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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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魔界への誘い

ラグナスはその後に手を振り振りしながら、


「そろそろ塔の様子みないといけないから戻るね。今冒険者が際どい所まで来てるから追い返さないと」


と個室の扉を開けて、スライムの塔のラスボスの間へと去っていこうとする。


でも思えばラグナスがこの転移の魔法を使えば魔王の側近が関わってると誰にも気づかれず楽にロッテだけ連れ去れるんじゃ…。


「ラグナ…」


名前を呼んだけど、ラグナスは気づかすバタンと扉を閉めてしまった。

アレンは閉じられた扉をすぐさま開けるけど、そこには食堂の廊下が見えるだけ。


「すっげー…。本当に一瞬で移動できるんだ…」


そんな中、グランはさっきからずっとイライラと歯ぎしりするやら足をダカダカ動かすやらグダグダと悪態をつきまくるやらと忙しそうで、サードはそんなグランの機嫌の悪さなんて関係なく、


「で、どうやって魔界に行くんだよ」


とグランに話しかける。グランは忌々しそうにサードを睨みつけて、


「人間に教える義理はない」


と吐き捨てた。


人間は自力で魔界に行くことはできないけど、魔族に連れて行かれるなら魔界に行くことはできる。…って聞いているけど、実際に人間が魔界に連れていかれるなんて伝説や物語の中だけで、本当に魔界に行ったことがあるって人の話は聞いたことが無い。


「まずお金払ってからだな。皆ご飯食べ終わったし、出ようぜ」


アレンの言葉に私たちは支払いを済ませて食堂の外に出る。


「やっぱあれなの?魔界に行くのって冥界に行くみたいに歩いていくの?魔界と冥界って何か違うの?それとも繋がってるの?ほら宗教によっては同じくくりになるときあるじゃん?ところで魔界ってさ…」


「やかましい!」


グランがアレンに怒鳴りつけると、グランの周りの空間が…ううん、私たちの周りの空間も歪んで、気づくと周りは見知らぬ土地へと変わっていた。


あまりに一瞬のことで驚いて周りを見渡す。


空が赤黒いから夕方になったと思ったけど、周りはお昼みたいな明るさ。


「ここが…魔界?」


どうやら街中みたいで、周りを見ると今まで歩いていたウィーリの街中の延長みたいな風景。お洒落な大通りの両脇にはお店が連なっていて、石畳が敷き詰められた道を人々…じゃなくて魔族が行き交っている。


「私、今日はお洒落な服買う予定~」

「マジ?負けてらんねえ」


と会話をしながら通りすぎる女の子たち、


「俺らみたいな弱い魔族がこんな大通り歩いてたら因縁つけられないかなぁ…」

「シッ、黙ってりゃお前強そうなんだから堂々としてろ!」


とおっかなびっくり歩いていく男の人たち…。


ここまでなら買い物を楽しみにする人とお洒落な大通りに気圧されてる人みたいな感じで人間界と特に変わりがなさそうに思えるけど、道の中心を頭がライオンで体が馬というキメラのような動物が唸り声を上げながら猛スピードで通りすぎて行って、その通り道でノロノロと転がっていたスライムが轢かれてバインッと弾き飛ばされる。


それに空を見ると翼を広げて悠々と飛び交っている魔族もたくさんいるのを見ると、やっぱり魔界と人間界はどこか違うと思えるわ。


「…ここが、魔界ですか?」


ガウリスが驚いたように辺りを見渡すと、グランはふん、と鼻を鳴らして歩き始めた。


その後ろをついて行きながら、私は聞いた。


「ここはリージング州なの?」


「あんな州と一緒にするな!ここはスウィーンダ州、ロドディアス王が治めている州だ!」


私に振り向いて怒鳴りけてからグランは前に向き直って、肩をいからせながら歩いて行く。


「今どこに向かってんの?」


「黙っていろ!貴様らを引き連れて歩いてるってだけで腹が立ってるんだ!」


アレンの質問にグランが怒鳴りつけながら足音も荒くどんどんと歩いて行く。


「怒りっぽい野郎だな、だから馬鹿なんじゃねえの」


「なんだと!」


グランがサードに振り向いて目を()く。


アレンとガウリスが、まぁまぁまぁ、とサードとグランの間に入って引き離すと、グランは、


「触るな!」


と怒り、前を向いて歩いて行く。


でも本当に怒りっぽい人ね。疲れないのかしら。


そうして歩いていくと、遠くに見えていた立派なお城のようなものが近づいくる。その城の前までたどり着くと、私たちに振り向いて指を突き付けて来た。


「お前らはここにいろ、俺はロドディアス王に今まであった経緯を話してからリッツの屋敷に向かうことにする」


グランが門を通りすぎると門番が敬礼して挨拶をする。


と、門の影から誰かがひょっこり顔を出した。


「どこに行っていたのグラン、探したのよ!」


あっ、あの子は水のモンスターを人間界に放って騒ぎを引き起こしたローディ姫だわ。

処分を受けたからしんみりと大人しくしているかと思ったけど、なんてハツラツとした元気な声と顔。全然反省してないわね、あれ。


「姫様」


グランは片膝をついて頭を下げて、


「ロドディアス王より伝令を承っておりましたので、人間界へ行っておりました。他にも用が出来ましたので、申し訳ありませんがこれにて」


と立ち上がると、ローディはムゥッと頬を膨らませる。


「今日は私のおままごとの相手をするって言ったじゃないの!嘘ついたの!?」


「…。帰ったらお相手しますので、どうか今は…」


へえ…女の子のおままごとの相手してるんだ…。


あんなにすぐカリカリして偉そうなグランがどんな顔をして女の子のおままごとの相手をしているのかしら。想像すると頬が緩むわ。


私の視線に気づいたのか、グランがこっちを向いてきまり悪そうに視線を逸らす。


するとローディがグランの視線に気づいて、私たちにすっと視線を向けてきてギョッとした顔になる。


「え…。なんで勇者が…?」


ローディはハッとグランを見上げる。


「まさか、グラン。あなたが引き連れて来たの?勇者たちを?もしかして…勇者たちの味方になっちゃったの!?」


ローディが信じられないと言う顔つきでグランを見上げる。


グランは即座に首を横に振って、


「姫様!これには事情が…」


と説明しようとするけど、ローディは即座に城の中に走り出していく。


「パパー!グランが、グランが勇者一行に(たぶら)かされて勇者たちの仲間になっちゃったー!パパー!追い返してー!」


「姫様違います!これは事情があって仕方なく連れて来たんです!話を聞いてください!」


グランは慌ててローディの後ろを走って追いかけていく。


しばらく城の方からは、


「パパー!パパー!パーパー!あのねー!グランがー!」

「姫様お待ちください!違います、姫様ー!」


という声が聞こえてきていたけど、しばらくすると二人の声は聞こえなくなった。


そうやって静かになると段々と私たちの間から笑いが漏れていく。


「あんなに偉そうにしてたのに、やっぱりお姫様には頭上がらねぇんだな」


とアレンが言うと、


「微笑ましいじゃないですか」


とガウリスは笑って、


「おままごとって、おままごとって…!どんな役をやってるのかしら…!」


私はもうおかしくてプルプルと震えて、サードはひたすらグランを馬鹿にするように笑っている。


そうしてひとしきり笑い合いながら門の前で待っていると、門の奥から人が現れて、門番は即座にその人に対して片膝をついて頭を垂れる。


「やぁ久しぶりだね」


「ロドディアス…!」


現れたのはローディを抱っこしたロドディアス。


古城に居た時には甲冑をまとっていたけど、今は綺麗な模様の羽織り物にベルト、膝までのロングブーツを履いて…まさに王族といった服装だわ。


ロドディアスは相変わらず優しそうな目つきで微笑んでいて、悠々と優雅な足取りで私たちの元に歩いてくる。


でも少し離れた所でピタリと止まると、おかしそうにサードに目を向けた。


「私には戦う意思はないんだが、君は私と戦いに来たのかい?」


ロドディアスの言葉にふとサードを見ると、警戒の表情で聖剣に手をかけ身構えている。


「ちょっと」


私はサードにやめなさいと腕に手をかけて聖剣を下ろさせようとすると、サードは私を軽く睨みつけてからロドディアスを睨む。


「まさか州の王自らが来るとは思わなかったもんでね」


「せっかく勇者御一行様が魔界に来たんだ、顔ぐらい見せないと失礼だろう?」


冗談を言ってロドディアスが笑っていると、その後ろにグランが少し疲れたような顔つきで追いついた。


「グランから話はきいたよ。魔王様側近の命令ならしょうがない、グランをうまく使いなさい。謹慎中の今、リッツとリージング州に派手に動かれると私も困るからね」


ロドディアスは腕に抱えているローディに、ね、と目を向けてから、ふとガウリスに気づいたみたい。


「おや、仲間が一人増えたのかな?私はスウィーンダ州の王、ロドディアス・ノード・ダ・スウィーンダだ。勇者御一行とは以前戦ったことがある」


ロドディアスはガウリスに手を差し出して、ガウリスはまさか魔族の…州の王様に友好的に手を差し出されるとは思っていなかったみたいで、驚いていたけどすぐに手を差し出して握手した。


するとロドディアスは一瞬顔をしかめてガウリスの手をバッと振り払う。そしてひどく驚いた顔をしてガウリスを見開いた目で見た。


「…もしかして君は、神か?」


「違います」


ガウリスは一言で否定するけど、ロドディアスは疑わしそうな顔つきでガウリスを見ている。


「…我々魔族は神に関するものに触れると体が拒否してろくに触れないんだ。君は神ではないというが、それでもこうやって私が触れないんだ。君自身は神に分類されているようじゃないか?」


そういえばグランもガウリスに触られたらアレンが触った時以上におぞましいって顔をしていたわね。

それにロッテだって神関係の本って言ってたものもろくに触れていなかったし、ガウリスに手を取られたら慌てて手を引っ込めていたっけ。


龍は神に近いか、神そのものの存在だってサードも言っていたけど、こうやって魔族が触れないならガウリスって本当に神様みたいな存在になってるってことなのね。

…改めて考えると神様に分類される人が仲間って、すごいとよね…。


しみじみと考えていると、神に近い存在だというガウリスに向かってローディが、んべ、と舌を出してシッシッと手を動かしている。

でもガウリスはそんなことをされても微笑むだけ。ローディはそんな慈愛の表情を向けられて、


「何よ、やるっていうの?私のパパ強いんだから、あんたなんかに負けやしないのよ!」


キィッとローディが噛みつくと、


「こーら、ローディ。やめなさい。パパは今誰ともケンカできないんだよ」


とロドディアスが軽くたしなめる。


…でも思えばこうやって魔界に来て、それも州の王様と会ってるんだし…。ファジズのことを頼めないかしら。


「あのね、ロドディアス」

「うん?」


「私たち、地上でファジズって子と会ったんだけど…」


「ファジズ…といったら、魔族の始祖の直系の方じゃないか?たしか前魔王に狙われて地上に逃げていったと聞いていたが、生きていたのかい?てっきり始祖の家系の者を全員殺したとあっては流石にまずいと思った前魔王がそんな噂をばら撒いているとばかり思っていたが」


ファジズって魔界では有名なのね。ロドディアスもファジズのことを直系の()って敬意を払ってるみたいだし。


「そのファジズだけど、魔界に戻りたがってるのよ。でも前の魔王の断りなく勝手に人間界に行ったから、普通に戻って来て今の魔王に殺されるかもしれないからって戻れないままなの。どうにかならないかしら」


ロドディアスは少し考え込むように黙って、難しい顔で口を開いた。


「済まない。立場上、誰の承諾も無しに人間界に行ってしまった魔族を…それもそんなに家格の高い方をおいそれと引き受ける訳にはいかない。それに私は謹慎中であるから話を進めるとしたら百年後になるし、話を勧めたうえで今の魔王様に許可されるとも限らない」


ロドディアスはそこで区切ってから、続ける。


「私は人間界にいるロッテスドーラにファジズを預けるのが得策だと思う。そして何よりもまず、そのロッテスドーラを救出しなければならないだろう?」


…そうよね、何よりロッテを助け出すのが先決よね。


「で、ここからそのリージング州まで何日かかるんだ?地図とかあんの?」


アレンが聞くと、ロドディアスは少し微笑む。


「リージング州はここから遠いから乗り物を用意させよう。それに乗っていくといい。少し待っていなさい」


ロドディアスはそう言うと城の奥にゆっくりと戻っていく。ローディは釈然としない顔で、


「なんであんな勇者たちに手を貸すの?」


と不満げな声を漏らして、ロドディアスは、


「ロッテスドーラに貸しを作るのも悪くないからね」


と言いながら消えていく。


乗り物って、さっき街中の通りを駆け抜けていった頭がライオンで体が馬、というキメラのような生き物が引く馬車かしら。あの激しいスピードを考えると乗り心地はあんまりよくなさそうだけど、せっかく用意してもらうんだし、リージング州は遠いみたいだし…。


あれこれ考えて待っていると、上に影が差した。


見上げると装飾品も立派な木造船がゆっくりと私たちの近くに降りてくる。


「船が…飛んでる…」


私の故郷、エルボ国では学者たちが空に船や荷馬車を飛ばして人や物を一気に運べないかとあれこれと魔法を駆使して荷車を飛ばす実験をしていたっけ。でも浮かせることはできても安定して遠くまで飛ばせないみたいなのよね。

目視できるところまでしか動かせないとか、遠くまで飛ばせたけど途中で傾いたのか中身の物が全部落ちていたとか、国をまたいで飛ばしてみたら行方不明になってどこに行ったのか分からないとか…。


人間界だとそれぐらいの技術しかないのに魔界の船はこんなに大きいのに安定して飛んでいる…。魔力の違いかしら。


驚いていると、船はスゥ、と近くに降り立って、側面に四角い隙間が開く。するとスルスルとスロープ状の斜面になった。


「…わざわざ船を用意してくださるとは…」


グランはどこか呆然としながら私に顔を向けて、


「ロドディアス王のご厚意だ、ありがたく思え」


と睨みつけてくる。


すると、城の中からドスドスと誰かがやって来る。見ると、中ボスだったランディ卿じゃないの。

ランディ卿も地上で見た時みたいに鎧は着ていなくて、ロドディアスよりも着崩したラフな服装。でも何となく貴族の服装が似合わないわね、ランディ卿は…。


「いやぁー、それにしても立派立派、魔王様の側近の言いつけを果たしに行くところなんだって?さすが俺様の息子だ!」


ランディ卿は大声で笑いながらグランの肩を強くバンバン叩いているけど、グランは何とも言えない表情で押し黙っている。


グランからしてみたら、元平民と馬鹿にしている女の子に無理やり押し付けられたって感じだものね。


ランディ卿は私たちに顔を向けて、手を上げた。


「よお、勇者ども元気か!うちのグランは馬鹿だが力はあるし役に立つぞ!まあ、俺様ほど強くはないがな!ガッハッハッハッハ!」


と笑いながらグランの肩をバンバンと叩き続けて、叩くのをやめたと思ったら肩を抱えてグラグラと揺らしている。


「いいかグラン!リッツは強いと聞いている、頑張って殺してこい!」


「父上。今回はロッテスドーラの救出のために向かうのです。リッツを殺しにいくわけでは…」


「なぁーに、隙があれば首でも取れ!そうすりゃ名を上げられるぞ!」


豪快に笑いながらランディ卿はグランを更にバシバシと叩きつけていると、後ろからロドディアスが現れた。


「それは困るなぁ。あまり今はリッツの周辺の者に目をつけられたくないんだが」


困ったように笑うロドディアスにランディ卿は、


「ん?そうか?ダメか?」


と振り向く。


「私はその位置以上、外に出られないのだから、リージング州の者たちに攻め込まれでもしたらランディ一人に頑張ってもらうぞ」


ロドディアスはふふ、と笑うと、ランディ卿はキョトンとした顔で、


「俺は構わんが?」


と何も問題ないだろ?という顔つきで言っている。


人間界で中ボス、ラスボスとして戦っていた魔族たちが普通にこうやって和やかに会話をしているのを見るとなんとなく微笑ましいわ。内容は殺伐としたものだけれど。


「おい、そろそろ行くぞ」


サードが声をかけてきて、二人に挨拶をしてから船の中に乗り込む。


なだらかなスロープを登ると、もう少しでたどり着くという位置でサードが立ち止まる。ちょっと、邪魔よと横を通り抜けると、広々とした甲板にたどり着いた。こんな広い船を私たちだけで使うなんて…贅沢だわ。


でもまだサードはスロープから甲板にたどりつく辺りで立ち止まっていて、どうしたのよとサードの顔を見ると、わずかに引きつっている。


「…エリー、無効化の魔法をかけておけ」


…ああ、サンシラに行くまでの船でサードは酷い目にあったから、船の甲板を見てあの時の悲惨な状況を思い出したのね。

でもこれ、空中を飛んで行くんだからそんなに揺れないんじゃないかしら。…まあ、一応かけておくけど。


サードに無効化の魔法をかけている間に、船はふわりと浮かび上がって空中を飛んだ。

タイトルでファンタジー以外の何かがフッと出て来た人は酒好き。

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