三章 安息の場所
色んな想いが入り交じってラファエルは涙を止めることが出来ない。
「いまはとにかく冷静に考えましょう。
支配人を殺したってお母様が帰ってくるわけではないのよ」
「それでも人の死を利用して騙すなんて……許せねえよ」
クララの口惜しそうなつぶやきに、エマは頷く。
「そうね。私も悔しい。
でもいまは、自分たちのことを考えましょう」
クララは肩をすくめた。
泣きつづけるラファエルを気の毒そうに見つめる。
「ああ。そのつもりだよ。
まずは寝床だ。
どこかゆっくり休めるところはないかな。
いっそずっと住めるような居心地の良い場所が」
「あるのかしら、私たちに安息の場所なんて……」
エマの呟きに、クララは力なく笑った。
「あるさ。どこかにきっとな」
それは断定ではなく、クララのそうあって欲しいという願いだった。
完全に陽が落ちるまでセーヌ川に流れる下水口の出口で時間を潰す。
酷い悪臭のなか、寒さに耐えるように三人で膝を抱えて寄り添った。
互いに無言で、ただそれぞれ想いあっている。
ラファエルは大事に持っていたゴーフルの缶を開いた。
そこにある母からの手紙だと思い込んでいた数々の紙切れ。
その一枚一枚に思い出があるはずだった。
それを確かめるように手に取ったあと、ラファエルは手紙の全てを川に流した。
手紙は水に濡れ、沈むことなく流されていく。
クララがため息をつく。
「他の連中、大丈夫かな。
エレーナの奴、また捕まってなきゃいいけど」
「エレーナは無事だったの?」
エマは訊いた。
「ハンターに捕まって、私たちを探す手伝いをさせられてた。
隙をついて逃げたはずだけど、あいつが捕まったら、どこに隠れていようと意味ないからな」
「そう」
エマは顎に手を当てて考え込む。
クララが思い切ったように口を開いた。
「なあ、ラファエル。
仲間を救いたいって言葉はなかったことにしたっていいんぜ。
責めるつもりもない。
だが、おまえがどうしたいのか、母さんのことを聞いて気が変わったんなら言って欲しい。
お前だけならきっと逃げられる。
保養所に行ってお母さんの真相を確かめてくることだってできるはずだ」




