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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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閑話休題~一方そのころ魔界では~(グラン目線)

「今更なに?グラン」


ローディ姫がムスッとした顔であっちの方向を向いておられる。


俺は無言で姫の後ろに立って何とも言えない顔で膝をつき、頭を垂れる。


「ようやく言いつけられていたことの全てが終わりましたので…。一応、報告まで」


「なぁに?仕事が終わったから私と遊んでほしいの?」


姫がチラ、と振り向く。遊んであげなくもないのよ、という顔つきだ。


正直こんなに幼い女の子と遊ぶのは年齢的にキツイし何より恥ずかしい。


しかし俺の父ランディと姫の父であり王であるロドディアス王は生まれてこの方ずっと仲が良いので、自然と俺が姫の世話係の立場に収まってしまった。


まあ確かに年齢が一回り離れた妹のようなものだから可愛くないと言ったら嘘になる、だがこの年齢で女の子の遊びに付き合うのは…正直嫌だ。


しかし妹のように思っていても俺は臣下、相手は姫だ。姫の発言は無下にできない。


「そう…ですね、姫の気分がよろしいのでしたらお相手願いたく」


ローディはふふん、と腕を組んで頭を垂れる俺を満足気に見下ろしているようだ。


「しょうがないわねえ?私が居ないと他に遊んでくれる人が居ないんでしょ」


いるわ。

正直姫の遊び相手をするよりならスウィーンダ州王家騎士団の連中とつるんでる方が羽も伸ばせるし気が楽だわ。


だが騎士団の中でも俺は姫の付き人として認識されていて、


「お姫様放っておいていいのか?」


とことあるごとに気を使われ、姫が呼んでいるとなればすぐさま皆で快く見送る。


それくらい姫に気に入られてるなら将来も安泰だなと皮肉を言う奴もいた。

だがこの年齢の男が女児の遊びに延々と付き合うのがどれだけ苦痛か…と怒鳴るよりも先にカッとなってボコボコにのして、その後もそいつを見かける度にぶん殴ってたらいつの間にか騎士団から消えたな、あいつ。


「じゃあ遊んであげる!おままごとしましょ!」


姫ははじける声で手を合わせ、おもちゃが入っている箱に走っていく。


ああ、またおままごとか…。せめて追いかけっこだったら…。


ウンザリした気持ちを隠しながら黙っていると、姫は人形を取り出すと俺に人形を押しつけてくる。


「今日はね、新婚さんごっこしましょ。私が奥さんで、グランが旦那さんよ。おかえりなさい、あなた」


姫はさっそくその場に座って人形を動かしているが…いくら毎日専属の者が丁寧に掃除していて毛足の長い触り心地の良い絨毯だからって、姫が床に直座りなど…。

だが遊びが始まった時にあれこれと現実のことを言うと怒り出すからな…。


それでも旦那役でよかった。たまに女の役を押しつけられることもあるし、何より一番屈辱的で恥ずかしかったのが赤ん坊の役だ。


普通に話していたら、


「赤ん坊がそんなにペラペラ話すわけないでしょ!バブーって言って!私のことも母上じゃなくてママっていうの!さあ!甘えて!バブーママーって言って!」


と強要され…。…今思い出すだけでも軽く死ねる。


その記憶を無理やりおしやり、俺もその場にあぐらをかいて人形の首を掴んで軽く揺らす。


「ただいま戻りました」


「ねえ、ご飯にする?お風呂にする?それとも…わ・た・し?」


「…」


姫はどこからその言葉を覚えた?


「ご飯で」


ともかく無難な選択肢を選んでおく。姫もそれ以上何を言うでもなく、ふんふん言いながら料理を作っている体で人形を動かしている。


すると姫の部屋に足音が近づいてきて、扉がキィと開いた。


「おや、また遊んでくれているのかいグラン」


俺は扉に向かって膝をついて頭を垂れる。声だけでロドディアス王と分かるからだ。


「いいなぁ。パパも仲間に入れて」


百年の謹慎中なので城壁の外にも出られないし、大きな(まつりごと)にも関わり合えないせいかロドディアス王はひどく暇をしておられる。


それでも主である王の前でおままごとを続けるのは凄く恥ずかしいので本心をいえば控えていただきたい。もしくはおままごとをやめたい。そうだ、王が混じるのだからおままごとなどやめてカードゲームでも…。


「姫。それならカード…」

「いいわよ、パパもおままごとしましょ」


俺の言葉を遮り、姫はしょうがないわね、という顔で王を部屋に招き入れた。ウキウキとした顔で王は姫の隣に座る。

ああ…王が床に直座りなど…。しかし王にそのようなこと指摘できない…。


「パパは何役だい?ローディの旦那さんかな?」

「ううん。旦那はグラン。新婚なの。ラブラブよ」


ロドディアス王の瞳孔がギュルッと狭まり俺を貫く。


「…役柄上です」

「そうか…役柄上ね。ならいいんだ」


ならいいと優しく言いつつ…目が怖い。恥ずかしい上に非常にやりづらくなった。


「じゃあパパは私たちの子供ね。可愛いでちゅねー」


姫はそう言いながら小さい人形を渡すと、王はいつも通りの柔和で子煩悩な顔を覗かせ人形を受け取った。

ホッとしていると、姫は俺をキッと見てきた。


「あなたもなでなでするの!」


俺はギョッとして姫を見返す。


俺に王の持っている人形をなでろと!?

いくら遊びの中で人形相手だとはいえ、従の者が主におーよしよし、などと無礼すぎる…!


動揺しているのを見た王は、俺の考えなど承知の上なのか楽しそうに人形を差し出してきて笑いを噛みしめている。


「撫でるか?」

「いやしかし…」


戸惑っていると姫は、


「あなたは私たちの子供が可愛くないの!?」


と責めてきて、


「私は構わんよ」


と、王など肩で笑いながら人形を差し出してきている。


「し、失礼をば…」


申し訳ない、こんな遊びの中で人形とは言え主の頭をなでるような行為を…。


何度か人形の手で王の持っている人形の頭をなでてから遠ざかるが…俺はなんてことをしてしまったんだ、と妙な自己嫌悪に陥る。


もうやめたい…。こんな心が折れるままごとなど…。


するとドスドスと足音が聞こえて、後ろから父ランディがドアをぶち破る勢いで現れた。


「おいグラン、お前に客が来ているぞ」


父上、あなたは救世主か!


喜んですぐさま立ち上がったが、ハッと気づいて膝を折り頭を下げる。


「申し訳ありません。王、姫。急用ができましたので私はこれにて」


と立ち上がる。


「あなた、また仕事が入ったの!?」


姫はおままごとの延長で俺をなじるが、俺は困ったという顔をわずかに浮かべる。


「しかし客を待たせるわけにはいきません、相手によっては後の関係にも差し障りがありますから…」


正直助かった。今この時に来た客、お前を褒めてやる。


「私と仕事、どっちが大事なのよ!もうこうなったら離婚よ!」

「グランと離婚したらパパと結婚するかい?」


「うん、するぅ!」

「ふふふふふふ」


姫は即座に王にガバッと抱きつき、王はそれはデレデレと嬉しそうに受け止め背中をポンポン叩いている。


もうここは大丈夫そうだ。


部屋を出て共に歩く父に聞く。


「ところで客とは誰ですか?」


「魔王の側近の女だったぞ、ほれ、例のスライムの塔の」


ラグナスか。


褒めてやると言った言葉は撤回する。あいつは虫が好かん。

あのやる気のない顔と雰囲気と話し方と顔と体型の全て好かん。元々平民だったくせに貴族の俺を脅しやがって…!

殺す、絶対に殺す、話している途中で隙を見せたら殺す、あのいけ好かん顔を見れたもんじゃないぐらいの開いた肉片にして殺してやる。


…だが落ち着け、ロドディアス王が謹慎している中、魔王様の側近を殺したとあっては王に迷惑がかかる。王の謹慎が解けたら見ていろよ。


だがまあ、ロッテをリッツの屋敷から救い出して人間界の屋敷に戻したことの件の話でやってきたのだろう。

それだったらさっさと話を終わらせて…。…ん?まてよ?


王は謹慎中だから魔王様からの使者に立ち会うことはできないが、王の次に位の高いセロ家一族がそのような者たちの応対をするはず。


「なんでナバ様たちセロ家の方々ではなく俺に?」


「ナバ様たちには言いにくいことでもあるんじゃないのか、俺様はよく分からん」


父上は軽く答えると、あっちの部屋だと指さしてから去っていった。


…勇者一行と行動したことか?いや、それならナバ様もご存知の上のはず。まあ一言二言話して後はとっとと追い返そう。


最上級の客をもてなす部屋に入る。

その居心地の良さそうな大きいソファーの真ん中で、ラグナスがゆったりくつろいでいた。


「や」


ほとんどソファーに埋もれるように座っているラグナスは、以前見た時と同じようなやる気のない顔で軽く手を上げる。


「ロッテをリッツの屋敷から救出したことだろう」


手短に話を終わらせるために本題だと思われることを言いながら離れた所に座った。


「そうそう。魔王様が感謝してたよ。それにもっと驚いたことが起きてね」


「驚いたこと?」


ラグナスに顔を向けると、うんうんと頷いている。


「その後リッツが魔王様に手紙を送ってきたんだ。勇者一行が屋敷とその周辺を焦土にして手下も随分とひどい目に遭ったから勇者を倒したいとかで、そのためには魔王様の配下になって人間界にダンジョンを持つ必要があるからあなたに忠誠を誓わせてくださいって」


「ほう」


驚いた、あのリッツがそのようなことを言うなど。

あの時はチェスのルール説明がさっぱり分からず、帰ると起こされるまで寝ていたが。


「とりあえずリッツを頭にロッテを参謀にしてリージング州が反抗してくるって最悪の事態は避けられたし、前魔王の息子ってことで危険視してたリッツも下ったから魔王様も随分と気持ちがゆっくりしたみたい。

外見以外はまともな魔族だって好感もってたし、それに今まで従いそうにない魔族たちがリッツが魔王様の配下になったならって続々と下ってきてるんだって。

何か魔界で知名度のあるリッツが蜂起したらそれに乗じて魔王の座を狙おうとしてた魔族が多かったみたいだねって、他の側近の人たちが言っててさ」


なるほど?それでもリッツは攻撃を仕掛けるでもなく素直に下ったから、騒ぎに乗じて魔王の座を夢見ていた魔族らも諦めて素直に下ったというわけか。

魔王様に危険だと睨まれ続けるよりなら取り入った方が生き残れるという浅ましい考えだな。


ラグナスは続ける。


「それでそんな展開に持って行ったあなたにも魔王様は感謝しててね。何か望むことがあるのなら叶えてやるって言ってたよ。地上にダンジョンが持ちたいなら叶えてやるし、自分の配下になりたいなら迎え入れてやろうって」


どうよ?とラグナスが提案してくる。

だからナバ様たちではなく俺を直接呼んだというわけか。


「正直来てほしくないけど」

「誰が行くか」


ラグナスのポツリと呟く言葉にイラッとしてすぐさま返した。


「ありゃ、そんな売り言葉に買い言葉で言っちゃっていいのかなぁ?後から配下になりたいでーす、って言ってもそうそう簡単になれるもんじゃないよぉ?さっきの話通り力のある魔族が続々と魔王様の配下になってるんだから、今入っとかないともう受け入れられないよぉ?」


馬鹿にするような物言いに余計イライラしながら、


「俺は魔王様の元にも行かんし人間界のダンジョンも要らん。俺は魔王様に忠誠を誓う身だが一度も会ったことのない魔王様よりもこの州の方々が好きだ。終生この身果てるまで尽くすのはロドディアス王とローディ姫のみと決めている」


ラグナスは目を見開き、驚いたような顔をした。


「っほお~~~…」

「なんだその間抜け面に声は」


ラグナスの言動の何もかもがイライラする。


「いつか私を殺すって言ってたから、てっきり魔王様の下で私より出世してから殺すつもりなのかと思ってた。そっかぁ、案外と忠義の男なんだね」


お前が死ぬのはロドディアス王の謹慎が解けた時だ。


その言葉は何とか心のうちに隠し、


「生まれたころからロドディアス王に仕えてきたんだ、今更ほかの主に仕えるような真似などできるか」


と返す。


「っほお~~~…。これが生まれたころからの貴族の考え…。っほお~~~…」


その間延びした声が一々癪に触る。


「用が済んだなら帰れ、お前との雑談に付き合う義理はない」


立ち上がってさっさと出ていこうとすると、


「リンカ」


というラグナスの言葉に思わず足がピタリと止まった。


「リンカっていう人間界にダンジョンを持っていた魔族がどこかに行方をくらませたみたいだね?このスウィーンダ州の大臣の孫なんでしょ?何かあったか知らない?」


「…知らん」

「…ふーん?」


知らんと言おうが魔族なのだから嘘をついているのはバレている。ラグナスも本当は何か知っていると分かった顔で俺の顔をジロジロと見てくる。


だが神の元に赴いたなどという話は魔王様の耳に入れたらどうなるか分からん。リンカのことは知らんの一点張りで押し通そう。


ラグナスを睨んでいると、ラグナスはジロジロとみている視線をふっと外した。


「ま、知らないならしょうがないよねぇ。今回はその話メインで来たわけじゃないから、何も聞かなかったことにしてあげる。私もあんたと長々と話したい訳じゃないから帰るね」


このアマ…。


睨みつけているとラグナスはガタッと立ち上がって扉に向かって行く。一応礼儀として、仕方なく扉を開けて見送る姿勢だけはしておく。腹は立つがこいつも一応魔王様の配下で俺は従わなくてはならない立場だ。

まあ、そのうち殺すが。


「ああところで」

「何だ」


とっとと帰れ、このアマ。


「さっきの魔王様の元に行くか人間界にダンジョンを持つかって話だけど」


「それがなんだ」


「さっきの忠義の返答が中々漢気があったから、あんたが魔王様の元にも人間界にもいかない代わりにロドディアス王の謹慎を百年から五十年に短縮できないか頼んでみるよ。あんたもそっちの方いいでしょ」


「…まあな」


確かにそれはありがたい申し出だ。ただこいつが絡んでいなければ。


「あと」


思わず唸る。

帰ると言いながらいつまで扉前で立ち話してるんだこいつは、俺がわざわざ扉を開けてやってんだ、帰るならさっさと帰れ。


「ロッテ救出の件では色々面倒なこと押しつけたね」


「全くだ」


憎々し気に言うと、ラグナスはハッ、とため息をつく。


「素直にロッテが助かったことが嬉しかったからしょうがなく下手に出てこれからお礼をと思ってたのに、何それ?もうお礼言う気なくなったわ、これだからお貴族様ってのはプライドが高くて面倒くさい…」


「なんだと…!」


耐えられずラグナスの胸倉に掴みかかると、ラグナスは俺の口の中に何か突っ込んできた。


以前の状況を思い出し杖かと思ったが、口に入ってきた異物は柔らかく甘い味がする。

ラグナスを離して口に入れられたものを取り出すと、貝の形をした何かだ。


「マドレーヌってお菓子。この前作ったの。一応、それを、お礼代わりってことにしておく」


厭味ったらしく言いながらいつの間にか手に転移させたらしい箱を、ラグナスは丸ごと俺に渡してくる。


「じゃ、今度こそさよならだよ。バイビー」


指を二本そろえてチャッと動かしながらラグナスはドアの向こうに去っていった。やる気のない顔で気取った動きをされると腹立つ。


とりあえず、マドリード?という菓子を手に取り、ひっくり返したりして臭いを嗅いでみた。

毒でも入っているのか?だが変な匂いはしない。

端をかじってみると口の中に甘い味が広がっていく。味わう限りでも毒は入ってないようだ。


あいつが作ったものにこう思うのは癪だが、不味くない。むしろ美味い。マドリードというこの菓子、中々いける。


もう少しかじりついてみると、口の中に違和感を感じた。マドリードから口をはなすと、ピー、と何かが引っ張り出されてくる。


なんだこりゃ。


その何か…細い紙きれを口から取り出してみると文字が書いてある。そこには、


「グランへ ありがと」


とあった。


「…」


な、何だ、あいつ可愛い所もあるじゃないか。いつもこうやって殊勝(しゅしょう)な心構えをしてみせるなら、俺だってもう少しぐらいは優しくしてやるぞ馬鹿め。

ちなみにラグナスは人間換算だと16歳、グラン15歳、リンカ18歳、ローディ5歳、ロドディアス38歳、ランディ42歳、ロッテ36歳、リッツ24歳ぐらいで書いてます。今更。

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