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リボン

 街行く人々はもうおもちゃを被っていなかった。巨大なハンマーが開けた大穴も、凍てつく氷の塊も消え去って、街は元通りになっていた。コスプレをした人々が通りを楽しそうに歩いて行く。初めは、このカラフルな衣装の群れにくらくらしていたけれど、あの世界を体験した後だとそれすらもおとなしいものに思えてくる。私の傍らを、赤い風船を持った男の子と母親が通り過ぎた。木の枝に引っかかった風船を取ってあげた少年だ。幸い、二人とも私のことには気附いていないようだった。

 鞄は私の手にしっかり握られている。ポケットの中には……ちゃんと携帯電話もある。開いてみると、加納くんから着信が来ていた。ほんの数分前だ。慌ててかけ直す。

 電話の向こうで呼び出し音がなる。まだ加納くんは出ない間に、私は思わずつぶやいてしまった。

「加納くんに迷惑かけちゃったなあ……」

「もしもし」

 その声は思いのほか近くから聞こえた気がした。私が話しだす直前、誰かが肩に手を置いた。振り向くと、

「別にいいよ、ここまで来るだけでも、結構楽しめたし」

 加納くんは楽しそうに笑ってそう言った。

「う、うん、ごめんねホント」

「いいって言ってるのに」

 加納くんは私の顔をしばらく眺めると、

「可愛いね、それ」

「それ?」

「リボン」

 傍らにあったショーウィンドを振り返る。私の髪には、黒髪に映える真っ赤なリボンが結ばれていた。

 クロの魔法(?)で生成されたリボンは、一度ほうきに乗ったときになくしてしまった。その後、母親からもらったのは現実世界で実体を持ったものだ。だから、他のものが消えても、私の頭のコレだけはなくならなかったのだ。

 慌てて外そう、と思ったけれど止められた。

「いいんじゃない、今日くらい」

 道行く人の派手さを比べれば、確かに気にするほどのことではない。

「まあ、いっか」

 私は結局、そのままの格好で一日街を歩き回った。

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