三章 支配人の家
支配人の家を前に、クララとエマは建物の影に身を隠した。
ラファエルだけが家の前に立って呼び鈴を鳴らした。
しばらくすると一人の中年の女性が出てきた。
その女性は支配人の妻のシモーヌだと名乗った。
「支配人はいまどこに?」
「夫はここには殆ど帰ってこないの。
他に何人も女がいるから。
帰ってくるのは仕事が忙しいときだけよ。
ここはほら、仕事場に近いから」
「事件の後は帰ってきましたか?」
「まだ帰ってきてないわ。
安否もわからないけれど、あれが死ぬとは思えないし。
あなたはどなた?
用件があるなら聞いておくわ。
もっとも夫がいつ帰ってくるかはわからないけど」
「僕は、支配人のサーカスで下働きをしているラファエルと言います」
シモーヌはラファエルを見つめた。
「あなたがラファエルなの?」
「そうですけど?」
シモーヌは感無量といった面持ちでラファエルを抱きしめた。
「嗚呼、会えて良かったわ」
シモーヌはそれだけ言うと声を詰まらせる。
ラファエルはどうして良いかわからず、シモーヌが口を開くのを待った。
しばらくして落ち着きを取り戻したシモーヌが告げる。
「ごめんなさい。
ずっとあなたに、話さなきゃいけないと思っていたことがあったの」
「話さなきゃいけないこと?」
「あなたのお母さんのことよ」
「僕の、母さんのこと?」
危険がないと判断して、ラファエルはクララとエマを呼び寄せた。
彼女たちをいつまでも街角に立たせておく方が危険だ。
「部屋のなかで話をさせてもらって構いませんか?」
エマが冷静に言った。
シモーヌは何度も頷いて三人を招き入れた。




