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プロローグ

灰色が多い街にしては珍しい快晴。


蒸気機関車が黒煙を吹き上げて真っ青な空を汚す。


粉塵とともに発着場に人と物資を運び込む。


人々が忙しなく行き交う駅舎で、男の大声が響き渡った。


「さあ!

 紳士淑女の皆さま方。

 巷で噂のガーナムの円形劇場はもうご覧になりましたかな?

 馬芸、芝居、空中ブランコなんでもござれだ!

 これを観ずして芸術の都巴里に足を踏み入れたなんて、

 とてもじゃないが言えないよ!!」


雑踏も意に介さず、男の声はなめらかに駅舎全体に響き渡る。


「乳飲み子から年寄りまでガーナムからの贈り物、

 世紀のショーを見逃す手はありません。

 是非、巴里での余暇はガーナムの円形劇場にてお楽しみ下さい!」


言い終わると男はつば広の帽子を取って深々とお辞儀をした。


大半の者たちは聞き流して目的地へ足を早めていたが、幾人かの客は興味深そうに男の演説に耳を傾けていた。


なかでも男の前でうさぎのぬいぐるみを抱きしめている少女が最も熱心な聴衆だ。


その好奇心に満ちあふれた眼差しに気がついた男は、腰をかがめて少女をまっすぐに見つめた。


「ボンジュール、小さなお嬢さん」


男は白手袋をはめた両手を少女の目の前に広げた。


手には何も持っていない。


「……?」


少女は首をかしげる。


男が拳を握って軽く振ると、何もなかったはずの手には一輪の薔薇が握られていた。


驚いて目を輝かせる少女に花を渡し、男はにっこりと微笑んだ。


「ようこそ。巴里へ」

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