そして、俺たちは――
遠足が終わり、朝集まった集合場所へ戻ってきた俺たちはその場で解散となった。
俺が帰ろうとすると、葵が俺のところへ近寄ってきた。
「ねぇ、遥くん、今から遥くんの家に行ってもいいかな?」
「ん? どうしてだ?」
「最近、朝の迎え行ってなかったでしょ? それで遥奈ちゃんが心配しているから、顔を出そうかなって思ったんだけど、いいかな?」
「なるほどな、別に構わないぜ」
「よかった」
葵は胸を撫で下ろす。
「それじゃ、私もご一緒させていただきましょう」
そう言って、花音もまた俺のそばにやってきた。
「花音も来るのか? 俺は別に構わないけど」
「花音さん? ここは私に譲るっていう気遣いはないのかな?」
「ごめんなさいね、あいにく私は気遣いということはしないので」
――なんか、葵が機嫌直してから、花音と葵の仲が悪いような気がするんだが。
「それはね、葵っちがかののんをライバル視しているからであって――」
「ゆ、優里ちゃん!? 急に出てこないでよ!」
俺の後ろにひょっこりと優里の姿があった。
「なになにー? 遥斗ん家にみんなで行くの? それだったら私も混ぜてよ!」
「えっ!? 優里ちゃんまで!? これどういうことなの!?」
「いやいや、俺に聞かれてもわからないからさ」
「まぁまぁ、落ち着けよ、葵っち」
優里は葵をぎゅっと強く抱きしめて、
「あー、これこれ、これが落ち着くんだよなー」
「んちょっ、んんんんっ、んんんん――っ!」
「おい、優里! 葵がもがいき苦しんでいるように見えるんだが……」
「んー? 大丈夫大丈夫、一応手加減はしてあるから」
「……あなたの手加減って、ほんの少しでしょうが」
「あれ? 花音もこれやられたことがあるのか?」
俺が花音に尋ねると、
「あぁ、かののんには、この前の尾行のときにやらせてもらったよ」
と、代わりに優里が答える。
「なんで、あなたが答えるのよ?」
「いや、別に誰が答えちゃってもいいじゃん」
「……確かに」
すると、優里から葵が無理やり逃げ出した。
「はぁ……、はぁ……、優里ちゃん、前より強かったよね?」
「ん? だって、葵っち前までプンプン状態でハグできなかったじゃん」
「だからって、あれは、ちょっと……」
「そう、それじゃ今度から気をつけるからね」
「――ってか、お前ら、うちに来るなら、さっさと行くぞ」
と、俺が先陣を切ろうとすると、武彦が立ちふさがった。
「お前ら遥斗の家に行くのか? それだったら、俺も行かせてくれないか」
「俺は別に構わないんだが……」
俺が女性陣を見ると、お互い顔を見合っている。
「え、何? 俺必要なし?」
武彦が唖然としている中、クラスの男子数名が近寄ってきて、武彦の腕を右と左で押さえ込んだ。
「武彦、お前の罪は大きいぞ」
「え? ちょっと、俺はまだ何もしてな――」
「すまない、少し静かにさせてもらった」
男子の拳が、武彦の腹に一撃かまされる。
「鎌瀬遥斗、お前にもいずれ鉄槌が下るだろう……」
「その日が明日かもしれないからな……」
「体洗って待ってろよっ!」
「「……それではっ!」」
武彦を担いで、去っていった。
「そ、それじゃ、行こうか!」
優里が切り出す。
「そ、そうだね」
「そうしましょう」
葵、花音もそれに便乗する。
「そうだな……、よし、行こうか」
俺たちは先ほどの一件を脳の片隅へと置き、俺の家に向かって歩き出した。
◇
「ただいまー」
「あ、おかえり、お兄」
家に着いた俺たちは、遥奈が出迎えてくれる。
「こんばんは、遥奈ちゃん」
「あ、葵ちゃん……!」
遥奈が葵を目にすると、涙目になって葵の胸に飛び込んだ。
「葵ちゃん、心配してたんだよ……」
葵は遥奈を慰めるよう、頭を撫でる。
「心配かけさせて、ごめんね」
と、二人が抱き合っているところに、
「おーっ! 遥斗の妹か! 葵、ちょっと替わってくれよ」
「……遥斗、優里を止めたほうがいいと思うわ」
優里は目を輝かせており、それに対して花音は呆れた顔で俺に助言をする。
「確かに……」
遥奈は後ろの二人に気づき、葵から離れて二人をみる。
「花音さんに、あと私が知らない人がもう一人っ!? これ、どういうことになってるの!?」
「ん? 私かー。私は遠野優里っていうんだ、遥斗のクラスメイトだよ」
「あ、始めまして、お兄の妹の鎌瀬遥奈ですっ!」
遥奈が律儀に挨拶をすると、優里は遥奈を抱き寄せた。
「うーっ! 遥斗の妹って遥斗と違ってしっかりものなんだなっ!」
「ちょっと、や、やめてくださぁいっ」
「ちょ、お前、うちの妹に何をしているんだよ――」
◇
あのあと一段落着いて、みんな俺の部屋にいた。
「やー、ここが遥斗の部屋かー。想像していた以上に綺麗だな」
優里が俺の部屋を見渡しながらそんなことを言う。
「……なんか前にも同じようなことを言われたような気がするな」
「あら、そうね」
花音は俺の言葉に相槌を打つ。
「あ、そうだ、気になっていることがあるんだけど……」
葵が手を上げて、俺に尋ねてくる。
「花音さんと私のこと相談していたときって、家で何してたの?」
「あっ……、だから、それは話し合いっていうわけで……」
オレが曖昧にごまかそうとすると、
「ゲームよ」
花音がきっぱりと答えてしまう。
「ゲーム? どんなゲームなのかな?」
葵が花音のほうを向いて聞いてくる。
「ギャルゲよ」
「ちょっと、お前、言っちゃっていいのかよ」
俺が曖昧にごまかそうとしていたことを、花音が話してしまうので、俺は若干焦っていた。
「えっ……? ギャ、ギャルゲ?」
「おぉっ!? なんか面白いことをしてるじゃないの、二人共」
葵が動揺しているのに対して、優里は興味本位で首を突っ込んでくる。
「葵さん、安心していいわよ。一五歳以上対象のものだから」
「え? 十五歳以上対象って、あれ? えっちいのじゃないんだね」
「ちょっと葵、お前どんな想像してたんだよ……」
「あ、いや、そういうことじゃなくてね……」
「おーっ? 葵っちが動揺しているぞー」
優里が葵を冷やかす。
「そ、そんなことより、なんでゲームしてたの?」
「それはだな……」
俺が言い出そうとすると、花音が口を挟む。
「遥斗は、恋愛に関してまったく無知なわけ。だからシミュレーションを通して、気づかせようとしたまで」
「な、なるほどね」
「だからあのデートのとき、あんなにてきぱきと動いていたわけかー」
「まぁ、そういうことだ……」
「そういうことをして、遥くんは答えを見つけようとしているの?」
葵から質問を受ける。
「あ、いや、俺はそういうことは考えてない。ほとんど花音に頼ってる」
「花音ちゃんに……」
葵は俺と花音を交互にみて、何やら決心する。
「それじゃ、私も遥くんの答え探しに参加させてもらうね」
「えっ!?」
「それは、どういうことかな?」
俺は驚き、花音は動揺せずに、聞き返す。
「だって、花音ちゃんと二人でやるとなんか、嫌な事が起こりそうだし、私だって、遥くんを応援したいんだよ」
「あなた、私のこと、勘違いしてない?」
「いいえ、私は花音さんのこと、ちゃんと把握しているつもりですから」
葵が花音をライバル視をしているのはわかるが、なぜそうするのか俺には理解できなかった。
「なになにー、遥斗の手助けするのか? それだったら面白そうだし、私も参加する!」
優里もこの話を聞いて、参加する気らしい。
「優里ちゃんまで……!? どういうことなの、遥くん」
「いや、俺に聞かれてもな」
すると、部屋のドアが開き、遥奈がひょっこりと顔を出す。
「みなさん盛り上がって、何を話しているんですか?」
「おーおー、遥奈ちゃん! 遥奈ちゃんもこっちに来なよ」
「え、ええ。そういうんでしたら」
遥奈までもが、この話に巻き込まれるとか、騒がしいことになりそうだ。
「えっ、お兄の恋を見つけるって――」
「だから、なんであなたたちが参加することになるわけ――」
「そうだよ、そんなに必要ないんだから――」
「いいじゃないか、いいじゃないか――」
賑やかなのはいいのだが、やはり限度はあるもんだな。
部屋の窓から外を見てみると、夕日が、空を暖かくオレンジ色に染め上げていた。
それはまるで、俺の心を表すような、そんな気がした。
あなたは、恋って何か考えたことがありますか?
それは、簡単そうで、実は答えるのに結構難しい問題だったりする。
その答えを見つけたとき、私たちは本当の恋ができると信じている。
ねぇ、あなたにとって、恋ってなんですか?
俺たちはこれから、その答えを探したいと思う。
ただいま俺たちは恋を探しています――。




