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勘違い

 あれから俺と花音は、放課後俺の家でギャルゲをやっている。

もうだいぶ話が進み、他の攻略対象の女の子が登場していくにつれて、花音のテンションが上がっていったのだが、攻略対象が決まっているということで、悔しがりながらも、選択肢では、好感度が変わらない程度の選択を指導してくれた。すごく、残念そうだった。

 何はともあれ、順調に攻略しており、そろそろ終わりに近づいて来ていた。

「なぁ、花音」

 俺はテキストを進めながら、花音に話しかけた。

「何よ?」

「お前実は、ギャルゲ好きだったりするのか?」

 花音はビクッと肩をあげ、ぎこちない動きで俺のほうを向き、

「な、ななななななーにを言っているのかなー、そんなわけないじゃないー」

 俺がみる限りでは、目の焦点が合っていない、明らかに。

「そうだよなー、女子がギャルゲが好きだとか、武彦曰く『アニメ、マンガ、ラノベの中に限る!』らしいからな」

「そうよ! 現実に女の子がギャルゲをやっているなんて、おかしいことじゃない」

「だよな――って、あれ?」

 画面を見てみると、主人公のクラスの友人であり、攻略対象の女の子が、泣いている場面に入っていた。

「あーっ! もうこのシーン!? 早いわね、さすがに一人キャラ攻めだとそうなるか……」

 花音はあごに手を当てながら、画面を直視している。

「……お前、やったことあるだろ、このゲーム?」

「い、いや、そんなことはないわよ」

「…………」

「…………何よ、じっと見ちゃって」

 俺は花音を視るのをやめ、率直にこう言った。

「いやぁ、お前って、こういうことに関しては嘘つくのが下手なんだなーって」

「う、嘘じゃないわよ!」

 花音が俺の発言に動揺している。

 ――わ、わかりやすいな、おい。

「わかった、わかった、そういうことにしてやるよ」

「……あなたって、嫌なところもあるのね。例えるなら、キムチのふたを開けてくれない人みたいだわ」

「いや、お前のほうがひどいと思うけどな。……それとその例えはましにならないのか?」

 と、お互い言い合っていると、そろそろ親が帰ってくる時間帯になった。

「それじゃ、私そろそろ帰るわね」

「おう、分かった」

 花音が部屋のドアを開けようとすると、ドタドタと、慌ただしい物音がする。

それを気にせず、花音はドアを開けると、

「遥奈ちゃん、何しているのかな?」

「あー、いやー、そのー、なんというかー……。ちょうどお兄の部屋の前を通っただけですよ」

「そう? それならいいけど、家のなかを走るのは危険だからね」

「あ、はい、わかりましたっ」

 そう言って、遥奈は自分の部屋へ急いで入っていった。

 その光景を椅子に座りながら見ていた俺は、

「……何やってんだ、あいつ」

「まぁ、気になるお年ごろなんじゃないの」

「わかんねぇわ、俺には」

「わからなくてもいいわ、あなたには」

 俺は花音を見送るため、一緒に玄関まで付いて行った。

「それじゃ、また今度」

「おう、ありがとな」

 花音を見送ったあと、俺は背伸びをした。

「さて、課題でもやっておこうかな」

 と、自分の部屋に戻った。



 ――本当あの二人何をしているのだろうか。

 妹――遥奈は、部屋で考えていた。

 ――今度は、積極的に攻めてみようかな。

 遥奈の追求はまだまだ続くのであった。


   ◇


「お兄、朝だよ!」

 遥奈が、ぐっすり寝ている俺の上にのしかかってくる。

「――ぐふっ!」

 俺はたまらず、体をくの字にし、目を覚ます。

 遥奈の格好は、まだ制服ではなく部屋着だった。

 少し大きめのTシャツを着ていて、首元から可愛らしい下着が見えそうである。というか、俺に乗っているわけあってか、見えてしまっている。このような状況においては平常心をもって対応することが大切だ。

「お前……、俺を朝から殺す気か?」

 ――二つの意味で。

「いや、だってお兄起きないんだもん」

 遥奈は笑いながらそう答える。

「ったく……、しょうがないか、俺も起きなかったことだし」

「そうそう」

 俺は遥奈をどかし、立ち上がり背伸びをする。

「あ、そうだお兄」

「ん、どうした?」

「朝からこんなことを聞くのはおかしいと思うけど……」

 遥奈は手をもじもじさせて、俺の顔を直視して、

「本当に、久東さんとはどういう関係なの!?」

「いや、だから……、ただの友達であって」

「そんなわけないよ! だって放課後毎日家に来ているでしょ!」

「それは……、そうだけどな……」

「はっきり言ってよ! 私だって、お兄の妹なんだよ! そこら辺のことを把握しておきたいの!」

「……妹だからって、教えるっていうほどのことでもないからな」

 ――実際、教えると、ややこしいことになると予想がつくため、話したくない。

「――そう、だったら、私だって考えがあるんだからねっ! 覚悟しててよ!」

 と言って、遥奈は部屋から出ていった。

「……なんだ、あいつ」

 本当、お年ごろの妹のことがまったくわからない。


   ◇


「おはよー、遥くん」

「あ、あぁ、おはよう」

 いつもどおりの時間に葵が家へやってきた。

 あれからというもの、どのように対応していいのかまだ自分でもわからない。

お互い意識しあっているためか、無言になることが今までより多くなってしまった。

「そ、それじゃ――」

 言い出そうとした時、廊下からどたどたとすごい勢いで遥奈が飛んできた。

「はぁはぁ……、おはよー、葵ちゃん」

「お、おはよー遥奈ちゃん。大丈夫? 家の中で走ると危険だよ?」

「はははっ、大丈夫大丈夫、昨日も同じようなこと言われたし、うん」

「?」

 葵が首を傾げる。昨日花音に言われたことを言っているのだから葵が知っているわけがない。

「でも、お前、家の中走るなよ、母さんに起こられても知らねぇぞ?」

「ま、まぁ、そうなったらその時だよ」

 遥奈が苦笑いをする。次いでカバンの中から一枚の折りたたんだ紙を取り出し、

「はい、葵ちゃん。あとで読んで、これ」

「ん?」

 葵にその紙を渡した。

「何が書いてあるの?」

「いいから、いいから」

 と遥奈は葵の耳元に近づいて、

「お兄に見られないようにしてね」

「?」

 とささやいていた。声を抑えたつもりだろうが丸聞こえだ。だが聞こえなかったことにしよう。

 ――女子たちの会話を盗み聞きする男は嫌われるからな。

 事実、武彦は中学の時にすごく嫌われていた。いや、今でも嫌われているの間違いだったな。

「それじゃ、用も済んだようだし、学校行きますか」

「う、うん、そうだね、それじゃ遥奈ちゃん、またね」

 と、葵は遥奈に手を振って、俺たち外へ出ていった。

 ドアを閉めたあと、遥奈は靴を履きながらこうつぶやいた。

「うん、また――今夜、会おうね、葵ちゃん」と。


   ◇


「ね、ねぇ遥くん」

 登校中、葵が俺に話しかけてきた。

「どうした?」

「あの、その……、久東さんとはどういう関係なの?」

 意外な質問に俺は驚いた。

「な、なんでそんなことを聞くんだ?」

「いや、だって……、久東さんと遥くん仲がいいなって思うから」

「あ、いや、それはな、あいつ転校してきたからって、いろいろこの街のことをだな」

 俺はすごく見苦しい真似だが言い訳をしようとする。俺たちがやっていることを特に葵にはバレたらまずいことになる。

「それに、転校初日から遥くんを屋上へ連れてって……、何を話してたの?」

「それはだな、俺を見たら、何か誰かと間違えたらしい。てっきり似てたから間違えたって、花音はそう言ってた」

「か、花音!?」

 葵は驚きの表情を見せ、俺のほうを見てくる。

「遥くんが女の子の名前を呼ぶなんて……、どういう仲なの!?」

「いや、あいつが名前で呼べって言っているから」

「――本当なの!?」

「おい、葵。顔が近いって」

 俺は顔をそらしながら、そう言う。そして葵もそれに気づいたのか、顔を赤くしながら、俺から離れる。

「ご、ごめんね、つ、つい……」

「い、いいって」

 お互い意識してしまったのか、それから学校に着くまで、一言も話をしなかった。


   ◇


 四時限目の授業が終わり、昼休みに入った。

 教室内は賑やかになり、互いに机を並べてすでに弁当を食べ始めている人たちもいた。

「おーぃ、遥斗、弁当一緒に食べようぜ」

「お、いいぜ」

 武彦が机を持ってきて、俺の前につける。

「ちょっといいか、遥斗」

 俺はカバンから弁当を取り出していると、武彦が周りから口元が見れないように隠しながら、俺に尋ねてきた。

「どうした、武彦?」

「お前、久東さんと付き合っているのか?」

「――ぶっ」

 思わず、吹いてしまった。

「おいおい、そんなに動揺するなよ」

「いや、お前までそれを聞いてくるとは思わなくてな」

「へぇー、他にも聞きに来た奴らがいるっていうわけか」

「そういうことだ。……で、どうしてそう思うんだ?」

 武彦は弁当を開けながら、

「いやさ、転校初日からお前をどっかに連れて行くし、放課後一緒に帰っているし、何か怪しいなっていうことでさ」

「……なるほどな」

「で、実際はどうなんだ?」

「いや、お前が思っているのとは違うよ、とだけ言っておく」

 俺は真剣な眼差しで、武彦を見つめる。

「お前……、わかったよ、これ以上は追求はしない。だけどよ」

「どうした?」

 武彦もこちらを向いて、武彦にしては真面目な顔で、しっかりとした口調で、

「何か問題があったら、力になるからさ、何かあったら俺を呼べよ?」

「お前……、どうした急にそんなこと言って、頭どっかで打ったか?」

「おま、せっかく親切に言ってあげたのに」

 きっと武彦的には、ここの会話には『www』と、間に入っているのだろう。

 話が一段落ついたところで、俺も弁当を開けて、食べようとすると、

「ちょ――っと、そこのお二人さん、私たちも一緒にお昼食べていいかね?」

 声をしたほうを見ると、そこには優里と葵が立っていた。

「葵さんに優里さん! いいですとも!」

 武彦が喜んで承諾している。……俺の意見は無視ですか?

「遥くん、いい?」

「遥斗は否定しないよね? こんなに可愛い子が頼んでいるんだし」

「遥斗の意見なんて、聞かなくてもいいでしょ」

 葵、優里、武彦の順にそう言ってくる。

「お前らは……、別にいいぜ」

「ありがとう、遥くん」

 葵はにっこりと微笑み、弁当を俺たちの机に置いていき、自分たちの机を持ってくる。

「いやー、ごめんね、ただ飯を食うだけじゃないからさっ」

 優里が俺の背中を叩きながら、自分の席に座る。

「それって、どういうことですか?」

 武彦が優里の言葉に食いつく。葵も席に着いたところで、優里が口を開く。

「いやー、あの遠足の班決めをさ、どうしようかっていう話を葵っちとしていたわけですよ」

「あー、なるほどな、もうそろそろだからな」

「そうそう、そういうこと」

 来週、俺たちは遠足でバーベキューに行くことになっている。そういや担任の沢嶋先生がそんなことを朝のホームルームで言っていた。

 優里が弁当のエビフライを加えながら、しゃべり続ける。

「それでさ、良かったら一緒の班にならないかって、遥斗たちに話を持ちかけようっていう話になってさ、こうやって聞きに来ているっていうわけ」

 俺は葵たちの顔を見渡す。葵は恥ずかしそうに弁当を食べており、優里は笑っている。武彦が無言なのはどういうわけだろうか。

「おい、武彦?」

「なぁ、遥斗」

「どうした?」

「これは……、夢じゃないよな!」

「そりゃ、まぁ、現実だけど?」

 武彦は立ち上がり、優里の手を取り、

「光栄です! 一緒の班にしてください!」

「おうおう、元気だな、あはは……」

 優里は少し手を取られて困りながら、笑いながら対応をする。

「やった――っ! 今から遠足が楽しみだ――っ!」

 武彦が盛り上がっている。だが、その周りにクラスの男子数人が集まっているのに、気づいていないらしい。

「おい、武彦」

「お、どうした? おおは――――ってぐふっ」

 武彦の腹に拳がめり込む。武彦はそのまま気絶し、拳を放ったクラスの男子にもたれかかる。

「お、おいおい、大丈夫かー? 眞柄くーん」

「ご心配なく、遠野優里さん。こいつをちょっと借りてきますね」

 クラスの男子の代表らしき人物が、そう言った。

「おー、分かったー……」

 優里は勢いを失い、暖かい目で武彦たちを見送った。

「遥斗は幼馴染絡みでそういうことになることはわかっていたけど……」

「武彦は俺たちの仲間だと思っていたんだが、まさか遥斗つながりで女子と一緒の班になるとは……」

「許せないぞ、これは許せないぞ」

「処刑じゃ――っ! 処刑じゃ――っ!」

 と、クラスの男子数人は言い捨てて、教室を出ていった。

「……大丈夫なのかな? 眞柄くん」

 優里が心配そうに見つめていた。葵も突然のことで驚いているが、武彦のことを少しばかしか心配しているように見えた。

「大丈夫、あいつ遠足までには治してくるから、きっと」

 武彦のことだ、ケガをしても、女子と一緒にご飯――しかも遠足で一緒に食べれるのだから、当日には必死こいて治してくるはずだ。

「ま、それもそっか」

 と、優里も笑いながら弁当を食べる。

「でも、あと一つ問題があってだね」

「まだなんかあるのか?」

「うん、そうなんだ」

「実はね」

 優里に変わって、葵が話し始めた。

「班が五人班で、あと一人足りないんだよ」

「あと一人?」

「そうなんだよ、今決めたのが、私でしょ、葵っちでしょ、遥斗でしょ、眞柄くんで、あと一人! 誰か心当たりいないか?」

 優里が人差し指を立たせながら、首を傾げる。

「お前らの仲の良い奴を入れるっていうのは?」

「それがね、もう班決めちゃったっていう人たちが多くて」

 と、葵が言う。女子たちは何かとこういうことを決めるのが早いからな。

「そうだな……」

 考えていると、ふと思いついた人物が一人いた。

「それじゃ、花音を誘ってみるっていうのはどうだ?」

「!?」

「えっ!? 久東さんっすか!?」

 葵と優里が驚く。

「どうしてそんなに驚くんだ?」

「いやー、だって、遥斗から女子を誘おうなんて言い出すとは思わなかったし」

「……しかも、久東さんだなんて」

 優里は俺の肩をばしばし叩き、葵はししゃもをかじかじ噛んでいる。

「だってさ、あいつ転校してきて、あまり友達多そうに思わないしさ、俺たちが誘ってあげないとな、とか思ったから」

「……まぁ、確かに、遥くんが言っていることは事実だからな」

「え? 本当か?」

 自分で言ってはなんだが、本当に花音は友達が少ないのだろうか。

「そうなんだよなー、久東さんって、なんていうか、身にまとうオーラが違うっていうか、なかなか近づきにくいっていうのがあるんだよ」

「……それに、転校初日早々、遥斗をどっかに連れていくんだから」

「……確かに、そう言われちゃそうだな」

 場の雰囲気が静まり返り、弁当を食べる音しか聞こえなくなる。

「よっしゃ! そうと決まれば、誘うっきゃないでしょ!」

 この静寂を壊したのが、優里だった。優里は立ち上がり、あたりを見渡す。

「いたいた、おーぃ、久東さーん!」

 優里は教室に帰ってきた花音を見つけて、花音の元へ駆けていった。

「何か用?」

「いやー、久東さんって、遠足の班って決めた?」

「いいえ、まだだけど?」

「それじゃ、私たちの班に入らないか?」

「えっ……?」

 驚く花音に、優里は葵と俺を指さす。班の面子を教えているのだろう。

「……なるほど、わかりました」

「よっしゃ! それじゃ、決まりだね」

 優里はにやっと白い歯を輝かせ、花音の肩をぽんぽん叩く。

 ――俺のときは叩くの強いんだけどな、差別なのだろうか。

「よかったね、遥くん。久東さんも一緒の班になって」

 不意に葵が、そう言ってきた。

「お、おう、そうだな。……なんかごめんな」

「いいよいいよ、全然気にしてないから。遥くんが優しいのは知っていることだし」

「そ、そうか……」

「よーよー、お二人さん」

 優里が花音を連れてこっちに来た。

「よっ、花音、すまないな、一緒の班よろしくな」

「ええ」

 花音が俺の隣に立ち、葵たちに聞こえない声で、

「この遠足がイベントになるかも知れないからね」

 ――イベント?

 その言葉で思いついたのが、ギャルゲをやっていると、何かの出来事が起こる際には、何かしらの出来事――イベントがあるということを。

 ――この遠足で、俺は決意しなければならないっていうことか?

「おいおい、そこのお二人さん、なーにしているのかな?」

 優里がこちらを変な目で見ている。

「別に、なんでもない」

 俺は気をとり直して、残りの弁当を食ってしまう。

「そうかい、そうかい、なんでもないならいいんだよっ」

 優里は笑い、葵はこちらをいつもとは違う感じで見つめ、花音はそのまま自分の席へ戻り、胸ポケットの黒いボールペンを取り出してメモをしていた。

 こうして、今日の昼休みを過ごした。

 ――どことなく、武彦の悲鳴を聞こえたが、気にしないことにした。


   ◇


「それじゃ、遥くん、また明日ね」

「おう、それじゃな、部活頑張れよ」

 放課後、俺は葵を部活へ見送り、カバンを持つ。

「それじゃ、うちらも行きますか」

「そうね」

 俺を待っていてくれた花音と一緒に教室を後にする。

 昇降口まで歩いていると、そこに優里が靴を履いていた。

「お、優里、お前も帰り――じゃなさそうだな」

「あ、遥斗! ――それに、久東さんじゃないか」

 優里の服装を見てみると、うちの学校のバレー部の服装だった。

「お前、バレー部だっけ?」

「……遥斗って、去年も私と一緒のクラスだったに、知らないのかい?」

「んーまぁ、知らない」

「くっー、ちょっと悲しいぜ、少しぐらいは知っていてほしかったよ」

 優里は明後日の方向を見ながら、涙ながら(実際は泣いていないが)敬礼をする。

「そっか、ごめんな」

「謝ることないっすよ」

「で、実際はどうなんですか? 遠野さん」

 ここで花音が優里に尋ねた。

「おっと、その答えを言う前に、久東さん、私のことは優里でいいよ」

 優里が花音をびしっと指差し、『決まったぜ』というような雰囲気を出す。

「――そう、それじゃ、優里さん、どうなんですか?」

「あぁ、それとそれと、私も遥斗みたいに花音って呼んでいい? それとも花音ちゃんのほうがいい?」

「――花音ちゃんは勘弁してください。名前で呼びたかったらお好きにどうぞ」

 花音の手が震えているのがわかる。泣いているのではなく、自分の調子が崩されて、いらついているようだ。

 ――優里はそういう奴だから、仕方がない。

 俺も最初、優里とあったときにそう思った。こいつは相手の調子などお構いなく接してくる。変に元気で、誰とでも偏見なく話しかけてくるのが優里の良いところだと思う。

「それじゃ、かののんの質問にお答えしましょう!」

「かののんって……」

 花音が呆れた表情をする。それでも優里はお構いなしに言葉を続ける。

「私は、決まった部活には入ってないんだよ」

「へぇー、そうなんだ」

「……本当に知らなかったのかい?」

「悪いな」

「……それで?」

「ほいほい、それでね、私は部活の助っ人として、いろいろな部活に出張しているわけさ」

「で、今日がバレー部の助っ人というわけですか」

「そういうこと」

 優里は時間を確認すると、

「おっと、ちょっと時間が押しているから私行くね」

「おう、邪魔して悪かったな」

「いいって、いいって。それじゃね、遥斗、かののん」

 そう言って、優里は走っていった。俺の隣にいる花音は手を振って見送った。

「それじゃ、帰りますか」

「……そうしましょうか」

 俺たちは靴を履いて、学校を後にした。



 ――ふーん、やっぱり、かののんと帰っているわけか。

 優里は走りながら、考えていた。

 ――せっかく葵っちっていう子がいるっていうのに……。

 ――なんか事件になる前に止めに入ったほうが良かったのだろうか。

 ――ええい、そんなことはいいや、部活に集中しないとな!

 優里はそう思いながら、バレー部のみんなのところへ駆けていった。


   ◇


 俺と花音は、俺の家に着き、いつもの通りに俺の部屋へと足を運んだ。

 俺はパソコンの電源をつけ、起動するまでゆっくり待つ。

 花音は黒いボールペンを片手に、メモ帳に何かを書き込んでいる。

「なぁ、花音。何を書いているんだ?」

 花音は目線をメモ帳に向けたまま、

「小説のアイディアが思いついたから、書き留めているだけよ」

「そうか、お前、小説書いているんだっけな」

「……何のためにあなたの手伝いをしているか、わかってる?」

 花音が視線をこちらに向ける。

「いやー、すっかり忘れてた、すまん」

「いいわよ、謝らなくて」

 メモ帳をぱたんと閉じ、俺にボールペンの先を向けて、

「さて、遠足のことなんだけど」

「おう」

「たぶん、遠足が決め所だと私は思うのよ」

「決め所って、俺の気持ちをちゃんと葵に言うっていうことでいいのか?」

「それ以外に何があるのよ?」

「そうだよな、続けて」

 花音はため息をして、話を続ける。

「なるべく早く、このことを早く済ませたほうがいいと思って。あなたとあなたの幼馴染――篠木さんの関係がいつバレるかわからないし、いつバラされるかわからないから」

「なるほどな――って、バラされる?」

 ――バラされるってなんだよ? 誰か知っているのか、このことを?

「まぁ、とにかく、そのためにも早めにこのゲームを終えましょう」

 花音が話を切り上げ、俺をパソコンの正面に向かせて、背中に体をくっつけ、マウスを動かす。

「顔近くないか?」

 俺が横目で、花音を見る。

「そう、まぁ、気にしないで」

 そう言い、花音はギャルゲを起動した――しかし、画面をデスクトップに戻した。

「ん? どうし――」

「お兄と久東さーん、お茶持って来ました!」

 突然、ドアを開けてきたのは、妹の遥奈だった。

「お、お前、急にどうしたんだ?」

「いやいや、いつも来てくれているのに、何も出してなかったなって、思ったから、持ってきてみた――って、な、ななななな、何しているんですか!?」

 遥奈は俺たちを指さし、あたふたしている。

 今の俺たちの状況を見てみると、花音が俺の背中にくっついて、俺の手の上からマウスを扱っていて、顔が横にある。

 ――普通の人がみれば、仲のいいカップルっていうとこか。

「っておい! そういう関係じゃないからな!?」

「……そうね、私はただ、遥斗が私がいるのにブラウザを開いて、変なサイトを見ようとしたから、止めに入ったまでよ」

「なーんだ、それなら安心しました」

 遥奈は胸を撫で下ろす。

「ちょっと、お二人さん? してもないことを言って、それならってちゃっかり認めちゃってるよね? お前ら俺をそういう奴だと思ってんの?」

「あ、そんなことより、お茶どうぞ」

「あら、ありがとね、遥奈ちゃん」

 俺を無視して、二人はまったりとお茶を飲んでいる。

 ――っていうか、きっと遥奈が飲んでいるやつ、俺のだろ!

 二人がお茶を飲んで、ほっこりしたところで、遥奈が切り出した。

「ところで、いつも謎に思っていたんですけど、放課後毎日うちに来て、何やっているんですか?」

 ――ピンポイントでついてきたか、そこを。

 遥奈の質問に対して『ギャルゲをやっています』なんて言えるはずがない。

「えーとね、ゲームをしているわ」

「ゲーム……ですか?」

「そう、ゲーム」

 花音は堂々とゲームと発言した。

「ゲームって、どんなゲームをしているんですか?」

「そうね、ビジュアルノベルっていうのをやっているわ」

「……なんですか、そのビジュアルノベルっていうの?」

 ――俺も聞いたことがないな。

 花音は遥奈の質問に答えていく。

「ビジュアルノベルっていうのは、文字を読んでいくゲームのこと。普通に読んでいくだけではなくて、効果音やちょっとした演出が入ってくるのよ」

「へぇー、なるほど」

「私、こうみえて、小説家を目指していてね、この話を遥斗くんにしたら、一緒にやらないかって誘われたの。うちにパソコンがないから」

「なるほど、小説家を目指しているんですか! すごいですね!」

「それほどでもないわ、その小説を書くためにも材料が必要で、こうやってゲームをやって、何かを掴んでいこうと思っているの」

 花音の話が、きちんとできていて正直驚いている。花音は嘘をついていないのだろう。ゲームの説明を聞いて、ビジュアルノベルの中にギャルゲも入っているのだろうと思う。

「ちょっと気になるんですが……」

「他の質問?」

「はい、久東さんが小説を書いているっていうのはわかりましたが、どんな小説を書いているんですか?」

「――っ! それはね……」

 そう言えば、俺も花音に聞いたことがない。

 俺も花音の方をみて、回答を待つ。

「――す、推理もの……とかかな?」

「本当ですか?」

「うぅ……」

 遥奈が花音をまっすぐ見ているのに対して、花音はその眼差しを避けようとしている。

 ――推理ものって、たぶん嘘だろうな。

 ギャルゲをやって、推理ものの小説が書けるのだろうか。

「本当なんですか?」

 遥奈が言葉を強くして、花音に尋ねる。

「そ、そんな大それたことをしているわけじゃないわ。ただ……あまり人に言いたくないっていうのを察してちょうだい」

「……そうですね、厚かましい真似をして、すみませんでした」

「いいのよ、別に」

 遥奈は花音にお辞儀をして、お茶の入っていた容器を手にとる。

「それじゃ、ごゆっくりどうぞ」

 そう言って、遥奈は去っていった。

「……なんかフォロー入れなさいよね」

「いや、俺も気になったから」

「……そう」

 花音は立ち上がり、俺の隣に立った。

「さぁ、はじめましょうか。今日で終わりにするわよ!」

 花音の気合の入った声に、俺も答えるように、

「おう!」

 と、返事をしてギャルゲを始める。

 ――ギャルゲじゃなかったらどれだけかっこいいセリフだったであろうか。


  ◇


「終わった――っ!」

「おつかれさま」

 今パソコンの画面には、エンディングが流れている。

「いやー、武彦が言っていたことが少しだけわかったような気がする」

「どういうことかしら?」

「前に武彦がな『ギャルゲは感動するものなんだぜ!』って言ってたからさ、実際にやってみて、エンディングを見たら、結構面白いなって」

「それは、作っている人側も必死にストーリー考えているんだからね」

「そういうものなのか?」

「そういうものよ」

 花音が肯定する。結構この手のゲームについて花音は知っているように見える。

「そうだ、もしかして、なんだが」

「何よ?」

「お前、小説とか言っているけど、実はこの手のゲームのストーリーを考えていたりするのか?」

「―――っ!」

 花音の顔がこわばる。

「……あれ? もしかしてビンゴ?」

「……他の人には言わないでね」

「お、おう」

 図星だったらしい。俺は正直驚いている。まさか、女子がこんな話を考えていたなんて。

「バレちゃったから仕方ないわね……」

 花音はベットに腰掛けながら、話し始める。

「うちの親が、この手のゲームのストーリーを考える、言わばシナリオライターの仕事をしているのよ、やっぱし、親の影響っていうものがあるもので、私もストーリーを書くっていうことに興味を湧き出しちゃって」

 花音はさらに続ける。

「どんどんゲームをね、やっていくうちに、もしかしたら自分は主人公かも知れないっていう、馬鹿な妄想を持っちゃって、『私を中心に世界は回っているんだっ!』とか、ホントばっかみたいなことばっか考えていたときがあったわ」

 花音の口が止まった。言いにくいことでもあるのだろうか。

「しゃべりたくないことは無理に言わなくていいぞ」

「……わかったわ、ありがとう」

 花音は俺に微笑みかけてきた。笑ってきたとき、若干ドキッとした。

 ――こいつ、ちゃんと笑うと、いい顔するじゃん。

「話さなければならないときが来たら、またその時話すわね」

「そうしてくれ」

 話を終え、花音が立ち上がり、伸びをしてから、カバンを持った。

「さて、そろそろギャルゲも終わったことだし、私は帰るわね」

「おう、これまでありがとな」

 俺はこれで花音とギャルゲをやることが終わりになるのだと、しみじみしていた。

「……何言っているの? 問題が解決するまで、ちゃんと面倒みるわよ」

「そ、そうなのか?」

「遥斗、あなたこれだけのことをして、恋って何なのか理解できたっていうわけ?」

「それは……、はっきりとした答えは出てないけど、大体は」

「そう、だったら言ってみなさい」

 花音は腕を組んで、俺をじっと見つめる。

「そうだな……、恋っていうのは、いつも一緒にいると楽しいっていうか……、一緒にいてもぎこちない動きをしないで、相手のことを思いやることができる、お互いを認めているっていう感じが発展して、恋かなって」

 俺が言い終えると、花音の顔が真っ赤になっていた。

「あ、あんた、よくそういうことを平気で言えるわね……」

「お、俺も恥ずかしいに決まっているじゃんか……」

 今更ながら、自分が言ったことが恥ずかしくなってきた。

 ――お互い恥ずかしい思いをするんだったら、言わすなよ!

「そ、それじゃ、私帰るから」

「おう、見送っていくよ」

 そう言って、玄関まで行くと、そこには遥奈の姿があった。

「あ、お兄に久東さん、今帰りですか?」

「ええ、というあなたは?」

「あ、少し出かけるつもりです」

 遥奈の格好をみると、ダウンジャケットを着ており、防寒対策がしてあった。

「遥奈、早めに帰ってこいよ」

「わかってるって」

 遥奈がピースを俺に向ける。

 花音は靴を履き、遥奈のほうを向く。

「どこまでいくの?」

「あ、近くの公園まで」

「それだったら、私通るから、一緒に行かない?」

「い、いいんですか?」

「いいわよ、構わないわ」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

「それじゃ、帰るわね」

「お兄、行ってきまーす」

「おう、気をつけてな」

 俺は花音と遥奈を手を振って見送った。

 花音と遥奈がその場からいなくなり、静かになった。

 ――ってか遥奈、何しにいったんだ?

 と、疑問を浮かべながら、自分の部屋へ戻った。


   ◇


「それで、今日は何をしたんですか?」

「いつもどおり、ゲームをしてたわ」

「ですよねー、お兄の部屋にパソコン以外、遊ぶものありませんからね」

「そうね、まぁ、遊ぶのが目的じゃないから、別にそのことについては不便に思ったことはないわよ」

「へぇー、遊ぶためじゃなくて、自分の小説を書くため、と?」

「そういうことになるわね」

「お兄、うまく利用されているなー」

「でも、あの人って、ときどき、おかしな発言するわよね。例えを言うなら、おみくじで大吉ではなく大凶でもなく、まさかの凶を引き当てるような」

「た、例えはおいといて、ホント、時たま驚かせるような発言しますよね」

「やっぱりそうなのかしら?」

「そうですよー、でも、そこがお兄の良いところだったりします」

「へぇー、というと?」

「お兄、小さいところに気がつくっていうか、やっぱり頑張ったことを褒めてくれるんですよね、それに自分の思いをちゃんと貫いたり、自分の意思を通そうとするところが……かな? ちょっと、恥ずかしいな」

「ふふっ、大好きなのね、お兄さんのこと」

「いや、大好きじゃありませんよ」

「あら、即答しちゃうんだ」

「そうですとも、あの人、ああ見えて、朝起きるのが遅くて困っているんですから」

「そうなんだ」

「そうなんですよ、だから毎回私が起こしにいっているし、何か隠し事をしていると、そのことに関しては本当に他人に漏らさないんですよ」

「ふーん」

「ですから、お兄に秘密を話しても、黙っててくれますから、安心してくださいね」

「そう、覚えておくわね」

「と、いう面から考えて、私はお兄が私のお兄さんでよかったなって思うんです」

「よく喋るわね」

「ま、まぁ、いいじゃないですか」

 と、話しているうちに二人は公園までやってきた。

「それじゃ、私はこれで、失礼します」

「ええ、それじゃ、帰り気をつけるのよ」

「はーい」

 遥奈はそう言って、公園の中へ入っていった。

 花音は気になるものの、後をつけるのが癪だったので、そのまま帰宅することにした。


   ◇


 遥奈が公園内を走って、待ち合わせしていた場所に向かう。

 待ち合わせをしていた場所に、ちゃんといてくれていた。

「おーい、葵ちゃーん」

「あ、遥奈ちゃん」

「ごめんね、こんな時間に呼び出しちゃって」

「いいのよ、別に。で、話って何?」

「ええっとね、お兄のことなんだけど――」


   ◇


 翌日、俺は遥奈にいつもどおりに起こされ、朝食を食べて、支度をして、学校に出かけようとしていた。

「ってあれ?」

 玄関で靴を履いているとふと思った。

 ――なんで今日、葵が来ていないんだ?

「おはよー、葵ちゃ――ってあれ? ねぇ、お兄、葵ちゃんは?」

 遥奈もいつもどおりに挨拶をしかけて、葵がいないことに気づく。

「いつもなら来ていてもおかしくない時間だよな」

「うーん、風邪でも引いちゃったのかな?」

「でも、それだったら、携帯に連絡が来ているはずだよな」

 俺は携帯を取り出し、見てみると、何も連絡が入っていない。

「きっと、何か忙しくてうちに来れないのかも知れないよ」

「それもそうだな、それじゃ、行ってくるか」

「うん、いってらっしゃい」

 俺は遥奈の見送りで、学校へ向かった。


   ◇


「おはよーっと」

 俺は教室に入り、葵の席を見た。

 だが、そこには葵の姿がなかった。

「あ、遥斗、おはよー」

 武彦が俺に手を上げ、俺はカバンを自分の席へ置いてから、武彦の席へ近づく。

「なぁ、ちょっといいか?」

「ん? どうしたんだ?」

「葵がいないんだが、何かあったのか?」

「おいおい、それだったら、俺じゃなくてお前のほうがよく知っていると思うぜ」

「それもそうだな……」

「なんか葵さんとあったのか?」

「いや、別にそういうわけじゃ――」

 そのとき、教室のドアがばしっと音をたてて開いた。

「――鎌瀬遥斗っ!」

 ドアの音と声を出した人物を見てみると、そこには、遠野優里が立っていた。

「どうした、優里?」

 すると、優里が今までに見たことのない形相でこちらに近づき、

「――っ!」

 急に胸倉を掴んできた。

「おいおい、どうしたんだよ!」

 武彦が止めに入ろうと出してきた手を優里は振り払う。

「どう、したんだっ、優里……」

「――ちょっと、屋上まで来な」

 と、言って俺は引っ張られながら、優里についていくしかなかった。


   ◇


 屋上につくと、俺は近くの壁にたたきつけられた。

「ど、どうしたんだよ、優里……」

 俺が再度、優里に尋ねる。

「……どうした? それはこっちが聞きたいね」

 優里は、怒りのこもった口調で、静かに話しかける。

「昨日の夜、葵から電話をもらったんだ。出てみたら、葵、泣いてたんだよ」

「!?」

「事情を聞くとな、葵な、お前の妹から、放課後いつもうちに久東さんっていう人が来るんですが、お兄さんとはどういう関係ですかって、聞かれたらしいんだよ」

 ――昨日の夜って、遥奈が花音と一緒に家を出ていったときのか!?

「でな、葵、お前が久東さんと仲良くしててな、しかも放課後いつも家にあがらせて、何かをしているって聞かれて……、すっごくショックを受けてた」

「……そうか、それは、すごく悪いことをしたな」

「何なんだよ、お前はっ!」

 優里が強く、俺を壁に突き飛ばす。

 そして、優里は叫びに近いような声で、強く、言いつける。

「何なんだよ、お前は、葵と付き合っているんじゃなかったのかよ!」

「――なんでそのことを知っているんだ!?」

「そんなことはどうだっていいんだよ! それより、お前はどうなんだ! 久東さんとはどういう関係なんだよ!」

「――それはっ」

「なんだよ、はっきりしろよ!」

「――っ」

 俺が無言になると、優里は涙ながら、話しかけてきた。

「私は、葵が幸せになるならって、応援してたんだ……、だから、私は、葵の恋を応援してたんだ、そしたら、葵、泣いているんだよ。その相手が葵の彼氏だからって関係ない。私は、葵を泣かせるやつらを許さない」

 再び、優里は壁に――弱い力で揺さぶる。

「なぁ、答えろよ、答えろよ!」

 俺は、優里がどれだけ葵のことを思っているかを聞いて、思った。

 ――こいつは、葵のことを親友のように思っているんだ。

 本当に悪いことをしたと、自分でもわかった。

 だから、俺は、あのことを話さなければならない。

「――あのな」

 俺は、重い口から、今までのことを、包み隠さず、優里に話した。


  ◇


「――という、わけなんだ」

 すべて話し終えると、優里は俺を開放してくれた。

 優里は制服の袖で涙を拭きながら、

「――あんたって、最低ね」

「……あぁ、自分でもそう思うよ」

「そっか……」

 優里は一歩二歩歩き、空を見つめる。

「でも、ちゃんとどうにかしようって思っているだけマシかな?」

 そう言って、こちらを向いて笑ってくれる。

「遥斗の状況がどうなっているか把握できたわ、このことは葵には話さない、とりあえず、問題ないからっていうことを伝えるつもり」

「そっか」

「だーかーらー」

 優里は俺を指さし近づきながら、こう言う。

「ちゃんと、自分の口で伝えるのよ、あなたの気持ち」

「――おう」

「うん、それでこそ遥斗だな」

 優里は、笑っていた。

 やっぱり、優里は笑っているときが一番輝いている、とそう思った。


   ◇


 放課後、下校しながら、朝の一件を花音に伝えた。

「そう……、それじゃほとぼりが冷めるまで、私はあなたの家に行かないほうがよさそうね」

「だろうな……」

「仕方ないわよ、あの妹さんも興味本位でやっているわけで、こういうことになるとは思っていないと思うから」

「そうだよな……」

 重々しく歩いていると、携帯が鳴り始めた。

 俺は携帯を取り出し、電話相手を見てみると、

 ――葵!?

 葵からの電話がかかってきていた。

 俺は一呼吸を入れて、電話に出た。

「もしもし」

『――もしもし、遥くん』

「おう、今日休みだったらしいが、大丈夫か、葵?」

『う、うん、大丈夫、ちょっとした風邪だから』

「そっか、それで何か用か?」

『うん、明日、土曜日だよね?』

「お、おう、そうだな」

『遥くん、明日、私とデートしてくださいっ!』

「……え?」

『時間と集合場所はまたメールで連絡するから、それじゃ』

 そう言い残して電話が切れた。

「篠木さんからの電話だったんでしょ? 何かあったの?」

「……明日、デートに誘われた」

「――えっ?」

 花音が驚きの表情を見せた。


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