救出、帰宅、疑惑、収束
「やー、助かった助かった」
「ねー、助かった助かった」
目の前には濃い茶色の髪の毛でニコニコ笑っている男の人と、同じく濃い茶色の髪の毛でニコニコと笑っている男の人が二人いる。
顔も似ているからまるで双子のようだけど、一人はずっと年上の男の人。
「父さん!ロッシモー!」
アレンが二人に向かって走って抱きつくと、二人はアハハーと笑いながらアレンを受け止める。
「アレンだ」
「アレン大きくなったなぁ」
年上の男の人はアレンのお父さんのランテ、若い方がアレンの一番上のお兄さんのロッシモ。
どちらもホワーとした雰囲気で、その雰囲気のまま空も飛べそうな感じもするわね。
ラニアから返された割符を手に入れた後、私たちはミリアにランテ達を迎えに行くと告げて、そのままアレンの用意した小さい船に乗ってヴェルッツェ国に向かった。もちろんサードには無効化の魔法をかけて船酔いにならないようにして。
その船旅も順調。三日もするとヴェルッツェ国に到着して、割符を見せながらランテとロッシモを解放するように港の人に求めた。
すると三十分もしない間にランテとロッシモが私たちの目の前に連れてこられて解放された。
そこでアレンが、
「父さん!ロッシモー!」
と二人に向かって走って抱きついて、
「アレンだ」
「アレン大きくなったなぁ」
とランテとロッシモがアレンを受け止める所に戻る。
でもまぁ、本物の割符を持っているのもあるけど私たち勇者一行がいきなり船で揃ってやってきて二人を解放してと詰め寄ったから、ベルッツェ国の人たちがビビッて、
「い、いいから早くあの二人を連れてこい!」
って急ピッチで二人は解放されたみたいだけど。
「二人は大丈夫だったの?二人が酷い目に遭ってないかドミーノが心配してたけど」
二人から少し身を離してアレンが聞くと、二人はホワーとした笑顔のまま、まさか~と言いながら首を横に振って後ろにいる兵士たちを振り返った。
「あの人たちが牢屋の見張りの人たちだったんだけどね、お酒毎日御馳走になっちゃった。それに牢屋の食事も美味しいし何か欲しいのあるかって聞いてくれるしお話も楽しい人ばかりで檻越しに一緒に歌も歌って楽器も演奏して…あ、そうそう。ゲームもやったよ」
「なんで昔はあんなに戦争してたんだろうねぇ、ヴェルッツェ国の人ってすごく陽気で楽しい人ばっかりなのに」
二人がそう言うと、後ろの兵士たちはどこか「よせやい」という雰囲気で鼻の下をこすっている。
「牢屋の中でも楽しい日々だったなぁ」
「やっぱり近くにいる人たちが良い人ばっかりだと時間がたつのも早ねぇ」
後ろの兵士たちが「よせやい」という雰囲気で地面を爪先で蹴りながらニヤニヤして照れている。
アレンの実家の方ではラニア関係で色々とあってミリアも気を揉んでいたのに…それでいいの?
「でも、あんたらともこれでお別れか…」
照れていた兵士たちは寂しそうに笑いながらランテとロッシモの周りに集まって、それぞれ握手を交わした。
中には涙ぐみながら、
「お前らと俺はもう兄弟も同然だ、また顔を見せにきてくれよ」
と言う人もいて、それを見てもらい泣きする兵士も現れる始末…。
どうやってここに捕まっている間だけでこんなに親しくなれたのかと思うと、逆にすごいかも…。さすがアレンのお父さんとお兄さんだわ。
「じゃあ帰ろう。父さんとロッシモは自分の船で帰るよな?」
名残惜しそうに兵士たちが離れたのを見たアレンが声をかけると、ランテは首を横に振る。
「父ちゃんねぇ、アレンと話したいからそっちの船で一緒に帰ろ?」
父ちゃんねぇ、と、一緒に帰ろ?の言い方に思わずキュンとなる。
何この人、私のお父様と同じくらいの年齢の人なのに、可愛い…。
するとロッシモは寂しくも悲しげな顔で、
「ええ…?俺一人で帰らないといけないの…?最初船酔いするんだよ?船酔いしながら船の操縦しないといけないんだよ?俺一人っきりになっちゃうよ?やだ寂しい、俺もそっちの船で帰る」
と、すごく私たちと一緒に帰りたさそうに私たちを見てくる。
「でもそれならあなた方の船はどうするおつもりです、置いていくのですか?」
サードが聞くと二人は兵士たちに声をかける。
「今度取りに来るからそれまでこの港で管理してもらえる?」
すると兵士たちは親指を立てて、まかせろとばかりに頷いている。
「いいの?自分たちの船なんでしょ?」
たまらず私も口を挟むと、ランテは笑った。
「大丈夫、ヴェルッツェの港の人たちは船を大事に管理してくれる人たちだから。あそこにあるのがうちの船なんだけど、あんなに波にさらわれないようにがっちり管理してくれてるんだもん、預けてても安心だよ」
すると近くを通りすがった…船場を見回りしていたと思われるおじさんがランテの言葉を聞いてニヤと笑って、ご機嫌な足取りで去って行った。
何ていうか…ランテは嫌味もなく人を褒められる人だわ。そしてアレンみたいに人の懐にスッと入ってしまう。
こんな人が隣にいて同じ商売をしているとしたら、取引先の人たちの気持ちを次々と根こそぎかっさらっていって、ラニアが嫉妬してコンプレックスを抱くのも分かる気がする。
ともかくランテとロッシモは改めて兵士たちとお別れをすると私たちの船に乗って、そのままシュッツランドまで何事もなく帰国した。
家のドアを開けて帰ると、ミリアはランテとロッシモを見て、涙を流して喜んで二人に抱きついていた。
「そんなに心配しなくてもよかったのにぃ」
と言いつつランテはデレデレと嬉しそうな顔をしていて、ミリアと一緒に帰りを喜んだドミーノは、
「だが偽物の割符を持っていたんじゃないのか?それは大丈夫だったのか?偽造された割符が見つかったらただじゃ済まなかっただろう」
と心配そうに言うと、ロッシモはイェイ、と親指を立てる。
「色合いが綺麗過ぎたから真似て作っちゃって、間違えてそっちを持ってきちゃったって誤魔化したら『馬鹿だなぁやめろよ』って怒られた程度でどうにかなったよ」
「その後、上手だねって褒められたよね」
ランテの微笑みながらの言葉を聞いたドミーノは呆れた顔で額を押さえた。
「本当はその程度じゃどうにもならんだろ…普通だったら国際裁判まで発展する出来事だぞ…」
思った以上に割符の偽造って大事になるのねと思いつつ、本当にそれでどうにかしてしまったランテとロッシモって一体…。
このダーツ家の人たちのコミュニケーション技術、ここまでくると怖いくらいだわ。
「二人も戻ってきたし、今日のディナーは豪勢にいくよ!」
ミリアはやる気も十分で、私も微量ながらその手伝いをした。
それでも浮かれ気分のミリアはとてもクルクルとよく動いて、私がやることといったらパスタを茹でてるお湯が吹き零れないように見守るとか、レタスを千切ってお皿につけるとかお肉が焦げないようにたまに確認するくらいだったけど。
ちなみにまだラニアはミョエルに謝りに来ていないから、ダーツ家にはまだミョエルもいる。
だから私がレタスをチキチギしているとミョエルもフラッと訪れて、
「…それくらいだったらあたしもやる」
と一緒にチキチギしだした。
男衆はパーティーでもするつもり?ってくらいの勢いでアレンとランテを中心に部屋を飾り付けてレイアウトを変えるわ葡萄酒を大量に購入してくるわしている。
まあ、そりゃ下手したら縛り首になるかもしれなかった二人が無事に戻ってきて、アレンの人生も守られたんだから浮かれるのは当たり前よね。
そう思いながらふと目の前のミョエルを見ると、浮かれるダーツ家の皆を見てどこかバツが悪そうな顔をして居心地が悪そうに見ている。
「ミョエルが悪いんじゃないのよ、それに全部終わったんだからそんな顔しないで」
私が声をかけるとミョエルは私を見た。いつも強い眼光は今は頼りない子供みたいで、私は大丈夫よ、と視線を返した。
「…あたし、親父が嫌い」
黙っているとミリアが輪切りにしたトマトを持って来たから、レタスの上に綺麗に並べていく。
「あんな悪どいことする親父の血が流れてると思うと本当に嫌、親父のことをぶっ殺したくなる」
「殺しちゃダメよ」
「やんないよ」
ミョエルはそう言いながらまぶたを伏せた。
「でも今回のことで思ったでしょ、あたしの親父最悪だって。子供のあたしがそう思ってんだから皆もそう思ってるに決まってる。…ダーツ家の皆はそれでもあたしたちと仲良くしてくれたけど…ドミーノは親父のこと嫌ってるけど…本当に嫌、母さんが家から出てったのも分かる」
レタスを延々と手でちぎりながらミョエルは独り言のように言葉を続けていく。
「でも俺はラニア好きだよ。幼馴染だし、子供のころから弟分って感じで俺のこと守ってくれてたから」
後ろからランテがひょっこり現れて、ミョエルは隣にやって来たランテに目を向ける。
「でも最悪だって思ったでしょ、今回だって親父のせいで下手したら国際問題のやり玉にあげられてたかもしれない」
「何ともならなかったから。何も起きてないなら何もなかったも同じじゃない?」
「何でそんな風に親父のこと許すのさ、もっと怒って一発ぶん殴ってやればいいのに…!」
ミョエルの目が怒りに燃え始めると、ラニアは目を細めてミョエルを見ている。
「ミョエルは昔のラニアとすごーく似てる。どこまでも真っすぐで、悪いことは誰だろうが許せなくて、すぐに怒って手と足が出るところとか」
そう言われたミョエルは微妙な顔になった。
「全然嬉しくない」
「喜んでよ、俺はラニアのそんな一本気で真っすぐな所が大好きなんだから」
そう言いながらランテは昔を思い出すように視線を上に向ける。
「俺は子供のころからこんな感じでのんびりしててさ。そんな俺が大人たちに『うすのろ』ってからかわれたら怒ったラニアがその大人たちにに掴みかかっていったんだ」
ラニアの子供の時の話になったらミョエルは興味を持ったのか、ランテの顔を真っすぐ見る。
「もちろん子供と大人なんだからあっさり負けてボロボロになったよ。でも弱い俺のために見るからに敵いもしない相手に立ち向かっていくラニアを見て、それで負けて、勝てなくてごめんって悔しそうに泣き続けながら俺に謝るラニアを見て、この人のためなら俺は全力で力になりたいって思ったんだ」
ランテはそこで優しい顔をミョエルに向ける。
「だから俺はラニアが仕事したがってる相手との突破口になって、少しでも貿易がやりやすくなればと思って今まで色々やってきたんだ」
「…親父は、やりたいことが次々にランテさんに先回りして取られるっていつも怒ってたけど」
「でも最終的にファミリーの仕事になったでしょ?」
「…あいつは詰めが甘いって、親父が仕事を横取りしてただけじゃん…」
「いいんだよそれで」
今の会話を聞いていたドミーノは、眉間にしわを寄せながらキッチンに歩いてくる。
「なんだそれ、つまり父さんもラニアファミリーに間接的に力を貸していたのか!?ファミリーが力を持つということは悪の力が増えるということじゃないか」
ランテはドミーノを見た。
「確かに最近のラニアはちょっと行動がひどい。だけどドミーノもミョエルも昔のラニアを知らないでしょ?昔はむしろ悪いことをする貿易商は積極的に潰して、力のない、お金のない人には見返りも求めないでお金を渡してた。どれだけの人がラニアのおかげでお店を守れたか分からない、ラニアのおかげでこのランジ町はここまで栄えてきた。
それに百年くらい前までずっとこの国は戦争をしていたから国だって荒れてた。国がそうやってくだらない戦争をしていたから店を守れない人たちが多く出るんだって力をつけて国に圧力をかけるようになってから…ちょっとずつラニアは今みたいにちょっと行動が酷くなってきた。
でも昔のラニアはとにかく一本気のある真っすぐな人だったんだよ。ノリオもその真っすぐさに振り回されて困っていたっけ。」
ランテは少し笑いながら、ミョエルを見た。
「ラニアはそういう真っすぐな性格だから不器用なんだよ。不器用だからちょっと間違えて変な方向に行っちゃったんだ。これから少しずつでも軌道修正していけばいい。だからそんな風に嫌わないであげてよ、子供に嫌いだなんて言われたらお父さんショックだよ」
「…でも、嫌い」
「そういう強情な所もラニアにそっくりだねぇ」
ランテはミョエルのボリュームのある髪の毛をポンポン撫でると、ドミーノの肩に手を回した。
「いいこと教えてあげる。このドミーノは国の政治の中枢に入るんだ。そこで新しい法律でも作ってもらえばラニアのひどいやり方ももっと軌道修正できる。そうすればラニアの商売のやり方も一気に昔のやり方に戻るかもしれない」
「父さん、まだ試験は先で完全に入ると決まってない…」
ドミーノが迷惑そうに言うと、ランテは笑う。
「ドミーノだったらできるよ。父ちゃんはね、お前を信じてる」
「…」
ドミーノは少しはにかみながら一つ咳払いして黙り込んだ。なんだかんだでとても嬉しかったみたい。
「そういえばさ」
アレンがふと顔を上げてランテを見る。
「あの割符の下の備考欄に書いてたあれって何なの?『ナイトク、無料』って書いてたけど。ナイトクって商品あるの?新商品?」
「え、あ、ああ…あれ…」
ランテがギクッとした顔になってドギマギとした動きになると、せっせと部屋の飾りつけをしていたロッシモがアレンに顔を動かす。
「『ナイトクラブ無料入店』って書いてたんだよ。向こうの商人の人たちと気が合ったから連れて行ってやるってなって、また今度行こう、おごりだって言われてあれ書かれたの」
「ロッシ…!」
ランテが頭を振って、シー、シー!と口の前に人差し指を立てる。
「…ナイトクラブ…?」
ミリアの冷たい声が響いて、思わず全員がミリアを見ると、ミリアの料理をする手が止まっていて、冷ややかな目がランテに向けられている。
「ナイトのクラブって、どんなクラブなんだろうねえ?」
「あ、いや、ちが、そんな変なお店じゃなくて」
「あんたの言う変なお店ってどんなお店?」
「い、いや、そんな変なお店じゃなくて、お酒が飲め、飲めるお店で、ママさんが営んでるってだけ…」
「何でどもるんだろうねえ?」
「ちが、本当にバーみたいなお店…」
「それなら今度私も行こうかなぁ?」
「や、それは…」
「何?」
「あの…」
ランテの顔が凍りついてモゴモゴと口を動かして黙り込んでしまった。
「別に母さんが行ってもいいだろうけど、女の子が両隣にいてお話するだけだからつまらないかもよ」
ロッシモはフォローしてるのか油に火を注ぎたいのかよく分からない発言をしてくる。
「…へえ…」
部屋の温度が下がるのではと思われるほど冷たい声と目線がミリアから放たれる。
ちょっと…さっきまでの良い雰囲気が無くなっちゃったんだけど…。
…でもそういえばラニアって、割符を私たちに見せつけてきた時、わざと備考欄を隠してたのよね。
まさかラニアは「ナイトク」の文字だけでナイトクラブと書かれてるのを察して、それがミリアにバレたら今みたいな状態になると思って、奥さんのミリアに見られないよう、ランテをかばうためにわざと備考欄を手で隠してたとか…ない?
…本当はどうなのか分からないけど、もしランテのことが目障りで嫌いだって思いつつそんな所はしっかり庇っていたんだとしたら…何だろう、笑えてくる…。
静かに笑いを堪えているとサードも微妙に私と同じことを考えていたのか、かすかに横を向いて笑いを堪えていた。
「だ、だってぇ…おごりで連れてくって言われてるのに断ったら相手の機嫌を損ねるじゃないかぁ」
「どんな話をしたんだろうねえ?女の子に挟まれて?」
「母さんの自慢を延々としてたよ」
ロッシモが言うと、ミリアはポッと顔を赤らめ、
「ふ、ふーん?」
と言いながらいそいそと料理の作業に戻って行く。
ランテはロッシモに感謝の目を向けて、ロッシモはウィンクする。ドミーノは呆れた目をしていて、アレンはニヤニヤしている。
こうしてみるとアレンの家って、おもしろくて良い家族よね。あ、一人いないか。
人に挟まれて話すような飲み場は苦痛としか思えませんが、猫に足を踏まれたり遮へい物にされたり、撫でさせていただいたりと構っていただくお店は大好きです。
猫カフェっていうんですけどね。
初めて猫カフェに行った時、三十分だけしか居られなかったな…と思っていたら知らぬ間に友人が延々と延長していたようで一時間以上はいたそうです。体感は三十分でした。




