プロローグ―神様の独白と異世界転生?
異世界において魔法とは醍醐味の一つだ。
魔法使いの女の子が魔法で敵を葬る。
戦えない少年が魔法使いになって無双する。
魔法とは何ともロマンに溢れているとは思わないかい?
さて、ここで疑問を一つ。
魔法の存在しない異世界とはどんなものだろうか?
もちろんここで言う魔法のとは奇跡なども総合して不思議な力の総称として扱う。
まぁ僕の世界には肉体強化の力があるんだけど、ぶっちゃけ筋トレの延長線だし遠距離非対応で自身にしか使えない。ロマンや夢の欠片も無いのでこれだけは別物として扱う。
......。
つまらないとは思わないかい?
少なくともボクは思った、何てつまらない。
ゆめも希望もない世界だろうと...。
今からでも世界を作る前の自分に殴り込みに行きたいくらいに。
奇跡が無いがゆえに惨劇は止めるすべがなく、魔法が無いゆえに弱きは強き者に逆らえない。
全く夢が無さすぎる、異世界でこれはない。
だからボクはこの世界に魔法を作ることにした。
幸いこの世界はまだ文明が発展しきっていない、まだ魔法を作っても受け入れられるはずだ。
そう考えたボクはこの異世界に魔法を伝える転生者を送ることにした。
「と言うわけで、どうして君が異世界に行くのか解ったかい?」
「長い独り言のおかげでね...」
死んだと思ったらいきなり神様の独り言を聴かされた身にも成ってほしい。
正直、理解はできても展開の早さに付いていけません。
「ところで、どうして俺何ですか?」
「深い理由は無いよ、他だ単に条件の合った人の中で最初に死んだのが君だっただけ」
「条件?」
「うん、と言っても特別な事じゃない。一定レベルの善人で有ること、君ほどの年齢で有ること、最後に魔法・異世界に一定以上の興味が有ることだけだから」
確かに条件そのものはゆるいな。
本当にたまたま俺だっただけのようだ。
「と言うわけで霧ヶ丘マサキ君、君にはボクの世界で魔法を広めてもらいます」
「それは良いけど、そう簡単に魔法なんて信じてもらえるのか?」
「大丈夫そこは考えてる、スバリ...吟遊詩人を使う!!」
「吟遊詩人?」
確か、物語や歌を唄ってお金を稼ぐ職業だったか?
正直詳しくは知らないから漠然としたイメージだけど。
「そう、ボクの世界の吟遊詩人は創作力に乏しくてね。大体が実話を元に作られてるんだ、そこに魔法使いの話を混ぜる」
「混ぜるって、どうやって?」
「天啓ってやつさ、話が面白ければ嬉々として使ってくれるはずだよ。一つだけなら兎に角、複数の話が広く伝わればボクの世界では真実味が出てくる」
なるほど、あらかじめ魔法の存在を人々に信じさせたところで俺が魔法を伝えるんだな。
「ここまでで何か質問は有るかい?」
「無いな」
「そう、ならボクから質問だ。君は生前の事を覚えてるかい?」
「当然だろ、俺は霧ヶ丘マサキ。16歳の高校生で......で」
言葉に詰まった。
思い出せないのではない、何も出てこないのだ。
まるで、最初から無かったように記憶が出てこない。
「大丈夫、それで正常だから」
「正常? これが?」
「そうさ。転生中だった君の魂を無理やり連れてきたからね、記憶の大部分は消えてるはずさそれに伴って感情も一部欠落している」
「それは、大丈夫じゃ無いんじゃないか?」
俺の言葉に神様はゆっくりと頷いた。
「そう、実はかなりまずいこのままだと君は転生もできずに消滅する。そこでボクが君の中身を作る」
「中身?」
「そう、言い換えれば記憶だね。ボクの世界の記憶を君に与えて感情を取り戻させる」
「そんなことできるのか?」
「もちろん、記憶と感情は密接に関係している。記憶さえ戻れば多少性格が変わっても元のマサキ君に近い状態には成はずだ」
なるほど、普通なら苦情の一つでも出てくるのだろうが。
感情が欠落しているからか、特に何も思わない。
「さて、詳しいことは向こうで説明しよう。そろそろ君に記憶を与えないと不味いからね」
神様がそう言うと俺の視界が揺らぐ。
じんわりと、ゆっくりとまるで何かに侵食されるように。
「悪いけど拒否権はないよ。でも消滅するよりましでしょ? 最後に君たちの世界で言う30日はおとなしくしている事をお勧めするよ」
その言葉を最後に俺の意識は途絶えた。