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出発

 着替えを終えた俺はひとまず現状を理解するところから始めた。

 こいつの名前はシズヤ。一般市民のため苗字は無く、出身は比較的穏やかなソウバ村。齢は14で今日の朝から旅に出る予定だったらしい。そしてあの女、ナズナとは昔からの付き合いで共に旅をするメンバーであり、おそらく回復魔法にそれなりの学があると思われる。

「荷物は……これ か。中身は菓子ばかりのようだが……」

 全身鏡の隣に置かれた大きなリュックの中には寝袋や小型のナイフ、時計に「必見!食べても死なない食材ベスト100!」と書かれた本、そして敷き詰められた大量の食材だった。

 ……本当にこいつは旅に出るつもりだったのだろうか。これではピクニックと何もかわらないじゃないか。

 そんなに持ち運ぶのは気が引けるし長期保存の利きそうな食べ物数個だけを残した。背負ってみると最初に持ち上げたときよりずいぶんと楽になった。

「シズヤー。おばさんに挨拶するよー!」

 ノックもせずナズナが入室した。部屋に置かれた写真から昔馴染みの付き合いだと想定したが、普通男の部屋にそんなに躊躇いも無く入ってくる女などあまりいないぞ。

 そう思いながら顔には出さず無論「シズヤ」で対応する。

「あぁ、今行くよ。楽しみだな。……ナズナもその格好、似合ってるぞ」

「うん!えへへ、ありがとう」

 彼女の服装は丈の短いワンピースに名前と同じナズナの刺繍が施されている。そして帽子に俺と同じズボンと、やはりどこかピクニック感が否めない。

 しかし当の本人はご満悦なようで、褒められたこともあってか意味も無くくるくると回っていた。

「あはは……。さ、行こうか」

 そういってナズナの横をすり抜け、先に階段を下りる。すこし遅れて「うん!」という声と共に背後から同じ軋みを立て降りてきた。彼の部屋は二階にあった。といっても10mもない低い造りではあったが。

 下まで降りると小太りな女……女性がこちらに背を向けていた。これも部屋にあった写真からの推測でしかないが、彼女が「シズヤ」の母親のようだ。

 問題は何て呼んでいたか、だ。一般的な人間の子供が母親に対する呼び方は母さん、ママ、おかあちゃん……。いや、ここはいっそのことかしこまっていってみるとするか。

 降りてきたことにはまだ気がついていない様子の女性の背後に立ち、跪いた。

「母上」

 叫ばず、それでいてできるだけ大きな声でそう呼んだ。小太りの女性は驚いてこちらを振り返った。

「えっ、何なにシズヤ、急にどうしちゃったの?」

 狼狽する彼女、やはり母上は行きすぎだったようだ、と思ったが俺は勢いのまま続けた。

「行って参ります」

「行って参ります、おば様」

 気がつけばナズナも隣で復唱していた。顔を伏せているため彼女の表情は分からないが、挙動不審になっているのはなんとなく感じ取れた。

「ちょ、ちょっと二人とも!そんなに畏まらなくてもいいのよ!ほら、顔をあげて!」

 頭上でそう声がしたので言われたとおり顔を上げた。目をきょろきょろとさせずいぶんと落ち着きが無い。

「ナズナちゃんも!今二人にお弁当作ってたから、もうちょっと待ってね。あとは包むだけだから」

 そういって再び背を向けて何か作業を始めた。こんな対応をされたのはおそらく初めてだったのだろう、わざと話を逸らしたのが見え見えだ。

 その後数分もしないうちに「出来たわよ」と布に包まれた四角い箱を渡された。二人分の食事にしてもでかすぎる。まさかリュックに入っていたあの食材も大半もこの人がいれたのだろうか……

「わあ!ありがとうございます!」

「いいのよ!張り切りすぎてちょっと無理やり押し込んじゃったけど、味は保障するわ!」

 呆然とする俺を他所に二人は楽しげに会話していた。……これを食べる、のか?二人で……?

 いまここで鞄を開ければ中身を抜いたことがバレてしまう為、仕方なく箱を抱えて出発することとなった。

 ……この世界では旅というものはピクニック感覚なのか?

 

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