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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ゴブリンを倒すだけの簡単なお仕事…じゃなかった

村の中にゴブリンが入ってきたという言葉を聞いた私たちは目を合わせると、すぐに立ち上がってアダドの家を出た。


モンスターの一番の敵は人間。だから大体のモンスターは人間を警戒して村や町には入ってくることなんて普通はない。そんな普通はないことが起きたのならすぐに倒さないと。


アダドが何を隠してるのか、そんなに危険なことなのかという考えは頭の隅に押しやって村人たちが騒いでいる辺りを目指して駆けつける。


「何体ですか?」


サードが声をかけながら近づくと、村人たちは逃げ惑うようにサードの元に走ってきて、


「勇者様ぁ!」

「助けてください!」

「やっつけてー!」


と悲鳴に近い叫びをあげながらがサードに掴みかかっていく。


「進めません!皆さんどうぞ家の中へ!」


サードが一喝に近い声を出すと、村人たちはハタと勇者に掴みかかって行く手を防いでいる自分たちに気づいたのか、我先にと家の中や物陰に走って行く。


サードはスラリと聖剣を抜いて歩いて行く先にゴブリンたちの姿が見えた。


数は四体。


ゲッゲッと笑い声を立て放し飼いされていたらしい鶏を小脇に抱えて、外に干していたらしい魚の干物を手に持って、私たちには理解できない言葉で話し合っている。


するともう一体ゴブリンがゲッゲッと笑いながら駆けつけてくる。その小脇には一匹の猫が抱えられていた。


ゴブリンは合計五体ね。


私も杖をゴブリンに向ける。

ここは自然豊かな山村なのだから、私の魔法で操れるものだらけ。でもまずはサードがゴブリンに近づいて行っているから私はサードの援護に回ればいいわね。

まぁゴブリン程度、私の援護なしでもサード一人で片付けられるでしょうけど…。


「ネッコー!」


絶叫と走る足音が聞こえてきた。


驚いて声のした方向を見ると、子供…男の子がうおおお!と叫びながらゴブリンに全力で走って行くのが見える。


ギョッとしている内に男の子は、


「うちのネッコを返せー!」


と猫を抱えているゴブリンに向かって高くジャンプしながら、細い棒きれをゴブリンの頭に向かって振り下ろす。


ゴブリンは棒きれとは比べ物にならない太いこん棒を上にかざして男の子の攻撃を防いだ。

それだけで男の子の棒きれは真っ二つに折れて、ゴブリンは理解できない言語で…でもあからさまに悪態をついていると分かる表情で太いこん棒を男の子に向かって振り上げる…!


「ダメー!」


私が魔法を使おうとすると同時に、サードが聖剣を振りかざしてぶん投げた。


聖剣は真っすぐ飛んで、私の声で振り向いた一体のゴブリンの首、こん棒を振り上げているゴブリンの顔の上半分、そのままこん棒をスラッと真っ二つに切ってすぐ後ろの木の幹に突き刺さ…らずにその幹すらもスパッと切ると、あとは地面に深く突き刺さった。


残ったゴブリン三体はポカンとした表情で一瞬で倒されたゴブリン二体と、ズズズ…と幹からずれて倒れ行く木を見ていたけど、私たちが敵と気づいたのか、理解できない言葉を発しながら跳ねるように近づいてくる。


「私はあの子供の安否確認と聖剣を回収してきますので、倒しておいてください」


サードはそう言いながら真っすぐゴブリンに向かって歩いていき、ゴブリンたちの攻撃をさっさと避けて子供の近くに寄っていく。


一体のゴブリンが自分たちの攻撃をあっさり避けて無視していくサードに腹を立てたのか、錆びだらけの剣を振りかざして後ろから襲いかかる。でもサードは振り向きざまにゴブリンの両目の間に全力で肘鉄を当てるとゴブリンはそのまま倒れた。


「てりゃあ!」


アレンはロッテに聖遺物と騙されて渡されたただの(じょう)をゴブリンの脳天に叩きつけると、ゴブリンはフラフラと体も頭も揺れてその場にドサッと倒れた。


「さすがロッテが持ってた聖遺物…すげぇ威力だ…」


「でもその聖遺物の杖をそこまで使いこなすとはさすがですアレンさん」


アレンは感動の顔で聖遺物と信じ込んでいる杖を眺めると、ガウリスは素直にすごいと尊敬する顔で褒めている。


それ、ただの金属のついた棒なんだけどね?倒してるのアレンの実力なんだけどね?

いつも言おうか言うまいか悩んでいるけど、何となくいつも言えずに現在に至っているのよね。それよりガウリスは魔族のロッテが聖遺物を触れないって分かったうえでアレンを褒めているのかしら、それともそこに気づいてないのかしら…。


すると猫を強く抱きかかえて泣いている男の子が視界に映る。


「大丈夫だった?」


私が駆け寄るとサードも勇者として聖剣を回収するより先に男の子の安否を確認した方がいいと感じたのか近くに寄って片膝をついている所。男の子は私たちを見上げて、


「勇者様たちありがとう、僕のネッコを助けるために…!ありがとう…!」


恐怖なのか嬉し涙なのか、男の子はひたすら泣きながらお礼を言っている。


まあどちらかと言うと猫よりあなたを助けるために動いていたんだけれど…それよりネッコって変な名前。


「あなたも猫も無事ならよかった」


サードは男の子にケガが無いことを確認し終えたらしく、聖剣を回収しに行った。


すると男の子の両親らしき人たちが血相を変えて駆け寄ってきて男の子を抱きしめ、


「何やってるの、この馬鹿!」

「猫のために命を落とすつもりか!」


と怒鳴っている。男の子はカッと怒った顔になって、


「ネッコだって僕の家族だ!家族を守って何が悪い!」


と言いながらかんしゃくを起こしたのか離せとばかりに両親の腕の中でもがいた。


ネッコという名の猫も両親の腕と男の子の腕にしめつけられて苦しかったのか、ジタバタと暴れてスルッと逃げ出す。


そのまま尻尾をピンと立てながらサードの側へとトタタと駆け寄っていった。


えっ。サードに猫が近寄ってる。


驚いて思わずアレンと目を合わせた。


基本的にサードって犬とか猫とか、人の近くにいる愛玩動物に脅えられることが多いのに。多分本性の性悪が分かっているからだと思うんだけど。

そんなサードに脅えもせず近寄る動物がいるだなんて、すごいわ。


「ありがとうございます、うちのセージを助けていただいて…」


足元でズリズリとネッコに頭をこすりつけられているサードに対して、セージの母親がセージの頭を力づくで下げさせる。


「本当に、うちのセージが変に飛び出してしまいすみません…」


セージの父親も申し訳なさそうに私たちに向かって何度も頭を下げる。


「いいえ、小さい命を守るためにモンスターに立ち向かっていくなどそうそうできることではありません。優しく勇敢な子ではないですか」


勇者のサードにそう言われると二人とも嬉しかったのか、どこか誇らしげな顔でセージという子の頭を二人でなでる。


そのネッコもずっと尻尾をプルプルと震わせ立てたまま、サードの足元をスルスルと通り抜け続けては頭をこすりつけている。


本当に珍しいわ…猫があんなにサードにまとわりついているなんて…。


「ネッコがこんなに人に懐くなんて珍しいなぁ。やっぱり命を救ってくれた勇者様だからだな!」


セージはそう言いながらネッコを抱きかかえると、胴体がにょろーんと伸びて足の先が地面に着く。


…ネッコの胴体長くない?気のせい?それともこれが普通の長さ?普段猫と触れ合わないからよく分からない…。

でもネッコもそこまで人に懐く子じゃないみたいだから、お互いに人に懐くネッコと懐かれるサードっていう珍しいものを見ているんだわ。


「あの…」


声をかけられ振り向くと後ろにはアダドが立っていて、逃げ惑って家の中や物陰に隠れていた村人たちも顔を出していた。


「村の中にゴブリンが侵入してきたことなど未だかつてありませんでした。お願いします、私たちが出した依頼をお受けください…!」


アダドは改めて深々と頭を下げて、後ろにいた村人たちも、お願いします、助けてください、どうにかしてください、と次々に頭を下げていく。


「…」


サードは無言でアダドを見ている。

その表情は、何か隠し事をしている奴の依頼を受けても大丈夫かという嫌そうな顔つきで…もちろんそんな嫌な表情は表向きの顔で隠してはいるけど。

それでもここまで村人全員に頭を下げられては勇者として断り辛いと感じたんだと思う。


「先ほどおっしゃった我々に内緒にしている件については絶対に聞かせていただきます。でなければ依頼は破棄します、それが私からあなた方に出す唯一の条件です」


と聖剣を鞘に戻した。


* * *


「さあ、たんと召し上がってください!」


アダドの奥さんのアロナと、アダモの奥さんアルシーの二人がどんどんと料理を持ってきてテーブルの上に乗せていく。

目の前に広げられる料理の数々に圧倒されている中、アダドは腕を広げてどうぞどうぞとすすめてくる。


「うわー美味そうー!」


アレンはさっそくフォークを手に持ってごちそうになり始めて、私もいただきます、と手を合わせ、ガウリスも感謝の言葉を言ってから食事に取りかかって、サードもいただきますと一言添えてから食事に取りかかった。


「しかし勇者御一行とは本当に強いのですね、ゴブリン五体をあんなにあっさりと片付けてしまうだなんて…」


「ちなみにこの村に来るまでも十体ほど倒しました。そして村の中に現れたのは五体」


サードがアダドの言葉を遮り、真っすぐにアダドの目を見た。


「ならあと五体ほど倒せばあなた方の出した依頼は終了ということになります。しかしあなた方は私たちに隠していることがありますね?どうにもあなた方には嘘をつかれている気がしてならないのです。

このような言い方はどうかと思いますがあなた方が出した依頼は他の冒険者でも十分に事足ります、なのに我々に限定して依頼をしたのはどのような理由があってのことなのですか?てっきり我々でないと解決しない難しい問題があるから救いの手を求めてきたのではと思ったのですが。

我々も暇な身分ではありません、それに昼に言いました通り命をかけて助けに来ているのです、内容が不明瞭のままならば、このようにもてなされようが私たちはすぐお(いとま)させていただきます。

ゴブリンも残り五体程度なら、他の冒険者がすぐに駆け付けて倒してくださるでしょう」


サードの最終通告のような言葉にアダドの家族全員が一瞬で静かになった。

アダドは難しい顔になって豪華な食事に視線を移す。


「…あなた」


アロナがアダドの肩に手をかけるけど、それでもアダドは口を開こうとはしない。


「命に関わらないって言ってるのに、俺らに聞かれたらそんなにヤバいことでもあんの?」


アレンが食べる手を止めて聞くと、アダドは目を瞬かせて口を真っすぐにつぐんだ。


「…少々、息子たちと相談してきてもよろしいでしょうか。私一人の独断で話していいか決められません…」


「…どうぞ」


そこまでして聞かせられないことでもあんのか?という雰囲気を醸し出しながらも、サードは了承する。


村長のアダド、その息子アダモ、そして孫のアダプ三人は外に出て、声も聞こえないぐらいのところで何かしら話しているんだと思う。

でもサードは耳がいいから、案外聞こえていたりして。


そう思っているとアロナとアルシーが、


「本当に申し訳ございませんねぇ、せっかく来ていただいたのに色々内緒にされて不愉快な思いをなさっているでしょう」


「でもここはこんな山奥の小さい村ですから、昔からの(おきて)や決まり事も色々あるんですよ、どうかその部分は分かってくださいね」


とペラペラとサードに話しかけている。結構二人ともぺちゃくちゃと早口でよく話す人たちで、二人の声だけで五人分ぐらいの声量がある。


「いや大丈夫、俺らそこまで気にしてないし。それよりこれ美味しいなぁ、これ何の野菜?」


「これはこの地域だけに生える植物でしてね、コリコリとした触感が美味しいでしょう?里に売りに行くとこれが人気で」


「なんせここらにしかないものですし、今の時期だけに生える珍味みたいなものですから」


「っへー、季節限定品でこの美味しさなら売れるよなぁ」


…アロナとアルシーにアレンの声が混ざると、三人なのに十人ぐらいの声量があるわ…。


サードはわずかにうるさいとイライラした目を表の表情に隠しながらも黙っていると、アダドたちが戻って来てそれぞれの椅子に座った。


「実はこの村には守り神がいらっしゃった」


そしてアダドは今まで隠していたらしい話をいきなり話し始める。


「守り神、ですか」


ガウリスがそう言うと、アダドは頷く。


「正確に言えばこの村の近くを流れる川の神です。村に伝わる伝承では私たちの祖先がここに村を作った時、あまりにも自然の被害…主にその川の氾濫やそれに伴う土砂崩れなどが多かった。

ですから我々の祖先は山でとれた果実や動物などの供物を川の神にささげ、この村をお守りくださるよう頼んだ。そうすると川の神も我々の願いを聞き入れてくださり、川の氾濫を抑え、そしてこの村をも様々な脅威から守ってくださるようになった」


アダドは一旦そこで話すのを止めたけど、また続けた。


「その村の守り神は川でよくお姿を現していらっしゃいましたが、ここしばらくは神の姿を見たと言う者が一切居なくなりました。それに伴いゴブリンの出現が日を追うごとに増え、雨が降る度に川が増水して危険な状態になり、現在に至っております」


「それって、川にいた守り神が居なくなったってこと?だから川や村が守られなくなってゴブリンがこの村の近くまでやってきて…」


私が思いつくまま言うとアダドは、


「そうなのかもしれません。しかしお姿をよくお現しになるとはいえ相手は神で普通に話し合う間柄でもありませんし、いつでも好きな時に姿が見えることもありません。本当にいなくなったのか、今まで通り川にいれども我々に見えないだけなのかも分からないのです」


「つまりあなた方の本当の依頼は、川の神を呼び戻してほしい、見つけてほしいというものですか?」


「…」


アダドは何も言わないけど、顔を見る限りそういうことみたい。

でもそれと同時に、いくら勇者御一行でも神を見つけるなんて無理でしょう?と、すがりたいけど諦めにも似た顔つきで情けなく笑っている。


なるほど、無理だろうと思いつつも私たちならもしかしたら…っていうわずかな望みをかけて、ゴブリン討伐って簡単な依頼で私たちを呼んだってわけね。


「それならば素直にそう言ってくださればよかったのに」


ガウリスがそう言うとアダドは申し訳なさそうな困り顔になる。


「…ここに神が居るとなると、姿を見ようとやって来る人が増えるかと思いまして…。他の国ではドラゴンが住む湖の側に村ができて、今ではドラゴンと暮らす村として観光地化されているらしいじゃないですか?」


そういえばガウリスのドラゴン姿を特定しようとモンスター辞典を見ていたら、そんな一文があったわ。


うんうん頷くとアダドは続けた。


「そんな風に人に押し寄せられ、荒らされたくなかったんです。私たちに恵みをもたらすこの山を…」


「そんな会えるかも分かんない神様目当てで来る人なんているもんかなぁ」


アレンはバクバクと食べ物を飲み込みながらいうと、ガウリスは首を横に振る。


「サンシラ国は神と一番近い国ということで神に会えるかもと観光客が多く訪れてくださっていました。実際に神と対面できなくとも神が近い所にいるというだけで心惹かれ訪れる方も多くおられます」


「フェニー教会孤児院も起源としては古いですから、歴史好きの方や信心深い方は遠くの国からも多く訪れていましたよ」


ガウリスの言葉にサードもあり得ないことじゃないと付け加えた。アレンはそっか、と納得したみたいな顔をして、


「じゃあ俺らはそこの川に神様がいるってことは黙っておけばいいんだろ?それだけの話ならここまで隠すとかしなくてもよかったじゃん、そんなに俺らのこと信用できなかった?」


アレン的には別に責めているつもりじゃなくて思ったことを言っているだけなのだけれど、アダドは不愉快にさせたと思ったのか、本当に申し訳ないと料理に頭を突っ込みそうなほど深く下げる。


「まず隠し事を言ってくださいましたし、本当の依頼したいことも分かりました。それなら明日、その川に案内していただけますか?色々と把握しておきたいので」


サードが声をかけると村長は顔を上げて顔を輝かせる。


「しかし本来のゴブリンの依頼とは違う物ですし、格段に依頼内容は難しくなっております。我々は人を助ける仕事をしていますがボランティアではありません。その分金額は跳ね上がりますが、それでもよろしいでしょうか?」


「はい、はい!お金は…何とか村で工面できる額と、それで足りないのならこの山にある物で望むもの全てを差し上げます!」


よし、とサードはわずかに金と仕事内容に相当する物を払うのなら問題ないという顔をしたあと、少し真面目な顔になって続ける。


「しかし神は人の望み通り動きません。仮に我々が運よく守り神を見つけても守り神に戻らないと断られたらいかがなさいます?そのように神に見捨てられたとしたら我々の力ではどうにもできません。村は災害やゴブリンに浸食されてしまいますが?」


アダドは嬉しそうな顔を崩して悩んでいる顔つきになって、私をチラと横目で見てから、


「…まず守り神が見つかるか見つからないか確認してから考えます」


と言った。


…何で今一瞬私を見たの?

農業用のカルネッコという紙があるんですが、その猫のキャラは中々イラッとする顔をしてます。

そもそも猫なのかすら怪しい。でも物は良い。根っこがつきにくい。

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