引っ込む。サードは続ける。


「名前ってのは、名付けた者が名付けられた者を良いように動かせる呪いだ。つまりエリーって名前は俺がつけたから、お前はもう俺の使い勝手のいい駒も同然なんだな」


「…何それ意味わかんない」

「エリー、顔上げろ」


顔を上げる。するとニヤニヤと笑っているサードと鏡越しに目が合った。


「ほらな、良いように動かされただろうが?」

「っはぁ!?」


ドス声を出しながら振り向く。


「顔上げろっていうから上げただけでしょ!?なに、私に呪いかけたみたいなそれっぽいこと言って!」


サードはゲラゲラと笑いながら私の髪の毛用の諸々を袋にしまうと、


「ま、やりたきゃやればいいし、やりたくなけりゃやらなければいいって話だ」


と言いながら部屋から出て行った。


「…もうっ」


心にしみわたるような真面目な話をしてるかと思えばあんな人を怒らせるようなことを言うんだから。


プリプリしながら鏡を見る。相変わらず酷い顔。


だけど、まだ心の中にサードの言葉が残ってる。


フロウディアとしての人生は一度きり、それなら自分の思った通りに生きればいい。


サードは人を傷つけ怒らせる言葉をよく使うけど、たまにハッとしてしまうほど真理を突くようなことを言う時がある。


やりたきゃやればいいし、やりたくなけりゃやらなければいい。

それはサードの性格を全部表してる。でもサードもサードとしての人生は一度きりだから思った通りに生きているんだわ。それが私が眉をひそめるようなことだとしても、やりたいからやる。


「俺は素直なんだ、俺は正直なんだ、俺はやりたきゃやるしやりたくねえならやらねえ」


今までなんて生意気な言葉、と密かに思っていたサードの言葉たちの意味がようやく理解できた気がする。


鏡を見たまま、サードの言葉を心の中で繰り返す。


フロウディアとしての人生は一度きり、それなら自分の思った通りに生きればいい。


そうだわ。あれこれ眠れないくらい悩んだって、結局はやるかやらないかのシンプルなことなんだわ。

私は私のやりたいことを選ぶ、それだけなのよ。


だからってまだ考えはまとまらない。でも何となく鏡に向かって両手で握りこぶしを作ってガッツポーズをしてみた。


酷い顔が少し明るくなった。

Q,名前をつけるのは呪いなの?


A,一種の呪いです。その存在の名前を知らなくても間違えていても相手をうまく扱えないので本当の名前を知る、そして新たに名付けるというのは大事なことです。

エリーに対して「アレン、ちょっとこっち来て」と言ってもエリーもアレンも動かないほどの呪いです。不便です。

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