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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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探し物はいずこ?

割符がラニアの手元にあった事件が起きてから四日がたった。


今のところ何も進展は無い。


ラニアの家とアレンの家同士で何かあることもないし、割符がどこにあるかかも分からないし、ファミリーの誰かが何かしてくるということもない。


ただ、ブラスコは二日前に仕事に出かけて行った。


「こんな時に仕事に行くのもあれだけどよ。行かねえと物が届かなくて困る人がいるから」


とやるせない表情で、


「親父とロッシモのこと、頼む」


って私たちに頭を下げると、後ろ髪を引かれる顔ながらも手を振って去って行った。


そんなブラスコは馬車を使ってあちこちの山間の村に商品を持って行って売る仕事をしているんだって。


大体家の中にいるドミーノは勉強しているって度々聞いているけど何の勉強なのか本人に聞いてみたら、国の中枢部に入るためにこの国の政治経済・法律・歴史・海運・海図の読み取り、業務体制などなど…とにかくこの国に関わること全てを猛勉強中なんだって。


「この町は公安局があてにならんから若者は公安局よりファミリーを頼り、そしてファミリーの傘下に入っていく。

昔は国とファミリーはギブアンドテイクの間柄だったが、今ではファミリーを扱いきれず国が飼われてる状態だ。そうなると根本的に政治体制から変えるしか方法がない」


と言っていた。それを聞いていたサードは、


「それは中々難しいでしょうね、下手をしたらファミリーの者に殺される可能性だってある」


と言うと、


「だがやってみねば何も変わらん。エリーが子供たちにさらわれた件と割符の件で、この町は狂ってると再認識した。少しでもいい、ファミリーが動きにくくなる法律を一つでも俺は作りたい」


と拳を握り締めていて、クールに見えるけど案外とドミーノは信念のある熱い人だわと思えた。


そんな中アレンはサードに言われた通り船を借り受けて、その後は本物の割符が手に入ったらすぐさま迎えに行けるよう、ヴェルッツェ国までの航路を調べたり、よく出没する海賊がどんな動きでどこら辺に集中して現れるかってことを調べ始めた。


ガウリスはサードの指示通り外を動き回って、サードも外に出かけて独自に動き回っている。


ガウリスとサードは何をしているのと聞いてみると、ガウリスは、


「私はサードさんに何か…物を作るよう鍛冶職人の所に行っています。…ですが、渡された指示通りの物を作って欲しいと職人に伝えたら、これは何のために使うものだと聞かれて…。私も何のために使う物なのか分からないのですよ、あまりに奇妙な形で…。これは何に使う物なのですか?」


と首をかしげていて聞いていたけどサードは、


「それは使い勝手がいいもんだ。とにかく俺はこの町の隅々まで見てんだ。ラニアの勢力がどこまで広がっているか、どんな手口を使っているのか、どんな商売やってんのか、違法な手段を使ってないか…色々だ」


どうやら皆あれこれと動いているみたい。でも私はさらわれないように用心しろ、しか言われてないから、


「私も何かやることない?」


とサードに聞いたら、


「お前はこの家の奴らを守ってろ」


と言われた。それって結局留守番ってことじゃないの。


でもあの不気味なラニアが次にどんな手を使ってくるのか分からないからとりあえず素直に家の中にいるけど…。


今は皆が出かけてミリアと二人でコーヒーを飲んでいる。

でもミリアはずっと空になったコーヒーカップの取っ手をもてあそんで浮かない顔をして沈み込んでいる。


でも私だってミリアの気持ちは分かるわ。私の家族と使用人だって今のアレンのお父さんのランテ、お兄さんのロッシモと同じように国に捕まっている状態だから。家族が国に捕まっている状態なんて不安よね。


それにずっと血みどろの戦争をしてきた敵国の牢屋に入れられて…下手したら二人は国の兵士にいたぶられているかもしれないってドミーノも沈み切った顔で心配していたし…。


ドミーノの言葉を思い出すと気持ちが落ち込んで、そうしていると今朝のことをふっと思い出した。


ミリアは家族の命を取るか自分の人生を取るかでアレンが悩んでいないか心配して声をかけていた。

それでもアレンはヘラヘラ笑って、


「大丈夫だって。今までの冒険でも『うわー大丈夫かこれぇー』ってことも何とかなってきたからさ。今回も何とかなると思う。じゃ、いってきまーす」


とちょっと友達と遊んでくるくらいの軽さで出て行って、ミリアはどこか呆然とした顔でアレンを見送っていたっけ。


「アレンはさ…」


ミリアが口を開いたからテーブルの上から視線を移す。


「身長以外変わってないって思ったけど成長したんだね」


黙って見ているとミリアは私に顔を向けて、椅子に深く座り直した。


「アレンは末っ子だし、優しい子だし、女の子のミョエルにもよく泣かされていたし、冒険に出たのは十二歳だったから…。気分的にまだアレンは私の中で成人してない小さい子って感じだったんだ。背が伸びただけで手のかかるボヤーッとした小さい子って」


軽く頷くとミリアは続けた。


「だけど割符がラニアの手元にあって皆が重い空気になってる時にアレンが、じゃあどうする?って真っ先に言ったじゃない。

私はランテとロッシモが死ぬかもしれない、アレンはファミリーに無理矢理入れられて暴力に巻き込まれて死ぬのかもしれないって絶望してたのに、アレンはどこまでも冷静で、まだ時間があるとか割符を取り返そうって提案してきて、少し感心しちゃったんだよね。

それにあんなに軽い口調で大丈夫何とかなるだなんて言われたら気が抜けるというかなんというか…」


ミリアは含み笑いをしながら、


「そりゃあ勇者御一行と一緒に冒険してりゃあ、私たちにも思いもつかないピンチだっていくらでもあったはずだよね。大きくなったなぁって思ったんだ、アレンが。昔は私が守らないとッて思ってたけど、今のアレンを見てると頼っても、任せても大丈夫っていう安心感があるんだよ」


色んなことが不安だらけの中、アレンの成長を目の当たりにしてミリアは少し嬉しがっているようにも見えた。


私もお母様に会ったら、こんな風に成長を喜ばれるのかしらと思いながら、


「私も色々あってこのパーティに入ったんだけど、サードがとにかく怖かったの。でもアレンが自分がいるから悪いようにはならないよって言ってくれたから、安心してずっと旅を続けられてきたのよ。アレンは本当に心の頼りになってくれる優しい人よ」


するとミリアは目を見開いて私を見てきた。


「え?あの勇者様のどこが怖いの?優しい子じゃない」


あ。ついポロッと本当のことを言ってしまったわ。


私は慌てて付け足す。


「サ、サードがあまりに強すぎて怖かったの!冒険者になるまで人が戦ってる姿なんてろくに見てなかったから暴力怖いって思って!アレンは大丈夫ってよく慰めてくれてたから安心してたの!」


ミリアは納得したように頷いた。


良かった、誤魔化せた。

…ん。でも別にサードの本性なんてバレても別にいいじゃない。どうせ表向き用の顔は嘘なんだから。…何で思わず(かば)っちゃったのかしら、私…。



すると、コンコン、と玄関の戸をノックする音が聞こえて、ミリアが「はーい」と返事をした。


誰かが声をかけて来ると思ってミリアも私も待っていたけど、扉の向こうにいる人は名乗りもしないで静かなまま。


「…?」


ミリアは立ち上がってドアに近づくけど、何か嫌な予感がしてミリアの腕を掴んで引き寄せながら前に立ちふさがり、杖をドアに向ける。


「誰?」


なるべく威嚇するように声を低めにして静かに聞いた。ドアの向こうは静かなままで、もう一度誰か聞こうとすると、


「ミョエル…」


という声が返ってくる。


ミリアと私は顔を見合わせる。


今はこのダーツ家とラニアファミリーの間でとひと悶着起きている状態だから、その娘のミョエルを家に入れるのはどうか…。


多分お互いにそんなことを一瞬考えたと思う。でもミリアは私の前に出てそっとドアを開けた。


「わっ!」


ミリアが急に叫ぶから私はミョエルが攻撃でも仕掛けてきたの!?と慌ててミリアの肩を掴んで前に出たけど、目の前に立つミョエルの顔を見てギョッと目を見開いた。


玄関の外に立っているミョエルの顔は目から頬にかけて青あざができていて、鼻からは血が流れてその大きな胸元に血がボタボタと落ち続けている。

でもその目は鋭いままで、私を透かして遠くの誰かを睨みつけているかのように力強い。


ミリアがミョエルを家の中に入れてドアを閉めて、ついでに鍵も締めた。私も慌ててティッシュを持ってきてミョエルに差し出す。


ミョエルはティッシュを差し出す私を一瞬睨んできたけど、それでもすぐにバツの悪そうな顔になって、


「…ありがと」


とムッツリと言いながらティッシュを何枚か引き抜いて鼻を抑えた。


「どうしたのミョエル」


ミリアがミョエルの肩を抱きながら聞くと、ミョエルは力強い目のまま、


「親父に殴られた」


とぶっきらぼうに言う。


なんで、と私やミリアが聞く前にミョエルは眉を吊り上げ、


「割符、探してたの。ヴェルッツェ国の、親父が盗んだ割符」


二人でミョエルに目を向けると、ミョエルはティッシュを血に染めながら続ける。


「あたしアレンが好きなの。二人とも知ってるでしょ」


突然のアレンへの真っすぐな告白にちょっと目が泳いだけど、それは知っているとばかりにうんうん頷く。


「親父はそんなあたしの気持ちを知ってたし、アレンは有能だって子供の頃から気づいてたから、どうにかしてあたしの婿にって考えてた。ミリアさんにも散々冗談めいて言ってたでしょ。アレンをあたしの婿に欲しいって」


ミリアもただただ頷いている。


「だけどアレンはあっさり冒険者になって、冒険者になったあとは一切手紙も送ってこない。親父は自分がどこに居るか分からなくするためだな、逃げるのが上手いやつだって言ってたけど、本当はどうだか。普通に面倒くさくて書かなかっただけでしょ」


ミョエルはそう言いながら睨むように見てくる。その目にちょっと気圧されて言い淀んでから、


「まあ、筆まめではないかも…」


と返しておいた。ミョエルは血に染まったティッシュをゴミ箱に捨ててもう一枚ティッシュを取り、鼻に当ててから続けた。


「だから親父は今回アレンが帰って来たのを逃す手はないって思って、こんなことをしたの。こうでもしないとアレンはあたしと結婚するって言わないだろうって。だけど…」


ミョエルの眉間に深いしわが寄って目じりも吊り上がり怒りの形相になる。


「そんな汚い手を使ってアレンと結婚したって、あたしは嬉しくもなんともないの!」


怒りの声で言いながらミョエルはこぶしを握り締めつつ、私がラニアだとばかりにギッと顔を向けてきたから、思わずヒッと飛び上がってミリアの影に隠れてしまった。


ミョエルはまだ私がラニアだとばかりに指を突き付けてきて、


「あたしはあたしの魅力でアレンを落として自分の物にしたいの!家族の命を取るか、あたしと結婚するかの二択から選べって何それ!?親父は全っ然あたしのこと考えてない!ただ男の自分の跡継ぎが欲しいだけ!子供は女のあたししかいないから!ざけんじゃないよ!」


ミョエルは怒りに任せて自分の両手で頭をかきむしっている。


興奮しているせいで鼻血が止まらずボタボタと胸に垂れているから、私はティッシュをもう一枚とってミョエルにそっと渡した。

ミョエルはそのティッシュを奪い取ると鼻に詰めて力強い目のまま話し続ける。


「だからそんなのごめんだって割符を探して見つけたと思ったら親父にも見つかって!口論になって!つかみ合いになって殴られて睨みつけたら!なんだその目はってもう一発殴られた!

クッソ、クッソ!あたしにもミリアさんみたいな力があれば一発で顎砕いてのしてやるのに、あのクソ親父が!」


ミョエルは怒りに任せて床にダンダン足を叩きつけるけど、ミリアが身体能力向上魔法で床に足を叩きつけた時みたいに床板は割れはしない。


するとミリアは腕を広げ、ミョエルをギュッと抱きしめた。ミョエルはミリアに抱きしめられると目を見開いて、口をつぐんで大人しくなる。


「…」

ミョエルはバツの悪そうな顔でミリアを見る。口をわずかにモゴモゴと動かしているけど特に何を言うでもなくて、ミリアの後ろにいる私もチラと見て気まずそうに視線を落とした。


大人しくなったミョエルはスッとミリアの腕から逃れて、悪い事をしたのが見つかってしまった子供みたいな顔で、ミリアに向かって頭を下げた。


「親父が…ごめんなさい…。でもあたしだってランテとロッシモは死なせたくない。あんな稼業の子供のあたしを、昔からアレンと分け隔てなく可愛がってくれてたから…」


そう言いながらミョエルは軽く頭を上げて私を真っすぐ見ると、


「エリー…さんも、この間は怒って髪の毛掴んだりしてごめん…」


急に謝られて驚いたけど、それでもこんなに堂々と謝るなんて…。ラニアとは違ってミョエルはどこまでも真っすぐな人なんだわ。

ずっと好きだったアレンと一緒にいた私に頭を下げるなんて、きっと屈辱に近いはずなのに。


いいのよ気にしないで、と言いながらミョエルに頭を上げるようにしながらも、私は聞いた。


「ところで…割符を見つけたってさっき言ったわよね?どこにあるか分かるのよね?」


あまりにもミョエルが怒っていたからさっきは聞けなかったけど、確かにさっきミョエルは「割符を見つけたと思ったら親父にも見つかった」って言っていたわ。


ミョエルはまだバツの悪そうな顔をしているけど、頷いた。


「割符のある場所は…」

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