あの神様なんなの?
グランは何もかも諦めた表情で、
「ロッテスドーラを元の場所に戻したら事の成り行きを全てナバ様に報告する。今後貴様がどうなろうが俺の知った所ではないからな」
とリンカに指を突きつけ敬語も使わず言い残すと、ロッテを引き連れ消えようとした。
「待って、あの神たちとなら話しあえそう…」
ロッテはグランの手から逃れようとしとたけど、
「これ以上神寄りの魔族を増やしてなるものか!」
とグランが怒鳴りつけて、ロッテは「あああああ~…!」という声を残してグラント共に消えていった。
ロッテのこだまする声が聞こえなくなるとリンデルスはガウリスに近寄り、
「久しぶりだなガウリス」
とニヤニヤと笑いかけている。
その言葉に全員がガウリスに集中した。
そういえばさっきガウリスはリンデルスをマジマジと見て何か言いたそうな顔つきをしていたけど…。
「知り合いだったの?」
聞くと、
「知り合いといいますか、子供の頃に狩りのことで助言を与えてくれた恩人に似ておられて…」
と言いながら、いやさまか、とリンデルスをみて首をかしげている。
「あっははは、勘違いじゃない。あれは私だ」
リンデルスは笑いながらガウリスの肩に親しげに腕を乗せて、ガウリスは顔色をさっと変えてわたわたと手を動かした。
「まままさか…あなたが、リンデルス神だとは…!」
話の内容から考えると、ガウリスは子どものころサバイバル生活を送る中で、すでに生身の神様と出会って話をしていたみたい。
さすがだわ、ガウリス…。
「えー、どういうことで神様と仲良くなったんだよ」
アレンがガウリスに近寄り聞くと、ガウリスはリンデルスを気にするようにチラチラと見ながら口を開いた。
「故郷から出て自力で生活している時です。私はあまり狩りが得意ではなかったのですが、通りすがりにそれを見て狩りのやり方を教えてくださいました。餓死するかもと思うほどだったのですが、おかげで私は生き延びることができたのです」
するとリンデルスは目じりを下げてガウリスを横から見た。
「ガウリスはどんなに腹が減っていようが困窮していようが、人を襲ったり物を盗むなんてことは一切やらない真面目で要領の悪い子でなぁ。いじらしくてつい手を差し伸べてしまった」
ガウリスは昔からガウリスだったのね。
自分が死ぬかもしれない時でも人が困ることをしない真面目な性格だったから、こんな風に神様から手助けされたんだわ。
そう思っているとリンデルスはデレデレとしながら続ける。
「それに父も可愛いと目をかけていたし、私も可愛いと思っていたからあのまま死なすには惜しくてな」
…それ、どういう意味で可愛いって言ってる?
リンデルスの妙な言い回しに黙っていると、ファリアは呆れた様にリンデルスを横目で睨みつけ腕を組んで、
「これだから父も兄も…」
とブツブツ言いながらリンデルスから目を逸らした。
「ガウリス今すげえムキムキだけど、子供のころからじゃなかったんだ?」
アレンが聞くと、リンデルスはうんうん、と頷いて、昔を思い出すかのように遠くを見る。
「時代が時代だったらさらって隣でずっと愛で続けたいくらいだった。柔な肌に桃色の頬、子供ながらに大人顔負けの信仰心の深さに純粋な心と瞳、堂々とした物腰、それでも真面目すぎて要領の悪い子で…。可愛かった…。だが成長した今も十分可愛いぞ、ガウリス」
リンデルスはガウリスの肩に手を回してポンポン叩いている。
その生き生きとした真っすぐな瞳に淀みは無い。
思わず引いた。
ゼルスは男の人にも手を出すって聞いたけど、このリンデルスという男神も男の人に手を出すタイプなんだわ。あのゼルスの血を引いている男神ってこうなるの?なんなの?サンシラ国の男神ってなんなの…?
サードが嫌そうな表情でガウリスの肩を掴んでリンデルスから引き離す。
アレンも微妙にガウリスをかばうように少しずつリンデルスとガウリスの間にススス…と入っていく。
でも当のガウリスは、どうかしましたか?という顔つき。
ガウリス…本気?ガウリスはサードの次くらいに危険を察知できると思っていたけど、こういう所は無頓着なの?それとも本気で気づいてない?
私たちの様子を見たリンデルスは腰に手を当てて笑う。
「待て待て、昔も今も手は出していないし出さないさ。父の神殿の関係者の子だからな」
「自分の関係者の子だったら手出してんのかよ、クソだな」
サードがリンデルスを鋭い眼光で睨みつけると、リンデルスは少しサードをジッと見て、軽く表情を引き締めてから申し訳なさそうな顔つきになった。
「すまない、軽い冗談のつもりだったんだ」
多分、サードが子供の頃に養父に襲われかけたのをリンデルスは見たんだと思う。そりゃあサードからしてみたらそんな冗談、笑えもしないわよね。
「私の兄がお前の体をドラゴンに変えたことも知っているか、ガウリス」
話をすり替えるようにファリアが言うと、ガウリスは軽く頷きながらリンデルスを見た。
「バーリアス神からその話はお聞きしました。サンシラ国では神官の願い通りに動くと神の存在が軽んじられ、天候を司るゼルス神も神官の願い通り動けず作物が実りにくい状況なので、神ではなくとも神の手足となって雨を降らす存在をと思ったと…」
リンデルスは軽く口端を上げつつも、真剣な目でガウリスを見る。
「そうだ、今はサンシラ国の神の存在が軽んじられている。本当はあのまま麓まで帰してやりたかったが、何も罰を与えず帰したとあってはあの時のガウリスのように今度は神の存在すら信じない者が増えるのではと思い、ガウリスならば神に頻繁に会おうが一部の神官のようにつけあがるまいと思ったからあの姿に変えた」
リンデルスはそこで申し訳なさそうな顔で一旦口をつぐんだけど、続ける。
「本当は龍の姿にしたあと、人間の姿に戻して一旦神殿に帰すつもりだった。禁足地で声をかけたことでガウリスはまた私たちの存在を信じる心になっていたし、あとは用のある時に呼びかけ、龍の姿になったガウリスが雨を降らせれば万事安泰と…」
その言葉に思わず口を挟む。
「でもガウリスは龍のままであちこちをさ迷っていたのよ?ロッテの知識でこういう人間の姿に戻れたけど…」
「…そこなんだ」
リンデルスが話し始めるから口をつぐむ。
「思えば我々は人の姿を別の姿に変えることは度々あったが、そのあと人間の姿に戻すことなど一度もしたことがなくてな…」
「…」
「そうしているうちに急ぎの用事ができてしまって、その間に国の兵士に追われてガウリスは国を出て行ってしまった。今でもまれに姿が変わるから不安に思うこともあるのだろう?ガウリスには本当にすまないことをした」
「なんだてめえが全部悪いんじゃねえか」
サードが吐き捨てるように言うと、リンデルスはサードをジッと見ている。
「…なるほど?世の中には人間に化けて旅をしているドラゴンもいるのだな。それならその者に変化の仕方を聞いたらガウリスも安心できるな」
リンデルスはサードを通して草花の精霊、エローラたちの言っていたことを読んだみたい。
サードはイラッとした表情でリンデルスを睨みつける。
「人の頭の中を勝手に見るんじゃねえ、クソが」
「そのドラゴンがどこにいるのか教えてやっても構わんぞ」
サードが何か考え込むように黙り込むと、その様子を見たファリアはおかしそうにフッと鼻で笑いながらサードを見た。
「お前じゃあるまいし、兄は対価を求めるなどということはしないぞ。安心して受けなさい」
サードは苦虫を噛み潰したような顔でファリアを見た。
「神っつーのは腹が立つもんだな、何にも言わなくても人の考えを先に読みやがる」
「何を言っている。人が口に出しづらいこと、考えがまとまらないことも察して包み込むのが神の真骨頂じゃないか。ま、願いは心のまま口に出してもらった方がこちらとしても分かりやすいがな」
リンデルスはそう言いながら一瞬黙り込んで、
「…ソードリア国ファインゼブルク州。そこに旅をしているドラゴンがいるようだ。あまりその地から移動しないように後で伝えておこう」
リンデルスはそう言いながらガウリスに近寄った。
「私の浅い考えでさっさとガウリスの姿を変えてしまったせいで迷惑をかけたな。下手をすれば殺されるか、餓死していたかもしれん。これは私からの償いだ」
ガウリスはそれを聞いてとんでもないとばかりに首を横に振る。
「禁足地に赴いたのは私なのですから罰を受けたのは当然の結果でした。たしかにあの姿になって困ったこともありましたが、それを招いたのは私自身です。
それよりも狩りのやり方を助言していただかなければ子供の頃に私はとっくに餓死していました。一度神々から心が離れてしまったのに、今でもこのように気にかけていただけるのが本当に嬉しいのです。あなたに感謝を」
ガウリスが微笑むと、リンデルスも微笑んでガウリスの頬をポンポンと軽く叩いた。
「本当、昔と変わらずお前は可愛い」
私たちは「ヒッ」と顔を引きつらせたけど、そんな私たちを見たガウリスはおかしそうに笑う。
「これは慈しみです。私たち大人が幼い子供を見て可愛いと思うのと同じ感覚で、神は人間が可愛いとおっしゃっているのですよ」
ああ…。そうなの、そういうこと…。
じゃあ別にガウリスが狙われているわけじゃないのねと安心していると、リンデルスは、あっははは、とおかしそうに笑い声を立てている。
「敵わんな、真面目にかわされたらもうどうしようもない」
「…」
ううん。やっぱり狙われているのかもしれない。
「兄さん、馬鹿を言っていないで一旦サンシラ国に戻ろう。リンカ、馬の後ろに乗れ」
ファリアはさっさと馬の上にまたがって、リンカに声をかけている。
リンカはというと…今までのリンデルスのやり取りを見てちょっとポカンとしている。
そりゃそうよ。神に恋しているリンカからしてみたら、男神なのにガウリスに好意を向けているのを見たらちょっとは混乱するわよ…。
「…サンシラの神様って男好きなんだな?」
「恋愛は自由ですから。でもリンデルス神は女性との恋愛話の方が多いんですよ」
アレンが混乱した顔つきでガウリスに顔を向けると、ガウリスは簡単に肯定しながら補足で女の人にも手を出していると分かる内容を付け足す。
「ガウリスと別れるのは名残惜しいが、サンシラに戻るとするか」
リンデルスも馬に飛び乗った。でも未だにリンカは馬に乗ろうとしても馬の背が高くて乗れていなくて、ファリアが手を引っ張って後ろに乗せる。
それからファリアは無言でサードを見てから、馬を一歩二歩サードに近づけた。
「お前たちはこれからどうするんだ?」
サードはチラと私に目を向けつつ、
「とりあえずこいつの両親を助けにエルボ国に向かう。ソードリア国ファインゼブルク州って所がどこか分からねえが、遠いようならそっちは後回しだ」
「サード」
ファリアがふいにサードの名前を呼んで、サードは眉根を寄せてファリアを見返した。
「んだよ」
「お前の元々いた孤児院のことだが、お前が行かねば解決しないことがあるぞ。ここからならエルボ国よりも近い。行ってみたらどうだ」
サードは怪訝な表情になったけど、黙ってファリアを見返している。そして、ふー、と鼻でため息をついた。
「…てめえらはどれだけ人のことが分かってんだろうな」
「全部」
ファリアはそういうと馬の向きを変えて歩き出して、リンデルスも私たちに軽く手を振って歩き出した。
残されたのは私たち勇者一行の四人。
元の人数に戻っただけなんだけど、今まで随分と大所帯だったから人が一気に少なくなった気がする。
サードはともかく気を持ち直したみたいで、
「まずはこのダンジョンを攻略したからハロワにいって報酬を…」
「あっ!」
サードが話している最中にアレンが急に叫んで、皆が驚いてアレンに視線を向けた。
アレンの視線はロッテに渡された杖に向けられていて、やっべぇ、と言いながら杖を両手で握っている。
「これロッテから借りて返すの忘れてた…。どうしよう、これすっげぇいい杖らしいから返さないとヤバいよな」
サードはそんなことで大声出すんじゃねえ、と言いたげな顔でアレンの顔を見て、
「別にいいだろ。そのうちまた会うかもわからねえんだから、それまで使っとけ」
そういえばダンジョンを攻略したら、それは本当はただの杖だったってことをアレンに伝えようと思っていたんだ。
「あのねアレン」
アレンに声をかけると、アレンはにこやかに私を見た。
「けどこの杖、凄かったよなぁエリー。なんか歴代最高の杖術士の聖遺物らしいから簡単にアンデッドモンスターも倒せたし。返さないといけないの分かってるけど返すの惜しいなぁ」
アレンはそう言いながら杖を目の高さに持ち上げてキラキラした目をしている。
「そういえばそれ、アレンにあげるってロッテが言ってたわよ。ロッテは使わないからって」
それはただの棒に金属がついただけのもの、って伝えるより先に話の流れでそっちを先に言うと、アレンは顔を輝かせる。
「ええ!マジで!?いいの!?本当に!?」
「ええ。ところでその杖ね…」
「良かったですねアレンさん」
大喜びのアレンにガウリスが声をかけているけど、ガウリスは気づいてないわね?魔族のロッテが聖遺物を触れるわけないってこと…。
「うん!本当に嬉しいー!」
「あのねアレン、その杖なんだけど…!」
口を挟もうと少し大きめの声で声をかけると、
「ロッテが持ってたなら本当に質のいいものだろうしな。よっしゃ、タダで良いもん手に入ったぜ」
とサードまでもが悪い顔で言っている。
え…サードそれ本気で言ってる?
そう思いながらサードを凝視していると、サードと目が合った。
その一瞬でサードは私の表情を見て考えが回ったのか、ゆっくりとアレンに渡された杖は聖遺物じゃない…もしかしたらただの棒だと分かったような顔つきになっていく。
「これでアンデッドに会っても安心だなぁ」
ルンルン気分のアレンにサードは少し黙ってから、
「…つっても当たらなきゃ意味がねえだろ。これからその杖を使っての戦い方も覚えてもらうぞ」
とだけ言って後は黙った。
分かったのにあえて何も言わない…ってことは、サードはそれが偽物と分かったうえでアレンを騙そうとしてるわね?
アレンは大喜びだし、ガウリスもアレンと一緒に喜んでいるし、サードは言うなよ、って静かに睨んでくるし。
本当のことが言えなくなっちゃったわ…。
Q,リンデルス神もといアポロンはフォモォ…なの?
A,ギリシャ神話の 公 式 で す 。実際に年下の男の子の恋人がいましたが女の子も好きです。




