ヒカルとコハクの出会い
心を閉ざした少女、コハク。彼女はある公園で男の子集団にいじめられている。彼女は孤児だが、彼女の感情がないのには訳がある。
一方、男の子集団の中に、一人の男の子が彼女を救う手立てを考えていた。
彼の名前はヒカル。正義感の強い男の子だ。
感情を取り返すパートナー、ついに登場。
次の日、コハクはいつものように公園へと歩いた。
もう走る気力さえ無かった。
またいじめられる―そう思っただけで足が重くなった。
でもコハクはそこの公園が好きだった。
公園にはたくさんの木々が植わっている。
春には桜吹雪の下を両親と歩き、夏には新緑の葉の下で自然のおもちゃを作って遊んだ。
秋には紅葉している椛の下をお話しながら歩き、冬には、まだ青々と茂っている銀木犀のドームを屋根代わりにして雪が収まるまで待った。
たくさんの思い出が詰まった公園。
この公園では必ず両親が思い出せた。
そして決まったブランコ。
初めてブランコに乗った彼女は母に泣きついた。
『お母さ~ん怖いよ~!!』
ゆらゆら揺れる右から二番目のブランコ。
そのブランコはいつも風に揺れていた。
『フフフ。コハクは怖がりね。』
『大丈夫だコハク。お前、私が幽霊船を見た話聞かせただろう?それに比べれば、どうってことも無い。』
両親の励ましで、彼女はブランコに乗れるようになった。
「思い出のブランコ…」そう呟いたコハクの目の前にまた例の男の子達が立ちはだかった。時は少し遡る。
一方ヒカルは土曜の朝早くから電話で呼び出しを食らった。
彼らのガキ大将、加藤裕章からだ。
「おいお前、今すぐ美鈴公園へ来い。また例の幽霊女がいる。」
幽霊女とは、あのいつも公園に来ているこのコードネーム、すなわちガキ大将が付けた名前だ。
「いいか、五分で来いよ。そうじゃ無けりゃ…」電話越しにポキポキと言う音が聞こえた。
…言わなくても分かる。
そう答えるとすぐに支度した。
キッチリ五分で公園についたヒカルは当たりを見回す。
いた。
あの女の子だ。
そこにもうガキ大将とその子分がネチネチ悪口を言っている。
今度は逃がすまい、と輪になって出ないようにしている。
すると、一人が彼に気づき手招きしながら叫んだ。
「おーい、ヒカル!!お前もけなしてやれよ。コイツを。」
そう言うとそいつは少女をブランコから蹴り落とした。
ヒカルは初めっから正義感が強い少年だ。でもこの時にはついに彼は切れた。
何で気楽に人間を蹴れるんだ?
「オイッ!!やめろよ!嫌がってんだろ!?もうそこ退け!!そして二度と近づくな。」
口が勝手に動き、スラスラと言葉が出る。
「ああん?てめえやるのか!?」
ガキ大将がパンチを繰り出した。
この時も勝手に体が動いた。
パンチを反射的に交わし、フワリと相手の手を掴み、自分の後ろへと振る。
まるで舞っているように繊細で、軽やかに戦い、ガキ大将と名の知れる奴をヒカルは無人の公園で気絶させたのだ。
彼は少女と向き直る形で戦っていたが、すぐにガキ大将に向き直り、言い放った
「もう二度と近づくな、分かったな?」
そう言うと部下達はいそいそと彼を運んで行った。
フゥ、と息を着いた男の子にコハクはゆっくりと近づいて行った。
そして肩に触れると小さな声で
「ありがとう。守ってくれて。」
と呟いた。
すると、ビックリした様に彼がコハクを見上げた。
それも一瞬だった。
彼はゆっくりと笑って言った
「いいんだよ。こちらこそゴメン。ビックリさせちゃったし、今まで何もしなかったんだから。」
コハクは急いで首を振った。
そして小さな声でもういいの、と呟いた。
そしてわずかだが笑ったのを見て、少年は聞いた。
「僕はヒカル。君はなんて名前で、なんで両親がいないの?ちょっと押し付けがましいけど…。」
ヒカル…優しい名前。
そう思いながらコハクは考え込んだ。