7歳 いろいろやった。楽しかった。後悔はしていない。
濃い一年であった…
端的に言うと休暇が欲しいです。
ハミィが来てからというもの地獄の特訓を受けさせられている。
丸一日剣の訓練、翌日は午前は剣の午後にはアイナの魔法訓練というサイクルをずっと受けている。
ちなみに僕の隣にはヨルンとノールがへばって倒れている。
灰色猪と戦闘した数日後にハミィに抱えられて二人が拉致られてきたのだ。
なんでも領主館の前を覗いていたらしくハミィが声を掛けたんだとか…
どうやら二人は挨拶に行った日から見ない僕を心配して様子を見に来たのだが領主館の手前入れずにいたらしい。
そしてそのまま訓練につかまっている。
ハミィの滞在は両親も許可を出した。二人は最初、訝し気な態度であったが、ハミィが魔剣卿という話を聞いて驚いていた。
魔剣卿とはそんなにすごいのだろうか?
しばらく僕の面倒を見させて欲しいと言ったハミィに対して喜色満面、二つ返事でOKを出した。
その結果現在ボロボロにされている。
今自由時間があるのは夕食から就寝までの2時間位だろうか。
なのでなかなかハードな日々を送っている…さてさて、最近は体力もついてきたのか修行の当初の様に食事をしてすぐ眠るという事は少なくなってきた。
夕食後の数時間を色々な事に費やすことができるようになったのだ。
という事で、自室の本棚から魔道具の作り方初級編を取り出した。因みに書斎からパクっ…借りてきていたのだ。
以前読んでいた時目を引いた項目があったのだ。
「魔装備の魔短剣」
魔装備とはこの世界における魔力を付与されている装備である
神代の時代に精霊が鍛えたとされ、大なり小なりあるがその力は絶大であり昔あった大戦では、一本の剣が戦況を変えたとまで云われている。
しかし現代、その作り方は今では誰でも作れると初級編にまで記載されている。が、誰にも作れる代わりにその能力は製作者の能力に依存する。
才能ある子供が作った一本の剣が熟練の鍛冶師が作った剣を真っ二つにすることもできる。
なんてふざけた話もある。
しかし、精霊が作ったとされる装備は別格で今後、人が上回る事はないとも言われている。
「さてさて、始めましょうかねっと」
鉄のインゴットを取り出す。これはガーランドさん(ヨルンとサラの父親)に頼んで鍛冶屋の知人に譲ってもらったものである。子供でも作れるのであれば鍛冶屋なんていらないではないかと思うかもしれないが誰でも作れるという事以上に資質を持っている人間がそんなに多くないのだ。あくまで資質があれば誰でも作れますよ、という事だ。
結局ちょっと資質がある程度だと普通に鍛冶師が鍛造した剣の方が強いのだ。
しかし、自分で作れるのであれば作ってみたいと、好奇心が囁いたのである。
作り方は以前水を爆発させた方法と同じで魔力循環しながら対象に変化を与えていくという方法らしい。
テーブルの上に準備すると両手でインゴットを掴み魔力を与えていく。
イメージすることで魔力が鉄のインゴットを変形させていく。シルドのイメージはそのままナイフ、というよりは日本刀の脇差位のイメージもしくは懐刀だろうか。この辺りは日本という国に住んでいて男の子であれば憧れるところであろう。
ぐんぐんと魔力を集中させていくとやがてインゴットは形を変え始めた、銀光を放ち姿を変えてゆく。
「…これ結構しんどいな…資質もなにも相当魔力が無いとナイフ一本作れないんじゃないかなこれ?」
資質とは魔力量、魔力の威力、魔力の属性である。この時シルドは知らなかったが為に魔力の資質とは容量の事だと勘違いしていた。間違ってはいないのだが答えとしては足りない感じだろう。
数分してようやく形が落ち着いてきたのだが、この時シルドは常人の数十倍近い魔力を注ぎ込んでいたことに気付かなかったのだが後日それを知ることになる。
「おぉ…いい感じになってきた」段々と銀光が落ち着いてゆくと光の中から脇差ぐらいの剥き身の刀が現れたあくまでイメージの中での産物なので少々反りが甘かったりと言うのは仕方のないことであろう。
「できた…」と、剥き身の刀を持ち上げて振ってみる
ふゅん
空を切る音はするが少々情けない音を出す。
訓練を続けているとはいえまだまだ齧った位の腕しか持たないので仕方ない。
とここで柄と鞘のを作っていないことに気が付いた。一発で成功するとは思っていなかったシルドはあまり気にしていなかったのだ
「しまった…すっかり忘れていたな…明日にでもガーランドさんにこしらえてもらうか」
そう考えるとシルドはテーブルの上に刀を置いて寝ようとベッドへ向かうが
(剥き身の刃物をそのままってのも危ないな…)
と思い直し刀を持ち上げようとして手を滑らせた
スルッ
という音がして床に刀が落ちる。
「え?」
シルドは目の前のそれに驚愕した
手を滑らせて落としたのはテーブルの上だったのだがその刃は何もないかのようにテーブルをあっさり切り裂き床に落ちたのだ。
「…マジか」
シルドは引き攣った顔をしながら一人呟いた。
翌日、午後からアイナとの魔法訓練であったが両親について魔獣狩りに出かけるという事だったので休みになった。え?ハミィ?何か言われる前に速攻逃げ出したわ。
自室のベッドの下に隠しておいた刀を布で包みガーランドさんの所へ行く。
目的はもちろん刀の柄と鞘の作成依頼である。
カランカランと入り口の鐘がなると奥から熊みたいな親父、もといガーランドさんが現れた。
「おや、シルド様じゃないですか。今日はどんな御用で?」
「先日はインゴットありがとうございました。」
「ああ礼はいいってこっちも仕事だよ。」
「それでなんですけど…早速作ってみたんですが…」
すこし俯きながらシルドは切り出す。
(ははぁ…これは失敗して練習用にもっと欲しいって話だな?)
と、ガーランドは勝手に邪推する。
「シルド様!」
「え?」いきなり大声を駆けられ驚くシルド
「失敗は誰にもありまさぁ!気を落とさず次頑張ればいいんですよ!」
ガーランドは激励のつもりでシルドを励ますが
「あ…いえ、違いますよ。魔装備はうまく作れたんですよ。それでその武器に合う柄と鞘を作ってもらいたいんです。」と、布で包んだ剥き身の刀身をガーランドに渡す。
するとガーランドはそれを見て目を見開いた
「こ…これは…」迸る魔力と拙いながらも美術品として飾ることもできるだろう刀身の美しさにガーランドは息を呑む
「シルド様これ程の物を一体どこで…」
「いや…僕が作ったってさっき言ったじゃないですか」
「お…あ、いや、そうでしたね。すいません」
ガーランドは額に掻いた汗を拭う(すごい剣だ…これなら金貨20枚はくだらないだろう…)
「で、ですね。これの柄と鞘なんですが…」とそこまで言いガーランドが一言
「シルド様これを私に売ってはもらえませんかね?」
「…はい?」突然の事にシルドは困惑する
「これなら金貨20枚はいきますよ!」
金貨20枚という金額にシルドは一瞬目がドルマークになりかけたが首を振った。
「申し出はありがたいんですが初めて作った物ですのであまり手放したくないんです。」
するとガーランドはしばらく黙ってうんうん唸ると
「…そうですか…いきなりすいません、少し興奮してしまったようです…忘れてください。」
と言われシルドはほっと胸を撫で下ろす。
正直初めて作った物がどこぞの誰かの手に渡るのは少し恥ずかしいというのもあったし、できれば一本目は自分で使いたいという事もあった。
コホンとわざとらしくガーランドが咳を払うと「わかりました。その剣の鞘と柄ですね。馴染みの鍛冶屋に頼んでおきましょう。」
「お願いします。」とシルドはぱっと笑顔になると店を後にした。
渡せた剣をふと持ち上げると「…これを作っちまうとは…若様は何とも誇らしいんだか末恐ろしいんだか…」とガーランドは一人ごちたのであった。
「さーて、何しようかなぁ」
もちろんすぐ帰る気はない。何故なら今頃我が友人達がハミィの生贄なっている頃だからである。
ささっ
目の端に何かが動いたのが見えた
「…サラ?」
「えへへー」
にぱっと笑顔を綻ばせサラが駆け寄ってきた。
「どうしたんですか?」
「んー…ひまなの」
兄は特訓幼馴染みも特訓、と来れば唯一特訓に参加していないサラは確かに暇である。そして、今日は僕も暇である。(逃走中)
一応特訓風景を見てはいるがそれだけなのであまり面白くは無いのだろう。
「そうですか…そうしたらどうしますかねぇ」
「おさんぽしよう?」と可愛く小首を傾げてくるので二つ返事で返事した。別にロリコンじゃないからな?
サラは確かに将来有望な美少女ではあるが後、15年は欲しいところである。ああでも成人はこの世界14歳を越えたら大人扱いらしいから後7年?過ぎたら良いのかもしれないが…
まぁ惚れた晴れた何てのはまだまだ早い年であるお互い良い相手を見つけられたら良いと思う。
「それじゃ、どこ行きましょうか?」
「今日は大広場でなんかやってるらしいから行ってみたい。」
「オッケー」
「ん?おっけ?」
「あーっと、良いですよって意味だね」
「んう…おっけ」
早速使いこなしている。
大広場ではピエロみたいな大道芸人がパフォーマンスを行っていた。
と言うか手品?何でもアリっぽい感じの万能ピエロだ。
「おぉすごいな」
「うん。面白い!」
10分位して頭を下げたので終了したようだ。
観客が地面に置いてある箱の中にお金を入れている。
ガーランドさんの所での支払いが後払いになったおかげで懐はまだ暖かい、相場がわからないけどサラと2人分と考えれば銀貨1枚位だろうか?
箱の中に銀貨1枚をいれてその場を後にする
しばらく散歩を続ける。
サラの案内で普段行かないような裏道小道を進んでいく。
街並みはまさに中世ヨーロッパ、もしくはファンタジー係の街といえば良いだろう。石造りの建物が軒を連ねている。
日本の街並みしか知らない身としてはなんとも幻想的に見える
なんだかワクワクしてきた。
無駄にはやる気持ちを押さえサラと共に坂道を登っていき小道を抜けた。
暫くすると拓けた場所に到着した。
サラがふっと僕の後ろを指差すと街を一望できた。
「おー」
「ここは私のとっておきのばしょ!きれいなの」
「うん、そうだね。すごいきれいだ。」
一望できた街並みは絶景だった。日本の夜景だったりとはまた違う感動があった。
サラは、んふーっと胸を張って頬を上気させている。
誇らしげである。
そのままサラに案内されるまま街探検を続けていたが、日が落ち始めたのでサラを家に送り届けた。
店先に友人達が倒れていたのはきっと気のせいだろう。
うん。
僕はなにも見ていない。
こっそり帰宅して自室に戻ろうと階段を登ると
耳まで口が割けたようににんまりと笑うハミィが立っていた。
瞬時に身体強化を発動させその場を飛び立とうと床を蹴ったが既に時遅くハミィに首根っこを捕まえられた。
「若様随分遅いお帰りですねぇ?」
おっふん…
危うく変な声が出るところだった
「さてまだ少し明るいので1時間ほどであれば稽古をつけられそうですねぇ。」
(おおう…マジかい姉さん…)
「さて今日は素振りなんて時間の掛かるものではなく私との模擬戦などいかかがかしらぁ?」
ああ、うん。
これ意外と怒ってるかもしれない。いやでも今日休みじゃない?休暇じゃない?
「休んでいては強くなれませんよぉ?」
!?コイツ心を読んできやがった…だと?
「さぁーて、楽しくやりましょぉー♪」
「お…おにかぁぁぁぁぁぁ!」
そして1時間みっちりしごかれ今日もボロボロにされるのであった。