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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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アレンの実家

それから二日かけて私たちはアレンの故郷だというランジ町にたどり着いた。


確かに海が近いのか、どこからともなく海の潮の香りが漂ってくる。


「うわー懐かしいー」


シュッツランド国に入った時もアレンは同じことを言っていたけど、あの時と同じノリの言葉だわ。それでもあの時よりもはるかにテンションが高くて、ウキウキとした顔でさっさと歩いていって、


「俺んちこっちなんだよ。俺の家族皆いればいいだろうけど、皆色々と仕事してっからそれは厳しいかな」


と言っている。


「え、ええ…」


アレンの言葉に返事はするけど、それより何なの…?

通り過ぎていく男の人たち全員が私の横を通り過ぎる時ガッツリと私を見てくるし、投げキスをしてくるし、口をチュチュチュ、と動かしてきたり、


「お嬢さん、可愛い!どこからきたの?」


と声をかけてきたり、急に目の前に男の人が立ち止まったかと思えば空を見上げだして、


「…天国は粋な計らいをしてくれるな…」


と呟いた後、


「だって…俺の目の前に天使をよこしてくれたんだからね!」


とバチコーンとウィンクしながら言ってきたりする。


わりとシュッツランドに入って来たときからそのような男の人は多かったけど(フェニー教会孤児院辺りは少なかった)、この辺りは特にひどい。


こんなに通り過ぎる男の人たちに声をかけられるなんて未だかつてなかったから、男の人に声をかけられて嬉しいというより怖いという感情しか湧かない。


だから隣にいるガウリスの服をしっかり握りしめて移動している。


シスターとパエロにトマスがアレンの出身地を聞いて気まずそうな顔つきになって、私に一人にならないように、と忠告してきたのはこのことだったのね…。


「そのように脅えなくても…。声をかけてくるだけじゃないですか」


ガウリスがそう言うけど、私は首をふるふると横に振る。


「やだ、なんかやだ、怖い」


「エリー、ゼルスに襲われそうになってから男性恐怖症になってませんか?」


「そんなことないわ」


サードが冗談まがいに言ってくるから私は首を横に振って、ガウリスにサード、少し遠くを歩いているアレンを見る。


「三人は怖くないもの」


単純に声をかけられ続ける今の状況が怖いだけだし。


「…ふふ」


ガウリスは微笑んで私の背中を軽くポンポンと叩いて、サードは一瞬裏の表情になってうっすら開いた目で私を見ていたけど、ふい、と前を向いて歩き出した。


そんなサードとガウリスの対応に、何かあったの、とガウリスを見上げると、ガウリスは微笑んだまま私を見下ろしている。


「女性に信頼されるというのは男としては嬉しいものなのですよ」


「…ああ、そう?」


「行きましょう、アレンさんがずいぶんと先を歩いています」


ガウリスはそう言いながら促す。前を見ると確かにアレンがずっと先を歩いているわ。


そうしてどんどん歩くアレンの後ろを追いかけて、路地を進んで曲がってを繰り返して少し小高い所にある家の扉をアレンは大きくノックした。


「ただいまー。俺俺」


アレンが扉を叩き続けていると、扉がガチャッと開く。


そこに居るのは…え?髪の毛の長い女体化したアレン!?


家の中から出てきた髪の毛の長い女体化したアレンは目を見開いて、家の外にいるアレンに強くしがみついた。


「おかえり!アレン!」

「ただいま母さん!」


アレンも強く抱き返して女体化した髪の毛の長いアレン…じゃなくてアレンのお母さんを抱え上げてクルクルと回っている。まるで恋人同士の再会みたいじゃないの。


アレンが下にお母さんを降ろすと、お母さんはもう一度アレンをギューッと強く抱きしめた。


「七年も手紙の一つもなしで!お前が無事なのかどうなのかも分からないからずっと心配してたんだよ!」


「ごめんごめん、手紙書くの面倒でさ」


アレンのお母さんはその一言にギッとアレンを睨みあげたけど、後ろの私たちに気づくと私たちに向かって来た。


「こちらの方たちは?」


「仲間だよ。この黒髪がサード、俺らのリーダー。こっちの金髪の女の子がエリー。こっちの金髪の男の方がガウリス」


アレンのお母さんは少し時間が止まったような顔になって、アレンを見上げて、改めて私たちに視線を向けて、アレンの顔をまた見上げた。


「…随分と勇者御一行と同じ名前の人が揃ってるね?」

「いや本人だから」


アレンがアハハ、と笑うと、アレンのお母さんは驚愕の表情になってアレンを見上げた。


「え!?じゃああんたが勇者御一行の武道家のアレン・ダーツなの!?てっきり同姓同名の人だと思ってたんだけど!?」


と言いながらアレンのお母さんは混乱の表情のまま、


「ええ!?じゃああんたが深淵の森でモンスターごと万年巨木を倒したっていうの!?本当に!?」


アレンは困ったように笑いながら手を振った。


「そんなわけないじゃん。俺がそんなに強いと思う?」


アレンのお母さんは納得したような顔つきで、そう、と少し落ち着いた。


そして、ふっと自分の自己紹介をしていないのに気づいたのか、


「ごめんなさいね、挨拶が遅れて。私はミリア・ダーツ。この子のお母さん」


と言いながら順々に握手をしていく。


アレンのお母さん…ミリアはまるっきりアレンが女体化した時と同じ見た目だわ。違うのは髪の毛の長さぐらいのもので。


「けどねぇ、なんでアレンが勇者様の一行に入ってるんだか…うちの子、役に立ってる?なにか事情があって入れてあげてるの?」


未だに信じられないのかミリアがサードに声をかけて、サードは首を横に振った。


「いいえ、私がアレンに仲間になりませんかと持ちかけたのです。アレンは昔からお金の扱いや地図にも強く、そこまでかかる資金面や日数などの計算も一流ですし、私たちを日々バックアップしてくれていますよ。

それに最近は身体能力向上魔法も覚え始めましたし(じょう)も手に入れたので、戦闘面でも期待できそうです」


サードがにこやかに言うとミリアは頬を抑えて、


「あらぁ、そーお?」


とホッとしたような笑顔で嬉しそうに言った。そしてドアを大きく開けて、


「さあさ、立ち話もなんだから中に入ってちょうだい」


と中に私たちを招き入れる。


「他の皆は?」


アレンが家の中をキョロキョロしながら聞くと、ミリアは少し残念そうな顔つきで、


「ランテとロッシモは遠くに出ててあと一ヶ月は帰ってこないのよ。でもドミーノは二階、ブラスコは明日になれば帰って来ると思うよ」


アレンもミリアと同じような少し残念そうな顔で、


「そっかぁ、父さんとロッシモは仕事で遠征かぁ」


すると二階の方からドアの開く音と、階段を降りる音が聞こえてくる。皆で音のする階段の方を見ると、アレンは嬉しそうに顔を輝かせて、手を広げながら、


「ドミーノ!ただいまー!」


と駆けだした。


ドミーノと呼ばれた人は駆けてくるアレンを見てウッと引いて後ずさりしてわずかに逃げたけど、すぐさまアレンに掴まってきつく抱擁された。


「久しぶりー!元気だった!?」

「ぐえええ…」


ドミーノはアレンの背中をバシバシ叩いて引き離そうとしているけど、力負けして全く引き離せていない。


やっとのことでアレンが離れると、ドミーノはアレンを怪訝(けげん)そうな顔で見上げて、恐る恐ると、


「お前…アレンか?」


と聞いた。


アレンがうんうん頷いていると余計に怪訝な顔になって、


「ずいぶん…一回り以上でかくなったな…母さん方の血か」


とアレンを見上げている。でもふと表情を変えて、


「それより手紙も寄こさないで何してたんだ!どこかで死んだんじゃないかと心配していたんだぞ」


とアレンの体を両手でパンッと叩いて怒っている。


見るとドミーノは赤毛じゃなくて濃い茶色の髪の毛で、アレンより頭二つ分ほど背が低い。それも穏やかにニコニコ笑ってるアレンと比べて微笑みの欠片もないクールな厳しい表情。

見る限り全然アレンと似てないわね…。


アレンは怒られているのに、へへ、と笑いながらドミーノの肩に手を回すと、階段下にいる私たちに手を向けた。


「見て~。俺の仲間。あの黒髪がサードで俺らのリーダー…」


とミリアに説明したのと同じように紹介すると、ミリアがあのねぇ、とドミーノに声をかけた。


「この人たち、勇者御一行なんだって」

「…え?」


「勇者御一行の中にアレン・ダーツてのがいたじゃない、うちのアレンだったんだって」


「…ええ?」


ドミーノが目を見開いて、嘘だろ、とばかりにアレンを見た。


「俺はおまけだよ」


アレンがそういうと、ドミーノは納得したかのような顔になった。


「けど勇者様から随分と褒めてもらったんだよ。皆の足を引っ張ってないみたいで本当に良かった」


…どうもミリアとドミーノの中でアレンの評価が低い気がするわ。私はアレンのおかげで今までやってこれたのに。


「本当にアレンは色々と凄いのよ。私たちでも知らない情報フラッと持って帰って来るし、人当たりもいいから交渉事も上手だし、うちのパーティのまとめ役よ」


アレンのことをもっと認めてよとばかりに口を出すと、ドミーノは私をジッと見た。


「噂通り、エリーとは美しい人だな」

「うん。エリー可愛いだろ最高だろ」


アレンは自慢するかのようにドミーノに言う。ドミーノはアレンを見上げる。


「…随分自慢げだな、まさか俺の彼女だとでもいうつもりか?」


「まさかぁ。エリーは妹みたいなもんだもん」


ふんふん、と鼻歌でも歌いだしそうな軽さでアレンは言う。


サードが微妙に私の顔色を伺ってくるから、もう私だってそんな気持ちは無いわよと睨み見返して、ふん、と顔を逸らした。


「あ、けど」


アレンがハッとしたように声を出すから全員がアレンを見る。


「最近ヒエラルキーが変わって妹っていうより姉さんみたいな感じになってる気がする。最近よく俺エリーに叱咤激励されてる」


「アレンがこんな可愛い子に相手にされるもんか。ほらほら、立ち話もなんだからあっちで座ってくつろいでちょうだい。アレンも今までの話を聞かせてもらうよ。ランテとロッシモにも聞かせてあげなくちゃいけないんだから」


とミリアは言いながら進んでいく。


「…相手にされてたのにな」


サードが隣でボソッと呟くから、もういいとばかりにサードの腕をグーで殴った。

学生の頃イタリアに行きたいと言ったら、

「イタリア男目当てだな~?」

と大体の人がニヤニヤしてきましたが、ピザ目当てだよ。本場ピッツァ。

あとマスカレードの仮面が欲しい。マスカレードの仮面がめっちゃ欲しい。見てるだけで心躍る。

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