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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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古城の中

外から見たらお城の中は暗く見えたけれど、中に入ると案外と柔らかくて優しい光が窓から差しこんでいた。


それにすごくひんやりしている。それともお城の背後を流れる川がそのまま滝に繋がっていて水が落ちるザアアア…という音がずっと聞こえるからかしら、それで余計に空気がひんやりと感じられるのかも。


今のところモンスターは見当たらないけど、遠くの滝の音が聞こえる静けさなんだもの。鎧姿で歩くモンスターがいればすぐ気づけるはず。


それにしても、と私は門を振り返る。


やっぱり城門はぴったり閉まっていた。それも開けるのには三人がかりでも苦労するぐらい重くて、風で閉まったわけじゃないのは確実。


扉が勝手に閉まった話はサードとアレンの頭からすぐ抜けたのか、どっちもその話題をあげない。それでも私はやっぱり少し開いていた扉がひとりでに閉じたのがすごく気になる。

だって…まるで私に見られているのに気づいたかのようなタイミングで扉が閉じたように見えたもの。


だからといってモンスターが閉めたっていうサードの言葉はアホ臭くて信じられないし、まさかこのダンジョンのラスボスや中ボスがわざわざ城門を閉めに来たなんてことも考えられないし…。


「聞いてる?エリー」


アレンの声にハッと顔を上げる。


「ごめんなさい、聞いてなかったわ」


「しっかりしろよブス」


お城に入る前の喧嘩がまだ尾をひいているのか、サードが吐き捨てるように言う。


イラッとした。ちなみにサードが私に向かってブスと言う時は大体機嫌が悪い。そしてつられるように私も機嫌が悪くなる。


「エリーは可愛いよ」


アレンが軽くサードの肩を掴んで揺らす。

サードのたしなめと私のフォローを一度にこなしているけど、このタイミングで可愛いってフォローされても全然嬉しくない。


サードをキッと睨みつけると、サードは何だゴラとばかりに睨み返してくる。それに気づいたアレンがサードと私の間に割り込んで互いの目隠しになりながら私に向き直った。


「で、これからのことなんだけど、一晩この城の中で過ごすことになるかもしれないってこと。昼過ぎの今からこの城の中を歩いて、中ボス倒して、そんでボスも倒すってのは時間的に辛いからさ。それにどうせなら屋根と壁のあるところで寝た方がいいだろ?」


「それは別に構わないわ」


冒険しているのだからいつも安心安全の所で寝られるとは限らないもの。

野宿や敵がいつ出るのか分からないエリアで眠るのに最初は抵抗があったけど、冒険者の立場上しょうがないといつの頃からか割り切ってる。


「それでここ」


アレンがマップの一角を指さした。

正面の城門から見て右側一階、窓が他よりも多い部屋。


「とりあえず今日は一階をグルッと歩いてモンスターの強さを見て回ったあとにここの部屋で寝て、明日本格的に二階に行くことにしよう?飯も水も三日分はあるし、この部屋だったら夜中にモンスターに襲われてもいざとなったら窓から逃げやすいから」


別に反対意見はないから素直に頷く。アレンたちが話あって決めたことにあれこれ口を出すこともないもの。


「つーか今日中にでも倒せるんじゃねーの?ボスでも中ボスでも」


アレンの向こう側からサードの面倒くさそうな声が聞こえると、アレンは呆れたようにサードを振り返った。


「お前なー、サード。魔族っていったら普通そんなノリじゃ倒せないくらい強いんだからな」


アレンの言うとおり、魔族はそう簡単に倒せるものじゃない。魔族は人間と比べて魔法の威力がけた違いに強いし、体力だって勝っている。


人間だったら即死するほどの攻撃を受けても魔族は「あ、いった」くらいのダメージしか負わず、なおも強力な魔法で攻撃してくる。そんな姿は人間の私たちからしてみたらすごく不気味で恐ろしい。

…まあ正確に私は人間種ではないけど、厄介で怖い存在って思ってるのは同じ。


この四年の冒険で魔族とは何度も戦ってその全てで勝利を収めてきたけど、それは私の魔法とサードの持つ聖剣によるものが大きい。


サードの持っている聖剣は六千年前の時代の勇者が使っていた。

聖剣の素材は未だに解明されていないけど、どうやら魔族と相性の悪い天界から落ちて来たと思われる謎の物質からできているみたい。


そんな天界から落ちてきたらしい謎の物質でできているなんて、まるで伝説・伝承・昔話みたいで本当か嘘かも分からない。それでも目の前で魔族にたった一振りで大ダメージを与えているのを見ているとあながちあり本当なのかも。


私の魔法もそう。貴族時代は魔法なんて使うこともなかった。でも冒険に出て魔族と遭遇して…相手が初めて戦う魔族だったから私もパニック状態で力の加減も分からなくて必死に魔法を発動したものだわ。


するとすぐさま大風が雲を呼んで嵐になって…あの時は魔力が強いはずの魔族が言葉を失って一瞬ひるんで立ち尽くしていて、そのまま魔族は私の風に切り裂かれ連続で雷に打たれ、そのまま洪水になった水に流されてどこかに消えて行った。


むしろ魔族どころか仲間のはずのサードには、


「てめえ今すぐその魔法を止めろ、さもねえとぶっ殺すぞ!」


と聖剣を向けて脅されて、アレンは、


「やめてやめてごめんごめん殺さないで殺さないで!」


と私にひたすら謝って命乞いをしていたっけ。


それも洪水で初回特典の宝箱も魔族と一緒に流されてしまったのか見当たらず、そのことでサードは「余計なことしやがって」とブチ切れていたものだわ。


でもサードが攻撃しろって言ったからああなってしまったんであって私は何も悪くない。それなのに言われた通りに動いた私がキレられるとか何なの、しかも余計なことですって?ふざけてる、いつかサードが弱った時には確実に仕返ししてやるんだから…!


「イデッ」


急に声を上げたサードに驚いて私は顔を上げる。


まさかイラついていた気持ちがサードに飛んで行った?あまりの怒りで私にそんな能力が芽生えて…!?


すぐさまアレンはサードに聞く。


「どうした?」


「石が飛んで来やがった」


…。ああ何だ石か…。私の能力じゃなかったの。


少なからずガッカリしながらサードの足元に転がる石を見る。

私の手の平でも包めそうな大きさの、城壁からボロリと崩れたような石をサードは踏みつけ転がした。


「あっちから飛んできたが…誰もいねえな」


「あっちからって…」


サードが見ているのは右。

でもサードの真横からずっと向こうは広い空間が続くだけで誰がいるわけでもない。


「もしかして敵か?」


アレンはサードと私の後ろに隠れるように移動するから、私たちも身構えて辺りを見回すけど…いくら待っても何も現れもしない、静かな空間で遠くから滝の音が聞こえてくるだけ。


「…誰もいないじゃない、横からじゃなくて天井から落ちてきたんじゃないの?」


非難がましく言うとサードは私を睨みつけて、


「俺が見間違うとでも思ってんのか?」


と脅すように言ってくる。


つーか何よ、自分は間違うわけない、さも自分は正しいみたいなその言い方、何様のつもり?


お互い静かに睨み合うとアレンが私たちの間にスッと入る。


「でもダンジョンに入ったんだし、装備ちゃんとしたほうがいいよな」


アレンはそう言うと頭に明るいオレンジのパンダナを巻いた。サードも私を無視するように首に巻いている紺色の長いストールを頭と口に巻き付け目だけ出すようにかぶり、私はローブにくっついているフードを頭にかぶる。


私たちの主な装備品のほとんどはこの薄く軽い素材の布でできている。

この布は軽く肩を叩かれる程度の衝撃は体に届くけど、体にケガを負うほどの強い圧力が一気にかかるとその衝撃を半分かそれ以上も緩和(かんわ)して、それも防水・防寒・防温・防塵・吸湿・速乾の機能もある優れもの。


けどその分値が張るのよね。


だから買うか買わないか、買ったとして誰が装備するかで一悶着(ひともんちゃく)起きて喧嘩別れしてしまうパーティもあるとかで、「パーティ壊しの布」という不穏な別名もついてしまうぐらい高い。

しかも私たちのはオーダーメイドだから一般的な物より数倍高い。


「何ボケッとしてんだ、行くぞ」


「…」


ストールを頭に巻いて顔のほとんどを隠している状態のサードを見るとゲンナリする。

いつ見てもサードのこの泥棒みたいなストールの巻き方が気に入らない。


一度「泥棒みたいだからやめて」と言ったらこう言われたのよね。


「バッカ、これはれっきとした伝統的な巻き方だ。細けえ埃も気になんねぇし、何より顔がバレねえだろ」


それ本当に泥棒向きな理由じゃないのと思った。


伝統のものと言われてはそれ以上何も言えなくなったけど、サードのことだからそう言って私を騙そうとしているんじゃないかとアレンにあのストール巻き方は本当に伝統的なものなのか聞いてみた。


そうしたらアレンは首を傾げ、


「さぁ…サードの生まれ故郷ではそうなんじゃねぇの?」


って返答が返ってきた。


その時まで私は二人が幼なじみだと思っていたから、そうじゃなかったことに少しビックリした。だってそうじゃないとこんなに性格のいいアレンがあんな悪党と一緒に旅するわけがないと思っていたから。


泥棒みたいな巻き方は気に入らない、でも伝統的な巻き方と言われては何も言えない、けどやっぱり泥棒みたいで嫌…。


「とりあえずあっち行くぞ」


サードが入口から奥へに向かって歩き出す。


奥には大きいけど城門より軽そうな扉があって、その扉手前の左右に二階へ上がる階段がしつらえてある。


「もしかしてあの階段の手すりの陰に石投げた奴ひそんでんじゃね?」


アレンの言葉に三人で警戒しながら近寄ったけど、誰もいない。それにこの階段の影以外に隠れられそうな所はこのフロアには見当たらない。


「誰もいないな…」


アレンはおっかしいなぁ、と呟きながら、


「もしかして入口だけにある軽いトラップだったのかもな」


「…」


サードは納得いかない表情をしているけど、石が飛んできたことにいつまでもこだわっていられないと思ったらしく、奥の扉を蹴とばして開けた。


その瞬間にサードが急激に後ろに跳ねのける。


サードがさっきまで立っていた所に真上からブォオンと空を切る音を立てて一直線にロングソードが振り下ろされた。


「来やがったぜ!五体だ!」


ガシャガシャと金属の鎧がこすれ合う音が響き、扉の奥から全身銀色の鎧で身を包んだの騎士が現れる。こう見ると中に人が入っているような滑らかな動きに見えるけど、本当に中身は空っぽなの!?


サードは聖剣を抜き、剣をヒュッと一気に突きだしてくる騎士の剣をいなしてから首をスパンと一刀に切り伏せた。


鎧の頭は離れた床の上にグワン、と鈍い金属音を出して何回かバウンドし、クルクルと回転して動きが止まる。

それと同時に首の無くなった胴体もその場に崩れ落ちて動かなくなった。その中身は…真っ暗で体はない、やっぱり鎧だけが動いているのね。


「あの情報屋の言った通りだな」


サードがかすかに面白そうに目を弓なりにして笑うと鎧に向かって剣を構え突っ込んでいく。


じゃあ私も戦わないと…。


杖を騎士に向ける。…でもサードが邪魔だわ、どうして私が魔法使おうとするほうにいちいち移動してくんのよ、本当に邪魔…!


「ちょっとサード!邪魔!」


文句を言いうとサードが「ああ!?」と睨みつけてくる。


「るっせー、人に邪魔だって言うより先に敵だけに当てるようにしてみろよ、このど下手くそ!」


私の魔法は大味だから敵単体だけ狙うってことができない。だからこっちとしては魔法が当たらないように気使ってんのに、何それ。人の邪魔をするくせに何を偉そうな…!


「いいわよ、どかないんだったらあなたごと攻撃してやるんだから!」


私は空気を振動させて風を起こしサードと騎士に向かって風の刃をゴッと向かわせた。


アレンが「おいエリー!」と私を掴んだけど風はビュウウ、と空を切る音と共に一直線に向かって行く。


それにすぐさま気づいたサードは自分に向かってくる騎士を蹴とばし、扉の向こうに飛び込んで扉を力任せにガンと閉めた。


風の刃は騎士をスライスするようにバラバラにして、そのままサードの飛び込んだ扉を真っ二つに破壊し、周りの石の壁はガラガラと崩れ、静かな城内に金属音やら石が崩れ落ちる音が大音響で響き渡っていく。


「エリー!」


アレンは私の肩を掴むと自分に向き直して目を合わせる。


「戦いのときに喧嘩しながら魔法使っちゃだめだよって、何度も俺言ってるだろ」


「だってサードがぁ…」


言い訳がましくサードのいる方向を指さす。


「エリーの魔法強いんだから、人に向けて使っちゃいけないの自分でもわかるだろ?」


「…」


アレンに強めに叱られてシュンとしょげ返る。


そりゃあ今まで何度もアレンに注意されて叱られ続けていることだけど、何よりサードが人の気持ちを逆なでることを言うのが悪いんじゃないの。私は悪くない。


そう思って恨みがましくアレンを見上げると、アレンはたしなめるように口を開く。


「そんな可愛い顔してもダメなの!」


「可愛い顔なんかしてないもん、私怒ってるんだもん!」


「でもダメなの!」


頬を膨らませてムッツリ黙り込むと、サードは私の魔法で上下にへし割れた扉を蹴飛ばし、ブチ切れた顔でズンズン戻ってくる。


「てめえこのブス!殺す気か!」


不気味なことに今まで何度もモンスターごと攻撃しても、サードはこうやって無傷で戻ってくる。


むしろ人を逆上させた本人は構わず悪態をつき続けてくるからイラッとして睨みつけると、アレンはサードに向き直る。


「サードもエリーを怒らせる言い方やめろよ、お互いがお互いに喧嘩売ってるんだもんな、少し言葉に気をつけようぜ」


私だけじゃなくサードにもアレンはたしなめるようなことを言ったけど、サードはシラッとした目でそっぽ向いている。

その顔を見る限り、アレンの言葉は右から左に抜けているわ。


「…とりあえず二人で倒せる敵だから良かったけどさぁ…」


アレンは諦めに似た表情でため息をついた。

エリー

「サードって私が攻撃しても無傷で戻ってくるから不気味、あいつ魔族じゃないの?」


アレン

「それより味方に攻撃すんのやめような」

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