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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ラスボス脅し

「ちょっと聞いていい?」


ロッテが口を開いて、皆の視線がロッテに集中する。


「あなた、いつゾンビに襲われた?」


ロッテがリンカに話しかけると、リンカは泣きはらした顔をロッテに向けた。


「さっき…です」


ロッテは少し微妙な顔で微笑んで、


「質問を変えよう。あなた、完全にアンデッド操れるの?」


リンカは気まずそうな顔になって下を向いた。その仕草は二回目に出会った時気まずそうな顔でうつむいたあの時と同じ。


「操れる…と思って、たんですけど、急にラスボスの間にゾンビたちが入ってきて…」


「襲われたと。そして仮死状態に陥って自前の回復能力で今復活した」


こっくりとリンカは頷く。何でそんなことを聞くんだろう?と不思議そうな顔をしながら。


ロッテは私たちに顔を向けてくる。


「ヤバいかもよ」

「な、何が?」


ロッテのヤバい発言にアレンがビクッと肩を震わせて挙動不審になる。ロッテはそんなアレンをニヤニヤと見つめて、


「ゾンビやスケルトンはいわゆる操り人形で、今はリンカが操作主なわけ」


それだけの言葉でサードはピンときたみたい。


「操作主が死んだ状態でも操り人形のアンデッドは動き回っていた。ってことは?」


とロッテの顔を見返す。


「もう操作主が何も命令してなくても勝手に動き回ってるってことでしょ?そりゃあ自由に動き回るでしょうね」


「自由に、とはどのように…?」


ガウリスが質問するとロッテはケロッと返す。


「っていうかもう自由に動いてるよね、洞窟から出てくぐらい。ゾンビにスケルトンは魔族が操りやすいから、アンデッドも主の傍に居ようって本能が働いてダンジョンからあんまり外に出ないもんなんだけど…、話を聞く限り町にも行ってるみたいじゃない?」


その一言で皆がハッとした顔つきになった。


ということはまさか…。


「最初からろくに操れてなかったの?」


私の一言にリンカは酷く傷ついた顔になって、その大きい目がまた潤み始めた。


「ア、アンデッドすら、操れない魔族なんて…」


ワナワナと震えるリンカを見て私は慌てた。


泣かれたらたまったものじゃないわ、別の話題に変えよう。


「けどあなたはこのダンジョンのラスボスなんでしょう?それならアンデッドを魔界に戻すとか、消す方法とかは分かるわよね?」


魔族がどこからモンスターを連れてきてダンジョンに配置しているかはさっぱり分からないけど、ラスボスならきっと私たちに分からない方法で回収することもできるはず…。


するとリンカはどこか脅えた表情で私を見た。


何か言おうと口をパクパクさせているけど、ビクビクと脅えてその口から言葉が出てこない。


「ハッキリ喋りやがれ!」


サードが怒鳴りつけると、リンカは「ヒィッ」と短く叫んで飛び上がる。


「リンカ様にそのような口をきくな!」


グランがサードに怒鳴りつけると、サードは少しあごを上げて、グランを憐れむような目と馬鹿にするような口元で見下ろした。


「そう考えればてめえも可哀想だなぁ。力が全ての魔族なのに、身分の関係で自分より弱い奴にへりくだってねえといけねえんだからよ」


その言葉にリンカは体を震わせて目を潤ませると、サードは舌打ちした。


「てめえもいちいちグスグス泣いてんじゃねえよブス!いいから初回特典の宝箱出しやがれ!」


サードがついに私以外の女の子にもブスと言うようになってしまった。


リンカはヒィィ、と言いながら空中から宝箱をドスンッと落として、まるでサードが主人だとでもいうように深々と頭を下げて宝箱をズズズ、と押し出した。


というより私たち、リンカとは一切戦ってないのにいいの…?


それでもサードはさっさと初回特典の宝箱を開けて中身を取り出す。


「金、銀、銅の入り混じった金袋に、上等の回復アイテムか…。まぁまずまずだな」


リンカはホッとした顔で媚びへつらうように下からサードを見上げている。人間を見下げ続けるグランと比べると、魔族と貴族だっていうプライドが全くないわね、このリンカは。


「リンカ様、人間に頭を垂れるなどおやめください」


グランは叱責しながらリンカの腕を引っ張って立ちあがらせた。


そこで私は改めてリンカに聞く。


「ところでアンデッドを消す方法…」


リンカが凄い勢いで私の顔を見てきて、思わず驚いて肩が跳ね上がった。


「…消せ…ないの」

「は?」


思わず聞き返しただけなのに、リンカはビクッと肩を震わせてオドオドとした目つきになる。


「お、襲われそうになった時、アンデッドが動かなくなるように、命を奪おうとしたんだけど…止まらなくて」


「どういうこと?」


言っている意味がよく分からないから聞き返すと、私が怒って責めていると思っているのかリンカはビクビクと後ろに下がっていく。


普通に話してるだけなのに、まるで私がいじめてるみたいじゃないの。


わずかに嫌な気分になっていると、


「脅すなよ、エリー」


とサードに言われた。ムッとなって言い返す。


「サードに言われたくないわよ」


明らかに一番脅してるのはサードじゃない。


「アンデッドは元々人間の死体。魔族はそれに命を与えて動くようにしているの。だから主がその命を奪えばただの死体に戻る」


見かねたのかロッテが口を挟んできた。


「だけど主が命を奪おうとしても奪えなかったってことは…」


チラとリンカを見て、同情的な目で続けた。


「最初の命を与えるところから上手くいってなくて、主従の関係になってなかったってことかな。大体はそんなことあり得ないんだけど、よっぽどアンデッド系に向いてないんだね、あなた」


リンカがショックを受ける顔になる。もうここまでくると泣くどころじゃなくて、呆然とした顔つきで立ち尽くしている。


「そんな最初から、私はダメだったの…?」

「みたいだねー」


ロッテがあっさりとそう告げるとブワッとリンカの目から涙があふれた。


「しかもあの巨大な顔の転送トラップだってラスボスの間に直行させちゃダメでしょ?設定ちゃんとやってなかったね?

それに見たところ冒険者とかその辺に住んでる人間の新しい死体も紛れ込んでたけど、その新しい死体の管理とかどうしてるの?まさか増えるにまかせて放置してたわけじゃないよね?途中でおかしいって思わなかった?」


リンカが泣こうがロッテは気にせずどんどんと質問している。


「だ、だってだって、トラップ設定するの大変だったし、ゾンビは増えるものだって聞いてたし、この洞窟は入り組んでて未だに道も覚えられないし、それなのにどこにどれくらいアンデッドがいるのかなんて分かるわけないもの…」


ロッテは頭をポリポリとかいて、ふむ、と頷いた。


「力もないけどダンジョンの管理能力も全くない。あたしも知識だけだから強く言えないけどさ、やっぱりあなたは地上にダンジョンを持つべき魔族じゃないわ」


今までの色んな人の言葉の中でロッテの言葉が一番効いたのか、リンカは一歩二歩と後ろによろめいてその場にへたり込んでしまった。


「…結局、主の命令通り動かなくなったアンデッドはどうなるんだ?」


サードがロッテに聞くと、ロッテは少し考えてから口を開く。


「指示もないまま勝手に動き回ってるからね。スケルトンならともかくゾンビは本能の赴くままに人を襲って、新たなゾンビが生まれ続けるでしょうよ」


「…」

皆が無言になって静かな時が流れる。


―ガチンッ


金属音が聞こえたと思ったら目の前に巨大な歯の裏側が見えて、声をあげる間もなくその歯の裏側はスゥと透明になった。

見回すと私の周りにはガウリスと…リンカだけ。


巨大な顔のトラップに引っかかってしまったみたい。それより…。


「ラスボスもトラップに引っかかるのね…」


リンカは私の言葉にメソ、と泣きそうになって、私はいい加減にしてよと眉根を寄せる。


「今の独り言だから。別にあなたに言ってるわけじゃないんだから泣かないでよ」


「だ、だって、ラスボスなのにって…」

「なのになんて言ってないわ」


ちょっとイライラしているせいで言葉尻が強くなってしまって、リンカはわずかに涙ぐむ。


ああもう…。


ウンザリするけど、それでもいつまでも泣きそうなリンカに構っていられない。

まず今考えないといけないのはリンカの命令を無視して動き回っているゾンビをどうするかってことよね。


「とりあえずこれからのことを考えましょう」


ガウリスを見ると、リンカは、


「これから…?」


とキョトンとした顔をしている。


…自分が撒いた種なのに、他人事じゃないの。


ちょっとイライラしながらも頑張って冷静な口調で、


「スケルトンはともかく、ゾンビは全部倒さないといけないでしょう?これ以上被害が増えても困るもの」


「別に魔族は困らないけど…」

「私たち人間が困るのよ!」


カッとなって怒鳴る。

怒鳴ってすぐにしまったと口をふさいだけど、リンカは完全に泣いてしまった。


ああああ、もうやだぁ…!


ウンザリとした表情で頭を抱える。


けど思えばそうよ。リンカは魔族で人じゃないんだから、どんなにゾンビが増えようがどうだっていいんだわ。

さっきから泣いているのだって自分の力がなくてアンデッドがろくに操れないということと、人の言葉に脅えてるからだもの。自分のせいでどんなにこの周辺に住む人が困るかなんて考えはリンカの頭の中にはないのよ。


「とりあえず皆と合流するのが先よね」


まずリンカは放っておいてガウリスに声をかけた。


ガウリスも頷くけど、


「そうですね。しかし皆さんがどこに居るのか…」


と、キョロキョロと頭を動かす。


そうよね、ここが洞窟の中のどこなのかも分からないし…。


「進む?それとも戻る?」


「戻った方がいいでしょう。先に進む理由も無くなりましたし、きっとサードさんたちも同じような事を考えて入口に戻っていると思います」


「けど入口ってどっちかしら」


進む方向を間違えたら奥に奥に進んでいくことになる。それは避けたい。


するとガウリスはリンカに声をかけた。


「ラスボスの間は外に面していますか?」


リンカはガウリスに声をかけられてビクッと体を震わせながら顔を上げて、首を横に振った。ガウリスはそれを見て、私を見て、右に体を向ける。


「入口はあっちですね」

「え?どうして分かるの?」


「松明の火が右にたなびいています。ラスボスの間はこの洞窟の一番奥でしょうが、外に面していないなら空気の流れは入口だけということです。

入口でなくとも先ほどのように天井に穴が開いている場所まで行けるかもしれません。可能ならエリーさんの魔法で天井の穴をこじ開けて外に出てもいいかもしれませんね」


と言いながらガウリスが歩き出すから私も歩き出す。


ふと後ろをみると、リンカがあっあっ、と胸の前で手を組んで私たちを見てウロウロしていた。


ついて行きたいけど魔族が勇者一行の後ろをついていくのはどうかと思っているのかも。


「…別についてきても気にしないから。それに一人でいたらまたゾンビに食べられるかもしれないでしょ」


そう言いながら手で招くと、リンカはホッとした顔で私の後ろまで駆け足で寄ってきて嬉しそうに微笑んだ。


…こうしていると魔界の一つの州の大臣の孫というより、ただ洞窟に迷い込んでしまった素朴な村娘って感じよね。

「何かあるとすぐに泣く友達がいて私たちが先生にいつも怒られます。もうウンザリです」


って小学生向け雑誌での質問に、


「皆でその子と一緒に泣いちゃえ!誰を叱ればいいのか先生も判断つかなくなるよ!」


って回答を出した大人、好きだなぁって思いました。

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