三章 シルエット
ラファエルが最初に目にしたのはぼんやりとした光だ。
「うぅ……」
無意識に体を動かそうとして痛みに顔をしかめる。
手足の自由が利かなかった。
「目を覚ましましたぜ」
はっきりしない視界のなかで何人かの人の影が現れた。
支配人だけはすぐにわかる。
油でぺったりと固められているはずの口ひげと、大きな顎がシルエットになっていた。
支配人は煙草に火をつけて煙をラファエルに吐きかけた。
ラファエルはその煙をまともに吸って激しく咳き込んだ。
「なんでこうなっているかわかってるな?」
「ん、……ん?」
ラファエルが気怠げに返事をすると、支配人はその頬を殴りつけた。
口のなかに鉄さびの味が広がる。
「もう一度訊くぞ。
なんでかわかってるな?」
「……わ、わかりません」
遅れて唇の端がびりりと痛んだ。
何故こんな目に遭っているのか。
ラファエルにはまったく検討がつかなかった。
「これだ」
支配人が目の前に何かを突きつけた。
焦点が合わずに判別できない。
支配人の顎が前に突きだしてくる。
「おい」
支配人が声を掛けると男のひとりがラファエルに冷水をぶっかけた。
悲鳴が漏れるほどの冷たい痛みが体を襲ったが、おかげで意識がはっきりとして、視界も明瞭になる。
支配人と男がふたり立っていた。
自分を連れ去ったのと同じ連中だ。
見覚えのない部屋だった。
剥がれた壁面やめくれ上がった床板をみるとどこかの廃屋なのかもしれない。
自分が椅子に座らされ、手足を縄で縛られていることもわかった。
「どうだ。これはなんだと聞いているんだ?」
支配人が握っていたのは一通の封筒だった。
それがなんであるかラファエルはわかっている。
支配人に内緒で母に送った封書だった。
なかには手紙とマリアンヌの羽根飾りを売って出来たお金が入っている。
それがどうして支配人の手元にあるのか。
「……どうして、それが、……ここに?」
ラファエルは息も切れ切れに問いかけた。




