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一章 半獣人(デパエワール)

■一


かつて自転車競技場だった円形劇場に空席はまばらだ。


ぎゅうぎゅうに詰まった客席の間を商品を掲げた売り子たちが練り歩く。


男たちはピーナッツをかじりながら与太話に花を咲かせ、子供たちは溶けかけたアイスクリームを舐め取るのに懸命になっている。


女たちは扇子とレモネードで熱気にむせぶ会場に涼を求めていた。


もれなく観客の目には興奮の色が輝いている。


ショータイムが始まるのをみな待ちわびていた。




照明がすとんと落ちる。


喧騒は一瞬にして静まりかえった。


やがて耳をつんざくハウリングのあと、場内スピーカーから流ちょうなアナウンスが流れた。


「紳士淑女の皆さま方、よくぞいらして下さいました。

 ガーナムの円形劇場、これぞ世界最大のショー!

 いよいよ開幕です!!」


オーケストラが盛大に音楽を奏でた。


劇場の中央にスポットライトが当たる。


そこには三頭のマレー熊がカンカンの衣装をつけて地面にぺたりと座っていた。


その可愛らしさに観客の頬が緩む。


「レディ・エレーナァ!」


アナウンスと共に照明の影から一人の少女が姿を現した。


年の頃は十二、三歳。


マレー熊たちと同じカンカン衣装を身にまとっている。


薄茶色の巻き毛がドールのように愛くるしい。


ただし普通と少女とは異なる点が幾つかあった。


ひとつはそのふさふさの巻き毛が全身を覆うように生えていること。


さらにもうひとつは手足から白く鋭い爪が顔を出していること。


少女でありながらもその姿は、まるで隣で座っているマレー熊たちのようでもあった。


観客たちを前に少女は笑顔を浮かべる。



――半獣人デパエワール)だ……。



観客のざわめきがさざ波のように広がった。

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