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6歳 師匠との出会い

 「ふう…暑いわ…」


 ここは宵闇の森

 鬱蒼と繁った木々の中、一人の女性が草を払いながらグローク領を目指していた。

 「うーん…ここはどこら辺なのかしら?」彼女は絶賛迷子中であった。宵闇の森は深く魔獣等も出る森ではあるものの大きな街道が一つあり本来街道を歩くのであれば迷うこともないはずなのだが…


 何がどのように起きたかはわからない、きちんと街道を歩いていたハズなのにと、彼女は泣きそうである。


 もうすでに迷ってから2日が経っていた。夏も終わりに差し掛かり残暑を残すだけだがまだまだ暑い。森をさ迷いながら生っている果物などを食べて腹の足しにしていた。


 「うぅ…体を洗いたい…」


 と、誰に聞かれることも無いであろう事を呟きながら彼女は街を目指す。ふと、気づくと不思議な感覚が彼女を通り抜けた。


 「あら?今のは魔力かしら…?とりあえず行ってみようかしら?」


 彼女はなかなか抜けられない森の中で一縷の光にすがってみるのであった。




----------------




 今シルドは郊外の街道の近くにヨルンとサラとノールの3人を連れて来ていた。遂に魔法の書・初級編を手に入れたのでその練習に来たのだ。

 初級編のおかげで大方魔法の発動についての知識はそろった。

 簡単な話が魔力を変質させ打ち出す。その変質させるためのきっかけが詠唱であるという事らしい。であれば今自分が使える身体強化の魔法はよくわからない原理で発動しているのだが…因みに誕生日プレゼントでもらった魔石に関しては、魔石に封じ込められている属性を開放するという原石魔法という上級魔法の一種であるらしい。

 後日、お婆様から修行の話をされたがその内容に引いたのは言うまでもない。 さすがに山奥に籠ると言われて喜ぶ人間が何人いるのか…

 まぁ魔法の修行に関しては嬉しいんだけども、僕はゆっくり強くなっていければいいと思っている。


 ひとまず近くの岩に向けて手を出し、「火の玉」《ファイアーボール》と叫んだ。

 ドォーンと、大きな音と共に岩が溶けていた。うーん、威力が高すぎる…友人ヨルンは岩を壊すほどの威力は出ない、この威力の差はなんなのだろう?


 無詠唱は流石にできなかったが詠唱省略で魔法名を呼ぶだけで発動できるようになった。

 最初は長々と詠唱をしていたのだけど慣れてきたのか修行のおかげかわからないが、魔力を変質させて現象に起こすというプロセスを感覚で掴めるようになったのだ

 

 これを見せた時のヨルンのはしゃぎっぷりはすごかった。座っていた岩の上から転げ落ちたのだから…


 後は、精霊の力を借りて打ち出すという方法があるらしいがそもそも精霊が見える者が少なく契約できる人間が少ない、というのも本に書いてあった。


 なので当面の目標はいろんな魔法を覚えるという事に重点を置いて練習していこうと思う。

 今のところは火と水と雷の初級を使えるようになった。


 昼を過ぎ皆でお弁当を食べる

 本来この時間は礼儀作法等の時間なのだが作法担当が体調不良で寝込んだので時間が空いたのだ。

 次期領主としてやることあるだろうって?ははは

 なんやかんやとバレずに外へ出ることが出来た。昼食はノール家のサンドイッチを人数分用意してくれてあったのでご相伴にあずかることにした。うん、美味しいサンドイッチだ。


 いつもの様に4人で(サラは真似をしているだけ)魔力を循環していると

 「魔力を循環ってどんな意味があるの?」

 と、ノールから聞かれた。


 「…(意味…と言われても…なぁ)」

 そう、なんとなく行っているだけなので意味と言われても説明できない。強くなれる気がするとしかいえない。

 実は理解していないだけでこの行いは魔力の質と扱える量を飛躍的に上げてくれるのだがそれを理解しているのは世界でもそんなにいない、レスタであれば答えられたのかもしれないが。

 シルドとの威力の差というのはここにあるのだがそれを知るのはまだ先の事なのであった。


 はたからみたら座禅を組む不思議な子供達ではあるが魔法を使えるものにとっては異様な空間であることを明記しておこう。充満している魔力はすでに7歳のヨルンだけでも中級レベルを超えているのであった。

 この訓練は場所を選ぶ必要があったのだがこの後起こる出来事まで知ることはなかった。



 食事を終え1時間ほど循環をした頃だろうかシルドはこちらに向かってくる魔力の気配に気が付いた。大きく荒々しい濁流のような魔力…


 シルドは背中に冷たいものが流れた…

 (やばい…とてつもない何かが来る!)


「皆急げ!なにか来る‼逃げるぞ!」


 「「「え!?」」」

 3人が怪訝な顔をしているがシルドの剣幕に圧され逃げようとしたとき…





 時遅くそれは現れた。


 「ぶおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 


 「灰色猪だ…」

 ヨルンが青い顔をしながら呟く

 するとノールが「だ、大丈夫!こっちもちょっとは強くなったんだから前みたいにはならないよ!」

 ノールも訓練でそれなりに魔法を修め始めていた


 怒りを露にこちらに向かって突進してくる



 即座に身体強化を施しシルドは猪の脇へ躍り出ると渾身の力で脇腹を蹴りあげる。以前追い払ったときと同じであった、しかし以前より遥かに練度を上げたシルドの蹴りは当たったにも関わらず猪を蹴り飛ばすことは出来なかった。


 「なっ!?」


シルドはその瞬間、目端に猪の口許が嘲笑うかのように歪んだのが見えた。


  (コイツ…もしかして前の時と同じやつか!?)


 その時猪が燃え上がった。

 ヨルンとノールの火魔法が命中した。


 「やった!」とノールが喜んだのも束の間…次の瞬間、猪が身震いをするとまとわりついていた火が辺りに飛散した。

 その中からは無傷の猪が現れた。


 猪が縦横無尽に走り回る。


 シルドは猪へ手を構え魔法をいつでも撃てる状態にして隙を待っている


 猪嘶き前足を大地に突き立てると軽い地震が起きた。前の世界で地震の多かった日本に住んでいたシルドは気にしない程度であったが、この世界の住人に地震というものは驚異であったらしい。

 友人達が驚き腰を抜かしてしまっていた。



 「マズイ!」


 その隙を猪は見逃さなかった。

 ドン、という鈍い音と共にシルドは猪に撥ね飛ばされ、そのまま10メートル近く転がされた。


 サラが駆け寄ろうとしているが猪に阻まれこちらへこれない。

 ヨルンが再び魔法を撃とうと構えると猪の体が灰色の光を纏い爆発したかのような衝撃を周囲に放った。


 「「「わああああああ」」」


 全員が吹き飛ばされ転がっている


 サラが気を失ってしまったようでヨルンが駆け寄る。

 ノールは別の方向へ飛ばされてピクリとも動かない。猪《爆発の中心》からは離れていたので死んではいないハズだが子供にあの威力はかなりのダメージが入っている


 猪がヨルンとサラにターゲットを定め、構えた。


 ヨルンは顔をぐしゃぐしゃにして泣いているが、後ろにいる妹を守る為恐怖と戦いながら必死で小さい体を盾にしている。


 (マズイマズイマズイマズイマズイマズイ)


 シルドは心の中で叫ぶ、身体強化をしてなおシルドは肋骨と左腕を折られていた。強化の出来ないヨルンに、ましてや気を失ってしまったサラでは殺されてしまう。


 (止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ)


 どんなに懇願しようが叫ぼうが目の前の魔獣は止まらない。


 (みんなが死んでしまう‼)


 この世界で人の命は軽い。病気であったり怪我であったり獣であったりと、死ぬことに関しては前の世界よりも簡単な理由であっさりと死んでしまう。日本では体調を崩せば病院に行けばいいし怪我をしてもあっさりと死ぬことはない、普通に生きている分には充分に天寿を全うできる。故に日本では命は重かった。

 シルドも祖父母が亡くなった以外は他人の死に関わることはなく家族は健在、不幸に見舞われた友人もいなかった。

 だが今はどうだ友人が死に瀕している

 あと一歩猪が踏み出せば殺されてしまう

 シルドは初めて自分の中に恐怖と焦燥、絶望が生まれ心に穴が開くような感覚に襲われた。


 「い…やだ…」


 絞り出すように吐き出されたその言葉は無意識の内に出た言葉だったのか、シルドは自分の言葉が耳に入ると、驚くと同時に叫び、飛び出していた。

 痛みさえ忘れ

 目の前の理不尽に対して拳を振るっていた。


 この時シルドは気付けないでいた、自らの体を包む黒銀の光に


 猪はシルドの異常な魔力に気が付くと咄嗟にその拳を避けようと身を捩ったが…


 遅かった


 シルドの拳はそのまま猪の脇腹に吸い込まれるように当たり、猪は大量の血を吐き出しながら数歩よろめくとそのまま倒れこんで絶命した。

 それを見ていたヨルンは茫然としていた、だがひとまず命の危機が去ったことはわかった。

 安堵し膝から崩れ落ちそうになった時、気が付いた。


 勝った…しかし目の前の友人それは終わりを告げていなかった。


 シルドを覆う黒銀の光はその異様さをどんどん広げてゆく


 すべてを飲み込むかの如く辺りに強大な魔力が迸っている。


 「シルド!」ヨルンの声虚しく…あふれ出る黒銀の光はますます広がる

 ヨルンには何が起きているのか全く分からなかった、しかしこのまま放っておくのは絶対に良くないであろうことは直感でわかった。

 しかし自分にはどうすることもできないのも事実であり無力な自分を呪った。


 「これはまずいわね。早く止めないと向こう側へ行っちゃうわ~」

 そんな時、鈴がなるような清涼な声が聞こえた。

 黒い長髪は透けると蒼く艶やか、優しそうな眼元に瞳は青く飲み込まれそうな程深い凛とした美しい女性がヨルンの隣にいつの間にか立っていた。


 彼女が手を伸ばし黒銀の銀光に触るとバチッと弾かれる音が聞こえ、ドンっという音が間髪入れずに響く。彼女の後方へと大地が割れ破壊されている。シルドの拳を左手一本で止めそのまま鳩尾に剣の柄をひとあて、シルドの意識を刈り取った。


 彼女はそのまま倒れこむシルドを支えるとふっと一息いた。

 「さぁて…どうしましょうかねぇ?」

 頬に手を当て悩まし気につぶやくと、彼女には慣れ親しんだ魔力が近づいてくることに気付く。





 「…え?姉さん?」

 アイナ・シルフィリアが空から降りてきた。

 「あら、探す手間が省けたわね。」

 「何でここにいるの?」

 「久しぶりに会ったのにそれはひどいんじゃない?まぁそれは置いといてこの子達の治療をお願いね?確か治癒魔法使えたでしょう?」

 「うん…って!若様!」

 慌てて駆け寄り治癒魔法を唱える、淡い光が降り注ぐとシルドだけではなくヨルン達の傷も治ってゆく

 「あら?知り合い?」

 「私が使えてる領主様あるじの一人息子」

 「あ…あらぁ…」

 アイナの姉である彼女は貴族の息子、しかも跡取りになる子供に一撃与えてしまったことに内心焦ったのだが…

 「まぁ…仕方ないわねっ!」


 彼女は前向きだった。


 「ところでなんでアイナちゃんはここに来たの?」

 「異常な魔力を感じたから…いきなり1級の魔獣の気配がしてこのままだと街に被害が出ると思って急いできたんだけど…」と、ちらりと絶命し無残な死骸を残している灰色猪を見やる。

 「これ…姉さんがやったの?」

 すると彼女は肩を諫め首を振る

 「この子がやったのよ。友達を守るためにね。」

 「そう…若様は一人前になったのですね…」

 「かなり危ない戦い方をしてたみたいだけどね、もう少しでウツロイになるところだったわよ?」

 「そんなまさか!」アイナは驚愕した。

 「でもとりあえずは危ないところは過ぎたから大丈夫よ」

 その言葉を聞きアイナはほっと胸を撫で下ろす。

 「なんにせよ若様とそこの坊は重症だから領主館に連れて行かせてもらう。早く治療しないとまずい」

 「ん、了解。手伝うわよ」

 二人は子供を抱えると領主館へと戻ったのである。



 「知ってる天井だ…」知らないはずはない、何故なら自室でシルドは目を覚ましたのだから。


 身を捩り周囲を確認しようとしてベッドの横にアイナと見知らぬ女剣士がいることに気が付いた。エイラは反対側で目に涙を溜めてこちらを見ている。まず尋常ではない事態になっているのだと気づき内心青ざめる、体の痛みがそれを物語っていたからだ。

 (あー…これはまずいな…)

 自分の置かれている状況、とりあえず危機は脱したと考えて差し支えないだろう。

 「シルド様ご自分が何をなされたのかご理解なさっていますか?」ややきつい口調でエイラに問われる。

 (ああ…これは相当お怒りだ…)

 普段何をしても小言や叱責などほとんどないのは、暗に自分の事を信用しての事だと理解している、にもかかわらず今回の大怪我、おそらく治療してくれたのであろうことから危険なことに手を出したのがバレた。これは、素直に謝って許してもらうしかないだろう。

 「え…エイラ、すみませんでした…」

 「シルド様は!わかっておりません!あなたは!大事なお世継ぎなのですよ!」と、責めよってくる。

 「エイラ殿そこら辺でぇ」

 と、女剣士が少し間延びした声でエイラを遮る

 「え…っと、あなたは?」見知らぬ女性に問うシルド。


 「お初にお目にかかります、若様。私はハミィ・シルフィリア。当代の魔剣卿を務めさせていただいております。そこなアイナ・シルフィリアの姉にあたります。」と説明をしてくれた。

 「ご友人も少々のお怪我はありましたが無事帰宅なされましたよ。」そうかとシルドはほっと息を吐いた。

 「それと勝手ながら暫くの間厄介になる事に決めたのでよろしく頼みますね若様」

 「え…あ、はい…」と、魔剣卿ハミィは堂々と居座ったのである。

 「これは鍛えがいがある子がいたものだわぁ」と彼女が呟いたのを聞いたのは隣にいたアイナだけであった。



 こうしてシルドはこの後エイラに叱られ、メイド長を筆頭に自分の立場を考えろと説教され帰宅した両親に心配された後もう一度叱られ、ヨルン達の家に謝罪に行ったのだった。この時初めてシルドが領主の子供であることを知ったヨルンとサラは神妙な顔をしていたが「シルドはシルドだよな…」と二人が不安そうに聞いてきたのでこれからも友達だよ、と返したら満面の笑みで喜んでいた。のちに恐縮していた親父さんの雷が落ちたのは言うまでもない。

 数日して治癒魔法で完治した僕はなぜか居着いたハミィにしごかれ続けるという拷問の日々を送ることになった。

 期せづして最強の剣士と謳われる者を師匠と呼ぶことになったのだがシルドがそれを知ることになるのはまだ先の事になるのである。


 「ほらほらぁーまだ脇が甘いわよぉ。追加で素振り500本ぉーん」


 「おにかぁぁぁぁ!」


 今日もシルドの絶叫が領主館に響くのであった。



お読みいただきありがとうございます。

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