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三章 どうしようもない悲しみ

母が死んだ。


どうしようもない悲しみが、ラファエルをずたずたに引き裂いていた。


大切にしていた母からだと思っていた手紙は、まったくの他人のもの。


母を思い、過ごしてきた日々はなんだったのか?


自分はいったい何のために、いままで頑張ってきたのだろうか?


「私に子供はいないけれど、ラファエルの母親になりきって手紙を書いているうちに、まるで自分の子供のように感じられ出したの。

 そしたら嘘をついていることがどんどん辛くなっていって、打ち明けなきゃと思っていたらこの事件が。

 この二日、あなたを懸命に探したのよ。

 それこそ夫を探すよりも先に」


「騙しておいて保護者ぶってんじゃねーよ」


クララは猛り狂った。


シモーヌは戸棚の引き出しから革袋を取り出して、呆けたように座ったままのラファエルに握らせた。


ずっしりとした重さがラファエルの腕に伝わる。


「ここに幾らかのお金があるわ。

 少しずつ貯めていたの。

 あなたがお母さんの治療費として立て替えてきた分と比べても遜色ないはずよ。

 お願い、持っていって。

 許してとは言わないわ。

 でもね、ラファエル、私はとても心配しているのよ」


「結局てめーも金じゃねえか!

 どんだけ裏切ったって金さえだしゃ片がつくと思ってる。

 ふざけんなっ」


クララがラファエルを引っ張って外に連れ出そうとした。


革袋がラファエルの腕から落ちた。


大小様々な硬貨が床に散らばった。


ラファエルは力なくなすがまま好きなようにされた。


シモーヌは硬貨を拾い集めて懸命にラファエルのズボンのポケットに押し込んだ。


革袋をもう一度ラファエルに持たせ、しがみつくようにして懇願した。


「お願い、許して頂戴。

 もうあの人にもこんな悪事はさせないわ。

 だから生きる希望を捨てないで。

 きっとあなたを助けてくれる人もいる。

 お願いだから強く生きて」


泣きすがるシモーヌをクララは引き倒した。


ラファエルは何も出来なかった。


クララを止めることも、シモーヌを助けることも。


「エマッ」


クララに言われてエマは表情の見えない顔で玄関の扉を開けた。


ラファエルたちを先に通し、シモーヌだけを部屋に残して扉を閉めた。


シモーヌの泣き啜る声が聞こえた。


ラファエルはただ立ち尽くしている。


心をどこかに置き去りしてしまったようだ。


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