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この前に少しとは言え成功した薬には月の葉と呼ばれる薬草が入っていた。
もしかして、それが鍵なのかも知れない。
そう考えた僕は月に関する物をたくさん入れた薬を作った。
今日こそは彼女を人に戻す、そう思いながら彼女との会話を楽しみにしている自分がいる。
彼女はミミズなんだけど…。
彼女の部屋に着いた僕は部屋の中にノックして入る。
「おじゃまします」
「どうぞ」
彼女がニッコリと笑って…ミミズだから解らないが、たぶんニッコリと笑ってそう言った。
「今日も試作した薬です」
「ああ、早かったですね」
いつもと違い彼女の脇には男が控えていた。
僕が訝しげに見ていると彼女が教えてくれた。
「彼は私の護衛のルーカスです。
あいさつして」
「初めまして。
ルーカスと申します。
以後お見知りおきを」
ルーカスは僕を値踏みするような目で見てくる。
そんな彼の頭をミミズの腹の部分でどつく。
「エドガー様をそんな目で見るのは止めなさい」
「ハイハイ、スイマセン、ミーシャ姫」
そして、彼女はこちらを向いて頭を下げた。
「実は、ルーカスと私は十年をこえる付き合いなのです。
私がミミズになっても側を離れないでいてくれた数少ない友人の一人です」
「姫と友人だなんてもったいないお言葉ですね」
「あら、あなたいつもはそんなしおらしく無いじゃない」
「いえ、エドガー様にはしっかりと礼を尽くさなければなりませんから」
「まるで私には必要ないとでも言いたそうな口振りですね」
そういうと彼女は笑った。
僕は…なぜだろう。
彼女とルーカスが楽しそうに話をしているとモヤモヤとした気分になる。
彼女と仲良く話をすることが出来るのは自分だけだと思っていた。
一番仲が良いのは自分だと思っていた。
それが傲慢なことだったことを知った。
「エドガー様?
どうかなさいました?」
彼女は黙り混んでしまった僕を気にかけてくれる。
僕は小さく頭を振って彼女に笑いかける。
そう、僕はここに彼女を人間に戻すために来たのだから。
「いえ、大丈夫です。
これが今日の薬です。どうぞ使ってください」
彼女はそれをすぐに使ってくれた。
今気が付いたけれども僕の作った薬を疑いもせずに使ってくれるなんて僕を信頼してくれているのだろうか。
だとしたら嬉しい。
「あれ?」
彼女は食べても全く変化しなかった。
月に関係するものをこの前よりも多くしたのだから必ず効果があると思ったんだが…。
そう考えていると窓から風が吹き込みカーテンを開ける。
そこから月光か入ってくる。
すると彼女は姿を変える。
ミミズのぶよぶよとした体から人間に変わる。
彼女は人間になった。
「良かった…。
良かったです、ミーシャ姫」
僕はあまりの駆け寄ってしまい手をつかむ。
彼女は整った顔を驚きに染めていたが、僕の顔を見ると悲しみに歪んでいった。
「いやっ!」
彼女は突然僕を押し倒し後ろに飛び退る。
まるで僕を怖がるように。
「ミーシャ姫…?」
「す、すみませんが今日はお帰り下さい」
「な、なぜ…」
「お帰り下さい!」
彼女はカーテンを閉める。
するとミミズに戻ってしまうが気にもかけず部屋の奥に行ってしまう。
残された僕は呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。