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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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出発前の和解

それから数日、私たちは孤児院で厄介になっている。


相変わらず私は子供たちに振り回され、サードはどこかに消えている。きっと夢の中で見た通り屋根の上にでもいるんだと思うけど。

私も屋根の上に避難しようかと思ったけど、孤児院の横にある高い木は登ろうとしても登れる高さでもないし、私が移動すると子供たちもぞろぞろとついてくるから木を登るチャンスもなかった。


そういえば私に「誰と付き合ってるの?」と聞いて来る女の子たちも何も聞いてこなくなった。


アレンがそんな質問されてウンザリしている私の後ろから、


「エリーすごいモテるんだぞ!海賊の副船長に結婚してくれって言われたし、サンシラの近衛隊長にもこの髪飾り貰ったし。

そうそう、サンシラ国でもすげー人に見初められてさらわれて、他の人にも嫁さんにならないかって言われてほっぺにチューされてたし。ファジズからも熱烈に愛されてるしさ、エリーが本気出せば誰とでも付き合えるんじゃね?」


その言葉に女の子たちは、キャー!と黄色い声を上げてキャイキャイと騒いでいて、その後はその海賊のガシマシの事から近衛隊長のジリス、そしてゼルスにバーリアスやファジズのことを聞かれるだけで、あとは誰とつきあっているの、と聞かれることもなかった。


そんな女の子たちを見て軽く納得した。


この女の子たちは私が誰とどうなっているかはどうでもよくて、ただ私が周りの男性陣にどうチヤホヤされて好かれているのかを知って、私を通して恋愛体験の世界に浸りたいんだわ。


女の子たちの目は、エルボ国での友達が好きな男の子からどんな風に愛されて、それからデートをするのかを語っていたときと同じ目をしていた。


私とは違って恋愛にとことん興味のあった友達のことを思い出すと懐かしくて、そうと分かれば今まで会ってきて仲良くなった男の人のことを色々と話して聞かせた。


もちろん、ゼルスに襲われかかった話は子供に聞かせられないし、ゼルスとバーリアスが神だということは話し辛いし、ファジズが魔族だということも話し辛いし、ガシマシに至っては商船を襲って人を殺し続けていた悪人だから話題にもしなかった。


…というより、本気を出して付き合いたいと思ったアレンはあっさり私を振ったんだけどね。


そもそも好意を持たれていたとも告白されたとも未だに気づいていないでしょうね。今更恋愛感情は湧かないからどうでもいいけれど。


そんな風にアレンのおかげである程度子供たちとの距離感が分かり始めてきたころに食事の時間になって、いつも通りの配置で食卓につく。


パエロもガウリスから言われた、信仰は神とその者の間に成立するもので第三者が割り込むと話がこじれるという言葉を聞いて以降、サードに名字のことや信仰のことを話すことは無くなって当たり障りのない会話をして、サードもそつのない対応をしている。


そんな時、サードは顔を上げた。


「明日の朝、子供たちが起き出す前に私たちはお(いとま)しようかと思います」


え、と目の前に座っているシスターとパエロとトマスが一斉に顔を上げる。


「そんな、もう少しゆっくりしていっても…」


シスターが哀し気な顔になって引き止めようとするけど、サードは首を横に振る。


「今は目的がありますので、いつまでもゆっくりしているわけにはいかないのですよ」


「何か依頼でも受けているのですか」


トマスの質問にサードは軽く答えた。


「肩書上、勇者ですからね。色々と依頼は多いんですよ」


「どんなことがあるの?」


シスターが聞くとサードはシスターに視線を合わせて、


「まずはこのアレンが故郷に七年戻っていないのでそちらに顔を出してから、北東のある国へ向かいます」


トマスの質問にはのらくらとした返答しかしなかったのに、シスターの質問にはある程度具体的に答えているわ。信頼感の差ね、これ。


「そういえばアレンさんはこの国出身なのでしたっけ。この国のどこなのですか?」


パエロが聞くと、アレンは口の中のものを飲み込んでから口を開いた。


「ランジ町だよ。港町の」


シスターと神父二人は少し口をつぐんで一瞬気まずそうな顔をした。その表情を見たアレンは、


「ん?」


と顔を上げて、俺何か変なこと言った?という顔をしている。


「あ、いいえ、アレンさんはランジ町の人に見えなくて…」


シスターが気分を害したのならごめんなさい、と謝るけど、アレンはすぐに笑った。


「あはは、俺もよく言われてたよ。そもそもシュッツランドの男っぽくないって」


そう言えばアレンの出身はこの国で港町で船があって四人兄弟の末っ子というのは聞いていたけれど、住んでいた町のことは特に聞いてなかったわ。


「アレンの住んでた町ってどんなところなの?」


気になったから聞くと、アレンは目を輝かせて私に顔を向けた。


「いい所だよ。海も近くて綺麗だし、港町だから人も多くて賑わってるし、何よりすぐ隣が海だから魚とか貝が新鮮で美味い!」


アレンはドヤァという表情をしたけどすぐに表情を変えて、


「けどまあ、港町で色んな人がいるからここよりは治安悪いかもな。この町はこういう教会が拠点になってできた宗教色の濃い町だから平和的な人が多めな感じけど、海の男って性格荒いしさ」


そう言っているアレンも船に乗っていたんだから海の男なのよね、一応。でも性格は全然荒くないし穏やかだし、海の男らしくないと言われればそう思えるわ。

そういう所がランジ町の人っぽくないってことなのかしら。


ふーん、と思いながら向かい側に座っているシスターたちをふと見ると、一様に心配そうな顔をして私を見ていた。


…何その顔?


三人は私の表情を見て、パエロが何か言いだそうとしたけど、その町出身者のアレンがいるから滅多なことは言えないという顔で口を閉じて、


「…一人にならないようにしてください」


とだけ言った。


何のことかと思いながらも私はとりあえず頷く。


そりゃあ、知らない町でいきなり一人になるなんてしないわよ。


* * *


次の日。

サードが言った通り私たちは子供たちが目覚める前、日の出とともに教会孤児院の外に出た。


早くに出るとは聞いていたけど何でこんなに朝早く、と軽く文句を言うと、子供たちが起きている時に去ろうとすると面倒くさそうだからとのことだった。


シスターもパエロもトマスもそのころにはとっくに起きてボランティアの人たちと一緒に朝ごはんの準備をしていたけど、通りの先まで見送りに来てくれた。


「サード、久しぶりに会えて本当に嬉しかったですよ。どうかこれからも元気で」


シスターは泣きながらサードの手を握った。


「泣かないでください、今生の別れみたいじゃないですか」


サードがそう言いながらシスターの肩を軽く叩く。シスターはハンカチで涙をぬぐいながら、


「私ももうこの齢なのです、次に会えるかどうかわからないじゃないですか」


「そのような気弱なことを言わず長生きしてください。近くに寄ったらまた来ますよ」


「ああサード…」


シスターがサードを抱擁すると、サードは身を強ばらせて、微笑みながらもどこか落ち着かない表情で遠くを見ている。シスター相手でもハグされるのは苦手なのね。


「サード、元気で」


シスターが離れたあと、パエロが手を差し出すとサードも軽く握って、


「あなたもお元気で」


とそつなく言い返す。パエロは少々気まずそうな顔で視線を下に向けながら、


「…私は…一つ名のお前の身に何かあればと思うと心配で、だから苗字を洗礼名をと言っていた」


と話しだすとサードが顔を上げる。


「それが押し付けのようになっていて不愉快だったのなら…すまなかった。いきなり冒険者になってここを出るほどにサードは嫌だったのだろう。ただそれでも私は私なりにサードのことを心配していたということは…少しでも理解して欲しい」


サードは少し黙ってパエロを見返して、一呼吸置いてから口を開く。


「…私が元々いた所で、ここで信仰しているのとわりと似たような宗教がありました」


その言葉にパエロも顔を上げる。


「しかし私の国ではその宗教を排斥(はいせき)しました。その理由などよく分かりませんが、神経質なくらい弾圧し、それを信仰しているのが分かればむごい仕打ちで殺されると聞いていました。それがあったので少々こちらの宗教に関しては…あまり良くない先入観がありまして」


サードはパエロから手を離して続ける。


「それに何度も申している通り私はここに来る前は宗教施設に厄介になっていましたので、私なりに宗教との付き合い方を学んでいます。ですからそのように心配などしなくても結構なのですよ」


それでも何とも納得してなさそうなパエロの表情を見たサードは、ほんの少し面倒くせえ野郎だという表情をチラつかせながら身を乗り出す。


「私の住んでいた所の宗教では神…ホトケとも呼ばれていましたが、神がどこに居るかご存知ですか?」


サードがそう言うと、


「天の上だろう?」


パエロは即座に上を指さす。


サードは笑った。


「もちろん天にも居ます。が、神とはこの世全てを表していました」


「この世…全て?」


「ええ。私たちが立っている地面、その上のこの空間、空、空の上に見える星、その全てが神そのものです。そうなるとどうです?私たちは神の体の中で生活しているのですよ」


ポカンとしているパエロにサードは続ける。


「私が生まれ育った国では至るものに神が宿る自然信仰が盛んでしてね。山に神がいれば川に神もいる。木にも神が宿れば動物にも神が宿る。

そうやって他宗教が入り混じると神はこの世全てという考えも広まり、家の中の玄関、来客室、リビング、トイレやかまど、井戸を守る神も現れ、今度は百年使うとただの物であれ神になる思想が発達して…」


「待て、待て待て待て!それは…ほとんど神々に囲まれて過ごしているも同じではないか!それも新しい神が百年ごとに生まれるだと…!?」


パエロが思わず話を止めるとサードはニッコリ微笑む。


「そうです、パエロ神父。目に見えずとも私の国では八百万以上の神々に囲まれ見守られ生きているのが当たり前だったのです」


「神が、八百万…以上…!?」


パエロの絶句の呟きにサードは続ける。


「それに人も神の一種であると考えられていました。人の心の奥深く、そこは神と繋がっていて神が宿っていると。そうなると私の中にも神がいて、パエロ神父の中にも神がいます。この世命あるものすべてに神が宿っている」


パエロは驚いたように目を見開いて、まるで雷に打たれたかのような顔つきになった。


「人の心の中に、神が…」

「ええ」


「いつでも私たちの中から見守っていると、そういう考えか」

「そこはご自分でお考えください」


パエロはまだ雷に打たれたような顔で黙ってサードを見ていたけれど、段々と名残惜しそうに首を振りだして軽く笑った。


「…こんな別れ際ではなく、もっと早くに今のような話をしたかったな」


するとサードは鼻であしらうように笑う。


「まあ、自分の中だのあちこちに神がいるとでも言っておけば、子供を大人しくさせることができて大人が楽なんだと思いますよ」


パエロの表情が崩れた。


「そこまで説明したくせになんでそこで投げやりになる」


「形の上では納得していますが、目に見えないものを心からは信じられませんから」


「それを信じるのが信仰であり宗教じゃないか」


「無条件で目に見えないものを信じるなんて恐ろしいことだと思いませんか。それとも私が神だと言ったらパエロ神父は私を無条件で崇めるおつもりですか」


サードがそう言うとパエロは口をおかしそうに歪めて、あっはっはっはっと笑って楽しそうな目つきでサードを見返す。


「口が達者なのは昔から変わらんな。どうしてそれほど宗教を理解していながら否定するんだお前は」


サードも少しおかしそうに軽く笑った。


「あなたも知ってる通りの性格なもので」


そう言うと二人して笑い合っている。


あっという間に打ち解けたかのような二人をみて、シスターも少し驚いたのか泣き止んで二人を見ていた。


「あのこれを…」


トマス神父がそっと近寄ってきて、私たち全員に一枚の布を渡していく。見ると白い布に三つの赤い点がついているもの…。


「これは神のお守りです。これがあれば魔族やそれに近い者からの災難から三度守って下さります。どうかお持ちください」


「ありがとうございます」


全員でトマスに感謝の言葉を述べて、神のお守りを受け取った。


「では」


サードはそういうと頭を下げて歩き出して、私とアレンは手を振り、ガウリスも軽く頭を下げてから歩き出した。

※このお話は架空のものであり、実在の人物・宗教・団体とは一切関係ございません

※このお話は架空のものであり、実在の人物・宗教・団体とは一切関係ございません

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