しーずんいんじうぃんたー
春夏秋冬。
何をもって冬とし、何をもって春とするのでしょうか。何をもって季節が変わったことを実感できるのでしょうか。
桜が咲いたから春?セミが鳴いたからから夏?葉が紅くなるから秋?雪が降るから冬?
いえいえ、それはその人次第。その人の感じ方によって季節は巡るのです。
しかし、この国の季節はそんな曖昧なものではありません。この国には四つの季節を司る四人の女王がいるのです。その四人の女王の力を強め、その力をこの国に行き渡らせる働きをする塔があり、この四人は定期的にこの塔に交代で入って季節を巡らせているのです。
これはそんな四人が織りなすちょっぴり心温まる物語。
空には厚い雲がどこまでも広がりお日様の光はほとんど届きません。
農作物はこの寒さの中で育つはずもなく、国の人々の食べ物は日に日に減っていくばかりです。この国の季節は四人の女王のおかげで安定していて、飢饉も滅多に起こらないため保存用の食料はほとんど備蓄されていませんでした。
だというのに、ここ数か月間、国の季節は冬のままでした。何故か冬を司る女王が春の女王と交代をする時期になっても塔から出てきてくれないのです。
そのため、国の人々は寒さによって家にこもり、食料とマッチが配布される時しか家の外に出てこなくなりました。畑は荒れ、河は凍り、他の生き物たちも冬眠をしたままです。
街の広場には人の気配がほとんどなく、居るのは四人の女王のうち、春夏秋を司る三人の女王だけでした。
「なあ、やっぱり力づくで引きずり出す方が良いんじゃねえの?」
青い髪をした活発そうな女王が言いました。
「えぇ、それは流石にかわいそうだよぅ。それにあの塔の門は内側からしか開けられないよ?」
次に茶髪の小柄な女王がそれに答えます。
「そうは言ってもなぁ……お前はどう思うんだ?」
「んー、やっぱり説得するしかないと思います」
桃色の髪の女王は顎に指をあて、考えるそぶりを見せます。
「お前もそっち派かよ。ったく。じゃあ私だけでも力づくでこじ開けてみるとするか」
「や、止めた方が良いよぅ。夏ちゃんが怪我しちゃうよ」
「んだと?私の心配よりもこれから壊れる塔の心配をしろって」
夏の女王はこの寒さの中、腕まくりをして意気込みます。そんな夏の女王を見て秋の女王は慌ててその腕を引っ張り、なんとか引き留めようとします。ですが小柄な秋の女王は夏の女王を止めることが出来ず、ずるずると引きずられていくのでした。
「ちょっと、今から行くんですか。もうすぐ今日の食料が配られる時間ですよ?」
二人のやり取りを見兼ねた春の女王が言葉を投げかけます。
「うおっ、まじか。それなら飯食ってから壊しにいくか」
「だから力づくはダメだってばぁ」
夏の女王は秋の女王を引きずったままお城の方へと行先を変え、その後をくすりと笑いながら春の女王が付いていきます。
彼女たちが食料の配布を受けにお城へ向かうと、お城の前の掲示板に同じ内容の貼り紙が何枚も貼られていました。
「な、なんだこれ……」
「まあ、しょうがないとは思いますけど、ちょっと他力本願すぎますね」
「で、でもこうでもしないと冬ちゃんを引きずりだせない、ということですよね?」
「ちょ、秋さん。夏さんの言葉が移ってますよ。引きずりだすって……」
春の女王がそう指摘をすると秋の女王は、あぅあぅ、と口を手で押さえました。
「いやいや、お前らそんなこと今はどうでもいいんだって。問題はこれだこれ!もう王宮じゃあお手上げだって言ってるようなもんだぞ」
夏の女王がバン、とお城の掲示板に貼り出されている紙を叩きました。
「冬の女王と春の女王を交代させたものに褒美をやる、なんて」
「それだけじゃないね。冬の女王が次に回ってくることが出来なくなるような方法は禁止って」
「季節を廻ることを妨げてはならない、とも書いてありますね」
「つまり、簡単に言えば、季節を廻す役目を持つ冬の奴を殺さずに、塔を壊さずに、ってことか」
既に掲示板の周りには人はいなく、どの人もお城の人たちが出来なかったことを自分たちが出来るはずがない、と諦めて帰っていくばかりでした。
「うん、塔を壊すのを止めてよかったね、夏ちゃん」
「おう、私の力が暴れる前にこれを見てよかったぜ」
「私は壊せるとは思ってませんでしたけれど」
「んだと春ぅ!」
「ちょ、二人とも喧嘩はやめてよぅ」
そうして三人が騒いでいると、お城から仰々しい様子で王様が出てきました。
三人の声を聞きつけて出てきたのでしょう。その両脇には剣を携えた兵士が歩幅を一つ開けてついてきています。
三人は王様の存在に気が付くとその方を向き、背筋をピン、と伸ばします。
「そんなにかたくならんでよいよ。どうせわしは女性一人口説き落とせないような老いぼれた王じゃ」
王様は冬の女王を何度も説得しに行ったのですが、冬の女王は頑として塔から出ようとはせず、王様の言葉を聞き入れてくれなかったのです。王様はそのことを気にしているのでした。
「いやいや、王様は悪くねえよ。冬の奴がちょっと意地っ張りなだけだ。何が目的でこんなことをしてるのか知らねえけど、私たちがちょっと行って引きずり出してくるから。王様は褒美の用意をしといてくれるだけでいいぜ」
夏の女王が王様に向かって自信満々にそう言い放ちました。
王様はその言葉を聞きたかったようで、夏の女王の顔を見て嬉しそうに頷いた後、褒美は出来る限りのことをしよう、と約束をしてお城へ帰っていきました。王様の後姿を見送る夏の女王は満足したように腕を組んでいます。
春の女王と秋の女王は、王様と勝手に話をつけてしまった夏の女王を見て思いました。
あぁ、馬鹿だ、と。
そうしてお昼ご飯も食べずに三人は街から少し外れたところにある塔へとやってきました。
塔に近づくにつれ、寒さは一層強まり、雪は吹雪に変わっています。
「だああ、二人とも私に引っ付くな!暑苦しい!」
「だって夏さん、暖かいですし」
「そうだよぅ、夏ちゃんは体温高いんだから引っ付かせてよぅ」
「んぐ、まあ二人の役に立てるんならいいけど」
そう言って頬をかく夏の女王を見て、春の女王と秋の女王は顔を合わせて微笑みました。
夏の女王は馬鹿ですが、優しいのです。馬鹿ですけれど。
「とにかく、塔に着いたし、冬の奴を呼ぼうぜ」
「そうだね、冬ちゃん、元気かな」
「たぶん大丈夫だろ、あいつなんだかんだで強いし。私よりは弱いけど」
「またそんなこと言って。この前、冬ちゃんに氷漬けにされた夏ちゃんを溶かすの大変だったんだよぉ?」
「あ、あれは違う!違うんだ!ちょっと本気出すのを忘れていただけで……」
「あれ、そんなことありましたっけ?」
「あ、たしか季節が春だったから春ちゃんはいなかったよぅ」
「何言ってんだ。私と冬と秋がいんだからお前は塔にいるに決まってるだろ」
「そ、そうですよね。あはは、そりゃそうですよね」
そう言って笑う春の女王は少し寂しそうでした。
「それよりも、ほら、冬の奴呼ぶぞ」
「う、うん」
「わかった」
「じゃあ、せー、のっ」
夏の女王の合図で三人は一斉に息を吸い込みます。
「……いるわよ」
すると、扉の向こうから冬の女王の声がしました。
「冬ぅ!!出てこーい!」
「いや、だからいるわよ、って」
「出てこねえと扉ぶち壊すぞ!」
「いる!いるいるいる!今扉ぶち壊したら私木っ端みじんよ!?」
冬の女王は慌てて扉を開けて出てきました。
「冬ちゃん、そんなに慌てなくても夏ちゃんに扉を壊すほどの力はないから大丈夫だよぅ。それと――」
「冬さん、捕獲成功です」
「あ……」
冬の女王の両腕を春の女王と秋の女王がしっかりと抱きしめます。
冬の女王は大人っぽいのですが、少し抜けているところもあるのでした。
「は、謀ったのね!?」
「こんな簡単な罠に引っかかったお前が悪い」
夏の女王は冬の女王に向かってvサインを送ります。
「一応、どういう風に引きずり出すか作戦は決めてたんだがな。まさか私の作戦に引っかかるとはなぁ」
夏の女王にも、自分が馬鹿だ、という自覚はあったようです。
「夏の作戦にやられるなんて、私も衰えたわね。はぁ……悪あがきしてもみっともないし、お茶くらいは出すわよ」
「私はオレンジジュースでいいですよぅ」
「私うな重な」
「あ、じゃあ私はねるねるねるねを……」
「このっ、お茶って言ってるでしょうが…………はぁ、はいはい、分かったからこの腕解きなさい。今取ってくるわね」
「あ、はい」
「うん」
そうして春の女王と秋の女王は冬の女王を解放します。
冬の女王はその綺麗な銀髪をたなびかせながら優雅に、しかし、寂しそうに塔の中へと戻って行きました。そして扉を閉め、鍵をかけました。
その後、何分待っても冬の女王は出てきません。
「……なぁ、思ったんだけどさ。これ、冬の奴を逃がしただけじゃねぇ?」
三人ともうすうす感じていたことを夏の女王がばっさりと言って切りました。その言葉に春の女王と秋の女王はこの寒い中冷や汗をだらだらと垂らします。
「「…………」」
二人は数秒間顔を見合わせてから、頷き合います。
そして二人して扉に張り付いてどんどんと勢いよく叩きました。
「ちょ、冬さぁん!嘘ですよね!嘘ですよね!私たちが夏さんより間抜けだなんて嘘ですよね!?」
「夏ちゃんの作戦で冬ちゃんを捕まえられたのに、私たちのせいで逃がしただなんて私たちが夏ちゃんよりも馬鹿だって言ってるようなものだよぅ!そんなことないよねぇ!?」
「おい、ちょっとお前ら、これ終わったら話合おうか?」
扉は頑丈な造りで、春の女王と秋の女王がどれだけ叩いてもびくともしません。
吹雪は一層強さを増していきます。
それから三人は道すがら練ってきた作戦をいろいろ試しましたが冬の女王からの反応はありませんでした。
「……どうして、どうして冬ちゃんは出てきてくれないのかな」
秋の女王が扉を背にしてうずくまります。
「さあな。私にもわかんねぇ。冬の奴の事だから自分勝手な理由とかじゃねえと思うけど」
夏の女王ももうお手上げといった様子で両手を頭の後ろで組み、口を尖らせます。
「……」
「ん、春?どうかしたのか?」
夏の女王はずっと黙っている春の女王が気になって問いかけました。
「あ、いえ、今日の所はおうちに帰りませんか?このままここに居てもしょうがないですし」
「んー、そうだな。そろそろ腹減ったし。おい、秋、帰るぞ」
「うぅ、分かった。ここ寒いしね」
そう言って秋の女王は立ち上がります。
それを見た夏の女王は秋の女王に腕を差し出し、秋の女王がその腕に飛びつきます。
次に夏の女王は春の女王にも腕を差し出しますが、春の女王はなにか考え事をしているようで、反応はありません。
「おい、いらねえのか?」
夏の女王がそう聞くと、春の女王はハッと我に返り、急いでその腕にしがみ付きます。そして三人は街へ向かって歩き出しました。
帰り道、最後に春の女王は塔を振り返ります。
春の女王は塔の窓越しに見えた、翻る銀髪を見逃しませんでした。
その日の晩、冬の女王が籠っている塔に扉を叩く音が響きます。
夜になり吹雪は昼間のそれよりも厳しさを増し、外は白一色の寒さだというのに、どうしたのでしょう。
冬の女王はまた誰かが自分を説得しに来たのだと思い、俗にいう居留守、いえ、寝留守を使いました。
それから数十分後、音はいったん止みました。冬の女王はほっとして、寝る準備をし始めましたがすぐにその手を止めます。聞き覚えのある声がしたからです。
「冬さーん!冬さーん!」
冬の女王ははっとなって弾かれたかのように扉の近くまで駆けて行きました。
「ちょ、ちょっと、春!?あなただったの!?ずっとそんなところに居たら風邪ひいちゃうわよ!」
冬の女王は急いで扉を開けようとします。その冬の女王の頭には昼間の出来事が過ぎりましたが、すぐに扉を開けました。もしこれが作戦で冬の女王の杞憂であったのならばそれでもいい、と思えるくらいに三人の女王は冬の女王にとって何よりも大切な仲間なのです。そしてこの三人が傷つくようなことがあれば、それこそ冬の女王にとって本末転倒でもあるのでした。
ぎぃぃ。
扉が雪をかき分けながら開きます。外から吹雪が舞い込んできますが冬の女王はお構いなしに飛びだします。
「春!あなたこんなところでなにやってるの!」
そしてそんな冬の女王の目には春の女王が独りで寒さに震えている姿が映りました。他の二人の姿は見えません。
「ふ、冬さん。扉越しでもよかったんですけれど」
あと何分か経てばそのまま雪に埋もれて死んでしまいそうな様子の春の女王は強がってそんな事を言います。
「ばかっ、あほっ!早く入んなさい!すぐに温かい飲み物を持っていくから私の毛布にくるまってて!」
冬の女王は春の女王の手を引き、強引に塔の中へ引き込みます。そしてすぐに扉をしめ、自分が今寝ようとしていた布団へ追いやりました。
そして温かい飲み物をもって寝室へ戻ってきました。
「大丈夫?もう寒くない?」
冬の女王は心配になってそう呼びかけます。
「は、はい。大丈夫です……」
「またそうやって強がって。まだ震えてるじゃない。ほら、ココアよ。熱いからゆっくり飲みなさい」
「あ、ありがとうございます」
春の女王は冬の女王が差し出したマグカップを受け取ります。
が、マグカップごとココアを床にひっくり返してしまいました。
「あ、あ。すいま、せん。まだ、震えが、止まらなくって。あはは」
春の女王は気丈ぶって毛布から這い出て、零したココアを拭こうとします。
「春……」
しかしその手を冬の女王が掴みます。
「ここは風も入ってこないし、雪も降ってない。大丈夫、大丈夫。あとは暖まる一方よ。あなたは自分の心配をしなさい。ココアなんてどうでもいいから。ほら、早く毛布に入りなさいな」
「うぅ、で、でも……」
「はぁ……しょうがないわね」
冬の女王は大きくため息を一つつきます。しかしその表情はどこか嬉しそうで、色っぽささえ感じとれました。
「ねえ、私って冬を司る女王だから心も体も冷たいって思われがちだけれど」
春の女王を半ば無理やり布団に寝かせその上に自分の体を重ねます。
「本当は心も躰もあたたかいのよ?」
冬の女王は耳元でそう囁きました。
「……知ってます。心があたたかいのは知ってました。だからこんなことを」
春の女王が冬の女王の躰をぎゅっと抱きしめます。
冬の女王の躰はふわりと柔らかく、いい匂いがしました。
「ほら、安心して。もう寒くないわ。ね?」
「はい。もう震えは止まりました。……でも、まだ寒いです」
春の女王はもう離さないとばかりに冬の女王を強く抱きしめます。
「そ。それなら気が済むまで抱いていてちょうだい。私も悪い気はしないし」
「ありがとうございます。…………大好きです」
最後の言葉にどんな意味があるのか深く考えずに、聞こえないようにして、冬の女王は目を瞑りました。
春の女王もそれにならって目を瞑ります。
塔の部屋には一晩中、甘い、甘いココアの匂いが立ち込めていました。
翌朝、朝食を食べながら冬の女王がどうして一人で来たのかを春の女王に聞きました。
「あ、そう言えばそうでした」
春の女王は加えていたトーストを齧り、もぐもぐと咀嚼しながらしゃべります。
「ほらほら、今聞いた私も悪いけれど、食べながらしゃべらないの」
冬の女王が紙ナプキンで春の女王の口元に着いたジャムを拭います。
「あ、ありがとうございます。それでですね、一応冬さんがここに籠っている理由に心当たりがありまして……その交渉に来たんです」
「交渉?というか心当たりがあるなら私の心情を察してこれを食べ終わったら大人しく帰ってくれないかしら?」
「もちろん、おとなしく帰るつもりですよ。冬さんが私の話にのってくれれば、ですけれど」
「……とりあえず聞かせなさい」
こうして春の女王は冬の女王に話をするのでした。
「お二人とも遅れてしまってすいません」
人気の少ない広場に三人の女王が居ます。
時刻は既に十時をすぎ、厚い雲が空を覆っているとはいえ少しだけ辺りが明るくなってきました。
レンガの隙間から咲いている花たちが光合成をしようと必死に天に向かって伸びをしているのが見えます。
「いや、別にいいぜ。冬の奴と話でもしてきたのか?」
「うぇっ!?ど、どうしてわかったんですか?」
「そりゃあ気付くよ。昨日晩ご飯を食べた後、急に用事があるって言ってどっかへ言っちゃうんだもん。そのまま春ちゃん、帰ってこないし」
「ま、春が行く所といったら、冬の所以外思いつかないしな」
夏の女王が得意げな顔をして手に持っていた木製のジョッキを大きく傾けます。
このように豪快に飲んではいますが中身は紅茶です。
「またそんな風に強がっちゃって。本当は夏ちゃんめちゃくちゃ心配してたんだよぅ?春が帰ってこねえ、春が帰ってこねえ、って」
「お、おい。別にそれは言わなくてもいいだろうが。……ったく。それで?何か収穫はあったのか?」
夏の女王が身を乗り出して春の女王にたずねます。秋の女王も気になるようでもう茶々を入れません。
「ええ、雪は春によってとけました」
春の女王はちょっぴり恥ずかしそうにそう言いました。夏と秋の女王はその言葉に対して感嘆します。
「あ、ですが、そのために、お願い事の内容は私に決めさせてほしいのですが」
突飛な春の女王の言葉に二人の女王は顔を見合わせます。冬の女王を交代させることと、ご褒美の内容、どう関係があるのでしょうか。
ですが、二人はすぐに頷き合います。春の女王の言う事を聞こう、とそう思い合ったのでした。
それからすぐに三人の女王たちはお城へ向かい、王様に謁見しました。急な訪問にもかかわらず、王様は快く三人を受け入れ、すぐに話し合いの場を用意してくれました。
「その様子だと、どうやらうまくいったようじゃな?」
「はい、冬さん、いえ、冬の女王と話をして参りました。問題解決の見通しも立っています」
「ほう、やはりそなたたちは仲が良いのぅ。礼を言わせてもらうぞい」
王様はそういうと、ゆっくりと立ち上がり深々と頭を下げました。
「そ、そんな。私はこの国の一員として当たり前のことをしただけです」
「いや、その国民を代表してそなたたちにはお礼を言わせてもらわねばな。いつも季節を巡らせてくれて助かっておるのじゃ」
王様は三人の女王たちが畏まらないように軽く会釈だけした。
「それじゃあ冬の女王が塔にこもっていた理由を聞かせてはもらえまいか?」
「それは冬の女王との約束でお話しできません。ですが、今日の午後に私が塔に入ることになっていますのでご安心を」
「むむ、それでは国民に示しがつかんのじゃが……」
王様は顎に蓄えたひげをさすりながら唸ります。そして三人の顔を見渡します。
三人の女王の顔は真剣そのもので、これには王様も白旗をあげるしかありませんでした。
「まあ、そういう事なら仕方がないのう。さっきも言ったがお前さんたちには助けてもらっておることじゃし。して、こうして報告に来たという事は褒美の催促じゃな?」
王様は無邪気にふぉっふぉっ、と笑います。
すると三人は姿勢を崩し、先程までの張り詰めた雰囲気とはうってかわって、リラックスした様子で話し始めます。
「あ、ばれたか。なんでも春が褒美の用意をしてほしいんだとよ」
「たぶん夏ちゃんがもの欲しそうな表情をしてたからばれたんだよぅ」
「はぁ?そんなわけねえだろ。私はいたって真面目にしてたぜ」
「そっか、その顔は生まれつきなのかぁ」
「おい!おい!」
夏の女王が秋の女王の頭をぐりぐりと締めます。秋の女王は嬉しそうに痛がります。
「あの、それで、ご褒美の……」
「わかっとるよ。準備をしておこう。なにが良いかな?」
王様が優しく問いかけました。
二人の女王は大人しくなり、春の女王は深呼吸をします。
部屋の窓から見える、曇った空に、晴れ間が生じ、一筋の光が差します。
「世界の半分を私にくだっ――――」
スパン、スパン。
乾いた音が二つ、部屋に響きます。
「おい…………おい!」
「そう言えば、春ちゃん、最近ドラクエやってたっけ」
二人の冷めた視線が春の女王に突き刺さります。
春の女王は、あはは、と作り笑いをします。
「……褒美はスーファミという事でよいのじゃな?」
「い、いやちげえ!たぶん!」
「だよね、春ちゃん!」
「はい、ごめんなさい」
「ご、ごほん。それでは褒美は何が良いかな?」
王様が気を取り直して、場を取り直します。
春の女王はもう一度深呼吸をして、整えます。
部屋の窓から見える、曇った空、いえ、今はもう晴れ間がのぞいている空を渡り鳥の大群が駆けていきます。
「四人で住めるように塔の増築をお願いしますっ!」