過去と待ち合わせ
コハクは少し考え込んだ。
どうしよう…?
偽名を考えよう。
そして意を決したように彼に囁きかけた。
「わ、私は、え、えーと、」
でもいざとなると言葉が出てこない。
思わずパッと赤面すると、ヒカルはハハッと笑った。
「焦らなくていいよ。ほら、落ち着いて。」
少し、戸惑いながら彼は肩に手をおいた。
コハクは思わず驚いてパシッとその手を払い除けた。
そしてブルブルと震えた。
こう言うふうに優しくされるのは何年ぶりだろう?
いや、こんなに優しくされたことが今まであっただろうか。
少し驚きの色を滲ませながらヒカルは苦笑いした。
「イヤ、か…」
残念そうに呟くと同時に不安気な顔を曇らせた。
「…っ…。ち、違うの!!」
コハクは声を張り上げた。
「つ、つまり、そういう意味じゃないの…っ…!!」
涙がうっすらと目にたまる。
慌てて、それを擦った。
涙は見せられない。
「少し、は、話を聞いてくれる…?」
「…ああ…もし話したいなら、ぜひ聞かせてくれるかい。」
コハクは話し始めた。両親の事、手紙の事、お母さんが自殺した事…それが真実だと知った事。
話し始めると止まらなくなった。
不思議な気持ちだ。
見ず知らずの人に、今日初めて話をした相手にここまで聞いて欲しいと思ったのは初めての体験だった。
話をしている間、ヒカルは黙って聞いていた。
彼女が話し終えると静かに口を開いた。
…苦労したんだね。
その言葉を聞き、彼女はうなだれた。
少し間が空いて、彼女から話しかけてきた。
「明日、またあなたと会いたいって言ったら迷惑かな?」
驚いたヒカルは彼女を見て笑った。
「ううん、明日、どこがいい?」
彼女はうつむきながら言った。
…グリーンビット。
道路の名前だが、そこはあまり人が近寄らない。
ヒカルも行ったことはなかったが、承知した。
そこで過酷な運命が待っているとも知らずに。