4歳友達ができました。
あれから何度かメイドさん達の目を逃れ実験に勤しむ。隠密的な何かがあればメキメキとレベルが上がったことだろう。
エイラも最近はおとなしくしていたお陰で四六時中そばにいるということはななくなった。
というよりは一人かくれんぼにはまっていると思われているらしく生暖かい目でみられる事が増えた。
事実こそこそしてはいるけどカクレンボジャナイヨー
以前の失敗を糧に、裏口からこっそりと領主館から抜け出し近場の森まで来ている、片道大体10分位で行けるので重宝している。水はコップとかを持ち出すのがめんどくさい上に溢した後の補充が出来ないので両手を合わせシャカスタイルで魔力を循環させてみている。
合掌!って感じだろうか?
石の上にも3年である。
段々と慣れてきたのか、体を廻る魔力がきれいに流れるようになってきた気がする。
説明は難しいけど最初『ごおおおおおお』って感じだったのがさらさらと流れてくるような、と言えば分かりやすいだろう。
循環がうまくいくようになるとなんだか力が湧いてくる感覚出てきた。
小石を拾い軽く放り投げたら100メートルくらい先まで飛んで行った、これはもしや身体強化的な魔法なのではないか?と仮説を立てる。しかし無属性の魔法に分類されている身体強化の魔法であるが、上級魔法の無属性魔法欄に記載されていてこれも詠唱が無くては使えないという事が書かれていた。
ならこの身体能力の上がり方はなんなのだろうか?
実は、無詠唱で魔法が使えているとかそういう事なのだろうか…?
謎は深まるばかりである。
さて、今日も森へとやってきたのだが先客がいた。
僕と年の近そうな子供が3人と大きな猪である。
……これピンチな場面じゃね?
子供のうち茶髪の男の子が何かを叫ぶと指先に魔力が集中していくのがわかった。
これも魔力循環の賜物なのか最近内外共に魔力感知ができるようになってきた。と言ってもごく近距離のみで視認できるくらいの距離でないとあんまりわからないけど…距離が離れると探る先がぼやけるというか遠くの声を聞き取ろうとしてよく聞こえないというか。そんな感じだ。
おっと。子供の魔力の流れが少し変わった。
ボボッ
おお!火に変わった!
あれは火魔法だろうか!
子供が『ファイアーボール』と叫ぶと火の玉が猪へ向かって飛んで行った。
『ゴウッ』という音ともに猪に着弾すると猪が火に包まれる。
「ヨルン兄かっこいいぃぃ!」
「僕もヨルンみたいに早く魔法が使えるようになるんだからね!」
ヨルンと呼ばれた子供は満面の笑み、もとい全力のどや顔である。
ただ…
「喜んでるトコ悪いけどまだ猪は死んでないよ?」
と、僕が言った事に振り返る子供達とほぼ同時に猪が雄たけびをあげて子供たちに向かって突進していった。
蜘蛛の子を散らすように子供たちが逃げたので狙いを定めていなかった猪はそのまま木に激突して、木をへし折っていた。
子供たちは顔面蒼白である。
最初にヨルン兄と呼んでいた女の子がたまらず泣き出してしまったので、猪はどうやらその女の子を標的に選んでしまったようだった。
「サラ!」とヨルンが叫ぶが顔面蒼白なまま膝をついて動こうとしない。
猪はもう一度雄たけびをあげると、女の子に向かって突進していった。
「サラァァァァァァァァァァ!」とヨルンの悲痛な叫び声が聞こえるが…
ぶつかる寸前に僕が女の子を抱き上げ宙を舞う。
僕が助けない理由はない。領主の子がこれくらいできなくてどうします?まぁ普通の4歳にはできないと思う。
体格的に僕がサラを抱き上げるのはおかしいがそこは身体強化さまさまである。
猪が目標を失い唖然としている隙にサラをヨルンの元へと連れていくと僕は踵を返し一足飛びで猪に近寄り、脇腹めがけて思い切り蹴りを入れた。
「ブモッフ!?」と変な鳴き声を上げると猪はヒューヒューと擦れるような呼吸をしながらこちらを一瞥するとヨロヨロと森へ帰っていった。
「よるんにぃぃぃぃ」とサラが泣きながらヨルンに抱き着くがヨルンは何も喋らない。
一瞬薄情な奴だなと思ったが、近づいて驚いた。
真っ白…気絶していた。
後ろから「ありがとう」と声を掛けられた。そういえばもう一人いたことを忘れていた。
影の薄い子だなこの子。
こげ茶色の髪をした委員長とか呼ばれそうな男の子がしきりに礼を言ってくる。
ひとまず僕はヨルンを背負うとこの子たちの自宅まで送っていくことにした。
子供を放置するわけにはいかないでしょ?
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ヨルンを背負いそのまま町の方へと歩いていく。
「君はすっごく強いんだね!」とノールと名乗った影の薄い子がほめてくる。
(そんなに大したことはしてないんだけどなぁ)
4歳児が猪を撃退するとか普通はできない。
ノールに手を引かれながらサラは未だに泣き続けている。
暫くすると森の切れ間に喧騒が聞こえてきた。
考えてみればこの世界に生まれてからというもの引きこもりっぱなしだったので町に出るのは初めてなのである。
(おぉ…なんだか緊張してきた。)ドキドキである。
グローク領は小領であるが南に海を持ち、北には宵闇の森という鬱蒼とした深い森。西には広々とした平原を持っている肥沃土地である。領主館があるのは西の平原に近い位置であり。グローク領最大都市として栄えている。
「僕の家はこっちなんだ。」ノールが指さす方向には一軒の本屋があった。
「それでこっちの魔道具屋さんがヨルンとサラの家だよ!」
「そうか…本屋か…」
(これはもしかすると魔法の本の初級編が手に入るんじゃないか!?)
心を躍らせながら本屋に入ろうとしたが背中にヨルンを背負っていたので先に魔道具屋へと行くことにした。
魔道具屋の中は数人の客が居てなかなかの賑やかさだった。
カウンターには右頬に大きな傷のあるスキンヘッドの大きな熊のような親父が…
こちらを見て目を見開いている。
「うおおおおおおおおお!ヨルンどうしたぁぁぁ!」
熊親父がものすごい勢いで駆け寄ってきた。
「へへっ…親父…やっちまったよ…」
なんだか変なドラマが始まりそうだと思ったのも束の間、ゴンッという鈍い音とともにヨルンが盛大にぶっ飛んで行った。どうやら雰囲気でのごまかしはできなかったらしい。その後、サラ、ノールと殴られ、僕にまでこぶしが飛んできたので…
避けた。
この流れなら殴られとけって?ははっ痛いのはノーセンキューだぜ?
肩透かしを食らった親父がもう一度拳骨を見舞うか悩んでその拳をあてどなくさまよわせている。
「お、おじさん待って…その子は僕たちを助けてくれたんだ…」
頭を押さえながらノールが説明を始めると、「いたた…もう少し手加減してくれよ親父。こっちは魔力がなくなって気持ち悪いってのに」
心情を吐露したヨルンにが見たのは、説明を終えたノールがもう一度拳骨を食らうところだった。
ヨルンが青ざめる
ギギギと壊れたブリキ人形の様にこちらに助けを求めるように見るヨルンに対して僕は、肩を諫め一言言った。
「あきらめて叱られて来い。」
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「坊主すまんかった!」顔を真っ赤にした。熊親父ことヨルンとサラの父親ガーランドが誤ってきた。
「坊主がいなかったら今頃うちのバカ共はあの世行きだった!感謝する!」
「やめてください。僕も偶然居合わせただけなのですから」
「そうか…いやしかしだな…そうしたらなんか欲しいものはあるか?お礼にやれるものだったらやるよ」
(おお!太っ腹な親父だ!)
しかし領主の息子が礼だからと言ってポンポン何かをもらってもいいのだろうか?そもそもこの親父はおそらく僕の事を知らないだろうし…うーん、どうするか…
あ
「でしたら、ヨルン君が火の魔法を使っていたのでソレを僕にも教えてください!」
その言葉を聞いた親父がまた顔を真っ赤にさせ、その後ろでヨルンがまた青い顔をしていた。
(あ...あれ?言ったらまずいことだったか?)
親父が振り向くのが早いか、ヨルンが駆け出すのが早いかほぼ同時だったような気がする。
親父の横を駆け僕の手を掴むとそのままの勢いで店の外へと駆け出した。後ろからはサラとノールが慌てて付いてきているのが可愛かった。
路地を抜け井戸のある広場へと着いた
「ふー何とか逃げ切れたな…」ヨルンが後ろを見ながらため息をついた。
遅れてサラとノールが息を切らせながら追いついてきた。
「とりあえず猪助かったよ。あんがとな!」にへらっとヨルンが笑った。
「もう体はいいのか?」
「ああ、ただ魔法を使いすぎただけだよ。少しすればすぐ治る」
なるほど、魔法を使いすぎると衰弱するのか…覚えておこう。
「お前すごいな!灰色猪は大人でもいっぱいいないと勝てないのに逃げていったぞ!」
コイツ《ヨルン》そんなのに敢えて喧嘩売ってたのか…アホナノカナー?
「火の魔法だったら一発だって冒険者の兄ちゃんが言ってたんだけどなぁ」
「おま…大人と子供の差をもっと考えろよ…」
ヨルンは火の魔法さえあれば勝てると思っていたらしい…
「そういえば火魔法の事は内緒だったのか?」
「ん?あー…俺は将来冒険者になりたいんだ!だけど親父が俺には才能無いから家を継げって言ってさぁ…悔しいからだったらできるって所を見せてやろうって思ったんだけど…」
魔道具屋なら魔力があればいろいろできることも多いが攻撃魔法だと方向としては戦闘職になる。
つまり親父は火魔法が使えることを知らず、家を継ぐための魔力訓練だと思ってたところが冒険者になるために攻撃魔法を覚えていたから怒ったと…
「うーん。ちゃんとその辺は相談しないとダメなんじゃないか?」
「でも、俺は冒険者になりたいし…えっと、そういえばお前名前は?」
「僕?僕はシルド・グ…いや、シルドだ。」
下手に貴族として名乗るのもどうかと思い名前だけ自己紹介した。
「そっか!俺はヨルン!こっちは妹のサラでそっちのが隣のノールだ!」
「サラ…です」
「僕はさっき言ったね。ノールだよ」
「よろしく」
「ところでシルド!」
「ん?どうした?」
「さっきの術俺にも教えてくれ!」
「……火魔法教えてくれたらな」
こうして小さい友人ができた。