夢追い人(600文字小説)
子供の頃から何でも1番が好きだった。
勉強やスポーツだけではなく、クラスの出席番号や朝礼等の集合時も先頭が好きだったので、今考えると滑稽だったなと思う。
だだ、現実に1番とは1人しか存在しない。様々な分野はあるものの、その道は険しい。世の中はそんなに甘くないのだ。
「さて、バイトに行くか」
大人になった私は1番になる事を諦め、自分にしか出来ないものを探し求めている。
それが何なのかは全く分からない。こうして、定職にも就かずにフリーター生活を送っているのはただの口実であり、逃げているだけなのではと不安に駆られる事もしばしば。
「あー、やめやめ!!」
頭を振って後ろ向きの思考を掻き消す。今はまだ見ぬ夢を追い求める事だけに集中しよう。
「行ってきます」
……1人暮らしなので当然返事はない。これは私自身を鼓舞する為の儀式。
――みよちゃん、行ってらっしゃい。気を付けてね――
「えっ!?」
背後から突然声が聞こえ、驚いた私は慌てて振り返るが誰も居ない……。
「今の声、聞き覚えがあるような……それもとても懐かしい響き。……でも思い出せないなー。誰だっけ?」
私は首を傾げながらアパートを出た。
「みよちゃんか……あっ!?」
そう言えば、幼い頃にその呼び名で何時も可愛がってくれていた人が居た。
「今日、バイトが終わったらお墓参りに行こう」
今日は普段よりも幾分足取りが軽い。
――おばあちゃん、ありがとう。私、頑張るから見守っていてね。
この小説はフィクションです。
しかし、今の世の中、夢敗れ、彼女の様に迷い子になっている人は多いのかも知れませんね。