第9話 理解と諦め
静かで穏やかな日々を味わって過ごしていくと、あっという間に夏休みは終わってしまった。
俺は二学期初日、重~い足取りで登校していった。
教室に入ると、やはり騒がしかった。1時間目が英語ということで、黒板は大原先生の悪口で埋まっている。その中心には黄色いチョークで『ファンデーション!』と書かれていた。大原先生が厚化粧だと言いたいのね、そうかいそうかい。
よく見ると、黒板消しもどこかに消えていた。どうせ消されないように隠したんだろう。
大原先生は、教室に来るなり、はぁーっと溜息を吐いた。
「大原ー、何朝っぱらから溜息ついてんの?哀れぶってるつもりー?」
「これで笑っていられる!?」
「別にフツー」
「あんた達のフツーが変わってるの、わかんない!?もう消すよ!ってあれ?黒板消し・・・黒板消しは?」
「さぁー、知りまテン♪」
「自分で探せばぁー?時間潰れるけど。」
クラスがクスクスと笑い溢れる。
1時間目になっても黒板はそのままの状態なため、勿論授業にならなかった。増してうるさいから大原先生は我慢できなくなったのだろう、声を張り上げた。
「うっるさいっ!誰か、あたしの代わりに英語やれ。」
「生徒に命令~www」
「だって、聴かないでしょ!?ほら、だれかやってよ。」
そこで、一人の男子がニヤッと笑って立ち上がった。その名は佐藤修人。悪がき代表の一人だ。
「いいよ、俺やってやる。」
「よっ、修人先生!」
「ガンバー♪」
皆の注目を浴び、修人は教卓でこんなことを言い出した。
「ではでは、これから担任について討論しましょう☆」
「イエーイ!」
「なんでそうなるのよ・・・・」
「だって静かになったし、大事なことだろ!?いいから、大原は黙って失せてて。」
大原先生は、押し黙った。
「大体ー、ブスだと思いま~す!」
「その割にナルシ発言多いし。」
「背低いです。」
「とにかくウザい。」
「それに、お気に入りのひいきが激しすぎ!これは駿河君もわかってるはず。ね!駿!?」
「さぁ、そんなこと忘れちゃったけどー。」
ホントは覚えていた。忘れることはない。でもあえて言わなかった。
それからも討論(?)は続く。
「先生としてなってない!」
「若いのに担任持っちゃって、無理に頑張り見せてる感じ。」
「舐められんのも無理ないよね。」
本人の前で、引っ切り無しに意見が出てきて大原先生はとうとう動き出した。
職員室に繋がる呼び出しボタンのあるところだ。
「これ以上言うようなら、押すよ。」
「押せばぁー?そんなの効かないし。」
「そーそー。あ、馬鹿だよね。ガラTでも知ってる英語の筆記体知らないし。漢字書けないし。」
「漢字書けないわ、英語書けないわ、この人どうしようもないねww」
いつもならここで押さないのだが、今日は自棄になったらしい、ブチッとボタンを押した。
〈はい、職員室です。どうしました?〉
この声は、2年生の英語担当の後藤先生かな。男の先生だ。
「もう、うるさすぎて押しました。何とかしてください。」
〈・・・すぐ行きます。〉
これには生徒も唖然。焦りだしたため、俺は達之介に話し掛けた。
「大丈夫かな?」
「ふんっ、呼び出しくらっただけで皆臆したか。でも先生も駄目だね。他の先生にまで迷惑かけてるのにいいことしたぶって。そう思わん?」
「・・・確かに。」
達之介の最もな言葉に俺は安心しつつあった。
間もなく、後藤先生が来て・・・
「いぇす、うぃー、きゃん!はい!!」
「いぇす、うぃー、きゃん!」
と、わけのわからん外国の大統領の名台詞を皆で叫びあった。これには後藤先生も苦笑。
「素晴らしいですね・・・一応英語ではありませんか。」
「大原先生は大げさなんですよー、ねぇ?」
「そうなんす~。」
大原先生はふて腐れた顔をした。結局授業は進んだが、俺は教科書で顔をかくし、声も出さずに笑っていた。
放課後_____
俺と達之介は職員室に大原先生を呼びに行って、廊下に招待した。
「先生・・・・」
俺は作り笑いする。
「何なんですか、あの1時間目の授業は。」
「ね!何あのギャップ!?ありえないよねー。」
「そうではありません。それもありますけど、呼び出しですよ、呼び出し!」
「だって、そうでもしないと皆集中してくれなかったんだもん。今日はよかったでしょ?」
「先生よぉ、俺ァほかの先生にまで迷惑かけてこれでいいのかと思いました!」
「たっつ・・・」
俺が言葉をつづけた。
「先生が言い返すからいけないんですよ。どうして言い返すんですか?」
「だって悔しいんだもん!」
俺と達之介は顔を見合わせた。
帰り道____
「あれは、駄目だね。」
「あぁ、駄目だ。」
「先生が。」
「おう、先公が。たかが中1に悔しがるなんて子供だ。だから俺はあいつらがやりたがる理由がわかったんだよ。」
俺はハッとした。以前達之介がうちに来た時に言いかけた言葉だ。
『ただ、やりたくなる理由はわかるよ。』
やっとわかった。あいつらはあの時でもう悟っていたんだ。この先生は駄目な人だ、と。だから反抗した。そうか、こういうことだったんだ。
「なるほど。」
でも、それと同時に母さんの言葉が思い浮かんだ。
『貴方、絶対にその仲間になっちゃ駄目よ。』
俺は慌てて達之介に振り向いた。
「でも、一緒になってやったら駄目だ。」
「当ったり前だ!!」
達之介は声を荒げた。
「あ、スマン。つい・・・。当たり前だろ、そんなこと。だから俺は、お気に入りだと言われても何もしなかった。あいつらのように反抗したら、それこそ子供だからな。」
「そうだよな。」
俺は微笑んだ。
「達之介って、大人だな。」
「はぁ!?いい奴の次は大人!?止めてくれよぉ!」
俺たちは声を出して笑いあった。冗談言ってないと、やっていけないよな・・・。
次回もよろしくお願いします☆