奪還作戦、始動
カルボナーラを食べ終わった後サードは、
「少し私たちだけで話がしたいので」
と言いながら勇者一行の私たちを引き連れてサードが寝泊まりする部屋の中に入った。
全員がサードに目を向けると、サードは裏の顔になって振り返る。
「面倒なことになったな」
第一声にそう言い放ってサードはベッドに座った。この部屋には椅子が一つしかないから、アレンは私に椅子を渡してくれて、アレンとガウリスは立っている。
「割符を取り返せばいいんだろ?」
「手っ取り早く言えばそうだけどよ、犯罪組織のボスの部屋なんて楽に入れる所じゃねえぞ」
アレンの言葉にサードは呆れた顔をしてから皆に目を向ける。
「まず問題点だ。アレンの言った隠し扉の番号が分からねえ、本物の割符がどんなものか分からねえ、偽物と本物の割符を見分ける方法がねえ、面が割れてるから下手に動けねえ」
「そうね…下手に動けば本物の割符が燃やされたりバラバラにされるかもしれないし…」
そう言うとサードは首を横に振った。
「あの割符はこの家の奴らを脅すには重要なものだから簡単に手放すわけがねえ。だからどこかに厳重に管理しているはずだぜ、俺ならそうする」
俺なら、の所でサードを頼もしくもあり、呆れも感じた。
サードの頭の回転はとても速くてこのような時はとても頼りになるけど、その回転の早さはほぼ悪事に沿って考えているんだものね。
フェニー教会孤児院のシスターはサードが悪事に身を寄せるようになったらって不安に思っていたらしいけど、気持ちは分かるわ。
だってサードは悪いことを悪いと知った上で悪事に手を染めるんだもの。
まあそのおかげで助かった人がいるって事実もあるから、そのことを引っ張り出されたら私も強くあれこれ言えなくなるんだけど。
でもサードが冒険者にフェニー教会孤児院じゃなくてのランジ町辺りに連れてこられていたら…確実にラニアの傘下に入って持ち前の頭の回転の速さを生かして第二のラニアみたいな存在になっていたかもしれない。
そう考えるとサードがフェニー教会孤児院に連れて行かれて本当に良かった。
でも今はそんな事を考えている場合じゃないわ、まず割符を取り返す方法よ。
私はアレンに目を向けて聞いた。
「アレンは、ああいう割符はよく見ていたのよね?ヴェルッツェ国の本物の割符がどういうものか分からない?」
私にはただの変な形の木の板としか思えなかったけどアレンは一目で割符と分かっていたんだし、一番見慣れているアレンなら少しはどんなものか予測がつくかもしれない。
アレンは「うーん」と言いながら腕を組んで首をかしげる。
「俺、あのタイプの割符は初めて見たし一瞬だったしなぁ…。大雑把になら覚えてるけど細かいところまでって言われたら無理」
サードは部屋の中に置いてあった鉛筆をアレンに渡し、
「一応どんなもんだったか描け」
と言いながらその辺に乱雑に置かれていた裏が白紙のビラを渡してくる。
「えーと、上には丸の中に何かの紋章…多分ヴェルッツェ国の公認だよっていう紋章が彫られてると思うんだよな…。
大体その下には『ヴェルッツェ国~シュッツランド国間貿易船』とか『シュッツランド国ランジ町』っていううちの国と町の名前、あとは『ヴェルッツェ国なんとか町』っていう貿易のやり取りする向こうの町の名前が書いてるはず…」
アレンは机の上にかがんでサラサラ描いていく。
「こんなもんかな。あとあれは割られた木札の左側だった」
とサードに渡した。
サードとガウリスがそれを見ているから私もそれを覗き込んで、
「この紋章の円の縁はピンク色だったし、この辺の文字は水色に彩られていたわ」
と補足で付けたしながら紋章と文字の部分を指さす。
「エリーすごい、そんな所見てたんだ」
アレンに褒められて少しはにかみながら、
「綺麗な色だなって思って覚えてたの」
と返す。
それを聞いたサードはアレンから鉛筆を受け取ってピンク、水色、と書き加えた。するとアレンがそういえば、と言いながら口を開く。
「ラニアがずっと割符の下の部分を手と指で隠しててさ。あそこらへんは何も書いてない場合が多いんだけど、たまに『輸入物一部税の免除あり』『海関税免除』とかペンで後付けで書かれてたりする場合があるんだ。
でもヴェルッツェ国とは初めて貿易のやり取りするからそんな免除はないはずだけど」
アレンは補足的に付け足しながら紙に書いた割符の下部分を指さす。
「でもあの持ち方はわざと隠してたから何か書いてると思うぜ。もしラニアの家で割符を見つけて喜んでヴェルッツェ国に行ってからここの文字も違ってたら、それ持って迎えに行った人がまた牢屋送りになるし」
サードは文字が書かれている可能性あり、と紙に書き加えながら、
「そのことも考えたうえでわざと下の文字を隠して本物かどうか分からなくしたって所か…。だがまあ偽物の割符でも使い道はあるからな」
と呟きながら紙を折りたたんでポケットにねじ込む。
「あとはその割符がその絵の裏側にあるか、それとも別の所に保管してるかだ。アレン、お前ラニアの家の見取り図書け。そんで他に割符置いてそうな場所があれば教えろ」
サードの言葉を聞いたアレンは、
「それならいいのがあるぜ」
と言いながら部屋から出て行った。それからしばらくして戻ってきたアレンは手に持っている丸められた紙を広げる。
サードはそれを見て思わずニヤッと笑った。
私とガウリスもその紙を見ると、詳細な家の間取りが書かれてある。
その一番上の端には「ラニアん家」と子供の文字が…。
「えっ、これラニアの家の見取り図!?」
私が驚くとサードは満足気に紙をみながら、
「お前いいもん持ってんな、お前が書いたやつか?」
「子供の時によく読んでた『ぼうけん者のお仕事~商人へん~』って本に、家をダンジョンに見立てて地図を書いてみよう!ってページがあってさ。
うちよりラニアの家の方が大きいからやりがいありそう~って歩きながら間取り覚えて、これは家に帰ってから覚えたの清書したやつ。旅出てる間に捨てられたかなって思ったけど俺の部屋に残ってた」
私はラニアの家の玄関までしか行っていないけど、ラニアが出て来た奥の扉、それにアレンとミョエルがやって来た右の通路…全くその通りに書かれているわ。
文字を見ると子供だけど、間取りの正確さは子供が書いたとは思えないぐらい。やっぱり昔からアレンはこういうのが得意だったのね。
「これ借りるぞ」
と言いながらサードはそれを机の上に置いて、ふと真顔になってアレンに視線を戻した。
「なあアレン」
サードに呼ばれてアレンは「ん?」とサードに視線を向ける。サードはアレンに指を向けた。
「思ったんだが、お前がミョエルをタラシ込んで割符の場所調べさせた方が早えんじゃねえの?」
「え…」
アレンは表情を曇らせて勘弁してくれよ、と首を横に振る。
「無理無理、ミヨちゃんすぐ手と足が出るから。今日だって付き合ってないしそんな恋愛の目でミヨちゃん見れないって話したらすげえ腹蹴られて、近くにいたファミリーの人たちがミヨちゃん取り押さえて間に入ってくれて助かって…」
アレンはその時のことを思い出したのか、お腹を押さえて悲しげに「痛かった…」と震えながら呟いて、ガウリスは慰める表情でアレンの肩を叩く。
アレン…。顔を見る限りビンタはされてなさそうって思ったけど、手じゃなくて足が飛んできていたの…。
アレンに同情的な目を向けてから、私はサードを見る。今のサードの言葉で分からない単語が出てきたから。
「ところでタラシこむってどういうことするの?」
未だにサードからは普段私が聞かない言葉が出てくるのよね。
「うまい言葉や甘い言葉でだますってことだ。平たく言やあミョエルの気持ちを利用した色仕掛けだな」
ミョエルの気持ちを利用して…うまい言葉や甘い言葉でだます…?
私はアレンと同じように表情を曇らせてから首を横に振った。
「それはダメ。賛成できない」
そりゃあアレンがミョエルに「なぁミヨちゃんお願い、お願い」って甘えるようにすり寄って頼むだけでミョエルはすぐに割符の場所を探し出したり協力してくれるかもしれない。
でもミョエルのアレンに対する気持ちは本物だもの。
本物だからこそ七年もアレンのことをずっと待っていたんだし、嫉妬のあまり自分の髪の毛を掴んで…まあ色々とやったんだ。
ミョエルが私の髪の毛を掴んだ時の怒りの形相を思い出すと何ともいえない気持ちにもなるけど、それでもそのあとアレンに叱られて涙を流しながら走り去っていったミョエルの姿も思い出す。
アレンの言葉一つであんなに瞬間的に怒って、泣きだすほどミョエルはアレンのことが好きなのよ。必要な物のためにその本気の気持ちを利用してだますなんて賛成したくない。
「…」
サードが私を見ていて、私は「ん?」とサードを見た。その目は何か言いたげだけど、目を合わせてアイコンタクトしても何が言いたいのかよく分からない。
「…なに?」
よく分らないから聞くとサードはふっと目を逸らして、
「じゃあそれはやめにする」
と簡単に言った。
…もしかしてサードは私が未だにアレンのことを密かに好きだから、アレンがミョエルをタラシ込むのを反対したとか思ってるんじゃない…?
でもサードが本当にそう誤解しているか確認する術はないし、
「じゃあこの見取り図見て色々考えてみるわ」
とサードはミョエルをタラシ込む話題を終えて次に考えが移っているから、私も黙っておく。
「アレン、お前はまず本物の割符を手に入れたあとすぐに動けるよう船を手配しておけ。ガウリスは…」
サードは裏が白紙のビラに鉛筆で何かをガリガリと文字を手早く書き込んで、
「これに書いてる通りに動いてくれ。重要な役だぞ」
とガウリスに何かの紙を渡す。その流れで最後にサードは私に目を向けて、
「エリーは…」
と言うから、私は何をするのかしら、と真面目な顔でサードをジッと見る。
「さらわれないように用心しろ。以上」
そう言ってサードは立ち上がってドアを開くと、
「私は町の様子を見に出かけて参ります。夜になったらまたこの部屋に集まって情報交換をしましょう、では」
と表向きの顔になって去っていった。扉を閉めて去っていくサードを見送り、
「え…私がやることってそれだけ?」
と肩透かしを食らった気分でアレンとガウリスを見ると、
「大事なことだよ」
とアレンは真面目な顔で言って、ガウリスも真面目な顔で何度も頷いた。




