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落ち着いた僕はなぜこうなったのか、ヴィンセント兄さんに聞きにいった。


「お前…、ミーシャ姫の話知らなかったのか…。

だから…あんなに平然としてたのか…」


無口なヴィンセント兄さんならバカにされないだれろうと思ったら、その通りだった。

ミーシャ姫の話とは、つまりこういう事だ。


ある日、月光姫げっこうきと呼ばれたミーシャ姫(13歳)はお忍びで山に遊びに行った所、魔女に出会ってしまった。あまりのミーシャ姫の美しさに嫉妬を燃やした魔女にミーシャ姫はミミズの姿に変えられてしまった。

その後、ミーシャ姫はたくさんの魔導士たちに呪いを解くように頼んだがそれは達成されず、今(18歳)にいたる。


月光姫…。

あのミミズが?

しかも、5年もミミズなんて悲しすぎる…。


「兄さん、僕ミーシャ姫がもとの姿に戻れるように頑張るよ」

「そうか…。

頑張れよ…」


僕はミーシャ姫のもとへと向かった。

ミーシャ姫は今でもグニグニと動いている。

ハッキリ言って気持ち悪い。

ぶよぶよとした体からは血管が浮き出ている。

僕を見かけると笑った…ような気がする。


「エドガー様。

申し訳ございません…。私がこのような姿のせいで…」

「それは違います」


確かに彼女の姿は気持ち悪い。

喋る時に頭の先にある口がパクパク動くのもいただけない。

だが、だからといって5年もこの姿の女の子を泣かせるほど僕は悪い人間ではない…と思いたい。

むしろ、同情すらした。

僕は彼女の前に跪き言った。


「僕が貴女を必ず人間に戻して差し上げましょう」


彼女は喜んでくれたと思う。


その日から僕は彼女を直す為の薬を作り初めた。

世界一の魔法薬剤師の称号を持っているのだ。

このぐらい出来なければ兄たちには悪いが返上するしかないだろう。

3日に一度程度、夜に彼女の部屋を訪れ試作した薬を試してもらう日々が続いた。


「あら…。今日は来てくださったんですか、エドガー様?」

「はい、ミーシャ姫。

こちらが試作した薬です」

「ありがとうございます。

今日は月夜がきれいに見えますよ?

見ていきませんか?」

「じゃあ、お言葉に甘えて…」


僕はテラスのテーブルへとむかう。

今の時間が僕は好きだ。

ミーシャ姫は顔や姿はミミズだが、中身は彼女のままだ。

彼女は彼女でつらいだろうにそれを微塵も感じさせず、むしろ僕の事を気遣ってくれる女性なのだ。


「疲れていらっしゃるのでは?

疲れのとれるといわれるハーブティーを用意しましょう」

「ありがとうございます。

すみませんがその薬…僕の前で使って下さいね」

「解りました。

この薬、苦いからまだ使いたくなかったのですが…」


照れたような声。

こういう時はミミズは見ないようにする。

声だけならばかわいいからだ。


「じゃあ、飲みますね…」


彼女は薬に口をつけて一気に飲み込む。

ミミズなので気持ち悪い姿ではあるが、それは仕方ない。

しっかりと変化が有るかどうかを僕は見ている。


「あ!」

「え?」


彼女の体がひかり、一瞬人の形になりミミズに戻る。


「これは…」

「少しではありますが…。

成功ですね!」

「エドガー様。

エドガー様は本当に凄い…。

さすが、世界一の魔法薬剤師ですね…」


少しではあったが成功したことに僕は喜んでしまっていた。

そのせいで気がつかなかった。

彼女の、ミーシャ姫の声に憂いが混じっていることを。

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