いざ、洞窟へ!
野宿をして明るくなってから周辺に集落がないか探して、たどり着いたのは、広大な土地にわずかに出来たようなエキノという名前の小さい町。
その町にたどり着いて町人に聞いてみたら、どうやらここはバッシックス国という国で、それもナバの孫のいるダンジョンはこのエキノ町よりもう少し南東にある洞窟だってこともすぐ分かった。
どうやらナバはその洞窟近くに私たちを魔界から送り戻したみたい。さっさと孫を魔界に戻せ、ということよね。それとアレンが地図を見て分かったのは、私たちは昨晩ダンジョンの洞窟近くで野宿をしていたってこと。
それには思わず私は顔をしかめた。だって魔族のいるダンジョン近くにはモンスターが増える傾向があるから、下手したら寝ているうちにモンスターの集団に襲われていたかもしれないんだもの。
「何事もなくて良かったなぁ」
アレンの言葉に私とガウリスはウンウン頷く…。
「ならば目的の洞窟は今まで歩いて来た道を戻ればあるのか。だったら戻るぞ」
グランは町の外へ続く道を行こうとしたけど、サードが止めた。
「何の情報も無しにダンジョンには入れませんよ。まずはエキノ町で情報を集めましょう」
グランは表向きの顔のサードを気持ち悪そうに横目で見てから、噛みつくように口を開いた。
「何を言ってる、魔界をあれほど焦土にしたそいつが居るんだぞ、しかも二回も倒してるんだろう?ならとっとと戦えばいい」
サードは分かっていないとばかりに爽やかに微笑む。
「情報があるとないとじゃ大幅にやりやすさが違うんですよ」
グランはサードの微笑みでゾワッと鳥肌が立ったのか甲冑の上から腕をさすって、
「勇者のくせに随分と弱腰だな」
と悪態をついた。
「力しか取り柄のないあなたには理解できないでしょうね」
サードも表向きの顔ながら皮肉を言い返す。
そこでいざこざが起きそうになったから私はやめなさいよと二人の間に入って止める。サードとグランは本当に気が合わなくて、ことある度に言い合いどころか喧嘩が始まりそうになるからいちいち止めないといけない、すごく面倒。
そんな気持ち悪そうにサードを見ているグランとは正反対に、ロッテは表向きのサードを見ている間はずっとおかしそうにニヤニヤしている。
思えばロッテはサードの表向きの顔を今まで見たことがなかったのよね。
だからこのエキノ町にたどり着きそうな時、パッと表向きの表情に切り替えたサードを見たロッテは目を見開いて、
「どうやって顔変えたの?何これ凄い、魔法?本当に同一人物?」
って言いながらサードの顔をベタベタと触っていたっけ。
…でも昨日の夜グランはロッテをケルキ山まで戻そうとしていたのよね。魔界から無事救出したんだから、あとは屋敷にロッテを戻せば任務完了だってことで。
それでもロッテは激しい抵抗をみせて、ごね始めた。
「イヤッ!その魔族を倒すところまであたしも一緒にいる!」
グランはそれでも連れて行こうとしたけれど、説得のため小難しい言葉を並べ立てるロッテの言葉の羅列にグランは段々と目が回るような混乱の表情になって、
「もういい、分かったからその意味の分からん呪文はやめろ!」
って根負けして、ロッテも今ここにいる。
…むしろもうナバの孫を倒すことは確定している流れだけど、誰もそこに突っ込まないのよね。まあ今までに二回倒してるんだから大丈夫だろうって私も思っているけど。
「では本日はエキノ町で情報収集しましょう。しかし今から情報収集して出発となると洞窟にたどり着くのは夜になりそうなので今日はここで一泊、明日改めて洞窟に向かいます。私たちはこれから情報収集に行きますので宿はエリーが押さえておいてくれますか?町の中なら自由に動いても大丈夫ですので」
「分かったわ。じゃあロッテも私と一緒に行きましょ?」
「オッケー」
サードたちはそのまま私とロッテから離れ、同時にグランもスッと離れていく。
「グランも情報収集しに行くの?」
グランはギッと私を睨んできた。
「何でどこまでもお前らと一緒にいないといけないんだ!俺の役目はナバ様の孫が傷つけられないようにお前らを見張るだけ。必要のない時に近くにいる道理もない!」
グランはドスドスと足音も荒く去って行った。遠くなるグランを見送り私は思わず呟く。
「…頭悪そうなのに『道理はない』って言葉使うんだ…」
ロッテは「ブッフ」と吹きだしてゲラゲラお腹を抱えている。
「そんな可哀想なこと言わない!一応あの子も貴族なんだから、言葉遣いはそれなりにしっかりしてるはずだよ」
ヒーヒー笑っているロッテを引き連れ、宿屋を探しに動き出す。まぁ小さい町だからすぐに宿は見つかったけど、小さい町だから宿屋は一軒のみ、それでいて部屋数も少ないから一人一部屋も無理。
「じゃあ、男女で別れて二部屋でチェックインはできる?」
ちょび髭の生えた宿屋の主人に聞いてみると大きく頷いた。
「もちろんです、どうやら男性は四人のようですから、そちらも二人ずつにお分けしましょうか」
「うーん…そうね、それでお願い」
そうなるとグランを誰と同室にすればいいかしら…やっぱアレン?サードとは絶対殺し合いが始まるし、神様と同等のガウリスと同じ部屋なんて絶対に断りそうだし。
宿屋の主人は嬉しそうに手をこまねいて、
「本当にこんな時に勇者御一行が来てくれてよかった、このままこの町はゾンビに侵食されて我々も殺されるんじゃないかと毎日毎晩おびえて過ごしていましたから…」
そう。思えば洞窟近くからこのエキノ町に来るまで人っ子一人とも行き交いしなかったのよね。それもエキノにたどり着いて初めて会ったのは、武器を持ちおっかなびっくり集団で移動する人たちだったんだもの。
それで私たちの姿を見た町人たちは、
「勇者御一行ですか!?もしかして勇者御一行ですか!?私たちを助けに来てくれたんですか!?」
って嬉し泣きしながら駆け寄って来たもの。
「わぁ、ここが人間界の宿屋!?宿屋に泊まるなんて初めて!城の牢屋になら寝泊まりしたことあるけど!わぁーすごーい!」
部屋に通されると、ロッテははしゃぎながら部屋のあちこちを見て回っていく。
それにしても頭の回る大人の女性なのに、部屋一つでこんなに大はしゃぎするとか…微笑ましいし、可愛い。
そうしてハイテンションのロッテとあれこれ話しているうちにサードたちが戻ってきた。
「お帰りー。いい情報あった?」
ロッテが聞くと三人はそれぞれ集めた情報を私たちに聞かせてくれる。
・半年前から魔族が洞窟に住み着いたらしい
・中にいるモンスターはアンデッド系のモンスター(特にゾンビ)が多い
・このエキノ町にもアンデッドが度々襲来してきて住民が多く犠牲になっている
・冒険者が度々挑戦していたが戻って来る者はいない
・ここ数ヶ月は住民は外を単独で出歩けず、冒険者も行商人も訪れなくなっていて町の外がどうなっているのか何も分からない
お互いの情報を報告し合ってからサードは紙を一枚取り出してテーブルの上に置き、ついでのように伝えてきた。
「ついでにその洞窟の魔族討伐の依頼が出てたから受けておいたぜ、それが依頼書だ」
…こいつ、ナバからの報酬と魔族討伐の初回特典とハロワからの依頼の報酬を同時に全部手に入れるつもりね?なんて強欲な奴…。
アレンは皆の情報と依頼書を見比べて、
「誰も戻ってこないってことは結構強いアンデッドが揃ってるってことかな」
「でもあの魔族ってアンデッドモンスターなんて使っていたかしら。岩のゴーレムとか木のモンスターとか自然に近いモンスターを使っていたと思うんだけど」
ナバの孫の魔族と最初に会ったのは岩山。その時は岩のゴーレムがたくさん出てきて行く手をはばんできた。
でも私の自然を操る魔法で岩のゴーレムをゴリゴリと分解して砂状にしてズンズン先に進んだ。
二回目に会った時には深淵の森の奥。万年巨木に化けた木のモンスターが大量に現れて行く手をはばんできた。
でも私の自然を操る魔法でバキバキに乾燥させて人が使うのにちょうどいい薪ぐらいまでバラバラにしてズンズン先に進んだ。
「エリーがそんなことするから自然物はやめたんじゃない?」
ロッテが笑ってそんなことを言ってきて、皆もきっとそう、とばかりにウンウン頷いている。
まるで私が悪いことしたみたいな雰囲気にモヤッとしつつ、皆に質問する。
「で、そんなにゾンビが多いの?」
「うん。スケルトンもいるけど特にゾンビが町の中にも侵入して住民に被害を与えてるって。洞窟内のマップもないかなぁって思ったんだけど、誰も戻って来てないからマップもないんだよ。町の人が言うにはその洞窟は昔坑道だったらしいんだけど、捨てられてからかなりの年月がたってるみたいでさ」
するとガウリスが、あ、と呟いて懐から紙を取り出した。
「それなら地元の子供たちが魔族が住み着く以前に冒険者ごっこをしていて書いた洞窟内の地図をくれました。それでも暗くて段々心細くなって途中で引き返したそうなので、最初の辺りだけらしいのですが…」
そう言ってガウリスはテーブルの上にクレヨンで殴り書いたような地図の紙をテーブルの上に置く。
「いやいや、最初だけでも少し道が分かればいいよ」
アレンはそう言いながら自分のメモにその殴り書きの地図を自分用のメモに書いていく。
「へー、手馴れてるわ」
マップの書き写しを見てロッテが感心した声を出すと、
「まあこれが俺の取柄だし」
とマップを書き写してからアレンはふと顔を上げてロッテを見る。
「そう言えばロッテぇ。俺まだ身体能力向上魔法だっけ?あれできねぇんだよ。制御魔法とかもよく分んなくて」
「そうなの?苦戦してるわねー」
「魔法の核とか言われてもやっぱよく分かんねぇんだよな…」
「まぁ、つい最近始めたようなもんだし、それでさっさと出来たら天才ってもんだよ」
「じゃあエリー天才じゃん」
急に話を振られて少し驚いたけど、それでも天才と言われると満更でもない。
うふ、と軽く微笑んでいると横からサードがボソリと、
「魔導士の家系ですぐに出来ねえほうがおかしいんだろ」
と言ってくるから、キッとサードを睨む。するとガウリスは何か考え込む顔になって、口を開いた。
「ゾンビやスケルトンが目立つようですがゴースト系などのアンデッドモンスターは出るのでしょうか…」
「え、やめろよガウリス。俺そういうのいいから」
アレンがビクッと体をすくめてガウリスに言うけど、こともなげにガウリスは返す。
「アレンさん、ゾンビもスケルトンも大体の意味ではお化けですよ」
ゾゾーッと体を震わせるアレンにサードは呆れた顔をして、
「今更怖がることもねえだろ。冥界で会ったハチサブローだってとっくに死んだ奴だったんだぜ?あれだって化け物みてえなもんじゃねえか」
アレンは今更そのことに気づいたのか「コワッ」と言いながら両手で自分を抱え込むと、今度はロッテが面白そうな感じで、
「えー、何アレンってお化け怖い系?あとでアンデッドについて語り合おうか?」
…ロッテがサンシラ国の神バーリアスとダブるようなことを言う…。
「なんだよ皆して俺を怖がらせて!」
アレンがムキー!とテーブルの上をバンバン叩いて怖がって頭を抱えている。それでも皆で寄ってたかって怖がらせているからちょっと可哀想になってきて、皆をいさめておいた。
「皆やめなさいよ、アレン怖がってるじゃないの」
するとアレンは泣きそうな、でも庇ってもらえて嬉しそうな顔で私を見てヒシッと抱きついてくる。
「エリー…!」
だからこういうの普通男女逆じゃない?…まあ、なんか可愛いからいいけど。
* * *
次の日。さぁ宿を出て洞窟に向かうぞと歩いていくと、町の外れでグランが人に囲まれていた。
「どうか勇者御一行と共にあの洞窟の魔族を倒してください、騎士様」
「騎士様、うちの家族がアンデッドに襲われて…どうか仇を取ってください」
グランはイライラしている様子だったけど、我慢の限界に達したのか「散れ!この人間ども…!」と槍先を町人に向けようとしていて、皆で慌ててグランを回収しに行った。
まさか魔族に魔族を倒してくれと頼んでいたなんてこの人たちは気づいていないわよね。どう見たってグランは全身に黒い甲冑をまとった騎士そのものだもの。
「つーかグラン昨日どこで寝てたんだよ?俺と一緒の部屋だったのに帰ってこないから心配したんだぜ?」
「人間と同じ部屋で寝れるか!」
まあ立ちながらでも眠れるグランだから、どこででも眠れたでしょうけど。
ドスドスと不機嫌そうに歩くグランを先頭に、私たちもついていく。そんな洞窟に向かっている道中、ロッテが口を開いた。
「アンデットといえば聖魔術か黒魔術が効果的だけどさ、使える人いないでしょ」
聖魔術は神に忠誠を誓ってその力を借りる魔法。主に聖職者が使う魔術だけど、信仰心があっても魔力が無ければ聖魔術は使えないから自分は使えないってガウリスは言っていたわ。
黒魔術はその正反対の魔族に忠誠を誓った人が使える魔法。でもどこの国でも禁止にされていて、知名度はあっても実際に使える人はいないと思う。むしろ使っている人は問答無用で国に捕まって殺されると思う。
少しずつ目的の洞窟が見えてくると、ロッテがまた口を開いた。
「ゾンビには要注意だよ。あいつらに噛まれたり爪で引っかかれたり嘔吐物を吐きかけられただけで人間はゾンビになっちゃうからね。あたしたち魔族はそんくらいじゃどうにもならないけど、人間は一発アウトだから」
アレンはゾゾーッと体を震わせて私の服をキュッと掴んでくる。
…何でアレンはこんな時いちいち私の服を掴むのかしら。
「もしゾンビになっちゃったらどうする?なぁサードどうする?」
アレンは私の服を掴みながら不安そうにキョトキョト落ち着かない表情でサードに話しかけると、サードは振り返った。
「完全にゾンビになる前に殺してやるから安心しろよ」
「やだぁあああ!」
アレンが手に持っている分厚いメモ帳をグシャアッと握りつぶした。それを見たロッテは顔をパッと輝かせて指を向ける。
「あ!身体能力向上魔法できてる!」
「えっ!?」
急なロッテの言葉にアレンが驚いた顔をする。
「今のそれが身体能力向上魔法だから忘れないで。魔法詠唱は叫び声で発動するから、あああ、でも、うおお、でも何でもいいよ」
「…」
ポカンとした表情でアレンは握りつぶしたメモ帳に目を落としていて、サードは少し黙ってからゆっくりと口を開いた。
「お前、恐怖でブチ切れた時だけやたら強いのそういうことか」
そういえばロドディアスの古城で、アレンは十体以上の鎧の騎士相手に一人で立ち向かって倒していたわ。
じゃあアレンは知らないうちに身体能力向上魔法を無意識で使っていたんだ。発動するのが恐怖が迫った時ってだけで。
「…」
アレンはどうしていいのか分からないという顔でロッテを見ていたけど、ほんの少し涙目になりながらうつむき、メソッとアレンが泣きだす。
「でもそれ…俺…ゾンビ殴らないといけないの…?やだ触りたくない…メチョってしそうでやだ…」
せっかく感覚が分かって覚えた身体能力向上魔法だけど、その感覚が分かった嬉しさより素手でゾンビを触りたくない気持ちの方が上回ってる。
まあそりゃそうよ、私だって元が人間でも腐りかけた死体なんて望んで触りたくないわ。
「ほら泣かないの、洞窟に入る所なんだから、泣いてたら前が見えないよ」
ロッテがアレンの背中をポンポン叩いてあやしている。
「素手でゾンビを攻撃などと誰も言いませんから。大丈夫ですから」
ガウリスもアレンの肩に手を置いて元気づけるけど、もう興味をなくしたサードは「さっさと行くぞ」と入口で立ち止まっている私たちを置いて洞窟にさっさと入ろうとする。
「ほら行きましょう、アレン」
私も声をかけて促すけど、アレンは急激に頭を横に振った。
「やっぱ嫌だー!こんなお化けの洞窟なんて入るの嫌だー!」
「アレンさんお化けじゃありません、アンデッドです」
ガウリスが声をかけるけど、
「同じだって宿でガウリス言ったじゃねぇか嘘つきー!」
アレンはガウリスと私の手を振り切って洞窟に背を向けて走り出した。
「あれは…言葉のあやです!アレンさん逃げないでください!」
ガウリスが洞窟に背を向けて逃げ出したアレンをすぐに捕まえた。
「嫌だー!お化け嫌いなんだよー!怖いんだよー!子供の頃兄貴に無理やり連れて行かれた興行のお化け屋敷で置いて行かれたんだよー!嫌だー!もうあんなの嫌だー!」
アレンはジタバタと暴れて逃げ出そうとしていている。
そんな興行で訪れるお化け屋敷よりも怖いモンスターや魔族に会ってきたじゃないの…。
でもサードだって子供の頃のトラウマを克服できなくて精神的に追い詰められていたんだから、子供の頃に受けたトラウマはそうそう簡単に消えないものなのかもしれない。
…犯罪紛いのことをされかけたサードと、まだ可愛らしい感じのするアレンのトラウマを比べるのは気が引けるけど。
それを見ていたロッテは、ふぅ、とため息をついて空中に手を伸ばすと、両端に金具がついている黒い棒がその手の内に落ちてきた。
「アレン」
ロッテがアレンの前まで行って、その黒い棒をアレンに差し出す。
アレンは涙と鼻水だらけの顔でロッテを見て、差し出されるがままにその棒を受け取った。
「あたしは使い魔たちに本だけじゃなくて変わった品物も買わせてるの。その中でもこれは良い代物だよ。なんせ歴代最高と言われた杖術士が使っていた聖遺物の杖なんだから」
「ジョウ…ジュツ…」
アレンが初めて聞いた言葉を繰り返す子供みたいに聞き返す。でも私も初めて聞くわ。
「杖術士、杖…こんな棒を使って戦う術の使い手。この杖には魔力が込められていて、それも神に近い魔力が込められてるとされている。ちょっとでも触れればアンデッドには効果はあるし、この洞窟だったらお守り代わりにもなるよ。使いな」
アレンは杖を握って、嬉しそうにロッテに視線を動かし腕を広げる。
「ありがとうロッテぇ…」
アレンがロッテにキュッと抱きついた。
「あはは、泣き虫だねぇ。体は大きいのに」
ロッテはそう言いながらアレンの背中をポンポンと叩く。
「大丈夫ですか?」
アレンを気づかうようにガウリスが声をかけると、うんうん頷くアレンはロッテから離れ、杖を大事そうに、そして力強く握った。
「これがあるなら平気だと思う」
アレンはガウリスに促され洞窟の中に歩いて行くから私もその後ろを歩いて行くと、ローブをくん、と引っ張られた。振り向くとロッテがおかしそうな顔をして、コソッと私の耳元に口を寄せてヒソヒソと囁いた。
「エリー。実はあれ、普通の木でできた棒に金属性の金具がついてるだけの物なんだ」
「え?」
「魔族のあたしが聖遺物に触れるわけないじゃない?使い魔が本を買うおまけで貰って来たんだけど、使い道ないから部屋の隅に置きっぱなしでホコリかぶってたんだ。あたしは要らないからこのままアレンにあげるわ」
「けど…」
杖を大事そうに両手で握るアレンの後ろ姿を私は見る。
「心の底からロッテの言葉を信じてるわよ、あれ」」
ロッテは笑った。
「なぁに。アレンに足りないのは自分の戦い方に対する自信なのよ。これで最後の最後まで使わせておいて、ここのダンジョンを攻略したあとで本当のことを言ったら、何の力もないただの杖で自分は最後まで戦えたって自信に繋がるでしょ。だからこのまま攻略させよう」
ロッテはそう言いながら私に片目をつぶってくる。
まあ、そういうことなら…黙っていよう…。
私とロッテも皆の後を追って洞窟へ入って行った。
エリー
「サードとグランってすぐ喧嘩するからいちいちなだめて止めるの面倒よねー、プンスコ」
アレン
「……まぁな!」
ガウリス
「(何か言いたげですね、アレンさん)」
ロッテ
「(エリー、自分のこと棚上げしてるなぁ)」




