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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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古城へ

重装備の看護衣装を脱いで、それを東門の傍に立っている医師の一人に渡した。


「では、お願いしますね」


サードが看護衣装を渡すと、その医師はどこか挙動不審な動きをしてピョンピョンと飛び跳ねる。


「ま、まさか勇者様たちが来ていたなんて…!しかも脱いだら勇者御一行だなんて…!」


「今来たばかりですよ」


看護衣装を渡した医師…声から察するに男の人は喜んでいるみたい、興奮しすぎて空気をろ過するスーコーという呼吸音が乱れに乱れてハァハァハァハァという怪しい音に聞こえてる…。

国の医師団は皆ストイックで勇者一行の立場に興味ない人ばかりだと思ったけど、こういう人もいるのね。


「そういえば医師の中にも倒れた方がおられるようで…心配ですね」


サードが声をかけた。


医師は渡された服を折りたたみながらそうなんですよ、と頷く。


「ちゃんとこの服を着用して、殺菌した部屋で活動して、外部から持ち込んだ食事を食しているので病気に感染することは基本的に低いと思うんですが…ですから今は何を触って何を食べたかなど聞いて調べている所です」


と、そこまで喋っていた医師がハッと何かに気づいたように私たちを見て、畳んだばかりの看護衣装を勢いよく差し出してきた。


「そうだよ脱いだら感染するかもしれない!思わず受け取っちゃいましたけどこれを着ていってください!」


でもサードは差し出された重装備の看護衣装を押し返して首を横に振った。


「いいえこれは不要です。あなたたちの看護長は病気だと主張していますが、私たちはモンスターの仕業だと考えていますので」


「モンスター…?」


キョトンとした声で聞き返されたサードは軽く頷き、


「看護長に細かい話はしています。まあ、看護長にはモンスターの仕業ではないの一言で終らせられましたが…」


医師はそれを聞いてプッと噴き出しておかしそうに笑う。


「すみません、看護長は頭固いから一度こうと思ったらそれしかないって所あるんですよ。あ、そうだこれ…」


医師が皮の布で厳重に包んだものを手渡してくる。


「気休めですが頭痛と吐き気を抑える薬です。念のため持って行ってください、もし病状が出た場合はできる限りの対処をしますからすぐ戻って来てくださいね」


サードは薬を受取り軽く上にあげて「ありがたく頂戴します」とお礼を言うと、歩き出した。私とアレンも医師にお礼を言ってから歩きだすと、


「お気をつけてー!」


と見えなくなるまで医師は両手を頭の上でブンブンと大きく振って見送ってくれる。


そうして医師の姿が見えなくなると、サードが急に振り向いてきた。


「いいか、ここから先自分の持ってる水以外は飲むんじゃねえぞ」


何を今更…そんなの当たり前じゃない。


でもあんなに物々しい服を着込んだ人々を見て説得力のある医師たちの話を聞いていた少しずつ心配の気持ちが膨れ上がってきた。

だって看護服を脱いだ今、じわじわと病気に侵されている可能性だってあるんだし…。


「ねえ…私たちあの服脱いで大丈夫なのよね?」


するとサードは吐き捨てるようにため息をついた。


「悪化して死ぬ可能性があるのは体が弱ってる奴か生まれたばっかりのガキだってあの情報屋が言ってたろ。俺らがかかったとしても死にゃあしねえよ」


「そうはいっても…」


なおも続けようとすると、サードが眉間に深いしわをよせて手を伸ばし、私の頬をギニッとつねり上げてくる。


「痛い!いたいいたいいたい!」


「サード!女の子の顔にやめろよ!」


アレンは私とサードの間に入って私たちを引き離した。アレンの向こうからサードは怒りのこもった口調で指を突きつけ、


「てめえが毒を持った何かが川上から流れてくるっつったんだろうが!だったら川の水だ、川の水さえ飲まなきゃいい話だろ。それとも何だ?ここまで来といて自分の言ったことに自信ねえっていうつもりか?だったらてめえのたわごとで俺らはこんな所まで来させられたってのかよ、ああ?ゴラ」


「それは本当よ、ラグナスがそう言っていたんだし…」


するとサードは少し表情を改めて、偉そうに腕を組んで私を見下ろしてくる。


「それより生態調査員のラグナスってのは本当にこっちから川下のスライムの塔方面に毒が流れてるって言ったんだな?確実に」


いきなり何よと思いながらも頷くと、詰め寄るようにサードは言葉を続けた。


「生態調査員はモンスターを主に調べる職業だって俺は聞いたぜ?そんな野郎がどうしてこの古城と正体不明の毒をもつ何かを結び付けてこの古城を攻略してくれって頼んできたんだ?」


「…それは…私に聞かれても困るわ」


こう聞くってことは、サードはラグナスに何かしらの違和感を感じているってこと?


でも私もたまに「あれ?何かおかしいような気がする」と思ったりもする。それでも私の頭の中ではラグナスに言われたこと全て辻褄が合ってる。

でもっぱり何か違うような、でも合ってるようなみたいな思考になってくるとその先がモヤモヤと煙がかかっているようになって…スッキリしない。

人の名前がも一歩で思い出せそうで思い出せない時みたいなもどかしい気持ち…。


ふと気づくとサードは悩む私を黙って見ていて、あとはラグナスの話に興味がなくなったかのように古城に顔を向ける。


「行くぞ」


さっさと歩き出すサードについて歩くとアレンが心配そうに聞いてきた。


「エリー、ほっぺ痛くないか?」


アレンはいつでもサードに痛めつけられる私をかばって心配してくれる。アレンのこの朗らかな優しさにはいつも救われてきたものだわ。

最初に会った時の「大丈夫、俺が居るから悪いようにはならないよ」の言葉を未だに守り通してくれているアレンにあまり心配はかけたくない。


「うん。大丈夫よ、これくらい」


本当はジンジン痛む。けどこの程度で痛いといつまでも(わめ)いているようじゃ冒険なんてできたものじゃないもの。


サードの無防備そうで、全く隙のない後ろ姿をキッと睨みつけた。


見てらっしゃい、いつかあなたが弱った時に今までの仕返しをしてやるんだから。


サードは気づいているのかいないのか。そのまま歩みを進めていく。


サードの背中を睨みつけつつ伸びた草を踏みしめ古城に向かう道を通って行くと、遠くからゴウゴウと滝の水が流れ落ちる音が聞こえ、手入れもあまりされていない木々の隙間から恐ろし気な雰囲気を放つ古城が少しずつ見えてきた。


昔はさぞや立派なお城だったんだんでしょうね。

でも誰も住まずに放置された今じゃ、つる草にイバラが絡まり合っていて石でできた城を囲う壁もあちこちヒビが入っていてもうお城としては使えそうにないわ。


近づくにつれてお城の窓も見えてくるけど、お昼なのに中は薄暗くて外からはさっぱり見えない。


確かにこれは魔族が住むようになってもおかしくない場所だわ。大体魔族ってこういう朽ちかけた不気味な場所に居ることが多いもの。

あのスライムの塔みたいな眺めの良い原っぱのど真ん中に灯台のような塔が一本だけそそり立っている、あれがやっぱり変わってるっていうか珍しいのよ。


それにしても本当に不気味…。

騎士の鎧型のモンスターが出るっていうのは知っている。でも…前の町ではこう噂されていた。


『あの古城には…昔起きた戦争で果てた騎士の亡霊が今も現れるって話ですよ…』


…うん、あの情報屋から情報を買ずに中に入ってたら私はその亡霊説を信じてしまっていたかもしれない。そう思ってしまうぐらい古城の外観はあまりにもおどろおどろしい。


「あの情報屋から手に入れたマップ出せ」


サードの言葉にアレンが「うん」と返事をし、マップを取り出して広げる。


「やっぱり実戦用の城だから、結構入り組んでるみたいなんだよな」


アレンがサードと私にも見やすいように差し出してきたから覗き込んでみても、あまりにも精密な設計図に嫌気がさしてすぐに見るのを止めた。


サードとアレンはその精密な古城マップを見ながらこまごまと話し合って移動順路を考えている。


マップがあるなら最初からどこに魔族がいるのか見当をつけてから入ったほうがいい。そうすれば無駄にモンスターと戦う手間も省けるし、体力も温存できるから…とアレンがいつも言っている。


そんなアレンはマップを見る能力にすごく長けていて、アレン程じゃなくてもサードだって頭の回転の速さで大体の予測はつけることができるもの。


マップの確認と移動順路を考える仕事は二人に任せておけばまず間違いないから、私は二人がこういう話をしている時は口を挟まないと決めている。


そして古城を見た。


お城を囲う崩れた防壁の隙間から中庭の様子が見える。


荒れているわ。


かつては整っていたはずの中庭には私の背よりも高い草がぼうぼうと生えていて、高い木も手入れされず乱雑に生えて森の一部になっている状態。


そのほぼ森と化している中庭の向こうが古城。

ここからお城への入口が遠くに見える。灰色の石造りの壁だから木製の扉の門がやけに目立つわね。


ん、でもあの門、少し隙間が開いている。

…そっか、この長い年月で扉もピッタリ閉まらなくなってしまって…。


―タン


小さな音がしてその少しの隙間が閉じた。


驚いてその扉をまじまじと見る。でもドアの辺りには誰も…モンスターもいない。

でも確かに、私が見ている中で扉かぴったりと閉じた。


「ねえ」


振り向いて慌てた口調で二人に声をかけた。二人は会話を止めて私に顔を向ける。


「さっきまでお城の入口が少し開いてたんだけど、今閉まったの」


二人はお互いに顔を見合わせて、また私に視線を戻す。


「風じゃねぇの?ここ山の上で崖もあるから風も強いぜ?」


アレンがそう言う。確かに涼しい風は崖の方向からひっきりなしに吹いてるけど…。


「でも今見たのは絶対に違うわ。あんなに大きくて重そうな扉が閉まるくらいの風なんて吹いていなかったもの。それに人が中から閉めたみたいで…」


ボソッと、サードが呟いた。


「モンスターが閉めたんだろ」


サードのことは無視する。真剣に取り合ってないのがよく分かる。


でもこの古城の下にある町は今完全に封鎖されているんだから、他の冒険者、ましてや町人が中に居るのは考えられない。それに人だったとしても内側から閉めるのもおかしい。


だとしたらやはりモンスターが閉めたということになるけど…。


「で、だ」


サードの言葉が聞こえたと思ったらあごを掴まれ、力任せに首を九十度グインと横に向けられる。


首筋がグギッといってねじ曲がった。


「ボスはこの塔の上にいるかもしれねえ」


サードが何か言ってる。けどグギッといった首が痛すぎて声は聞こえてもすぐさま頭から抜けていく。


首を押さえた私は「ンヌうう…!」身もだえして、アレンはあわあわと泡をくった動きで「ちょ、大丈夫?」と私の周りをうろつき、サードはお構いなしにマップを指さし、


「城の二階、ここの大広間は軍議をするための部屋だったらしいんだが…」


と続けようとしている。こっちはあまりの痛みで涙が浮かぶくらい痛いのにこいつ…!


「ちょっと、謝るってことができないの、あなたは!」


サードにそんな常識的な訴えが通じるとは思っていないけど言わずにはいられない。


そしてサードは真顔で私を一瞬見すえるとマップにすぐ視線を移して指を動かし、


「この軍議を開く大広間に中ボスが居るとみた。この大広間から塔に続く一本の空中回廊があるが、今のところこの中ボスを倒して先に進んだやつは居ねえ。他にボスが居そうな場はねえからボスはこの塔の上にいる予想だ。そんで順路は…」


と話を続ける。


ムカッとして首を抑えながらサードをビッスと叩くと、サードがイラッとした顔で私の肩を平手でドンッと押した。

その力でよろけ、カッとして杖を振り上げるとサードが聖剣に手をかけて引き抜いた。それを見た私もやる気?と杖をサードに向けて力を発動…。


「こらこらこら!これからダンジョン攻略だっていうのに仲間内で喧嘩しない!」


アレンが私たちの間に割り入って私とサードの腕を一斉に掴むとそのまま一緒に城へ一緒に向く。


「俺たちが戦うのはあっち!オーケー!?」


「るっせー、分かってら」


サードが物を放り投げる要領でアレンに掴まれている腕を抜き放った。

私は納得できないとアレンを見上げると、アレンが、めっ、という顔で私を見下ろしている。


アレンにそんな顔でたしなめられたら強く出られない。まだ納得いってないしイライラするけどアレンに免じて杖を下ろすと、サードは「くっそ」と悪態をつきながらズカズカと城門に歩いていく。


くっそ、て何よ、あんたが悪いのに私に悪態つくつもり!?


「おいサード、一人でいくなよ危ないだろ!エリー、行こう」


イライラが強まる中アレンに促され、無理やりにでも怒りを抑えてアレンと一緒に古城へと向かった。

昔、肩が凝っているなどという話を母にしたら、母はおもむろに私の頭を掴んで整体の要領で首をゴキィとしようとして、すんでの所で逃げました。

母曰く「弟が柔道をやっていてそういうの何度も見ている」とのことでしたが、母は柔道をやっていない素人なので素人に首を雑にねじ曲げられるところでした。殺す気か。


そんな母はある時「私はよく弟の柔道の相手をしていた」と言いながら棚・テーブル・シンクなど角の多い狭い台所で技をかけてこようとし、こんな所で技をかけられたら危ないと私は最大限に腰を引き小さくジャンプし続け足をかけられないよう逃げていたら「そんなに逃げられたら技がかけられない」と文句を言われました。かけられないように逃げてんだよ。殺す気か。


母との関係は良好です、しかしあの時は親子のスキンシップで最悪病院送りにされる所だったので私はブチギレでした。

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