調達1
ナズナの元を離れてから10分ほど歩いたところで足を止めた。一応迷わないように木の枝を折って目印にしてきたが、辺りは闇に包まれており何も見えなかった。魔王だからと光魔法使えないと思われがちだが、これでも一通りの魔法は使えるのだ。
「『リュミエール』」
頭上に手を伸ばしそう唱えると、今度は光の玉が発射される。空中にただようこれはまるで小さな太陽のような働きをする。だが実物の太陽や実際の光とは違い熱を持たないので、森を焼く心配も無い。
「さてと……」
俺は再度あたりを見渡す。照らすことのできる範囲は数m程度だが、それで十分だ。俺は指笛を吹いて、あるメロディーを作る。
これはこのあたりに住む生物を呼ぶための音楽であり、今後の生活に欠かせないものだった。
ピュウ、フィー、と一定の間隔でならし続けると、すぐさま近くの茂みが大きく揺れる。飛び出してきたのは白い毛を持つ小型の動物だった。しかも一匹ではない。すぐさま二匹、三匹と増えていった。
一分も経たないうちに数は20を超えたので、俺は一度指笛を止めた。音楽が止んだ直後、すぐさま森に戻ろうとするのを俺は見逃さなかった。
「悪いが、食料になってもらうぞ。『ソメイユ』」
うろうろとする生物に向かって俺は呪文を唱えた。ピンクのもやのような物が当たりに経ちこめ、生物を包む。ところが魔力の調整が上手くいかなかったのか、想像よりも効果は薄かった。
この魔法は睡眠呪文。もやの濃度で威力が分かるのだが、薄桃色のもやではあまり広範囲には広がらず、近くにいた数匹だけが夢の世界へと落ちていった。
「失敗したか……まあいい。二人分ならこれだけで十分だ」