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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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事情を聞こう

ロッテがさらわれた。


それだけを言い残して去ろうとするグランを必死に引き止めて、個室のあるウィーリの食堂でお昼ご飯を食べながら話を聞くことにした。


目の前には美味しそうなランチセット…サラダにスープ、ステーキ、パンのセットが運ばれてきて、ランチに手をつけながらグランの話を聞いた話は、こう。


まず、グランはロドディアスのおつかいでロッテの元へ訪れることになった。

それというのも水のモンスターを駆除する方法を私たちに教えたのはロッテだろうと思ったロドディアスがロッテにお礼を言うように言いつけたから。


でもロッテは勝手に魔界から抜け出して魔王たちに目をつけられている重罪人扱いで、ロドディアス本人はは謹慎処分を喰らっている。だからあくまでも州の王の使いじゃなく、個人のお使いとしてこっそりとお礼を言いに行くようにって。


私たちだけじゃなくてロッテにまでお礼を言うとか、どこまでも義理堅い人だわ、ロドディアスは。


ともかくこっそりと、ということで、地上からロッテの屋敷に入れると知ったグランは、魔界からじゃなく地上からロッテの屋敷に行こうとケルキ山に訪れた。


でもそこにあったのはロッテの屋敷じゃなく、絞首刑用の台と、


『三は滑って首が折れる、五は落下し肺が潰れる、十はよろけて地面に当たる、十三ついに首吊った』


というあの看板だけ。


おかしい、ここに屋敷があるはずなのに何故ないんだとグランは小さい山をあちこち探し回ったけどどうしても見つけられず、四日ぐらいその場に留まってなんで屋敷が無いのかと頭を悩ませた…。


…話から察するに看板がロッテの屋敷に行くためのヒントだってことすら気づけなかったらしいグランだけど、ふいに絞首刑台の四角い枠から急に人影が飛び出して去って行った。


そこでようやくロッテの屋敷への出入り口を発見したグランはロッテの屋敷へ到着。

本がぎっしり敷き詰められている屋敷の中をズカズカ歩き回りロッテを探し回ったけど、今度はロッテ本人が見当たらない。


もしかしてさっき飛び出した人影がロッテだったかと思ったグランは、それなら戻ってくるまで寝ていようと入口の大広間のソファーに横になり眠っていると、誰かが大広間に入ってくる音がした。


起き上がるとロッテではないモンスター二匹…猫の頭に人間の体を持つロッテの使い魔たちがせっせと大広間に背伸びしつつ本を積み上げているのが見えて、起き上がって二匹に聞いた。


「俺はあるお方の使いでやって来た者だ。お前らの主人であるロッテスドーラはまだ帰ってこないのか?」


使い魔二匹はキョトンとした顔でグランを見て、


「ロッテ様は屋敷の中に居るはずです」


「ロッテ様は人間界の本の読破と整理に明け暮れてるはずです」


としか言わない。しかし中にはいないしここから出ていく人影を見たと伝えると、二匹は屋敷の中をくまなく捜索した。すると、一枚の手紙が羊皮紙に紛れて大広間の机の上に残されていたのに気づいた。


「その手紙がこれだ」


一旦ロッテ屋敷での話をやめ、グランは私たちにグシャグシャになって二つに破れた手紙をダンッと机に叩きつけるように見せてきた。私たちは頭を寄せて手紙を覗き込み、アレンは真顔になり「これは…!」と息を飲む。


「読めない…」


「ちょっとグラン、私たち魔界の文字読めないんだから翻訳してよ」


文句っぽく言うとグランはものすごく嫌そうな顔で「何で俺が…」とか言うけど、読めないものは読めないんだからさっさと翻訳してとせっついて読みあげてもらう。


『ロッテスドーラ・サーマンドリア・ハリス様へ


何度も忠告しておりますとおり、人間界で魔族どころか人間相手に貸本屋なんてやるものではありません、魔界へお帰りになりなさい。

あなたが魔界から去ってしまってから私は手持ち無沙汰で、非常につまらない、味気ない毎日を送っております。

頭のいいあなたなのだから自分がどれだけ愚かなことをしたのか十分に分かっているはずでしょう。素直に魔界に帰り、私の相手をなさってください。

もしこの手紙を受け取っても考えが変わらないのであれば、実力行使とさせていただきます、悪しからず。


愛を込めて リッツ・ミルデ・ワーリ』


「何が愛を込めて、だ。キザったらしい」


読み上げた直後グランは気持ち悪そうにぼやくと、手紙をグシャグシャに丸め直しポイと後ろに投げ、手紙は空中にフッと消えていく。これも転移魔法の一種なのかしら。


「つか、何で真っ二つに破れてたの、手紙」


アレンの質問にグランは頬杖をついて気もなさそうに答えていく。


「手紙を最後まで読み終わったロッテスドーラの使い魔二匹が絶叫して同時に引っ張って破いたんだ」


ギニャー!と叫んだ使い魔二匹はグランに聞こえるようにあれこれと早口でまくし立ててきたって。


「ロッテ様にしつこく付きまとっていた鬱陶しいあの男がロッテ様をさらった!」


「ロッテ様は頭が良く回るから軽くあしらっていたのに!」


「ついに力づくに出た!」


「あのリッツに力づくで襲われたらロッテ様はひとたまりもない!」


「ギニャー!誰かお助けー!」


「ロッテ様!ロッテ様ぁー!」


そんなことをまくし立てた二匹はチラッとグランを見てきたって。助けを求めてるんだろうとは思ったけどこんなやつらに手を貸す義理もないとグランはすぐ立ち去って…、今に至っていると。


「確かにロッテ美人だもんな」


アレンがステーキをもぐもぐと食べながら言うと、サードも、


「だなあ。あーあ、魔族じゃなけりゃ相手してほしい所なんだけどよ」


と個室だから本性むき出しで言う。


グランは気持ち悪い物を見る目つきでサード見ているわ。表の顔と裏の顔の落差がありすぎて頭が追いつかないのかもしれない。まぁ気持ちは分かる。私も白馬の王子様と思ったサードがいきなり犯罪者顔になった時には一瞬フリーズしたから。


「それで」


話が逸れかけたからガウリスがグランに続きを促すと、グランは鼻を鳴らして後ろのソファーにもたれる。


「終わりだ」


「終わりって…ロッテは無事なの?」


食べる手を止めて聞くと、グランは少し眉を動かして私を見る。


「知らん」


知らんって、そんな…。使い魔が鬱陶しいって言うくらいロッテにしつこく付きまとっていたというんだから、きっとリッツという男はロッテに恋愛感情を抱いてしつこく迫っていたに違いないわ。


それで無理やりさらわれたってなると…。


脳裏にサンシラ国でゼルスにさらわれ時の出来事がかすめていく。ゼルスに膝の上に乗せられ、ローブの紐をほどかれそうになった、あの時のこと…。


ブルッと身震いが起きた。


…考えたくもない。でも今、まさにそんな事態が起きていたとしたら…。


「けどロッテだって魔法使えるだろ?頭だっていいし、もう逃げてんじゃね?」


アレンがそう言うと、グランは軽く馬鹿にする顔になった。


「いいや、ロッテスドーラは弱いぞ。ただ知識があるだけのろくに魔力のない、庶民よりも下層にいるのにふさわしい女だ」


「え?ロッテって力弱いの?頭めっちゃいいぜ?」


アレンが驚いたように言うとグランは、知らなかったのか、と馬鹿にする表情をアレンに向け身を乗り出し説明するように、


「その知識に助けられて魔王様からも見逃されているがな。ロッテスドーラは庶民よりも力が無い。下手をしたら人間の子の魔導士より力がないと魔界では揶揄(やゆ)されていたぞ。そんな弱さであの年齢まで生きていること事体が奇跡に等しいとな」


新たな事実に息を飲む。


…知らなかった。あんなに頭の良いロッテが魔族の中では弱い立場だったなんて。

思えばロッテが使う魔術といえば、本に書いてある通りに描けば使える人間界の正当魔術…魔法陣を使っていたわよね。他の魔法と言えば空中から本を取り出すくらいだったし、力がないからこそ少しの魔力があれば発動できる魔法陣を使っていたってことだったのね。


それならいくら知識があっても、急に力づくで襲われたとしたら…歯が立つはずもない。


そうなるともっと心配になってきた。

ロッテは今どうしているの?何もされていないわよね?それともアレンが言うようにその知識を使って逃げようとしている?


ロッテの今の状態の事を考えると段々と気分が重くなってきて、食事が喉を通らなくなってきた。


私はカタン、とフォークとナイフを下げる。


「助けなきゃ」


私が呟くと、全員の食事をする手が止まる。

顔を上げて、私は皆の目を真っすぐ見ながら言いきった。


「助けなきゃ、ロッテを。助けるのよ」


そんな真面目な顔の私を馬鹿にして笑いながら、グランは指さしてくる。


「そこの赤毛と意見が被るのは面白くないが、ロッテスドーラは力は弱くとも頭の回る女だと聞いている。わざわざ人間の貴様らが手を出さずとも自力で逃げるだろ」


私はテーブルをバンッ!と叩きつけグランを睨みつけた。


「男にさらわれて無理やり襲われそうになる女の気持ちが分からないくせに適当なこと言わないでよ!」


グランは一瞬目を見開いて、どことなく気まずそうに目を逸らすと、ふん、と頬杖をついてそっぽ向いた。

アレンは今の私の言葉で事の深刻さにようやく気づいたのか、食事の手を止めたまま真面目な顔になる。


「じゃあ何だ?もしかして思いつめたあまりの犯行かもしれねぇってこと?」


「だってそのリッツって魔族、しつこくロッテに付きまとっていたんでしょ?もしストーカーみたいな人だとしたら…」


嫌な考えにしか行きつかない。


「俺だったら」


サードが口を開いたからサードに視線を向ける。


「ロッテをさらうとしたら体は二の次でその知識優先だけどな」


カッとなって私はサードに食って掛かった。


「なによ、サードだって自分が魔族だったらそういう目的でロッテに近寄るでしょうに」


一瞬サードは私を視線で射すくめてきたけど、不機嫌になりながらも言葉を続ける。


「自分の欲望を優先して関係を目茶苦茶にしてそっぽ向かれるか、自分の欲望を抑えて取り入って自分の物にするか、普通に考えたらどっちが得か分かるもんだろ」


「けどストーカーって自分の思い込みで動くところもあるみたいだしさ、そんな冷静な考えなんてできないんじゃね?」


アレンの言葉に、サードはアレンを見返す。


「大体にしてすとーかーってなんだよ」


そこから?


思わず肩の力が抜けて少し冷静になった。その間にもガウリスがサードに説明する。


「ストーカーとは、一方的に相手に恋慕を募らせ自分の想いに熱中するあまり、相手の迷惑を顧みず言い寄り続ける状態の方やその行為を指します。一般的には」


「なるほどな…それなら体目的で…最悪殺されるかもな」


体目的で最悪殺される。そんなサードの言葉で私の背筋に再びヒヤッとした恐怖と焦りが走る。


ロッテを助けに行きましょうとサードに声をかけようとすると同時にサードは私に視線を向けてきて、口を開く。


「助けに行くぞ」


私が言うより先にサードから助けに行くというから、驚いてサードの目を見返す。あまりにもあっさりと即決したサードにアレンとガウリスも驚いたのかサードの顔を同時に見た。


そしてサードは淡々と、


「これからもロッテと情報のやりとりをする友好な関係を続けるとしたら、助けて貸しを作るのが得策だろ。見た目も好みの女だし、変に汚されるのも気にいらねえ」


と言いながらステーキを食べ続けている。


そんな損得勘定で助けるのかぁ、そっかぁ…、と、何を言うでもないけど明け透けに心の声が顔に漏れているアレンを後目に、私はチラとサードを見てからテーブルに視線を落とした。


だってサードは子供のころ養父に襲われかけた経験があるんだもの。無理やり襲われそうになる恐怖と絶望感は私以上に知っているはず。

だからこんなに早く助けに行くって決めたんじゃないかしら。


サードのこととロッテのことで二重に胸が締め付けられて、気持ちが落ち込んできて食べる気持ちがすっかり萎えてしまう。


サードは食事に手をつけない私にふと目を向けて、ナイフを向けてきた。


「さっさと食っちまえ、金払うんだから食いきるまで外に出ねえぞ」


その一言で私は慌てて食べるのを再開して、無理やりにでも喉の奥に食べ物を押し込んでいく。


とにかくさっさと食べてロッテを救いに行くのよ。


そうやって食べすすめていてふと気づいた。グランの分の食事も頼んであるのに、グランは全く食事に手をつけていない。


「食べないの?」


聞くとグランは頬杖をついてそっぽ向いたまま、


「人間の飯なんぞ食えるか」


と気持ち悪そうな顔でランチセットを一睨みする。


アレンは、えー、と勿体ないとばかりに顔をゆがめた。


「こんなに美味しいのに?このステーキ焼き加減もいい感じだし肉汁もあふれてくるし固くないしむしろ柔らかいし塩加減だってもちろんいいし、パンはスープとの相性抜群でサラダも新鮮でこんなにシャキシャキしてるのに?」


「こんな人間が触った食いもんなんぞ食えるか、気持ち悪い!」


グランがガッと口を大きく開けて威嚇するようにアレンに怒鳴りつけた。


するとアレンは今がチャンスとばかりにその口の中にパンをズモッとねじりこむ。


「むぐっ」


グランは弾力のあるパンを一気に噛み千切ってブッと吐き出して、アレンの胸倉を掴んでガクガクと揺らした。


「馬鹿にしてるのかおのれは!」


「あっはっはっはっはっ、ごめんごめん、美味しいから食べてもらいたくてさ」


アレンは人間を嫌って馬鹿にする魔族相手でも楽しそうに接しているわね。


「落ち着いてください、アレンさんもあまり人の嫌がることをしてはいけませんよ」


見かねたガウリスが二人を引き離そうと二人の肩を掴む。

するとガウリスに肩を掴まれたグランはゾッとした顔になって、激しい口調で、


「触るな!」


とガウリスの手をすごい勢いでバァンッと払いのけて、嫌悪感むき出しのおぞましいものを見る目でガウリスを睨んでいる。


でもアレンは特に気にする様子もなく、


「だってロッテだって普通に俺らが食うような物食べてたし、別に人間界の食べ物が不味く感じるなんてことないんだろ?食べようぜ?」


とすすめるけど、グランはしつこいぞとばかりにアレンをイライラしながら睨みつけた。


「人間界の食べ物なんぞ誰が好き好んで食べるか!こんなもんゲテモノだ!」


「ひどいこと言うなぁ」


急に個室の外からのんびりとした間のびした声が響いてくる。

聞き覚えの無い声が聞こえて一瞬静かになって一斉に個室のドアを見ると、ドアがカラカラと横にスライドされて人が入って来た。


その入ってきた人をみて、私は目を見開いて思わず立ち上がる。


「ラグナス!」


入口から入って来たのは、スライムの塔のラスボスであり、魔王の側近の末席に座しているラグナスだった。

ストーカーって言葉聞くと、ブラム・ストーカーが出てくるんですよね。吸血鬼ドラキュラの作者。


ドラキュラ伯爵はね、伯爵家なのに使用人が誰もいないのを主人公に怪しまれないよう、召使がいる(てい)を装って自分で食器類などのセッティングをしているんですよ(城にはドラキュラ伯爵と、伯爵より力のない娘三人のみ)

渋い顔の爵位のあるドラキュラ伯爵がいそいそと主人公の食事の準備してるの想像して中二の私は萌えてました。萌えない?萌えるよね?

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