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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ただの使い走りじゃなかったのね

体が爬虫類で頭が人間のモンスターを後目に、私はとくとくと、


「ね、とっさの行動でも私よりアレンの方が一足早く動けていたし、やろうと思えばモンスターを倒せるのよ。だからもっと自信持ってよ。ロドディアスの古城では十体以上のモンスターを一人で倒したじゃないの」


と言い続けている。


今のを見て思った。アレンは身体能力向上魔法を使いながら戦ったら十分に強い。まだ魔法の使い方が安定してないのは置いておくとして、ロッテの言う通り、アレンに足りないのは自分だって戦えるって自信だわ。


アレンは何か言いたげな顔を私に向けているけど、ロドディアスの古城の時のみたいに「何言ってんだよ、俺は弱いよ」とは言わなくて、でもやっぱり怖かったのか生命力を削られたような疲れた顔でコックリと頷いた。


そしてロッテから受け取った(じょう)を握る。


「やっぱりロッテから渡されたこの杖、アンデッドに効くんだな…」


本当はただの杖なんだけどね。


さっきのもアレンの自分の実力だと知ったらどのような反応をするのかしら。


「え?マジで?じゃあさっきの俺の力で倒したってこと!?ヒャッハー!」


ってジャンプしながら喜ぶかも。まあ、今はアンデッドに効果のあるお守りって信じてるから言わないけれど、この洞窟を出たら伝えてあげよう。


アレンはまたマッピングを始めて歩き出した。


私も周りの音に集中しながらアレンの隣を歩いていく。

さっきのアレンの叫び声がバラバラになった皆の耳に届いて、こっちからアレンの声がしたって近寄ってくるかもしれないけど、ゾンビが近づいてくる危険性の方が高いもの。


分かれ道に差し掛かると、アレンは首を動かして耳をそばたてる。


「こっちの方が音はしない…かな?」


アレンは私にも聞いてくる。

耳を左、右とそばたててみるけど、どっちもあまり音がしないように思えるわ。


サードは普通に話をしながらでも分かれ道に差し掛かったら頭を軽く左右に動かして迷いもなく進んでいくけど、サードの耳はいいものね。


前にもあったわ、あんなことが。


平原でフッと頭を動かして、


「あっちから人の叫び声がする」


ってサードが言いだして、言うだけ言って助ける気のないサードを説得して声のする方向へと走って行ったのよね。でもいつまでたっても人が発見できなくて。


走るのに疲れて段々と歩き走りになって脇腹も痛くなって、もしかしてサードの聞き間違いだったんじゃないのと思い始めたころ、遠くで冒険者二人が獣型のモンスターに追われて逃げていた。


後でアレンが地図を見ながら走った距離を計算してみたら、サードが声の聞こえた場所と冒険者が走っていた辺りまで三キロほどの距離があったことが分かって、サードの聴力の良さに二人して驚いたものだわ。


「とりあえず右、行ってみるか?」


アレンの言葉に私も頷いて、右の方向に進んでいく。


たまに脇道もあるけどアレンはそっちにも道がある程度にメモを取ったら真っすぐ進み続ける。


「あっちにはいかないの?」


何度目かの脇道を通り過ぎた時アレンに聞いてみると、アレンは首を横に振った。


「ここは昔何かを採掘していた坑道なんだよ。だとしたらあっちは何かないか試しに掘ってみただけの道だと思うから途中行き止まりかもしれねぇんだよな。だってこの道と比べると天井低いじゃん?まぁグルッと回って繋がってる場合もあるとは思うけど」


そう言われると今進んでいるこの道より脇にある道は天井が格段に低いわ。


けどアレンもさっきの取り乱しようから比べるとかなり冷静になったわ。マッピングにまた没頭しているからかもしれないけど。


すると後ろから妙な音が響いて聞こえてくる。


何の音?


振り向いて何の音かと耳をそばたてる。


…足音…馬のひづめの音に聞こえなくもないわ。それが猛スピードで走っていて…それもこっちに近づいて来てない?

でもこんな真っ暗な洞窟の中を猛スピードで走る馬なんているはずがない。きっとモンスターがアレンの叫び声を聞き付けて向かって来ているのね。


私は後ろを振り向いて杖を握りしめる。


「先に私が魔法で攻撃するわ」

「分かった」


アレンも後ろを振り向いて(じょう)を握る。

声は緊張に満ちているけど、それでもやらなければならない、という気持ちがにじんでいる。


ひづめみたいな音はどんどん近づいてくる。遠くは見えないけどとにかくこの通路全体に風を放てばいいわね。


魔法を発動して風をドッと放つ。

私たちの周りの空気もつられるように向こうに吹き抜けていって、髪の毛に服が風で前に引っ張られる。


すると向こうからヒョオォ、と強い風が吹き抜けるような音がして、風がゴッと跳ね返ってきた。


「ブッ」


その勢いに私もアレンも跳ね飛ばされて、後ろに尻やら背中をしこたま打ち付ける。


「魔法使うアンデッドいるのか!?」


アレンがそう言いながら地面に転がった杖を持って立ち上がるけど、ロッテじゃあるまいし、うんとも違うとも言えない。


見ると松明が今の風の勢いで飛ばされて遠くに転がっている。


そうしてる間にもどんどん音は近寄って来ていて、今よりもっと強く魔法を…と魔法の杖を向けると、


「ふざけるな!殺すぞ貴様!」


と声が聞こえてきた。


少し手が止まった隙にひづめの音はあっという間に私たちの目の前までやって来て、止まった。


遠くに転がっている松明に照らされた先に見えたのは、骨だけの馬に乗った黒い甲冑の…グラン。


「グラン…!?いつの間にそんな馬…」


見るとそのグランの前にはロッテがいて、その後ろにはガウリスが乗っている。


「そこの赤毛が叫んだせいで向こうからゾンビの大群が押し寄せて来たんだ!あと俺が自分の馬に乗って何が悪い!」


グランは何もかもが面白くないとばかりに怒鳴りながら、馬の上から槍の尻柄でアレンの胴体をドスドスと突く。


「いでで、いでで!」


アレンはグランから逃げるように離れて、私も敵じゃなかったことにホッとしつつ松明を取りに行く。


そして馬の上の三人に顔を向けて聞いた。


「サードは?」


ロッテは頭を横に振って、


「あっちの方では見なかったよ。どこ行ったんだろうね」


するとアレンはハッとした顔になった。


「まさかさっき倒したあれ、本当にサードだったりしないよな!?」


「それはない」


そこは冷静に突っ込んでおく。

どう考えてもあれはモンスターだし、頭だってサードじゃなかったでしょ。


ガウリスは馬からヒョイと降りると、


「お二人が無事でよかった。神に感謝を」


と天井に向かって祈りを捧げている。


するとロッテは後ろをかすかに振り向いて、


「とりあえず先に進みましょ。あたしたち魔族はアンデットに何されようがどうにもならないけど、やっぱゾンビにもみくちゃにされてゲロまみれになるの嫌だし」


と言う。ロッテがそんなに言うくらいの大群が迫ってきているの?アレンのあの叫び声で?


「それならここで待ち構えて後ろからのゾンビを一斉に倒した方がいいのかしら。もしこれで前からも迫って来られたら大変じゃない?」


ロッテに聞くと、ロッテはうーん、と腕を組む。


「ま、それはエリーの考え一つじゃない?」


少し考えを巡らせて、どうしよう、とアレンとガウリスに目を向ける。


するとガウリスは、


「私はサードさんを探しながら進んだ方がよろしいかと思います。

心配いらないとも思いますが、やはりこのような暗闇で明かりも無く一人でいるのは精神がすり減るでしょうし、ゾンビがあのようにあちこちから向かっているかもしれないなら立ち止まっていた方が危険かと」


「そうだな、サードなら心配いらないだろうけど、それでもゾンビの大群が押し寄せてきてるってなら他の所にもゾンビの大群が居るかもしれねぇし、サード先に探した方が良いと思う」


アレンもガウリスの言葉に合わせるように言うから皆で歩き出す。


けど洞窟の中のマップは全て分かる訳じゃないし、サードもどこに飛ばされてしまったのか誰にも分らない。もしかしたらそのゾンビの大群の後ろにいるかもしれないし、もうラスボスの間の近くまで行ってしまっているかもしれないし。


まぁサードなら放っておいても勝手に外に出るなりしてそうだけどね…。


そしてグランとロッテは馬に乗ったままで、ロッテは、


「馬に乗って移動するの楽だわぁ」


とのん気に言っている。


「いい加減下りろ」

「いやぁー」


グランはイライラしてロッテの肩を後ろから小突くけど、ロッテは下りる気は全然なくて全く動かない。


「なんで俺の馬にこんな平民の女をいつまでも乗せないといけない…」


グランはブツブツと文句を言っているけど、それでも無理に降ろさない辺りロッテのことを一目置いているのか、魔族相手だからこそ見せるわずかな優しさなのか…。


骨だけの馬のひづめと皆の足音が響く中を歩いて行くと、それ以外の音が聞こえてくる。


ゾンビの呻く大量の声だ。


その音に皆で立ち止まった。


まさか後ろからのゾンビの大群に追いつかれたの?と後ろを向くけど、そうすると音の方向が違う。


ガウリスは首を横に振って、


「前からです」


と私の肩を叩いた。


言われるままに前に視線を戻すと、確かにそっちから声が反響している。


後ろからもゾンビの大群が迫ってきているらしいし、前の集団を突破しないといけないわ。


少しずつ前に進んでいくと、私の頭がぶつからない程度の高さの脇道が近くにあるのが見える。

何となくこの脇道に逸れたらゾンビの団体をかわせるんじゃ…と思ったけど、でもアレンが言うには試しに掘っただけだの道らしいし、行き止まりかもしれないし。


私は前に視線を向ける。


「とりあえず私の魔法でどうにか倒していけばいいと思う」

「そうですね、方向は私が言います」


ガウリスがそう言ってくれると心強い。


見るとアレンも三人と合流した安心感からか、さっきより緊張感の抜けた表情になっている。でも私と目が合うと慌ててキリッとした表情に戻った。


笑いをこらえながら先に行くと、どんどんと呻き声が大きくなってきた。


「これは…多いです」


ガウリスが目を見張りながら言う。


あんまり視界が効かない状況で逆に良かったのかもしれない。


もし視界が良くて遠くまで見えていたらアレンと二人になってしまった時と同じようにパニック状態に陥っていたかも。

そう思えるぐらい、私の耳には大量のゾンビが歩いてくる音と声が響いている。


「とりあえず、ここから真っすぐよね?」

「ええ」


ガウリスが頷き言った瞬間、真後ろから「あああああ」という声が聞こえた。


驚き振り向くと、いつの間にやらゾンビが私に向かって腕を振り上げていて、振り下ろそうとしている。


何を考えるでもなくボッと私を中心に風を起こすと、ゾンビどころか他の皆もすっ飛ばしてしまった。


「ご、ごめんなさい!」


慌てて皆を確認しようとすると、さっき何となく横目で見た脇道からゾロゾロとゾンビの大群が現れてこちらに向かってくるのが見える。


ええ!?あの脇道、行き止まりじゃなくてどこかと繋がってたの?さっきあの脇道に行こうとしなくて良かった、ううん、そんなことより後ろからのゾンビの方が近いわ。後ろのゾンビたちを先に倒さなくちゃ…!


脇道から出て来たゾンビに向かって杖を向けると、アレンが私に駆け寄ってきて肩を掴んでグラグラ揺らす。


「エリー!うわああエリー!前から来るやつめっちゃ速いのいるー!」


振り向くと、ダスッダスッダスッと足音を響かせて鎧を着た冒険者風のゾンビが猛ダッシュで駆けてきている。

あまり体が腐っていない。死んで間もない体だからダッシュで走れるの?


…なんて考えている場合じゃないわ!どっち、どっちを先に攻撃すればいいの!?

前からはまだ綺麗な体のゾンビが歯をむき出して猛スピードで駆けてくるし、すぐ後ろからはゾンビの大群が迫ってきている。

だからって二手に分けて風で攻撃だなんて今までやったことないし真横に皆が居る状態で風の魔法を使ったら皆が吹っ飛ばされてゾンビのど真ん中に落ちてしまうかもしれないしそれよりゾンビがせまってきてるしあああああああああああ…!


ガンッと音がした。


何の音!?と顔を向けると、私たちと馬から落馬しているロッテより離れた所にいるグランが槍を地面に叩きつけていて、槍を高く掲げた。


「使えない!このうすのろ女が!」


怒鳴るグランの槍の先から風が起きて、シュルシュルと空中に雪が舞った次の瞬間、ゴッと猛吹雪が洞窟内に吹いた。


一瞬で目の前が真っ白になって、元々寒い洞窟の中がさらに急激に冷え込む。


息を吐くとその息で顔にまつ毛、髪の毛にビシッと氷が張りついた。

パリパリと音が聞こえてふと目を音のする方に向けると、息で凍りついた髪の毛が氷がはぜる軽い音を立てて砕けていっている。


ちょっと、これ危ない…!


私は慌てて自分を中心にアレン、ガウリス、ロッテのいるあたりに向かって無効化の魔法を広げた。


無効化の空間の中に見える皆の体は今の一瞬で薄い氷の膜に覆われて雪が張りついていて、アレンは寒さで歯がガチガチと鳴っている。

ガウリスは手が地面にくっついてしまっていて、それを見たロッテは、


「無理に剥がしたら皮がむけるからね、気をつけて」


とガウリスに声をかける。


数秒間で猛吹雪はやんできて、槍を降ろしているグランの姿が見えて来た。周りは一面真っ白の氷漬けの世界になっていて、周囲にいた沢山のゾンビもどこかに消えている。


無効化の魔法を解いてゾンビはどうなったの、と聞こうと口を開いたけど、喉に急激に冷えた空気が入ってきたら心臓が驚いたようにドッと大きく跳ね上がって息が詰まってしまって、また慌てて無効化の空間で皆を包み込む。


「…ゾンビは?」


胸を押さえて呼吸と心臓を落ち着けてから改めてグランに聞くと、グランは私を睨みつけた。


「クソ鬱陶しいし貴様がうすのろだから俺がバリバリに砕いてやったわ!」


砕いた…?


周りを見てみると、白い一面にキラキラとした小さい粒があちこちに盛り上がっている…。…もしかしてあの盛り上がってる細かい粒ってゾンビ?ゾンビが氷漬けにされてそのまま…?


さっき私の髪の毛がパリパリと音を立てて砕けたのを思い出してゾッとした。


もう少しこの空間を作るのが遅かったら私たちも同じ目に遭っていたんじゃないの!なんて危ないことをするの…!


グランを睨むと、ロッテは雪を払いながら私の無効化の広がる空間から抜けてグランに話かける。


「さっすが、貴族なだけあって強いわ。瞬殺じゃないの」

「当たり前だ!」


ロッテの言葉にグランはイライラとしたような口調で返した。


ロッテ…寒くないの?寒さで喉が詰まらないの?


でもグランはロドディアスにもナバにもラグナスにもローディにも良いように使われているから皆の使い走りのように思っていたけど…その実力は本物なのね。

Q,あれ?ガウリス骨だけの馬に乗ってるけど、骨の馬って魔族の馬でしょ?ガウリスが馬に触って馬は大丈夫なの?馬。


A,元々人間界の名のある軍馬で、馬を欲しがるグランの誕生日プレゼントにしようとランディ卿が魔界に持ち去りました。魔界に連れ去られてから数百年目でとっくに骨だけになりましたが、グランに大事にされているのでなついてます。


Q,人間嫌いのグランがよく人間界の馬を素直に受け取りましたね。そのこと知ってるんですか?


A,知りません

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