えっなに!?なにごと!?
「それでその時サードってばこんなことを言って…」
「あらあら…いけない子ねぇ」
サードの子供のころの話が終わった後も、私とシスターはサードのことで話し合っていた。
っていうより、今までサードの性格の悪さを誰にも言えなかったうっ憤を晴らしているといったほうが正しいのかも。
シスターは何を話しても受け入れてくれて、たまにサードをかばいもするけど私が思わず眉をひそめるような出来事を言うと、それはいけないわね、と苦笑するやら申し訳なさそうな顔をするやら私に同情するやら…。
でもあまりにも強くサードを責めるような言い方をしたらシスターも傷つくかもしれないから言い方もマイルドにしてはいるけど…。
でもシスターは旅の道中でのサードの話を聞いていると楽しそうなのよね。風の噂で聞く完璧な勇者エピソードより、実際どんなことをしてのけたかの話を聞いた方がサードの本当の話が分かって嬉しいみたい。
「そうしたらその時サードが…」
話している途中で不意にゴトゴトッとベッドの下から物音がして、私は口をつぐんで音のした方向を見た。
「ああ、今のがネズミの音だと思うのですが。音からして大きそうでしょう?」
シスターはそう言っているけど、ネズミにしては…音がおかしいんじゃないかしら。ネズミってもっとこう、トトトトッて小さい足音で素早く動くと思うし、今の音って人が物にぶつかった時の音みたいじゃない…。
私はシスターに失礼、と声をかけてからロウソクを持って、ベッドの下を照らしてみる。
ベッドの下はほんのり薄暗いだけで動くものはない。
もしかしたら床下から聞こえたのかしら、それでも音の近さからすると部屋の中の、ベッドの下だったのだけれど…。
ロウソクの火でベッドが焦げないように気をつけながらもっと奥にかざして確認してみる。
それでも生き物らしきものはいない。
どこかに隠れたのかしら。
窮屈なベッドの下で首を左に向けると、人の足が見えた。
色とりどりの小さい花柄のネグリジェ。裾には白いレースがヒラヒラしていて、そこから伸びている女の子の生白い足首、そして素足…。
…あれ?ちょっとまって?この部屋には私とシスターしかいないはずよね?
ベッドの下から身を引いて女の子の立っていた方向を見る。でもそっちの方向は壁で、しかもベッドが壁にぴったりとくっついている状態。誰かが立っていられる隙間なんてない。
じゃあ今ハッキリと見えた女の子のネグリジェと足って…?
ゾワッとした感覚が体を襲ってきて、慌ててシスターを見た。シスターはどうかしましたか?とばかりに私を見ている。
「い、今、こっちの方向に女の子が居なかった?」
「え」
「色とりどりの花柄のネグリジェを着ている素足の女の子の足が今見えたのよ…」
「…誰も、いませんでしたよ…?」
「…」
じゃあやっぱり今見たのって…。
アレンじゃないけどゾワゾワと怖くなってきた。
それよりもしかして今のがサードがいないとどうにかならないことの原因なのかしら。
「…あ」
シスターが何か思いだしたような声を出すシスターを見ると、シスターはそういえば…と続けた。
「最近夢の中にそんな花柄のネグリジェの服装の女の子がよく出てきますわ。大ぶりの花柄じゃなくて小さい花柄で、裾がレースの…」
「そう!そうそう!」
思わず頷いたけど、今見たお化け…?の女の子はシスターの夢の中にも侵入しているってこと?それってお化けじゃなくて、もしかして夢の中に侵入するモンスターっていう考えもあり得なくはないんじゃないの?
…そんなモンスターがいるのかどうかなんて分からないけど。モンスター辞典なんてないし…。
するとシスターは不安そうな顔立ちになってオロオロと立ちあがった。
「あ、ああ…そう言われれば、子供たちの中にも女の子と教会や孤児院の中で遊ぶ夢を見た、私も同じような夢を見たとよく話し合っているのを聞きましたわ。
もしかしてそれもエリーさんが見たものと関係があるのかしら。ある子は女の子と遊んでいて外に出ようとしても入口が見つからなくて、同じ所を何度も繰り返し歩き続ける悪夢を見たと言っていて。
それに思えばここしばらくで急に昏倒する子が多くなって、その子たちも女の子と遊ぶ夢を見たと口々に聞かせてくれていたの…」
「昏倒?」
驚いて聞き返すと、シスターは、ああ違うの、と言いながら続ける。
「子供ってね、遊び疲れると急にその場で意識を失って倒れるかのように眠るのよ。紛らわしくてごめんなさいね。そのような状態の子がいたらボランティアの皆がふざけて昏倒したと言っているのでつい…」
と謝りながらも真剣な表情のまま、
「そんな状態の子がここ最近で本当に多いんですよ。そんなすぐに眠るような年齢じゃない子も急激に倒れるように眠ったりしているの。
起きてから大丈夫ですかと声をかけると体のどこにも悪い所はなさそうなのですが、夢を覚えている子は教会や孤児院の中で見知らぬ女の子と遊んだとよく言っていて。それでも夢の話だからそうなの、楽しく遊べたかしら、と軽く言う程度だったのですが」
何か関係ありますか?と表情でシスターは心配そうに胸の前で手を組んで私を見てくる。
でもあくまでも夢は夢だもの。さっき見た女の子の足と関係しているかなんてよく分からない。
でもファリアだってサードが来ないと解決しないことだって言っていたんだし、とりあえず今あったことをサードに言った方がいいわよね。
あ、でもモンスター辞典はもしかしたらこの孤児院の中にもあるかしら。
私はシスターに目を向ける。
「私は今見たことをサードに言うわ。シスターはモンスター辞典を用意してもらえるかしら。今見たのがモンスターかどうか調べたいの」
「ええ。モンスター辞典なら先ほどまでエリーさんがいた部屋にありますから、用意しておきますわね」
…パーティ内の誰と付き合っているのとしつこく聞いてくる女の子たちのいる部屋にまた戻らないといけないのね…。
ちょっとウンザリしたけどそんなこと考えている場合じゃないと、私とシスターは部屋を出て右に左にと別れた。
と、タイミングよくサードが廊下を歩いていて、鉢合わせする。
鎧は着ていなくて、聖剣も持っていない。
手には私の髪の毛の手入れをするもろもろの道具が入った袋を持っているから、どうやら私の髪の毛をとかしに向かってきていたみたい。
「便所か?」
…開口一番何言ってんのこいつ。
イラッとしながらも、
「トイレじゃない!サードに伝えたいことがあるの」
まず手短に私の部屋で起きた出来事をサードに伝えた。
音のした方向を見たら人の立っていられない所に女の子のネグリジェの裾と素足が見えたこと、でもその足は一瞬で消えたこと、シスターや孤児院の子供たちが夢の中で女の子と遊ぶ夢を見ること…。
「もしかしてあれがサードが来ないと解決しないことの原因なんじゃないかと思ったの。今シスターにモンスター辞典を用意してもらって、あの女の子が夢の中に侵入するモンスターかどうか調べようって思ったんだけど」
そんなモンスターがいるかなんて分からないけどね、と付け加えて話を終わらせると、サードは私の肩を掴んで後ろを向かせる。
「部屋の中見せろ」
「うん」
すぐそこの部屋に戻っている途中、私はずっと思っていたことをサードに伝える。
「…けどもしかしたらあの女の子、実は本当のお化けじゃないかと思っているんだけれど」
「本当のお化けってなんだよ、偽物の化け物でもいるのか?」
サードは馬鹿にするように笑いをにじませながら私の部屋を開けて中に入る。グルリと中を見渡して、ベッドがくっついている壁をジッと見る。
「その足はどこ行ったんだって?」
「どこに行ったっていうか、ベッドから身を起こして顔を上げたら消えてたの。そんなベッドと壁がくっついたところに人なんて立っていられないでしょう?ね?」
「見間違いでもねえんだな?」
私は頷く。
「ロウソクの明かりで照らされてよく見えたのよ。白い生地に細かい花柄がプリントされたネグリジェで、裾はレースがついてヒラヒラしてて、そこから女の子の生白い足が…」
思い返してみると何か妙なのに気づいた。あの女の子の足の色…全然血の気が無かったような…。それより何で素足だったの?
妙な違和感に気づいたら余計ゾッとなって、サードを見る。
「ねえ私の見た足と夢の中の女の子、関係あると思う?」
「夢の話なんて当てにならねえよ。夢は夢で現実のことじゃねえ。だがエリーはガキの足をハッキリ見たんだろ?なら確実に何かがこの孤児院の中にいるってことだ」
サードはそう言いながら私の部屋から出て行って、私はこんな部屋に残されたくないと慌ててサードの後ろをついて隣に並ぶ。
「そうなれば聖剣の出番だろ」
幽霊を…斬るつもり?いや、まだモンスターなのか幽霊なのか分からないけど…。
サードはニヤニヤと楽し気に顔を歪めて私を見た。
「さーて、このことをアレンにどう伝える?エリー」
こいつ…楽しそうだわ。
「そんなこと言ってアレンを怖がらせる場合じゃないでしょ」
軽く突っ込むとサードは首を横に振った。
「何言ってやがる。ただの情報の共有だ、情報の共有」
それらしいことを言っているけど、顔が相当楽しそうに笑っているのよね、こいつ。本当に人をおちょくる時は心底楽しそう。性格悪いわ。
そう思っているとサードはある部屋を開ける。
中を覗いてみるとガウリスが椅子に座って本を読んでいた。私とシスターが向き合うと膝をつきつけ合うような広さの部屋だから、体の大きいガウリスにはちょっと窮屈そうに見える。
そんな窮屈そうな部屋の中で振り向くガウリスにサードは指チョイチョイと動かして、
「アレンを連れて俺の部屋まで来い。話がある」
とだけ言うと扉を閉めて歩き出した。
普段は私の泊まる部屋で話し合うけど、私とガウリスの部屋を見ると来客用の部屋は全部同じ造りなのね。
サードは自分の部屋のドアを開けるから私も続いて中に入ろうとする。でもサードは進まないで立ち止まったままだったから背中に鼻を強打した。
「ぶっ」
何で進まないのよと鼻を押さえて文句を言おうとすると、サードが入口から身をずらして私にあれを見ろとばかりに親指を動かす。
サードの親指が向けられた方向に視線をずらすと、花柄のネグリジェを着た素足の女の子が、ベッドの脇に立てかけてあるサードの聖剣を黙って見下ろしている。
全体的に色素が薄く見える。
ブロンドの髪の毛だってどこかぼやけて見えるし、首筋に手の甲、足は…血の通っていないような青白さ。
それにあの花柄はさっき見たのと同じもの。
思わず、
「あっ」
と言葉が漏れる。
私の声が漏れたのと同じタイミングで女の子はギュルッと私たちに体を向けた。
体はどこも動いていない。まるで床が回転したみたいな勢いでこっちを向いた。でも服も髪の毛もちっとも揺れない。どう考えたっておかしい。
それにその顔はぼやけていて、いくら見ても顔がはっきりと分からない。
でも口らしきところがニタッと裂けて笑った。
思わず絶叫すると、それと同時にガクンと屋敷が揺れ動いた…。
私は幽霊なんて見ませんが(見たくもない)、夢の中でなら幽霊に会って百鬼夜行にも遭ったことあります。
百鬼夜行は建物内の向こうから来るのが見えて、廊下の端に寄ってびしっとうつ伏せになってひたすらジッとしてしてやりすごしました。近くを通り過ぎる時ひんやりとした空気が流れていて、ドヤドヤと賑やかな話声と足音がして、たくさんの足が見えました(目は開けてた)。朱色よりもピンクに近い肌質と草履率が高めでした。6期の鬼太郎に出てくる枕返しのあの肌がピッタリその色。
夢の中とはいえ、良い経験ができました。現実じゃ見られないですもんね。
ちなみに夢占いだと百鬼夜行はものすごいストレスを抱えている暗示らしいです。小二でどんなストレスがあったの。




