二章 蛇の尻尾
「そういえばさっきも暗幕もって走り回ってたわね。
なんに使う気だったの?」
マノンが尋ねる。
「エマさんに持っていったんだよ。
何も寒さを凌ぐものを持ってなかったから」
「エマさん?」
「今日来た新しい子だよ」
暗幕ひとつで彼女は大丈夫だろうかラファエルは思った。
衣装係がやってきてショーのための採寸を行っていったが、普段着としては大きく背中を切ったぼろぼろのワンピースが一枚渡されただけだった。
ラファエルは彼女について色々質問してみたが、何も答えようとはしてくれなかった。
ラファエルは団員ごしに彼女の名前がエマだということを知ったくらいだ。
ただ、これは当たり前の反応なのかも知れない。
彼女はここに商品として売られてきたのだから、すべての人間に恐怖や、憎悪を抱いていたって不思議はなかった。
みんな最初は程度の差こそあれそんなものだった。
クララに関したっていまだに心を開いてくれているとは言いがたい。
二人には共通して、人間に屈しようとしない強い意志が感じられた。
ラファエルはストーブのなかで燃えて灰になっていく薪を見つめながら、そんなことを考えていた。
だが、彼女の瞳に戸惑いや恐怖は感じられなかった。
どちらかというともっと凜として強い気持ちが入り交じっていて、その眼差しをラファエルは過去にもどこかで見たことがあるような気がした。
「もうずいぶん仲良しなのね」
マノンが尻尾の力をきゅっと締めた。
ラファエルは痛みに悶える。
「ッテテ!
そんなことないよ。
まだ口も聞いて貰えてないし……。
やっぱり嫌だよね。
こんなところに連れてこられるの」
マノンは頭をラファエルの頭にくっつけて耳元で囁くように呟いた。
「……そうね。つらいわね。
私達はここでは自由を奪われ、見世物にされる。
もはや人として扱われないのだから」
「……」
「でもね、他に行けばもっとひどい目にあうかも知れないし、駆除されちゃう可能性だって高い。
別に好きこのんでこうなったわけじゃないから運命を呪いたい気持ちになることも正直言ってあるのだけれど、それも上を見ればきりが無いし、下だってここが最底辺なわけじゃない。
なるようにしかならないわ」
マノンは悲しい表情でラファエルの髪を撫でた。




