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プロローグ

「っ、くそ……なんて強さなんだ……」

「どうしよう…回復草、あと二つしか……」

「ちっ!来るぞ!!」

 蒸発してしまいそうなほどの熱気が辺りを包む。とっさに身を捩りすんでのところで攻撃をかわす。先ほどまで身を隠していた柱はまるでパスタのようにねじれ曲がっていた。

「これならどう!?『フォールグラース』!」

 少女の手にした杖から拳ほどの大きさの氷の塊が何発も発射された。しかしハエを払うかのような手つきで一瞬にしてかきけされてしまう。

「嘘、なんで……」

「これならどうだ!『トネールエタンセル』!!」

 後ずさる少女の前に出た鎧の少年は両方の腰に刺してあった二つの剣を手にし呪文を唱える。右手には雷が、左手には火花が散り始め、やがて頭上でひとつの塊となり、一直線に対象に向かって飛んでいく。

 バフゥン!と爆音を立て直撃し、あたりが煙に包まれた。

「やったか!?」

「……ククク、ちょうどかゆいところに当ててくれて助かった。中々やるじゃないか」

 そういって少しだけコゲた腹部を愛撫し、魔王は裂けた真っ赤な口でニタリ、と笑った。

「……」

「なんで、これでもダメなのかよ……」

 絶句する彼らを見て、魔王は問う。

「なんだ?もう終わりか?ならば私の魔法を見せよう」

 そう叫んだだけでミシミシと辺りが軋んだ。魔王は手を宙にかざすと、すぐさま手のひらで空気の渦が回り始めた。

「いいか?魔法というものは、こうやって使うものだ!『アンタンスヴァン』」

 そう魔法を唱えた直後、突風が彼らを突き抜けた。物凄い音に混じってかすかな悲鳴が聞こえる。収まったと思い顔を上げると、そこには仲間の姿は無かった。

「ッ!エリナ!ハヤテ!!」

 大剣を持った青年が叫んだ先にいたのは、遠く離れた石壁に倒れる二人の仲間の姿があった。二人が手にしていた杖も双剣も、無残に砕け散っている。

 壁はまるで何かがぶつかったようなくぼみと滴る液体。名前を呼んでも二人はぴくりとも動かなかった。

「待ってて!『レジュレクシオン』!」

 今までサポートに徹していた少女がそう魔法を唱えると、倒れ伏せる二人に光が降り注ぐ。しかし……

「な、なんで……なんで起きないの……!?」

 彼女が唱えたのは蘇生魔法だった。しかし彼らの傷が癒える気配も、起き上がる様子もない。呆然とする少女だったが、突然誰かに突き飛ばされた。

「ナズナ!危ない……!!」

「……フウ……!!」

 名前を呼び終わらないうちに目の前に閃光が走る。眩んでしまいそうなほどのまばゆい光に一瞬目を瞑ってしまう。そして再び目を開くと、そこに彼女の姿は無かった。

 あるのは、足元の微量な炭のみ。

「フウ、カ……?う、そ……フウカ……!?やだ、なんで……!!」

「ぐ、うぅ……クソッ!!おいナズナ!ここは一旦引くぞ!おい!」

 目の前で次々と仲間を失い、残るは二人となった。少年は気を失いそうになるのを必死に絶え、半狂乱となった仲間を引きずり一度部屋から出て行った。

「ハハハ……遺言の時間くらいはあたえてやるとするか。ククク…ハハハハハ!!!」

 取り残された魔王はそう笑い、玉座に腰を落とした。笑い声が、部屋中に響き四方に亀裂が入った。


「はぁっ、はあ……」

「……うぅ、ひっく、ぐす……」

 部屋を出て廊下をしばらく走っていたが、追っ手が来ないと気がつき二人は足を止めた。そしてナズナと呼ばれていた少女は顔を抑え、その場に座り込んでしまった。

「フウカぁ……エリナ、ひっく……ハヤテ、ぐすっ、うぅ……」

「……」

 目の前で仲間の死を目の当たりにしたのだ。いくら魔王の地に乗り込んでくるほどの猛者とはいえ、中身はまだ年端も行かぬ少女なのだ。

「畜生!!なんで……何でなんだよ!俺ら、今まで乗り越えてこれたじゃないか……魔王を倒して、世界を平和にするって約束したじゃないか……」

 柱に叩きつけられた拳からじわりと血がにじみ、痛みが走る。だけど死んだ仲間たちの受けた苦痛に比べればなんてことはない。

 彼は座り込んだナズナの目線に合うようにしゃがみこみ、そっと肩に手を置いた。

「ナズナ、落ち着いて俺の質問に答えてくれ。……魔力はあとどれくらいだ?」

「ぐすっ、もう……残ってないよ……」

「そうか……」

 蘇生魔法の消費魔力は大きい。しかも二人に使ってしまったのだ。魔力を消費するというのは自身の命を削るのと同じだった。彼女の顔色は悪く、身体も冷えてきていた。

 彼は手に握られた剣を見た。ここに来るまでにあまたの敵を切りつけてきた剣はすでにボロボロで、刃こぼれもしていた。きっともう次の一撃で砕け散ってしまうだろう。

「なあ、ナズナ」

「なに?シズ……んぅ」

 再び自身を呼ぶ声にナズナが顔を上げた。瞬間何かやわらかいものが口に当たった。そしてどろりとした何かが口に流れ込んでくる。苦いとも渋いともいえない液体を思わず飲み込むと、すっと彼の顔が離れた。

「えっ、シ、シズヤ……?今、何して……」

 まるでマグマのように一気に顔が熱くなった。しかし、いたずらっぽく笑う彼が見せた小瓶を見て、一瞬で血の気が引いた。

「それ……」

「実はまだもうひとつだけもっていたんだ。『メディカマン』」

 紫の小瓶に入れられた先ほどの液体は魔力を回復させるための薬だった。呆然と座り込んだままのナズナを見てシズヤはふっと笑った。

「今ので大分魔力が回復しただろうから…『ティディトフテッション』使えるだろう。それを使ってお前だけでも逃げて」

 ティディトフテッション。それは移動魔法だ。しかしナズナはそれだけでは引き下がらない。

「嫌……!私なら二人一緒に飛べる!だから……!」

「それじゃあ途中で魔力が尽きて二人とも海の藻屑だ!!」

 ナズナの言葉にかぶせてシズヤが叫んだ。直後地面が揺れ、崩壊寸前の城はあちこちが落石し始めていた。

「時間が無いんだ……!俺はあいつを倒す。だから、ナズナ……お前だけは、助かって欲しいんだ」

 剣を強く握りナズナに背を向ける。彼女の表情は見えなかった。

「行け!ナズナ!!!」

 そう叫び彼は再び魔王の居る部屋へ駆けていった。遠くなる背中へ向けてナズナも叫ぶ。

「ッ……シズヤぁ!!戻ってきたら……また……!!」

「……」

「一緒に遊ぼうね!!!!!」

 涙交じりの叫びが響く。そしてその叫びに答えるかのように、彼は最後の魔法を解き放った。

「命に代えてもお前と一緒に散ってやる!!『エクスプロジオン』!!!!」

 ナズナが消えた直後、大気を揺るがすほどの爆発が起こり、全てが一気に吹き飛んで言った。


 


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