聖なる夜に
とうとうこの日がやってきた。
「・・・クリスマスとか、オレには関係ねぇし」
口に出して言うほど間抜けなことはないな、全く。
しかも、誰に食べてもらうわけでもなく料理やらケーキやらの準備しながら言う台詞でもない。
そもそもこんな予定じゃなかったんだ。
毎年毎年、暇だからって転がり込んでくる妹がさっきいきなり今年は彼氏とデートだから行かないとかメールしてきた。何も作ってないと怒るからってしっかり食い物の材料用意してたのに、とは言えなかった。
・・・さすがに言えんだろ、兄としては。
にしても、こんだけ作ってどうするんだオレ。あ、ちなみにもうすぐ実家に戻る予定だから材料消費しないといけないというか、ふつー5時過ぎにメールいれるか畜生。
ちなみに、今日のメニューはというとだな。
・前菜:鯛のカルパッチョ
・スープ:ガスパチョ
・メイン:ローストチキン
・デザート:ホワイトチョコレートケーキ
その他チーズやらキッシュやらクロックムッシュやら・・・多いのは自分でもわかってるさ・・・。
さて、ほとんど作り終わってるんだが。さて、本当にどうしたものか・・・こんな時間に暇なヤツなんて・・・。
ぴーんぽーん
「え?」
なんだってこんな日に。とりあえず出てみるか。
「どちら様です・・・」
「おー!こーき居るじゃんー!開けろよ!」
インターホンに出ると悪友が2人映ってるのが見えた。正面にいる翔がすっげーテンションで手振ってるし。
「お前ら、何しに・・・」
「いいからいいから」
「さっさと開けろよ、寒いし」
後ろに居たのは悠みたいだ。
こいつら、暇だからって何しに来たんだ?
「わかったわかった、ちょっと待ってろ」
仕方ないし、開けてやるか。
玄関に行って鍵を開けると、2人は大きな買い物袋持って扉の前に突っ立ってた。
「・・・まぁ、入れば?」
「さっすがこーき!話し分かるわー。じゃ、お邪魔しまーす」
「邪魔するぜ」
玄関で立ち話するのもアレだからさっさと2人を部屋に上げる。
部屋に入ると、翔は何故か不満げな声を上げた・・・ってお前は何がしたいんだ?
「まゆちゃんいねーの?楽しみにしてきたのにぃ」
「せっかくサンタのコス衣装持ってきたんだが・・・」
それぞれがてきとーな事いうから、なんか頭痛くなってきたんだけど。
こいつら、さてはあまりに女っ気ないからうちに来たな。
「残念でした。アイツ今日はデートだから来ないぜ」
ざまーみろといった感じで言ってやった。
だが、それにそこまで落胆した様子を見せずに奴らはテーブルの上を物色し始める。
「・・・じゃあ、なんでこんなに料理がある?」
ぐさっ
「まぁ、かわいい妹のために頑張って作った後に連絡でも来たんじゃね?マジ残念過ぎるし・・・こーきが」
ぐさぐさっ
「そんなとこか。じゃあ仕方がないからこの衣装は幸樹が着ればいいな。ちなみにミニスカサンタだ、喜べ」
・・・っておい!
「なんでオレがそんなことしないといけないんだ!」
「「面白いから」」
「・・・・・・」
こいつら、本当に何しにきたんだ!?
「それはおいといて、俺らが来たから料理は全部片付くし寂しくもないだろー。感謝しろよなっ!」
「ちゃんと酒とつまみも持ってきたしな」
袋から酒いろいろとスナック菓子を並べてる2人は全く悪びれもない。
なんというか、こいつらなりに気を使ってるってのは分かってはいるんだがな。
「・・・幸樹、まだ何か作るものとかあるのか?そんなとこに突っ立って」
悠が訝しげに言ってくる。奴はもうビール缶を開けようとしてるしって、準備早いだろうが!
「いや、もう終わって・・・」
「じゃあいいじゃん!さっさと飲もうぜ!マジで飯美味そうだしなっ」
「・・・お前ら、本当にマイペースだな」
はぁ、ってひとつため息ついてオレも席に着いた。テキトーな缶を開けてって、あまりにも多過ぎやしないか?これ、20缶以上あるぞ、しかもビールばっかだし・・・。
「これ、麻友が居ること前提に買ってきてなくねーか?」
「だってまゆちゃんから電話あって、兄貴がきっと一人でさびしくシングルベルしてるから遊びに行ってほしいって」
「へ?」
「いい子だよな。彼女も居ない可哀想なお兄ちゃんに気を使うなんてな」
「・・・お前にゃ言われたくないわ。というか、オレにはメールで翔には電話かよ」
つか、いつの間にメアド交換してるんだ、こいつ。
「あ、言っておくが俺もまゆのアドレス知ってるからな」
「もはや呼び捨てかよ」
「ということで、今日は『どきっ☆男だらけのクリスマス!朝まで飲むぜスペシャル』をすることにしまーす!かんぱーい!」
「乾杯」
「・・・乾杯」
もはや何がなんだかわからないが、朝まで飲むらしい。
・・・メリークリスマス。
こんなクリスマスもある・・・かもしれませんね(笑)